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カトリーナと教会 1

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 おはようのキスをしヒューと寄り添っていると、カトリーナのおなかがきゅるる、と鳴った。


「夕飯食べてないんだった……お腹空いちゃった」

「僕もだよ、支度の途中だった……あ、母さん心配して……ないか。カトリーナが呼んだってわかるよね」


「心配してると思うよ……。来てくれてありがとうヒュー。あ! 朝ごはんがわりに、これ食べよ! おーいーしーいークッキー!」

 カトリーナはベッドの端に置いてあったポシェットを引き寄せ、青いロボットの声マネをしながら、紙の包みを取り出した。
 首都に向かう前にお隣のおばあちゃんと焼いたクッキーだ。
 ロウ引きした紙に包んである。


「お茶もあるよ!」


 水筒にはお茶を入れて持ってきていた。
 クッキーの他にポシェットには町で買った塩キャラメルもある。

 馬車で食べるおやつにいろいろ持ってきていたのだ。
 ◯次元ポシェットに入れておくと食べ物や飲み物は鮮度が落ちない。
 本当に便利!


 ヒューと水筒を回し飲みして、ベッドの上で寄り添ったまま、お行儀悪くクッキーを食べた。


「カトリーナのクッキーおいしいね」

「ね! おなかぺこぺこだからすっごくおいしいー!」



 愛する人と朝日の中、ベッドでクッキーを摘む。
 なんて幸せな朝だろう。


 クッキーでおなかが満たされた頃、カトリーナはうなじに髪が当たるとひりひりするのに気づいた。

「ヒュー、首の後ろ、なにかできてる?」

 髪をかき分けてヒューに見せた。


「……歯型が……かさぶたになってる。あの男か……」

 ヒューの声が低くなった。
 そうだ忘れてた! 噛まれたんだった!
 あの騎士血が出るほど噛んだの?!


「ひどい!『いたいのとんでけ』使ってみるから、治るか見てて!」


 カトリーナは傷のあたりにそっと触れた。

(『いたいのいたいの、とんでけ』)



「きれいに消えたよ。……僕のカトリーナは、やっぱり癒しを失っていないみたいだ」



 ヒューは残念なような、しかしほっとしたような、複雑な顔をした。

「癒し、なくならなくて、よかった?」

「……君が怪我や病気をしたときに、こんな風に治せるのは安心なんだ。でも癒しがあると、教会がまたうるさいね。純潔を失っても癒しを使えるなんて、君が特別な女の子だって証明だよ」


 声が暗くなったヒューの、裸の胸にぎゅっと抱きついた。
 すべすべ!


「ヒューと……したのは確かだし! 無くなりました! でいいんじゃない? 今までどおりこっそり使えば!」

「……そうか、そうだね」


 頬をすり寄せるカトリーナにヒューは眉を下げて笑って、カトリーナの裸の背を撫でた。
 それで済むとは思っていないのだろう。


「パパは向こうかな? 町へ帰ろう!」

 ヒューがいるから、魔法でひとっ飛びでは帰れない。
 帰り方相談しなきゃ!

 ヒューに『きれいになあれ』をして、身支度をした。
 ヒューはシャツ一枚にエプロンの薄着だったので、エプロンはポシェットに預かり、ケープを返した。
 ケープ、借りててよかった!

 カトリーナはブラウスとジャンパースカートを身につけて、さぁ行こう! と寝室の鍵に手をかけてぴたりと止まった。


「ヒュー、扉の向こう、人がいるよ」



 複数の人間の息遣いが聞こえた。
 ヒューを振り向き伝えるが、昨日の騎士が頭をよぎり少し声が震えた。

「おじさん?だけじゃないね」


 ヒューはカトリーナの肩を抱き、扉に耳を当て呟いた。

「やっぱり、たくさん人がいるよね?」


「カトリーナ、一人で母さんのところに行って」

「だ、だめだよ。ヒューと一緒じゃなきゃ……」


 ヒューを置いていくなんてあり得ない。
 ヒューがいないと、幸せじゃないんだから。
 カトリーナはヒューの腕をぎゅっとつかんだ。


「カトリーナ……」


「あ! そうだ!」



 カトリーナの脳裏に、教会に来たら探してみようと思っていた、あの子の名前が思い浮かんだ。

 ずっとエリーのそばにいた、あの子。





「ポメちゃん!」




「もっと早く呼んでおくれよ愛しい子。ずっと待っていたんだぞ!」


 ぽふん、とカトリーナの胸に、白い大きな毛玉が飛び込んだ。
 
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