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・番外編・仮初めの恋人

9.誰の所為?(★)

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がっくりと項垂れる。
このデリカシーのデの字も持っていない幼馴染は最悪な状況を引き起こし、更にサラリとそれを何でもないように語った。

「あ、あんたねぇ~……」
「俺、フリーになった。スッキリしたわ。やっぱ一番好きな奴以外と付き合っちゃ駄目だよな。お前の言うとおりだ」
「なっ」

な、何てこと言うんだ。まるで私の所為で別れたみたいな言い方してっ。

てか、そうか。
私の所為だよね。私が克己の気持ちに気付かずに、目の前で変な愚痴を言ってしまったから……。

元々私の事が好きな克己が、私が大好きな先輩と付き合う事になったから、私が振られるまで情報を引き出す条件で胡桃と付き合って、で私が先輩の交友関係に動揺している隙にラブホテルに引き込んでベッドに押し倒して序でに告白して―――で、胡桃と別れて私と付き合うって言った克己に、私は一番好きな人と付き合うのが正しいから付き合えないって突っぱねて―――

って。

完全に克己が悪いんじゃん!
私悪く無いじゃん!

「なに、アンタがだらしない付き合い方して振られた事を、私が悪いみたいな言い方してんのよっ」
「いやー、別に悪いとは言ってねえけど……まあ、お前の所為っちゃ、お前の所為かな?」

こ、こいつ……っ

「胡桃を弄んでおいてっ」
「弄んでねーよ。俺嘘吐いてねーもん。最初からみゆが一番好きだって言っているし、それでも付き合ってくれ、情報提供するからって言ってきたのアイツだぜ?なのに、俺がみゆを押し倒したって言ったら怒ってさぁ」

それが、弄んでるって言うんじゃん。
それが私の大好きな先輩と何が違うんだって言う意見は、違う棚に一旦置いておくことにした。

「あ……あんたが悪いんでしょう?付き合ってしかも深い仲になった相手がいるのに、私まで手籠めにしようとして……」

ぷっと、噴き出されて。
なっどこに笑う要素がある。

「『手籠め』って。俺お代官様??いーな、そーいうシチュエーションも。それに『深い仲』って何だ?」
「ふざけないでよっ、『深い仲』って言ったらあれでしょ……寝てるって―――セックスしてるって意味よ」
「やってねーし」
「嘘だ」

胡桃に聞いた。
初めてを克己にあげた日。
それから、両親が旅行に行った時に克己が胡桃の部屋に泊まったこと。胡桃が克己の部屋に行ってイチャイチャしてから、私の部屋に寄って私にからかわれて頬を染めていた事もある。

「だって、胡桃にいろいろ聞いた……あ!私キスしてるとこ、見た事ある」
「ああ、まあなぁ……頼まれれば、それぐらいはするさ」

私の通学路の途中に克己の家がある。私がクラス委員の補佐をすることになって、胡桃と克己がデートがてら先に帰ったことがあった。その時克己の家の前でキスしている2人を見た。偶然恥ずかしい場面に鉢合わせしてしまって、胡桃が照れていたよね。その日はその後、胡桃がウチに寄る予定だったから偶然というか必然なのかもしれないけれども……。

「でも、ヤってねーよ。あ、胸は触ったかな」
「やってるじゃんっ!」
「おめーは、俺をほったらかしてヤリまくってるくせに俺を責められるのかよ。好きでもねーお前の友達押し付けて置いて、よくそんな強気になれんな」

克己は声を低くして歯をむき出した。
私は思わず言葉を失う。

「だって、私知らなかった……」
「いーや、分かってた。俺がお前を好きな事も分かっていたハズだ」
「そんなことない。だったら、胡桃を勧めたりしないよ」
「俺が邪魔だったんだろ。俺の事が気になるから、胡桃に押し付けて自分の気持ちを無かった事にしたかったんだろ」
「はぁ?克己さぁ……なんでこの間から私が克己の事好きだって前提で話をしているの?前も言ったよね。私は先輩が……」

言いかけて言葉を失う。
先輩が好き。
だけどもう……。

「そんなの恋じゃねえ」

バンっ!

私は立ち上がって、克己の胸を突き飛ばした。
けれども克己は僅かに上半身をよろめかせただけ。ほとんどビクともしない。
筋力の差が恨めしい。力で敵わない事が、そのまま言葉でも敵わないのではないかというという錯覚を私に抱かせる。

けれども私の中は怒りで真っ黒だった。
完全な八つ当たり。
先輩の前で泣くのを堪えた。大好きな先輩にみっともなく縋って、その上で振られたくなかった。先輩には『可愛いみゆ』のまま覚えて欲しかったから。

その我慢が克己の前で爆発した。

「わかったような口きかないで!私は先輩の事が好きだったの!本当に大好きだった!アンタなんか―――克己なんか大嫌いだよっ……私の気持ち、勝手に決めつけないでよー!」

ドンドン、と克己の胸に握った拳を叩きつけた。
克己は静かな顔で、それを受け止める。私がグチャグチャと克己を非難し、自分の気持ちを叫ぶ間……克己は口を挟まずに黙っていた。

やがて叩き疲れて力が入らなくなった腕が、克己の胸にパタリと落ちた。
文句を言い過ぎて更に掠れた声が、まるでハスキー過ぎて有名な往年の演歌歌手の物マネみたい。

克己は涙と鼻水でグチャグチャになった私の顔を、ベッドの枕元にあったティッシュでゴシゴシ拭った。

「痛い、乱暴」

私が息も絶え絶えに放った抗議をスルーして、克己は黙々と私の顔の水分を拭った後、鼻にティッシュを当てて「あと鼻かめ」と言って手を離した。私は大人しく鼻をかんだ。克己の言う事を素直に聞いたんじゃなくて、鼻が詰まって息が苦しかったから。



「夕飯、食べるぞ。おばちゃん、待ってるから急げ」



そうしてなんでも無い顔で私の背を押して、私を部屋から連れ出したのだった。

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