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太っちょのポンちゃん 社会人編9
唯ちゃんと、シェアハウスの住人(17)
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「いやー、良かった良かった。鈴木君が常識ある人で。応援できないのも申し訳ないし。あんまり思いつめて、唯ちゃんに何かあったらどうしようかと思って―――」
真剣に怒る俺を目の前にして、三島君は何故か肩を揺らして笑い出したのだ。
「……」
勿論俺は笑えない。
ジトッと無言で睨んでいると、気まずげな沈黙が訪れる。
すると三島君はモジモジと身じろぎしつつ、徐に口を開いて話題を変えたのだった。
「……あのさ。俺、小学校の時すっげー、チビだったんだよね」
肩を揺らして溜息を吐き、三島君は急に身の上話を始めた。さっきまでの明るい笑い声から一転して、しんみりとした雰囲気だ。情緒の急変に追いつけない俺は、何と返して良いか分からない。
「おまけに天パで、今よりクルックルでさ。家も貧乏で、服とかいっつも似たようなもの着まわしてて、イジメとまでは行かないんだけど……結構クラスのカーストで下っ端と言うか揶揄われる時に構われる、くらいの立ち位置でさ」
この告白には、少し驚いた。
俺からしたら、彼はリア充の見本みたいな存在だ。人間関係をスマートにこなし常に輪の中心にいる。今の彼からは、到底想像出来ない子供時代だ。
背も高くスラっとしている。身なりも良くて髪型なんて今時のお洒落パーマで……スカしているなぁ、くらいに思っていた。生まれてからずっと人間関係では苦労知らずだったんじゃないかってイメージがあった。
「三島なのに『ミニマ』って、呼ばれてたんだ」
「『ミニマ』?」
「うん、チビだから『ミニマ』
パーティでの記憶が蘇る。三島君の呼びかけにピンと来ていない様子の唯さんに、彼が自分は『ミニマ』だと伝えたのだ。すると唯さんは驚いた顔をした。つまり小学生時代小柄だった三島君が、随分様変わりしたので驚いたのだろう。
「新の家に皆で遊びに行った時も、友達からそう呼ばれててさ。俺は笑ってたんだけど……唯ちゃんは俺が嫌がっているの、気が付いてくれたんだよね。ちゃんと『三島君』て呼んでくれて、他の子にも『お友達の名前ちゃんと呼べる人は美味しいもの、食べれる人だよ!』なんて言って、お菓子で周りのヤツ釣ってくれてさ。それを切っ掛けに、大半の友達はちゃんと名前で呼んでくれるようになった。まぁ、しつこく呼び続ける来るヤツもいたけど。でも、俺もそれから勇気を出して『嫌だからやめてくれ』って、自分で言うようになったんだ。そしたら、誰も呼ばなくなった」
「意外だ……」
思わず心の声がポロリと零れる。今の彼は何でも思った事を口に出来る人間だと思うし、自分がモテる事を自覚しているような所なんて多少傲慢と言っても良いくらいだ。だからそう言う臆病な彼を、想像するのは難しかった。
三島君は、ハハっと笑って頷いた。
「今の俺って、見てくれ割とマシでしょ? ノリも悪くないし、感じも良い」
「……」
……ひょっとして、自慢なのか?
見てくれ割と地味な自覚のある、ノリが悪くて感じも悪い俺を目の前にして言う台詞か? と、呆れたような視線を向けると、彼は肩を竦めた。
「努力したんだ。嫌な目に遭いたくなくて。『人は見た目が九割』って言うでしょ? あれ、割と真実だと思うんだよね。第一印象でその人に対する感情って決まって来る。集団の中の立ち位置も、そこでだいたい決まる。……深い付き合いに発展しなければ、ね。だから割と空気読んで、皆と仲良くして攻撃されないよう気を付けてるんだ」
自慢では無い……のかもしれない。三島君の目が笑っていないから。
思い出せば彼の目はいつも弧を描いていて、常にうっすらと上機嫌だった。今はそれが払拭されて、初めて見るような真面目な表情を纏っている。
「だからあの女、佳奈とか言うヤツにも……キツイこと言えないのか?」
「うん、そう。本人に嫌われたくないってもあるけど、どっちかって言うと俺の所為でその場のノリって言うか、空気悪くなるの嫌だからさ。何とか彼女とは上手く距離を取りたいって思っていたんだけど……」
そこで一旦言葉を切って、三島君は眉を下げた。
「ただその所為でツッチー……土屋さんに迷惑掛けちゃったら、本末転倒だよね」
そう呟くと、彼は肩を落として溜息を吐く。
『ノリや空気が悪くなるのが嫌』ねぇ―――三島君の言わんとすることは理解できるものの、それは俺にはまるでピンと来ない理屈だった。
「カケルは強いよね。人に嫌われたってどう思われたって気にならないだろ?……羨ましいな」
ピンと来ていない感じが伝わったのか、疲れたように三島君は笑った。
「だからツッチーも……」
「え?」
「土屋さんも、こんな俺よりカケルみたいな、カッコいい奴が好きなんだろうな」
「は?」
耳を疑った。
俺が『カッコイイ』? 聞き間違いか……?
俺と三島君が並んでいたら、女が十人いれば十人とも三島君を『カッコイイ』と言うだろう。
いや、そもそもの話、三島君は土屋さんが俺のことを好んでいると言う妄想を本気で信じているらしい。ずっと嫌な冗談か揶揄いなのだと思っていたが、今分かった。コイツ、本気でそう言ってる!
「そんな事ある訳ないだろ!」
「カケルさ、足速いだろ。いつもリレーの選手じゃなかった?」
「え? あ、まぁ……」
確かに小学校でも中学校でも、俺はリレーの選手でアンカーだった。短距離では一位以外取った事はない。何故見て来たように分かるんだ?
「だよね。それに小学校から、体も大きかったでしょ? イケメンだしさ」
「いや、イケメンって……三島君のことだろ?」
「俺はイケメンじゃない。イケメン風! 努力してこの辺りなの。だけど三島君が身なりに構わないでいられるのは、顔の造作が整っていて真のイケメンだからだよ! 運動神経も良いから、負け犬根性もないでしょ? 自分に自信があるんだ。つまり、生まれながらの強者だよ……! だから他人の気持ちを気にしないんだ!」
妄想が過ぎる。男としてのコンプレックスから一番遠い所にいるような三島君が、これほど拗らせた発言をするとは。意外過ぎて反論する気力が湧いてこない。
「いや、俺は単に人見知りって言うか、地味な人間なだけで―――ていうか、さっきからなんだ? 俺のことはどうでも良いが、土屋さんの気持ちを決めつけるのはどうかと思うぞ」
「……」
「あのな」
俺はコホンと咳払いをして、椅子を動かし三島君に向き直った。
「何度でも言うが、土屋さんが俺に気があるなんて気のせいだ」
ジトッとした視線を向けられる。三島君が全く俺の言葉を信じようとしていないのが伝わって来た。理不尽だが、言い換えることにした。
「万が一、もしそうだとしても―――それは土屋さん本人の感情だろ? 俺には推測できないし、断言も出来ない。俺の立場で断言できないことを、責められても困る。それにましてや俺は、土屋さんとどうにかなる気は微塵もない! なら、そんな下らない議論続けるより、三島君にはやるべき事があるんじゃないか?」
「やるべきこと……」
「土屋さんの気持ちをちゃんと確かめるとか、ちゃんと告白するとか」
改めて思い返すと、三島君は土屋君に積極的にアプローチしているように見えて―――その実、確信に迫る言葉を口にするのを避けているように見えた。好意は示していても、後で冗談だと言えばそれまでに思えるような行動ばかり取っているのだ。
そう、決定的な告白をした訳じゃない。だから佳奈とか言う女も勘違いした発言をしたのだし、土屋さんもその発言を真に受けて、三島君を避けているのだろう。
「でも。これまでアプローチして来たけど、全然ツッチーは俺のことなんて眼中にないよ。……だから告白したって無駄だよ。困らせるだけだし」
「……」
シツコイ。
多少イラっとした。が、落ち込む三島君をこれ以上追い詰めるのは得策ではない事は分かる。苛立ちを押さえつつ俺は立ち上がり、三島君の肩にどっしりと手を置いた。
「それでも」
俯きがちだった顔を上げた彼と、シッカリと瞳を合わせる。
「誤解を解くべきじゃないのか? 傷ついている『土屋さん』の為に」
「―――っ」
三島君は息を飲んで、俺の目を見つめ返した。
そしてその目にゆっくりと光が籠る。
「そうだよね」
ガシっと肩に置いた手首を、掴まれた。
「俺、ツッチーに告白する」
やっとか……! 長かったな……!!
漸く決意してくれた事に、ホッとする。
が、しかし。手首が微妙に痛い。ミシリと骨が軋む音がしそうな、スゴイ力だ。
「腹を割って、ちゃんと話すよ!」
「ああ」
良かった。これでコイツらの無駄な痴話げんかと言うか三角関係と言うか恋愛トラブルにこれ以上巻き込まれずに済む!
……と、ホッとして離れようとした所で、グイと引き戻された。いてぇ! この馬鹿力!!
三島君は俺のそんな胸の内など知らん顔で、もう一方の手首を掴まえてブンブンと振り、こう嘆願したのだ。
「だからカケル! ツッチーを呼び出してくれ!!」
「は?」
これでもかというほど『嫌だ』と言う気持ちを込めて、眉を顰める。
俺はもう、妙な恋愛トラブルに関わるのは金輪際ゴメンだ! それに手首いてぇし!!
「それくらい自分でやれよ!」
「だって! 野生動物みたいに、俺の気配がしただけで逃げるんだよ! 話すら出来ない! お願い! カケルだけが頼りなんだ……!!」
こうして面倒臭いことに、俺は二人の取次をする役目を押し付けられたのだった。
土屋さんを呼び出し、それから三島君の話を聞くよう説得し、あまつさえ二人の話合いに立ち合いまでさせられた。
なのに、ここまでして。
二人の仲は何処まで進んだかと言うと―――結果、友達だ。
土屋さんは恋愛経験皆無で、付き合うとかそう言う気持ちが分からないとの事で先ずは友達から、ということになった。三島君はそれでも上機嫌で、付き合ってもいないのに『お前、彼氏かよ?』って言うくらい土屋さんの世話をアレコレ焼き、付き纏っている。
そのベタベタぶりを見ているのが嫌になったのか、佳奈とか言う女はシェアハウスを出て引っ越した。他にも三島君に気のありそうな女性はいたが、三島君の一方的な熱愛っぷりに引いて遠巻きにしている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なかなか終わらなくて、スミマセン!<(_ _)>
次話、最終話となります。(…の予定です)
※誤字修正2020.2.2(いつき様、おそまつ茶トラ様へ感謝)
真剣に怒る俺を目の前にして、三島君は何故か肩を揺らして笑い出したのだ。
「……」
勿論俺は笑えない。
ジトッと無言で睨んでいると、気まずげな沈黙が訪れる。
すると三島君はモジモジと身じろぎしつつ、徐に口を開いて話題を変えたのだった。
「……あのさ。俺、小学校の時すっげー、チビだったんだよね」
肩を揺らして溜息を吐き、三島君は急に身の上話を始めた。さっきまでの明るい笑い声から一転して、しんみりとした雰囲気だ。情緒の急変に追いつけない俺は、何と返して良いか分からない。
「おまけに天パで、今よりクルックルでさ。家も貧乏で、服とかいっつも似たようなもの着まわしてて、イジメとまでは行かないんだけど……結構クラスのカーストで下っ端と言うか揶揄われる時に構われる、くらいの立ち位置でさ」
この告白には、少し驚いた。
俺からしたら、彼はリア充の見本みたいな存在だ。人間関係をスマートにこなし常に輪の中心にいる。今の彼からは、到底想像出来ない子供時代だ。
背も高くスラっとしている。身なりも良くて髪型なんて今時のお洒落パーマで……スカしているなぁ、くらいに思っていた。生まれてからずっと人間関係では苦労知らずだったんじゃないかってイメージがあった。
「三島なのに『ミニマ』って、呼ばれてたんだ」
「『ミニマ』?」
「うん、チビだから『ミニマ』
パーティでの記憶が蘇る。三島君の呼びかけにピンと来ていない様子の唯さんに、彼が自分は『ミニマ』だと伝えたのだ。すると唯さんは驚いた顔をした。つまり小学生時代小柄だった三島君が、随分様変わりしたので驚いたのだろう。
「新の家に皆で遊びに行った時も、友達からそう呼ばれててさ。俺は笑ってたんだけど……唯ちゃんは俺が嫌がっているの、気が付いてくれたんだよね。ちゃんと『三島君』て呼んでくれて、他の子にも『お友達の名前ちゃんと呼べる人は美味しいもの、食べれる人だよ!』なんて言って、お菓子で周りのヤツ釣ってくれてさ。それを切っ掛けに、大半の友達はちゃんと名前で呼んでくれるようになった。まぁ、しつこく呼び続ける来るヤツもいたけど。でも、俺もそれから勇気を出して『嫌だからやめてくれ』って、自分で言うようになったんだ。そしたら、誰も呼ばなくなった」
「意外だ……」
思わず心の声がポロリと零れる。今の彼は何でも思った事を口に出来る人間だと思うし、自分がモテる事を自覚しているような所なんて多少傲慢と言っても良いくらいだ。だからそう言う臆病な彼を、想像するのは難しかった。
三島君は、ハハっと笑って頷いた。
「今の俺って、見てくれ割とマシでしょ? ノリも悪くないし、感じも良い」
「……」
……ひょっとして、自慢なのか?
見てくれ割と地味な自覚のある、ノリが悪くて感じも悪い俺を目の前にして言う台詞か? と、呆れたような視線を向けると、彼は肩を竦めた。
「努力したんだ。嫌な目に遭いたくなくて。『人は見た目が九割』って言うでしょ? あれ、割と真実だと思うんだよね。第一印象でその人に対する感情って決まって来る。集団の中の立ち位置も、そこでだいたい決まる。……深い付き合いに発展しなければ、ね。だから割と空気読んで、皆と仲良くして攻撃されないよう気を付けてるんだ」
自慢では無い……のかもしれない。三島君の目が笑っていないから。
思い出せば彼の目はいつも弧を描いていて、常にうっすらと上機嫌だった。今はそれが払拭されて、初めて見るような真面目な表情を纏っている。
「だからあの女、佳奈とか言うヤツにも……キツイこと言えないのか?」
「うん、そう。本人に嫌われたくないってもあるけど、どっちかって言うと俺の所為でその場のノリって言うか、空気悪くなるの嫌だからさ。何とか彼女とは上手く距離を取りたいって思っていたんだけど……」
そこで一旦言葉を切って、三島君は眉を下げた。
「ただその所為でツッチー……土屋さんに迷惑掛けちゃったら、本末転倒だよね」
そう呟くと、彼は肩を落として溜息を吐く。
『ノリや空気が悪くなるのが嫌』ねぇ―――三島君の言わんとすることは理解できるものの、それは俺にはまるでピンと来ない理屈だった。
「カケルは強いよね。人に嫌われたってどう思われたって気にならないだろ?……羨ましいな」
ピンと来ていない感じが伝わったのか、疲れたように三島君は笑った。
「だからツッチーも……」
「え?」
「土屋さんも、こんな俺よりカケルみたいな、カッコいい奴が好きなんだろうな」
「は?」
耳を疑った。
俺が『カッコイイ』? 聞き間違いか……?
俺と三島君が並んでいたら、女が十人いれば十人とも三島君を『カッコイイ』と言うだろう。
いや、そもそもの話、三島君は土屋さんが俺のことを好んでいると言う妄想を本気で信じているらしい。ずっと嫌な冗談か揶揄いなのだと思っていたが、今分かった。コイツ、本気でそう言ってる!
「そんな事ある訳ないだろ!」
「カケルさ、足速いだろ。いつもリレーの選手じゃなかった?」
「え? あ、まぁ……」
確かに小学校でも中学校でも、俺はリレーの選手でアンカーだった。短距離では一位以外取った事はない。何故見て来たように分かるんだ?
「だよね。それに小学校から、体も大きかったでしょ? イケメンだしさ」
「いや、イケメンって……三島君のことだろ?」
「俺はイケメンじゃない。イケメン風! 努力してこの辺りなの。だけど三島君が身なりに構わないでいられるのは、顔の造作が整っていて真のイケメンだからだよ! 運動神経も良いから、負け犬根性もないでしょ? 自分に自信があるんだ。つまり、生まれながらの強者だよ……! だから他人の気持ちを気にしないんだ!」
妄想が過ぎる。男としてのコンプレックスから一番遠い所にいるような三島君が、これほど拗らせた発言をするとは。意外過ぎて反論する気力が湧いてこない。
「いや、俺は単に人見知りって言うか、地味な人間なだけで―――ていうか、さっきからなんだ? 俺のことはどうでも良いが、土屋さんの気持ちを決めつけるのはどうかと思うぞ」
「……」
「あのな」
俺はコホンと咳払いをして、椅子を動かし三島君に向き直った。
「何度でも言うが、土屋さんが俺に気があるなんて気のせいだ」
ジトッとした視線を向けられる。三島君が全く俺の言葉を信じようとしていないのが伝わって来た。理不尽だが、言い換えることにした。
「万が一、もしそうだとしても―――それは土屋さん本人の感情だろ? 俺には推測できないし、断言も出来ない。俺の立場で断言できないことを、責められても困る。それにましてや俺は、土屋さんとどうにかなる気は微塵もない! なら、そんな下らない議論続けるより、三島君にはやるべき事があるんじゃないか?」
「やるべきこと……」
「土屋さんの気持ちをちゃんと確かめるとか、ちゃんと告白するとか」
改めて思い返すと、三島君は土屋君に積極的にアプローチしているように見えて―――その実、確信に迫る言葉を口にするのを避けているように見えた。好意は示していても、後で冗談だと言えばそれまでに思えるような行動ばかり取っているのだ。
そう、決定的な告白をした訳じゃない。だから佳奈とか言う女も勘違いした発言をしたのだし、土屋さんもその発言を真に受けて、三島君を避けているのだろう。
「でも。これまでアプローチして来たけど、全然ツッチーは俺のことなんて眼中にないよ。……だから告白したって無駄だよ。困らせるだけだし」
「……」
シツコイ。
多少イラっとした。が、落ち込む三島君をこれ以上追い詰めるのは得策ではない事は分かる。苛立ちを押さえつつ俺は立ち上がり、三島君の肩にどっしりと手を置いた。
「それでも」
俯きがちだった顔を上げた彼と、シッカリと瞳を合わせる。
「誤解を解くべきじゃないのか? 傷ついている『土屋さん』の為に」
「―――っ」
三島君は息を飲んで、俺の目を見つめ返した。
そしてその目にゆっくりと光が籠る。
「そうだよね」
ガシっと肩に置いた手首を、掴まれた。
「俺、ツッチーに告白する」
やっとか……! 長かったな……!!
漸く決意してくれた事に、ホッとする。
が、しかし。手首が微妙に痛い。ミシリと骨が軋む音がしそうな、スゴイ力だ。
「腹を割って、ちゃんと話すよ!」
「ああ」
良かった。これでコイツらの無駄な痴話げんかと言うか三角関係と言うか恋愛トラブルにこれ以上巻き込まれずに済む!
……と、ホッとして離れようとした所で、グイと引き戻された。いてぇ! この馬鹿力!!
三島君は俺のそんな胸の内など知らん顔で、もう一方の手首を掴まえてブンブンと振り、こう嘆願したのだ。
「だからカケル! ツッチーを呼び出してくれ!!」
「は?」
これでもかというほど『嫌だ』と言う気持ちを込めて、眉を顰める。
俺はもう、妙な恋愛トラブルに関わるのは金輪際ゴメンだ! それに手首いてぇし!!
「それくらい自分でやれよ!」
「だって! 野生動物みたいに、俺の気配がしただけで逃げるんだよ! 話すら出来ない! お願い! カケルだけが頼りなんだ……!!」
こうして面倒臭いことに、俺は二人の取次をする役目を押し付けられたのだった。
土屋さんを呼び出し、それから三島君の話を聞くよう説得し、あまつさえ二人の話合いに立ち合いまでさせられた。
なのに、ここまでして。
二人の仲は何処まで進んだかと言うと―――結果、友達だ。
土屋さんは恋愛経験皆無で、付き合うとかそう言う気持ちが分からないとの事で先ずは友達から、ということになった。三島君はそれでも上機嫌で、付き合ってもいないのに『お前、彼氏かよ?』って言うくらい土屋さんの世話をアレコレ焼き、付き纏っている。
そのベタベタぶりを見ているのが嫌になったのか、佳奈とか言う女はシェアハウスを出て引っ越した。他にも三島君に気のありそうな女性はいたが、三島君の一方的な熱愛っぷりに引いて遠巻きにしている。
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なかなか終わらなくて、スミマセン!<(_ _)>
次話、最終話となります。(…の予定です)
※誤字修正2020.2.2(いつき様、おそまつ茶トラ様へ感謝)
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