72 / 92
カトリーナと教会 1
しおりを挟むおはようのキスをしヒューと寄り添っていると、カトリーナのおなかがきゅるる、と鳴った。
「夕飯食べてないんだった……お腹空いちゃった」
「僕もだよ、支度の途中だった……あ、母さん心配して……ないか。カトリーナが呼んだってわかるよね」
「心配してると思うよ……。来てくれてありがとうヒュー。あ! 朝ごはんがわりに、これ食べよ! おーいーしーいークッキー!」
カトリーナはベッドの端に置いてあったポシェットを引き寄せ、青いロボットの声マネをしながら、紙の包みを取り出した。
首都に向かう前にお隣のおばあちゃんと焼いたクッキーだ。
ロウ引きした紙に包んである。
「お茶もあるよ!」
水筒にはお茶を入れて持ってきていた。
クッキーの他にポシェットには町で買った塩キャラメルもある。
馬車で食べるおやつにいろいろ持ってきていたのだ。
◯次元ポシェットに入れておくと食べ物や飲み物は鮮度が落ちない。
本当に便利!
ヒューと水筒を回し飲みして、ベッドの上で寄り添ったまま、お行儀悪くクッキーを食べた。
「カトリーナのクッキーおいしいね」
「ね! おなかぺこぺこだからすっごくおいしいー!」
愛する人と朝日の中、ベッドでクッキーを摘む。
なんて幸せな朝だろう。
クッキーでおなかが満たされた頃、カトリーナはうなじに髪が当たるとひりひりするのに気づいた。
「ヒュー、首の後ろ、なにかできてる?」
髪をかき分けてヒューに見せた。
「……歯型が……かさぶたになってる。あの男か……」
ヒューの声が低くなった。
そうだ忘れてた! 噛まれたんだった!
あの騎士血が出るほど噛んだの?!
「ひどい!『いたいのとんでけ』使ってみるから、治るか見てて!」
カトリーナは傷のあたりにそっと触れた。
(『いたいのいたいの、とんでけ』)
「きれいに消えたよ。……僕のカトリーナは、やっぱり癒しを失っていないみたいだ」
ヒューは残念なような、しかしほっとしたような、複雑な顔をした。
「癒し、なくならなくて、よかった?」
「……君が怪我や病気をしたときに、こんな風に治せるのは安心なんだ。でも癒しがあると、教会がまたうるさいね。純潔を失っても癒しを使えるなんて、君が特別な女の子だって証明だよ」
声が暗くなったヒューの、裸の胸にぎゅっと抱きついた。
すべすべ!
「ヒューと……したのは確かだし! 無くなりました! でいいんじゃない? 今までどおりこっそり使えば!」
「……そうか、そうだね」
頬をすり寄せるカトリーナにヒューは眉を下げて笑って、カトリーナの裸の背を撫でた。
それで済むとは思っていないのだろう。
「パパは向こうかな? 町へ帰ろう!」
ヒューがいるから、魔法でひとっ飛びでは帰れない。
帰り方相談しなきゃ!
ヒューに『きれいになあれ』をして、身支度をした。
ヒューはシャツ一枚にエプロンの薄着だったので、エプロンはポシェットに預かり、ケープを返した。
ケープ、借りててよかった!
カトリーナはブラウスとジャンパースカートを身につけて、さぁ行こう! と寝室の鍵に手をかけてぴたりと止まった。
「ヒュー、扉の向こう、人がいるよ」
複数の人間の息遣いが聞こえた。
ヒューを振り向き伝えるが、昨日の騎士が頭をよぎり少し声が震えた。
「おじさん?だけじゃないね」
ヒューはカトリーナの肩を抱き、扉に耳を当て呟いた。
「やっぱり、たくさん人がいるよね?」
「カトリーナ、一人で母さんのところに行って」
「だ、だめだよ。ヒューと一緒じゃなきゃ……」
ヒューを置いていくなんてあり得ない。
ヒューがいないと、幸せじゃないんだから。
カトリーナはヒューの腕をぎゅっとつかんだ。
「カトリーナ……」
「あ! そうだ!」
カトリーナの脳裏に、教会に来たら探してみようと思っていた、あの子の名前が思い浮かんだ。
ずっとエリーのそばにいた、あの子。
「ポメちゃん!」
「もっと早く呼んでおくれよ愛しい子。ずっと待っていたんだぞ!」
ぽふん、とカトリーナの胸に、白い大きな毛玉が飛び込んだ。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】
ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。
※ムーンライトノベルにも掲載しています。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる