捕獲されました。

ねがえり太郎

文字の大きさ
上 下
303 / 375
新妻・卯月の仙台暮らし

19.眼鏡屋さんへ行きます。

しおりを挟む
時系列として、別作『うさぎのきもち』完結後のお話になります。

※『結婚するまでのお話』「24.そして春になりました。」以降のお話でもあります。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 週末、たけしさんと一緒に眼鏡屋さんを訪れる事になった。

 忙し過ぎてずっと放置していたけど、そろそろ眼鏡を再調整したいと考えていたらしい丈さん。今の眼鏡を購入した眼鏡屋さんは彼のおばあちゃんの代からの御用達で、定期的に眼鏡調整の案内がハガキで送られてくる。つい先日、仙台に支店が出来たとの案内が届いたので、早速足を向けることに決めたようだ。

 実は、少しワクワクしている。

 子供の頃からずっと両目とも二.〇。眼鏡屋さんとは全く縁のない生活をしてきた。単純に踏み込んだことのないお店に入るのが、嬉しい。それからもう一つ、ひそかに野望を滾らせていることがある。

 丈さんに新しい眼鏡を掛けて貰いたい……!出来たらいろいろ着せ替えて、眺めてみたい!そんな考えがこの間から頭から離れないのだ。

 思いついた切っ掛けは、丈さんが会社の部下の戸次さんと『うさぎひろば』でバッタリ遭遇したことだ。戸次さんは目が合ったのに、丈さんを避けた。ハッキリ本人に確認してはいないけれど、たぶん戸次さんは丈さんのことが怖かったんだと思う。その後私も彼と何度か顔を合わせる機会があった。戸次さんは社交的で感じの良い人だ。仕事のできそうな、今時のお洒落が似合うイケメンさん。でも何となく、丈さんの前では少しだけ緊張しているように見えるんだよね……その気持ち、分かる分かる!って元部下だった私としては、彼の肩を叩きたい気分になった。モチロン、やりませんけどね!

 そして意外にも戸次さんに避けられたことを、気にしていた丈さん。かつて本社でつけられたあだ名のことを思い出した。

 元部下達が彼に付けたあだ名は『コワモテ冷徹銀縁眼鏡』!

 丈さんは何かの拍子にそれを知ったらしい。私としては、悪口と言うよりはむしろ親しみを込めてって意味合いが大きいように思う。……最初は純粋に、怖い上司に対する悪口だったのだとは思うけれど。

 だったら『銀縁眼鏡』を『黒縁眼鏡』にしちゃえば良いんじゃない?なんてフォローのつもり提案したら、丈さんは無言になった。何かを抉ってしまったらしい……。

 でもね。咄嗟の思いつきで口にしたことだけど、やっぱり眼鏡で人の印象って大きく変わると思う。

 丈さんの眼鏡は横に細長い感じの四角いフレーム。如何にも仕事のできそうな理知的に見える。見える、て言うか実際仕事も出来るんだけど。理系君でこういう眼鏡の人がいそう。でも細い銀縁のフレームはちょっと冷たい印象を与える。

 最近多いのはもっと黒っぽいしっかりしたフレームみたい。べっこうとか丸みを帯びた太い存在かのあるフレームが人気らしい。スマホで検索したら色んなタイプがあるんだなぁって分かった。

 そう言うお洒落眼鏡が丈さんに似合うかどうかは分からないけど、試しにいろいろ掛けてみたら良いと思うんだ。新しい眼鏡に変えてみたら、そしたら冷たい印象も少し和らいで、部下達の緊張も幾分解れると思うんだよね。

―――なんていろいろ理屈をこねくり回していますが、単に私が丈さんにいろんな眼鏡を掛けて貰ってそれを見てみたいだけ!ってのもある。スマホで眼鏡を検索しながら、丈さんにはこれが似合うかな?あれが似合うかな?……と考えてニマニマしていた。

 そこへ飛び込んで来た眼鏡屋さんの案内ハガキ……!丈さんは『調整だけだから、俺一人で行って来る。その間退屈だろうから卯月は同じ駅ビルで服でも見ていれば良い、後で合流しよう』なんて気を回してくれたけど―――こんな素敵な機会、もちろん逃すのはもったいない……!

『眼鏡屋さんに興味あるから』なんて言い訳をして、強引について行くことを主張した。丈さんは『面白いもん何も無いから退屈だぞ?』なんて不思議がっていたけれど、そんなことはない!



 丈さんには、どんな眼鏡が似合うかなぁ?



 ああ、今から週末が、楽しみで仕方が無い……!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

義娘が転生型ヒロインのようですが、立派な淑女に育ててみせます!~鍵を握るのが私の恋愛って本当ですか!?~

咲宮
恋愛
 没落貴族のクロエ・オルコットは、馬車の事故で両親を失ったルルメリアを義娘として引き取ることに。しかし、ルルメリアが突然「あたしひろいんなの‼」と言い出した。  ぎゃくはーれむだの、男をはべらせるだの、とんでもない言葉を並べるルルメリアに頭を抱えるクロエ。このままではまずいと思ったクロエは、ルルメリアを「立派な淑女」にすべく奔走し始める。  育児に励むクロエだが、ある日馬車の前に飛び込もうとした男性を助ける。実はその相手は若き伯爵のようで――?  これは若くして母となったクロエが、義娘と恋愛に翻弄されながらも奮闘する物語。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。 ※毎日更新を予定しております。

宇宙航海士育成学校日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 第四次世界大戦集結から40年、月周回軌道から出発し一年間の実習航海に出発した一隻の宇宙船があった。  その宇宙船は宇宙航海士を育成するもので、生徒たちは自主的に計画するものであった。  しかも、生徒の中に監視と採点を行うロボットが潜入していた。その事は知らされていたが生徒たちは気づく事は出来なかった。なぜなら生徒全員も宇宙服いやロボットの姿であったためだ。  誰が人間で誰がロボットなのか分からなくなったコミュニティーに起きる珍道中物語である。

【短編集】エア・ポケット・ゾーン!

ジャン・幸田
ホラー
 いままで小生が投稿した作品のうち、短編を連作にしたものです。  長編で書きたい構想による備忘録的なものです。  ホラーテイストの作品が多いですが、どちらかといえば小生の嗜好が反映されています。  どちらかといえば読者を選ぶかもしれません。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

悪役令嬢ですが婚約破棄されたこともあって異世界行くには妥協しません!

droit
恋愛
婚約破棄されて国を追放され失意の中、死んでしまった令嬢はそのあまりにみじめで不幸な前世から神により次の転生先と条件をある程度自由に決めてよいと言われる。前回さんざんな目にあっただけに今回の転生では絶対に失敗しない人生にするために必要なステータスを盛りまくりたいというところなのだが……。

【短編集】ゴム服に魅せられラバーフェチになったというの?

ジャン・幸田
大衆娯楽
ゴムで出来た衣服などに関係した人間たちの短編集。ラバーフェチなどの作品集です。フェチな作品ですので18禁とさせていただきます。 【ラバーファーマは幼馴染】 工員の「僕」は毎日仕事の行き帰りに田畑が広がるところを自転車を使っていた。ある日の事、雨が降るなかを農作業する人が異様な姿をしていた。 その人の形をしたなにかは、いわゆるゴム服を着ていた。なんでラバーフェティシズムな奴が、しかも女らしかった。「僕」がそいつと接触したことで・・・トンデモないことが始まった!彼女によって僕はゴムの世界へと引き込まれてしまうのか? それにしてもなんでそんな恰好をしているんだ? (なろうさんとカクヨムさんなど他のサイトでも掲載しています場合があります。単独の短編としてアップされています)

処理中です...