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聖女カトリーナのとある一日 3

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 屋根を消し、壁を消し降臨した神はしばらく帰らなかった。



 カトリーナとおしゃべりをしたがり、ポメちゃん……グランをその手にじゃれつかせていた。
 アルトゥール様は教皇になる準備を急ぎ進めると礼をして立ち去ったが、神官たちは入れ替わり立ち替わり祈りを捧げに来る。
 教皇は気を失っているがアルトゥール様が癒しを与えていたから死にはしないだろう。




 カトリーナはパパとヒューと、青空の下食卓を囲んだ。
 ハーラン先生が淹れたお茶のお供に、塩キャラメルをころころと出す。

 神様の分もお茶と塩キャラメルを置くと、ふわんとカップの中身が消えた。
 塩キャラメルも包み紙だけになっている。


『おいしい。
 かわいい子が捧げてくれると、食べられるんだなぁ。
 あまくて、おいしいお菓子だね』


 神様が嬉しそうだ。
 今度スパイスシチューもお供えしてあげよう!

「甘いの! 我も食べたい!」


「ポメちゃ……グラン。」

「愛しい子にはポメちゃんと呼んで欲しいのだ! もらった名前は大切なのだ!」



 ポメちゃんがすりすりふわふわと顔にすりついてくる。

「そう、わかったよポメちゃん! 神様、ポメちゃんに甘いのあげても大丈夫ですか?」

『大丈夫じゃないかな? 食べさせたことがないからわからないなぁ』

「大丈夫! 食べる!」

 カトリーナの指からちょいっと塩キャラメルを取ると、ぷかぷかと神様の手に乗りぽいっと口に入れた。


「あまーい! 愛しい子と神様と、お菓子! 嬉しいぞ!」


 ポメちゃんも嬉しそうだ。


「ふわふわは歯を磨けるのかい?キャラメルは虫歯になるよ」

「自分で浄化するんじゃないですか?」


 ヒューとパパものんびりお茶を飲んで寛いでいた。


『かわいい子。
 気にせずいつでもお呼び。
 どこにいても偶像があれば歌は聞こえるから。
 君とグランに会えると嬉しいんだ』



「はい神様! 今度は私の好きなお料理を用意しておきますね! いっしょに食べましょう!」




「神、様。お聞きしたいことがあるのですが、いいでしょうか?」


 ヒューがおずおずと口を開く。
 こんなヒューは珍しいが、神様なんて超上位者だもん当たり前か。


『………答えられることなら』


 カトリーナが通訳をするとヒューは頷き、話を続けた。


「以前、カトリーナが神聖文字でアルヒェンテュを歌ったら急に魔力が動いて……とても、危険な様子に見えたんです。
 なにか、心当たりはありませんか?」



『あるひぇんとぅ?
 ………あぁ、あちこちで歌ってるあれかな。

 あれはね、癒しを私が補助する歌だよ。
 歌が聞こえる範囲にいる者くらいは癒せるんじゃないかな。
 危険はないよ。
 かわいい子しかできなかったからね。
 本来の意味は忘れられたのかな』



 神様の言葉をヒューに伝えるとヒューは気を緩めた。
 ほんとうに不安がっていたよねヒュー。



 カトリーナはすっかり忘れていた。
 聞いてくれてありがとう!


「じゃあお披露目で歌えばみんな癒せるね。神様、お願いします!」




 そうしてカトリーナはお披露目の場でアルヒェンテュを歌うことにしたのだ。





 カトリーナが口を開くと、細い歌声と共に空気がざわめいた。

 ざわざわ。ぞわぞわ。

 肌の下で、魔力が勝手にうごく。

 でも大丈夫。


 神様と、力を合わせている、だけ。



 ハウ
 アルヒェンテュ


 地よりねがう

 我に力を与えたまえ




 神聖文字で歌うと、カトリーナは光を帯びた。
 アルトゥールでなくても、誰もがわかるほどに光り、光り、髪の毛一本まで輝いた。



(『みんなのいたいの、とんでいけ』!)



 カトリーナの光がぱちんとはじけ、一人一人に飛んでいく。


「ああ!痛みが消える……」

「なんてことなの!あなた、火傷のあとが消えているわ」

「聖女様……!」

 誰もが古傷や、肩こりや、少なからずあった体の不調が消えたことに驚き。
 かつてない聖女の奇跡に涙し、平伏した。







 アルトゥール様に手を引かれ、興奮冷めやらぬ神殿を辞し廊下を進んでいると不意に声がかけられた。


「アルトゥール」


「……んガブリエラ、様?!」


 アルトゥール様は振り向き驚きの声を上げた。
 昨夜立ち上がれず弱々しく飾りを差し出した、ガブリエラの光がいきいきと力強く、目の前にある。



 ガブリエラ様は白髪まじりの金髪を短く切った、小柄なおばあちゃんだった。
 足が弱り立てないと聞いたが、血色のいい顔に笑みを浮かべ、しっかりと両足で立っている。
 背後に控えるおじいちゃん神官も嬉しそうだ。




「……カトリーナ……の、おかげですか?」


 アルトゥール様が呆然として言った。


「ええ、きっと。癒しをありがとう聖女カトリーナ! 教皇就任おめでとうアルトゥール。わたくしのかわいい子」



 ガブリエラ様はいとしげにアルトゥール様の頭を抱き寄せ、白い髪を撫でた。

 ガブリエラ様にも歌が聞こえたのかな?
 元気になってよかった!





 カトリーナの歌は、神殿内どころか、首都中、そして近隣の集落の人々に癒しを与えたのだと、後日聞き驚いた。



 聞こえる範囲じゃなかったの?神様ー!
 いいけど!




あとがき

神様『ああ、癒しの光すごい飛ぶ。こんなだっけなぁ。
みんな元気になってよかったなぁ』


神様だから細かいことはあんまり気になりません。

とある一日に戻れなくてタイトル詐欺です。
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