349 / 375
新妻・卯月の仙台暮らし
ことの顛末(4) <戸次>
しおりを挟む
あれは遠藤課長と富樫さんの欠勤が始まる前日のことだ。
外回り中そろそろ昼めしでもと思っていた頃、伊都さんにスマホで呼び出された。
伊都さんは『うさぎひろば』の小柄な店員だ。黒縁眼鏡と厚い前髪で顔を隠した、単なる人見知りの枠を超えた、ほぼ人間不信と言えるくらい強力な人見知りを拗らせた女性だ。しかしうさぎに関する事柄については、使命感に捕われるあまり他のことが気にならなくなるようで、急にテキパキきびきびと行動し始める。
彼女は時折、俺と話していると視線を潤ませ、顔を朱くすることがある。一度など感動したように涙ぐんだこともあった。あれって……どう見ても『そう』だよな?
割と女性ウケが良い方だと言う自覚はある。もの凄いイケメンと言うワケじゃないが、それが返ってハードルを低くするのか、はたまた親しみやすく感じて貰えるのか。女性から好意を寄せられるのは、それほど珍しことではない。あまり楽しい思い出ではないけれども、つい先日も派遣社員の花井さんに告白されたばかりだ。
もしかして―――告白とかされるのだろうか?
いや、それはいきなり過ぎるよな……。だけどあの挙動不審な伊都さんなら、突然そういう行動に出ることも不自然ではないかもしれない。
どうしようか。
……いや! どうもしない。『どうしようか』なんて、考える余地もないだろう?
俺はみのりと別れたばっかりだし。そもそも誰かと付き合うなんて、しばらくは考えられそうもない。
それに申し訳ないが伊都さんは俺の好みから、かなり外れている。ストライクゾーンから外した変化球……いや、敬遠、暴投の域かもしれない。昔から、綺麗系のシッカリした女性が好きなんだ。別れた彼女、みのりはまさに俺の好みそのものの女で……いや、結局別れちゃったんだけどさ……。
それに、そう! まず、伊都さんは見た目が野暮ったい! だから彼女、そもそも男とどうにかなるなんて考えていないよな? そんなつもりなら、まずオトコ受けを考えた身なりとか、化粧とか、言動とか……いろいろあるだろ?
いや、よくよく目を凝らすと可愛いなって思うけれども。元の造りは、良いと思う。だからそう言うトコ、アピールが無いと言うか……もったいないよな。だから、ちょっと手直しすれば伊都さんでもそれなりに見れるって言うのに―――って。
うーん、俺は何を考えているんだ。思考が完全に迷走し始めたな。伊都さん自身がどうとか、俺の好みとか……それはこの際、一旦横に置いておこう。
何だっけ。ああ、返事だよな。もし伊都さんが思わせ振りな話を振ってきたら。
まあ、あれだ。答えは定型文で行こう。
伊都さんのことは、人として好ましく思っている。色々とヨツバのことでは世話になったし、ヨツバを飼うと決めた今、餌とか牧草とか『うさぎひろば』で買わなきゃならないし……これからも、世話になることは決定事項だから。
『まだお互いを良く知らないよね。そう言う段階で何とも言えないよ。それに彼女と別れたばかりで、俺は当分そう言う気分になれそうもないから』
ん? これってもしかして……前向きな返答に聞こえないか?
ひょっとして、変に期待させちゃうかもしれない。そう言う曖昧な態度が悪かったって、花井さんの件で反省させられたばかりだった。なら、ここはきっぱり断るべきだろうか……。
外回り中そろそろ昼めしでもと思っていた頃、伊都さんにスマホで呼び出された。
伊都さんは『うさぎひろば』の小柄な店員だ。黒縁眼鏡と厚い前髪で顔を隠した、単なる人見知りの枠を超えた、ほぼ人間不信と言えるくらい強力な人見知りを拗らせた女性だ。しかしうさぎに関する事柄については、使命感に捕われるあまり他のことが気にならなくなるようで、急にテキパキきびきびと行動し始める。
彼女は時折、俺と話していると視線を潤ませ、顔を朱くすることがある。一度など感動したように涙ぐんだこともあった。あれって……どう見ても『そう』だよな?
割と女性ウケが良い方だと言う自覚はある。もの凄いイケメンと言うワケじゃないが、それが返ってハードルを低くするのか、はたまた親しみやすく感じて貰えるのか。女性から好意を寄せられるのは、それほど珍しことではない。あまり楽しい思い出ではないけれども、つい先日も派遣社員の花井さんに告白されたばかりだ。
もしかして―――告白とかされるのだろうか?
いや、それはいきなり過ぎるよな……。だけどあの挙動不審な伊都さんなら、突然そういう行動に出ることも不自然ではないかもしれない。
どうしようか。
……いや! どうもしない。『どうしようか』なんて、考える余地もないだろう?
俺はみのりと別れたばっかりだし。そもそも誰かと付き合うなんて、しばらくは考えられそうもない。
それに申し訳ないが伊都さんは俺の好みから、かなり外れている。ストライクゾーンから外した変化球……いや、敬遠、暴投の域かもしれない。昔から、綺麗系のシッカリした女性が好きなんだ。別れた彼女、みのりはまさに俺の好みそのものの女で……いや、結局別れちゃったんだけどさ……。
それに、そう! まず、伊都さんは見た目が野暮ったい! だから彼女、そもそも男とどうにかなるなんて考えていないよな? そんなつもりなら、まずオトコ受けを考えた身なりとか、化粧とか、言動とか……いろいろあるだろ?
いや、よくよく目を凝らすと可愛いなって思うけれども。元の造りは、良いと思う。だからそう言うトコ、アピールが無いと言うか……もったいないよな。だから、ちょっと手直しすれば伊都さんでもそれなりに見れるって言うのに―――って。
うーん、俺は何を考えているんだ。思考が完全に迷走し始めたな。伊都さん自身がどうとか、俺の好みとか……それはこの際、一旦横に置いておこう。
何だっけ。ああ、返事だよな。もし伊都さんが思わせ振りな話を振ってきたら。
まあ、あれだ。答えは定型文で行こう。
伊都さんのことは、人として好ましく思っている。色々とヨツバのことでは世話になったし、ヨツバを飼うと決めた今、餌とか牧草とか『うさぎひろば』で買わなきゃならないし……これからも、世話になることは決定事項だから。
『まだお互いを良く知らないよね。そう言う段階で何とも言えないよ。それに彼女と別れたばかりで、俺は当分そう言う気分になれそうもないから』
ん? これってもしかして……前向きな返答に聞こえないか?
ひょっとして、変に期待させちゃうかもしれない。そう言う曖昧な態度が悪かったって、花井さんの件で反省させられたばかりだった。なら、ここはきっぱり断るべきだろうか……。
0
お気に入りに追加
1,548
あなたにおすすめの小説
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる