MASK 〜黒衣の薬売り〜

天瀬純

文字の大きさ
上 下
40 / 62

年明けの再会

しおりを挟む
 日付が変わり、新年を迎えた午前1時過ぎ。

 カセットテープでジャズを聴きながら寛いでいた俺は、突然尋ねてきた友人と囲炉裏を囲みながら珈琲を飲んでいた。

「いやぁ、年明けの珈琲は良いですねぇ~」

『何が良いですね、だ。新年早々、めしをたかりに来やがって』

昨日俺が作っておいた雑煮を食べ終えた友人は、満足気に微笑みながら食後の珈琲を楽しんでいる。

(まったく。そんな顔されると怒る気にもなれん)

思えば、こいつとは長い付き合いになる。各地で結界を張ることを生業とする俺が駆け出しの頃からの腐れ縁だが、【近しき仲にも礼儀あり】という言葉の存在につい疑問を抱いてしまう。

『それにしても、お前が鬼の姿のまま俺の家に来たときは流石に驚いたぞ。いつ以来だろうな、あの姿のお前を見るのは?』

スーツの上着を畳んで傍に置き、カーディガンを羽織って寛ぐ友人に尋ねる。

「ちょっと出先で、妖たちの隠れ里に踏み入ってしまった若い学生さんたちを見かけましてね。わざとではないようでしたので、祟られた彼らを助けに行ったんです。里の入り口近くとはいえ、辺り一面殺気立っていたので、仕方なく自己防衛も兼ねて変化へんげしたんですよ」

『…大丈夫だったのか?』

「ええ、一応。祟られた学生には【祟りくだし】の矢を使いましたし、里の方々には、初日の出を拝もうと近くにいた人間たちの前で里の結界が薄れてしまったことによる事故だと説明して怒りを鎮めてもらいました」

『事故ねぇ…』

おそらく友人はを報告するために、変化したまま俺の家に来たのだろう。

『結界に“穴”ねぇ…。人間社会から離れて自分たちの営みを守るために結界を張ってきたが、ときの移ろいとともに術者や里の警戒心が薄れたのか、あるいは結界自体の強度や仕組みに原因があったのかもしれないな』

「…そうですか。薬売りの私にとって、結界は専門外ですので」

『他にも何か起こるようなら、俺に声をかけてくれ。よほど閉鎖的な里でなければ、俺が行って助言することもできるからよ』

「ありがとうございます」

気になった俺は、友人から里の場所を聞き、スマートフォンのメモ機能に書き残した。その後、薬売りの友人から日常生活で何かと必要になる風邪薬や傷薬などを購入したり、彼が最近調合した薬について聞いたりして、久しぶりの再会を楽しんだ。

… … …

… …



「では、そろそろ…」

 俺と大分話し込んだ友人は、外がまだ暗いというのに帰り支度を始めた。

『おい、漆黒』

「はい?」

俺は、上着を着て土間にある革靴を履こうとする友人を呼び止めた。

『お前、祟られた奴に触れたんだろ? てことは、多少なりともお前にも影響があるだろうから、俺が祓ってやるよ』

二宙にそらさん。お気持ちは嬉しいですが、私が抱えている物と今回の影響を区別して祓うのは至難の業かと思いますが?」

振り返った友人は苦笑いしながら、頭を掻く。

『一応だよ、一応』

そう言って、俺は彼を前に簡易的な儀式をしてみる。案の定、いつも感じる手応えはなかった。

『…終わったぞ』

「ありがとうございます。妖の中でも旧知のあなたに久しぶりに会えて良かったです。今度、最近知り合った造形作家さんを連れて来ますね。祖父母から譲り受けた山で、化け狸一族と暮らしている面白い方なんですよ」

『おう、楽しみにしておく』

俺が玄関で見送ると、友人は黒い霧となって去って行った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ガダンの寛ぎお食事処

蒼緋 玲
キャラ文芸
********************************************** とある屋敷の料理人ガダンは、 元魔術師団の魔術師で現在は 使用人として働いている。 日々の生活の中で欠かせない 三大欲求の一つ『食欲』 時には住人の心に寄り添った食事 時には酒と共に彩りある肴を提供 時には美味しさを求めて自ら買い付けへ 時には住人同士のメニュー論争まで 国有数の料理人として名を馳せても過言では ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が 織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。 その先にある安らぎと癒やしのひとときを ご提供致します。 今日も今日とて 食堂と厨房の間にあるカウンターで 肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。 ********************************************** 【一日5秒を私にください】 からの、ガダンのご飯物語です。 単独で読めますが原作を読んでいただけると、 登場キャラの人となりもわかって 味に深みが出るかもしれません(宣伝) 外部サイトにも投稿しています。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。 のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。 彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。 そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。 しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。 その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。 友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...