上 下
9 / 12

完全敗北

しおりを挟む
 次の日。俺は陛下から追加で頼まれた仕事を執務室でこなしながら、居留守を使っていた。しかも、昔の職場から人を借りて部屋の入口を見張らせていた。そうでもしないと、落ち着かなくて仕事にならなかったのだ。

「スミス様、フェイ殿下がお越しです」

「いないと言ってくれ」

「そんなぁ。いいんですか? たぶん、15回目ですよ?」

 先日、穴に埋まった時に、たまたまそばにいた文官はフランと言うらしく、困った顔でジッとこちらを見つめていた。

「騎士団に戻りたいんだろ?」

「うっ‥‥‥」

 フランは心を決めたかのように頷くと、ドアを開けた。

「フェイ殿下、申し訳ありません。スミス様は、ご不在‥‥‥」

 フランが全て言い終わる前に、ドアは押し開けられた。フェイ殿下は、息を切らしながら眉をつり上げている。

「スミス様!! なんで居留守を使うんです? 僕に残された時間は、あと1ヶ月も無いんですよ? 僕と真剣に向き合うって、約束してくれたのは‥‥‥。あれは、嘘だったんですか?!」

「すまん‥‥‥。仕事に集中したくてな」

 そう言いながらも、「フェイ殿下の怒った顔も可愛い」とか、いらない事を考えていた‥‥‥。どうやら、俺は完全に恋に落ちてしまったらしい。

「だったら、正直にそう言えばいいじゃないですか? 何で、僕を避ける必要があるんです? そんなに僕のこと、嫌いですか?」

「スミス様‥‥‥」

「フラン!! 余計な事を喋るんじゃない!! フェイ殿下、来ていただいて申し訳ないが、明日にしてくれないか? 仕事が溜まっているのは本当なんだ」

「‥‥‥」

 冷静に話したつもりだった。それなのに、フェイ殿下は、暗い表情をして俯いていた。どうやら、落ち込ませてしまったようだ‥‥‥。違う、そんな顔をさせたかった訳じゃないんだ。

「本当にすまない‥‥‥。明日は、フェイ殿下の行きたいところに行って、殿下のしたいことをしよう?」

 フェイ殿下は、俯いていた顔を上げると微笑んだ。

「本当ですか?」

「本当だ。男に二言はない」

「嬉しいです!! 僕、明日どこへ行くか考えてきます」

 そう言うと、フェイ殿下は部屋を出ていった。どうやら機嫌は直ったようだ。

「スミス様も大変ですね」

「仕事しろ」

 フェイ殿下の機嫌だけでなく、フェイ殿下の笑顔で俺の機嫌も直っていた‥‥‥。俺の完全敗北だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結/R18】俺が不幸なのは陛下の溺愛が過ぎるせいです?

柚鷹けせら
BL
気付いた時には皆から嫌われて独りぼっちになっていた。 弟に突き飛ばされて死んだ、――と思った次の瞬間、俺は何故か陛下と呼ばれる男に抱き締められていた。 「ようやく戻って来たな」と満足そうな陛下。 いや、でも待って欲しい。……俺は誰だ?? 受けを溺愛するストーカー気質な攻めと、記憶が繋がっていない受けの、えっちが世界を救う短編です(全四回)。 ※特に内容は無いので頭を空っぽにして読んで頂ければ幸いです。 ※連載中作品のえちぃシーンを書く練習でした。その供養です。完結済み。

【完結R18】異世界転生で若いイケメンになった元おじさんは、辺境の若い領主様に溺愛される

八神紫音
BL
 36歳にして引きこもりのニートの俺。  恋愛経験なんて一度もないが、恋愛小説にハマっていた。  最近のブームはBL小説。  ひょんな事故で死んだと思ったら、異世界に転生していた。  しかも身体はピチピチの10代。顔はアイドル顔の可愛い系。  転生後くらい真面目に働くか。  そしてその町の領主様の邸宅で住み込みで働くことに。  そんな領主様に溺愛される訳で……。 ※エールありがとうございます!

βの僕、激強αのせいでΩにされた話

ずー子
BL
オメガバース。BL。主人公君はβ→Ω。 αに言い寄られるがβなので相手にせず、Ωの優等生に片想いをしている。それがαにバレて色々あってΩになっちゃう話です。 β(Ω)視点→α視点。アレな感じですが、ちゃんとラブラブエッチです。 他の小説サイトにも登録してます。

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

朝起きたらベットで男に抱きしめられて裸で寝てたけど全く記憶がない俺の話。

蒼乃 奏
BL
朝、目が覚めたら誰かに抱きしめられてた。 優しく後ろから抱きしめられる感触も 二日酔いの頭の痛さも だるい身体も節々の痛みも 状況が全く把握出来なくて俺は掠れた声をあげる。 「………賢太?」 嗅ぎ慣れた幼なじみの匂いにその男が誰かわかってしまった。 「………ん?目が冷めちゃったか…?まだ5時じゃん。もう少し寝とけ」 気遣うようにかけられた言葉は甘くて優しかった。 「…もうちょっと寝ないと回復しないだろ?ごめんな、無理させた。やっぱりスウェット持ってくる?冷やすとまた腹壊すからな…湊」 優しくまた抱きしめられて、首元に顔を埋めて唇を寄せられて身体が反応してしまう。 夢かと思ったけどこれが現実らしい。 一体どうやってこんな風になった? ……もしかして俺達…昨日セックスした? 嘘だ…!嘘だろ……? 全く記憶にないんですけど!? 短編なので数回で終わります。

愛を探しているんだ

飛鷹
BL
熱心に口説かれて付き合い始めた筈なのに。 たまたま見た雑誌で、アイツが来年の夏に結婚する事を知ってしまう。 次の愛を探さなきゃなぁ……と思いつつ、別れのメッセージをアイツに送ったのだけど………。 両思いのはずが微妙にすれ違って、そして仲直りするまでのお話です。 2022年2月22日の猫の日に因んで書いてみました。

処女姫Ωと帝の初夜

切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。  七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。  幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・  『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。  歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。  フツーの日本語で書いています。

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

処理中です...