捕獲されました。

ねがえり太郎

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新妻・卯月の仙台暮らし

不良債権です。 <亀田>

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 戸次と親しくなったのは、偶然だった。以前から遠藤課長の部下である彼の発言や挙動を目にしていて気の利く奴だとは思っていたのだが、実際話してみるとその直属の上司の十倍は使える人間だと言うことが分かって、嬉しくなった。

 支店にも人材はいる、ただ管理側が彼等を活かし切れなかっただけなのだ。
 しかも奴はうさぎを飼っている。オスのホーランドロップだ。思わず親しみを覚えずにはいられない。

 また彼と親しくなったことで、思いがけず遠藤課長に纏わる評判や噂話について情報を得る事が出来たのは、大きな収穫だった。いや、『収穫』と言って良いのかどうか……。

 戸次によると、派遣社員の一人が遠藤課長の親し気な振る舞い悩んでいるらしい。仕事を辞める、とか訴えるとか言うほどには嫌がっておらず、戸次に愚痴を言って気が済む程度のストレスらしい。

 おい、不良債権振りが過ぎるだろ……! 仕事ばかりでなく、そんなことも部下にフォローさせているのか、アイツは―――と頭を抱えたくなった。



「でも、一番のお気に入りって言うか、昔から怪しいと言われているのは別の人なんですよ」



 酒に関しては俺はザルだ。一緒に日本酒を傾けていた戸次は、弱くは無いが強いと言うほどでもないらしい。俺にペースを合わせているとドンドン酔っぱらってしまって、おそらく普段は口にしないような愚痴を口にし始めたのだ。核心に触れそうな話題が思いがけずポロリと零れて来たから、俺はアンテナを研ぎ澄ませた。

 普段の俺だったら、他人の色恋には毛ほどの興味も湧かないから、こういう話題はスルーしていただろう。しかし密命を帯びている身で、遠藤課長と怪しい仲の相手と聞いて、いつも通り話題を素通りする訳には行かなかった。

「それは―――社内の人間か?」
「ええ。総務の富樫さんです。何度も一緒に食事をしている場面を見られています。俺も一度遭遇しました。真偽は分かりませんが、不倫じゃないかって噂する人も多いんですよね」

 総務の富樫、と言えば。

 確か総務部長の庄子さんが言っていた、経理に明るい真面目な社員のことではないだろうか。そう、確か有能なので数字に関してはかなり彼女に頼ってしまっている、と言っていた筈だ。
 庄子さんは赴任して一年ちょっとだから、部の細かい所までは把握しきれていない。課長に問い質しても分からない案件についても、彼女に聞けば納得の行ける回答が得られるらしい。『痒い所に手が届く富樫さんがいて助かった』とか何とか。
 なかなか良い人材が育たないのでいまだに彼女の負担が大きい、とも言っていたな。つまり今現在、支社の金を握っているのは―――若しくは金の流れを一番把握しているのは富樫、と言うことか。



 経理を一手に引き受けている真面目な女性社員。
 彼女と親密な関係にある……かもしれない遠藤課長。



 その時鬼東の口にした支店の怪情報が、俺の中で俄かに信憑性を帯びて来たのだった。
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