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婚約話※
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「‥‥‥クリス?」
どうやら彼は気絶してしまったようだ。私は自分の処理を手早く済ませると、彼の身体を丁寧に拭いた。
窓から差し込む月光がクリスの白い肌を照らし、赤い所有印が浮き上がって見えた。私は心の奥底に沸き上がった欲望を押さえつけるために、自分の腕を自分で噛み切った。すると、痛みと共に少しずつ理性が戻ってくる‥‥‥。近くにあった布で止血すると、クリスに寝巻きを着せ、侍医を呼びに医務室へ向かったのだった。
*****
3日後。クリスの症状はすっかり落ち着き、彼は私の部屋へ来ていた。クリスは私の前に膝を着くと、シャツの袖を捲くりあげ包帯を取り替えていた。
「いつ見ても凄いね、クリスの包帯を巻く手捌きは。何なら侍医よりすごいよ」
「ライオネル様、褒めすぎです。私には毎日のように傷を作ってくる、やんちゃな弟がいたので自然と上達したまでです」
「弟? 弟とは仲が悪かったと噂に聞いたが‥‥‥。ええと、昔の話?」
「いえ‥‥‥。あれは、ブラフなんです。私が『オメガ性』だとバレないための。どうせ結婚出来ないからと、父であるグランドール侯爵からの指示というか、何というか‥‥‥」
「クリスが結婚が出来ないなんて‥‥‥。そんなことは‥‥‥」
「ですから、私が得意なのは包帯巻きと、花に水やりくらいなんです。だから‥‥‥」
「だから?」
「だから私には、ライオネル様は勿体無いと思うのです」
「クリスは私には勿体無い‥‥‥。そう言う人の方が多いと思うけどね」
「そうそう、ライオネルには勿体ないよね~こんな美人」
突然の声に後ろを振り返れば、そこにはニコニコと不敵な笑みを浮かべている兄上がいた。
「兄上!! 部屋に入って来る時はノックをしてください。って、いつも言っているでしょう?」
「まあまあ‥‥‥。さっきまで、グランドール侯爵と一緒に話をしていたんだよ」
「父上とですか?」
クリスは驚いて目を丸くしていた。
「ご子息を弟の婚約者にしてくださいってね‥‥‥。もちろん正妃として」
「兄上!! 何を勝手なことを‥‥‥」
「だって、根回しは大切でしょう? 後で横槍が入っても困るし‥‥‥。そうでもしないと、君たち中々結婚しそうに無かったからってのもあるけど。まあ、私としては図った甲斐があって良かったと思うよ」
「図った? まさか?!」
「そう。スミス君に、2人の仲を突っつくように指示したのは私だよ。だって、誰が見ても焦れったかったからねぇ。上手く行って良かったよ。でも彼、帰ってきたら涙目だったし、何だか悪い事しちゃったなぁ」
「‥‥‥」
「‥‥‥私にはクリスだけですから」
「?!」
「正妃とか、側室とか関係ない。私の伴侶はクリス、ただ一人だ」
「はい、はい。ごちそうさま。お邪魔な私は、さっさと退散しますよ」
兄上は用は終わったとばかりに、部屋から出て行った。
「クリス‥‥‥」
「はい」
クリスは緊張しているのか姿勢を正すと、私を真剣な眼差しで見つめていた。
「順番が逆になってしまってすまない。色々と思うところはあるとは思うのだが‥‥‥。私と結婚を前提に付き合って貰えないだろうか?」
「はい。私でよろしければ、よろしくお願い致します」
私は小さくガッツポーズをすると、クリスに抱きついた。身体を離すと、目を閉じてどちらからともなく唇を重ね合わせたのだった。
どうやら彼は気絶してしまったようだ。私は自分の処理を手早く済ませると、彼の身体を丁寧に拭いた。
窓から差し込む月光がクリスの白い肌を照らし、赤い所有印が浮き上がって見えた。私は心の奥底に沸き上がった欲望を押さえつけるために、自分の腕を自分で噛み切った。すると、痛みと共に少しずつ理性が戻ってくる‥‥‥。近くにあった布で止血すると、クリスに寝巻きを着せ、侍医を呼びに医務室へ向かったのだった。
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3日後。クリスの症状はすっかり落ち着き、彼は私の部屋へ来ていた。クリスは私の前に膝を着くと、シャツの袖を捲くりあげ包帯を取り替えていた。
「いつ見ても凄いね、クリスの包帯を巻く手捌きは。何なら侍医よりすごいよ」
「ライオネル様、褒めすぎです。私には毎日のように傷を作ってくる、やんちゃな弟がいたので自然と上達したまでです」
「弟? 弟とは仲が悪かったと噂に聞いたが‥‥‥。ええと、昔の話?」
「いえ‥‥‥。あれは、ブラフなんです。私が『オメガ性』だとバレないための。どうせ結婚出来ないからと、父であるグランドール侯爵からの指示というか、何というか‥‥‥」
「クリスが結婚が出来ないなんて‥‥‥。そんなことは‥‥‥」
「ですから、私が得意なのは包帯巻きと、花に水やりくらいなんです。だから‥‥‥」
「だから?」
「だから私には、ライオネル様は勿体無いと思うのです」
「クリスは私には勿体無い‥‥‥。そう言う人の方が多いと思うけどね」
「そうそう、ライオネルには勿体ないよね~こんな美人」
突然の声に後ろを振り返れば、そこにはニコニコと不敵な笑みを浮かべている兄上がいた。
「兄上!! 部屋に入って来る時はノックをしてください。って、いつも言っているでしょう?」
「まあまあ‥‥‥。さっきまで、グランドール侯爵と一緒に話をしていたんだよ」
「父上とですか?」
クリスは驚いて目を丸くしていた。
「ご子息を弟の婚約者にしてくださいってね‥‥‥。もちろん正妃として」
「兄上!! 何を勝手なことを‥‥‥」
「だって、根回しは大切でしょう? 後で横槍が入っても困るし‥‥‥。そうでもしないと、君たち中々結婚しそうに無かったからってのもあるけど。まあ、私としては図った甲斐があって良かったと思うよ」
「図った? まさか?!」
「そう。スミス君に、2人の仲を突っつくように指示したのは私だよ。だって、誰が見ても焦れったかったからねぇ。上手く行って良かったよ。でも彼、帰ってきたら涙目だったし、何だか悪い事しちゃったなぁ」
「‥‥‥」
「‥‥‥私にはクリスだけですから」
「?!」
「正妃とか、側室とか関係ない。私の伴侶はクリス、ただ一人だ」
「はい、はい。ごちそうさま。お邪魔な私は、さっさと退散しますよ」
兄上は用は終わったとばかりに、部屋から出て行った。
「クリス‥‥‥」
「はい」
クリスは緊張しているのか姿勢を正すと、私を真剣な眼差しで見つめていた。
「順番が逆になってしまってすまない。色々と思うところはあるとは思うのだが‥‥‥。私と結婚を前提に付き合って貰えないだろうか?」
「はい。私でよろしければ、よろしくお願い致します」
私は小さくガッツポーズをすると、クリスに抱きついた。身体を離すと、目を閉じてどちらからともなく唇を重ね合わせたのだった。
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