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第ニ章 もう一人のヒーロー。

38 脱出を試みる。

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「そう! リリアの事なんて、操っといて無視! 罰ゲーム過ぎます!!」

 リリアは起き上がって、真剣な眼差しで私を見てきた。リリアはルーツに操られて一人でえっちしたんだと。勝手に不法侵入したからといって、そんなお仕置きがあるとは……。

「でもリリア、良い情報を聞きました」
「情報?」
「侵入者の正体です。一人はまだ不明ですが、もう一人はローズ王国の人だって」

 今回の目標はローズ王国の植民地に辿り着くこと。そして、魔力を使い門を開けること。リリアはそれを知っていたようで、「噂を嗅ぎ付けてきたに違いないです」と囁いた。

「ローズ王国の人だって、どうして分かったんでしょうか?」
「ええっと……そこまでは」
「あっ、そうですよね……! すいません」
「でも、ローズ王国の人は背中にローズの黒い紋章があるのです。そんな簡単に見せるとは思いませんが、誰かが気づいたのかもです」

 なるほど、それで見極めることができるのね。とはいえ、そんな堂々とした弱点があるのなら、もっと上手く隠しそうな気もするけれど……。

「魔法都市、ローズ王国……自然から魔力を貰って、都市を発展させてる国。そんなところに歯向かって、グロキシニアは大丈夫なんですかね。リリアは不安です」

 リリアは何だか少し事情を知っていそう……?
 魔法都市、ローズ王国は今までグロキシニア国と対立してきた。元々グロキシニア国のものだった植民地を戦争で奪い取ったから。そこまでの話はこっそり聞いたことがあったから知っていたけれど……。

「話し合えば何とかなるかもしれないのに。どうしてこんな強行突破みたいな真似ばかりするのでしょう?」
「恐らくそれは大魔導師ゼノン様の仕業」
「ゼノン様って、ゼノン・オーガスティン?」

 もしかして、私の曽祖父に当たるかもしれない人?
 母シレネに魔力を全て捧げた大魔導師。 

「そうです。元々ローズ王国に居た大魔導師ゼノン様は、他国との協和を目指し、まずはグロキシニアからだと移住を決めたんです」
 
 自分の魔力を使い、グロキシニア国の発展に協力した。その代わりに、ローズ王国と協同するよう願ったが、グロキシニアの王は恩を仇で返すように、彼は我の国を利用しようとしているのだと捉え、ゼノンの願いは失敗に終わった。
 だからといって、ゼノンを雑に扱うと国民から反感を喰らうだろうと、王は彼が死ぬまで協同に対する答えを隠しつつ、世話はしてやったのだという。

 これがキッカケで、グロキシニア国からしたらローズ王国との話し合いなど、乗らないかもしれない。ゼノンの想いを全く真逆のものとして捉えたんだから。警戒するだろうし、本気で敵だと思ってる……。
 
「なんで、そんな事をリリアさんは知ってるの?」
「お兄様が話してくれたのです! お兄様は騎士になって、沢山情報を得ていましたから」

 ジンの目的はゼノンと同じ。そして人魚界でも、地上と協和できる日を目指してる。そんな平和思考の持ち主なのかと納得できなかったけれど、その目的も全部ルーツの為なんだって。うーん……これで少し納得?
 ルーツと共に人生を歩む事を、故郷にも許してもらおうと思ってる。いや、あの性格だと故郷に戻っても、関係がある人魚っているのかな。また別の意味かもしれない。改革を目指すとか、そんな感じかな……?

「私は今……ローズ王国にとって、酷い事をしようとしてる。前々から気にはしてたけど、やっぱり――」

 門を開けて、グロキシニアはローズ王国に急襲をかけようとしている気がする。私はベルに会う為に。私の勝手な都合で……他国に迷惑をかけようとしている。
 つい最近までは、そんな事、私にはどうでもいいとか思ってた。
 でも……私の曽祖父が願っていた事を、ここで壊していいのかと疑問が過ぎる。何故だろう。まだゼノンが曽祖父なのかすら、定かではないのに。
 
「ねえ、リリアさん。私はベルさんに会いたいの」
「ベルって、ベルナード様のこと?」
「そう。私、ベルさんに恋してるから……」
「え……」

 リリアの表情が複雑そうにかわる。どう答えたらいいのかと目が泳いでいる気がする。

「あ、あああ、あんな奴なんかに。リベラ姉様も貴女も、どうして」
「でも、ベルさんに会いたいからって、他国の人に迷惑かけようとしてるのは、やっぱり違うよね」
「そ、そりゃあそうです! それはリリアにも分かります」
「うん……そうだよね。私、もう一度ルーツと話し合ってみようかな」
「む、無茶ですよ。ルーツ様は他人の話を聞きません」
「……そうだけど」

 うーん……と互いに悩む。

「待って。良い方法を思い付いたよ!」
「え……??」

 門の封印の解き方を伝えた上で、私はリリアに説明する。
 ここを抜け出して、侵入してきたローズ王国の人を探し出す。
 多分、ローズ王国の人もグロキシニア国が今何をしようとしているか偵察に来ているんだろうし、事情は大体掴めてそうな気がする。分からなきゃ教えてあげればいい。
 そこで、一か八かで私が門の封印を解こうとした時に、止めてもらおう。私自身で止めれるかどうかと言われると、正直強制な気がするから……自信がない。
 なら、目的が一緒のローズ王国の人に手助けしてもらおう。

 私は思った事を説明すると、リリアはポカンとしていたけど、すぐに呑み込んでくれた。

「合図と同時に、遠くから銃声を鳴らしてもらうの。銃声じゃなくてもいいし……何か、大きな音がするもの! その隙に、逃げてみようよ」
「ふむむ……そんな事より、そこに到着する前に抜け出す方法を練ったほうがいいのでは?? 結局……その、キラ姉様が居なかったらその門は解けないんですよねっ?」
「……! うん、確かに! 私ったらつい、抜け出せない前提で話してたね」
「ルーツ様に毒されてますね。確かにルーツ様は凄い方ですから、そう考える理由も分かります」

 とりあえず、話を聞いてくれるか分からないけど、侵入者であるローズ王国の人に会ってみよう。そこで漸くリリアと意見が合った。

「でも……どうやってこの扉を開けます? お兄様のせいでドアがカチカチになってます」
「う……そうだよね。まずはそこだよね。……よし! 私、初の魔力を使ってみるよ!!」
「っええ!? できるんですか……!?」

 任せなさい……!! 私はベッドから離れて、ドアノブと壁が同化し石化した扉に両手を当ててみた。

 ど、どうしたら開けられるかな?
 ほ、炎? 炎を出せば燃えて扉が開く?
 
 大惨事になったりしないかな。

 もしくは水? いや……開けられなさそう。
 石化。石化に弱いものは……??

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