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後日談 黛先生の婚約者
(10)一緒に料理
しおりを挟む小話を一つ。
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「黛君って、全く料理しないんだね」
「しない」
「一緒にやってみない?」
「えー」
七海がそう言い出した時、黛は物凄く嫌そうな顔をした。
料理が嫌、と言うよりせっかく二人きりになれた貴重な時間を料理で潰すのが嫌だったのだ。
「じゃん!と、言う訳で材料をお持ちしました~。簡単なオヤツだから一緒にやろっ」
ニッコリと笑われると黛は抗えない。
しぶしぶ背を押されて台所に押し込まれた。
手を洗って、エプロンを付ける。
七海がほとんど使用していない鍋に水を入れて火にかける。
そしてこれまたほとんど使用していないガラスのボウルを取り出して、持参した白い粉と絹ごし豆腐をそこに適当に放り込み「はい、どーぞ。これ、練ってくれる?」と黛の前に押し出した。
「練るって、どうやるんだ?」
「普通に手で。んー、えっとね。こうやって」
口で言ってもほとんど経験の無い黛にはピンと来なかったようだ。
七海はボウルに手を入れワシワシと揉みだした。一通りやって見せて、黛の前に再びボウルを押し出す。
「……」
黛はしぶしぶ見様見真似でワシワシと粉を練り始める。すると柔らかい感触が意外と気持ち良かったのか、熱心に捏ね始めた。
七海はその様子を見て、満足気に頷いた。
「結構楽しいでしょ?耳たぶくらいの柔らかさになるまで練ってね」
「耳たぶって言うか……」
と言ったきり黙り込み、黛は白玉粉をひたすら練り上げる事に集中した。
(意外と熱心に取り組んでくれるな)
七海は感心して、生地が纏まりを見せたところで黛の手を止めさせた。
そして家から持ってきた、解凍済みの蓬のみじん切りを生地に混ぜ込む。
「あ、ヨモギ団子になった」
少し嬉しそうに黛が言う。
すっかり均等に生地に蓬が混ざった所で、二人で手分けして小さい団子状に丸め、中心をへこませる。
器用な黛は、少し七海が指導しただけでサクサクと作業を進める事ができた。
鍋のお湯がちょうどグラグラと煮たって来たので、そこへ丸めた団子を放り込む。すぐに団子が浮いて来るので、七海はそのまま一分ほど煮たててザルに上げた。
少し冷やして、ゆであずきの缶詰を開け、ガラスの器に盛りつける。
「はい完成~!ね、簡単でしょ?」
「ああ、こんなに簡単にできるのか」
「売っているのはもっと手間掛かっているけどね。これはこれで美味しいよ。さっ食べよう!」
その後二人で少し温かさの残る、モチモチとしたヨモギ団子を美味しくいただいた。
七海としては外食ばかりの黛に、手作り料理の楽しさを知って貰おうと思って言い出した事だった。何より立派なキッチンが勿体無いと、遊びに来るたびずっと思っていたのだ。
しかし黛は学校の授業以来初めての料理を経験し―――七海の思惑から外れた全く関係の無い事を考えていた。
(う~ん、あの柔らかさは耳たぶと言うより、二の腕か?胸よりは硬めだったな……でも結構気持ちの良い感触だった。よし、後で存分に比べてみよう)
ヨモギ団子を満足気に頬張る七海はまだ、墓穴を掘った事に気が付いていないのだった……。
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自らそれと知らずにピンチを招く七海でした。
そして親切を仇(?)で返す、黛。
お読みいただき、ありがとうございました。
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