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カトリーナの幸せ 5
しおりを挟むヒューが来てくれた!
ヒューは夕飯のお手伝いでもしていたのか、エプロンをして、ふきんを片手に持っていた。
ぽかん、とした顔だったが、目の前でカトリーナが男に抱き込まれ口を塞がれているのを目にし、怒りで眉を吊り上げた。
「おまえ……! カトリーナを離せ!」
ヒューは騎士の顔面目掛けてふきんを投げつけた。
濡れたふきんだったようで、びちゃ! と音をたててぶつかる。
「うわっ!」
騎士の手が緩み、カトリーナはヒューに飛びついた。
「ヒュー! ヒュー!」
「カトリーナ! 下がってて!」
一度ぐっとカトリーナを抱き寄せ、背中に隠してくれる。
「おまえ、どこから……! どけ! それは俺の女だ!」
騎士の声にカトリーナはびくりと震えた。
男の低い怒鳴り声。
ヒューよりも頭ひとつぶん背が高い。
鍛えられた体は厚みが違う。
ヒューが、あんな大きな人に、殴られる!
腕を振りかぶった騎士に、ヒューも怒鳴り返した。
「カトリーナは、僕の婚約者だ!!! 『水よ』!」
ヒューは出した水の塊を、騎士の顔にぶつけ、顔を突っ込ませた。
まるでパパを起こすときのお水の魔法!
「ぐぼがぼ! がぼぼ!」
水の塊に溺れて、苦しみのたうちまわる騎士から、ヒューとカトリーナは距離を取った。
「カトリーナ、あの男はなに? ここは教会本部なの?」
ヒューは騎士から目を離さないまま、カトリーナの肩にベッドから取った毛布をかけた。
あたたかい。
すっかり体が冷えていた。
カトリーナは、派手に癒しを使ってしまい、魔法で逃げるところだったことを震える声で説明する。
あの騎士はカトリーナが聖女にならないよう体を奪いにきたらしい、と言うとヒューは無表情になって溺れる騎士に馬乗りになり、首を絞めた。
「ヒュー! し、死んじゃう!」
騎士の意識が無くなったところで水の魔法を解除し、今度は拳でぼこぼこに殴りつけた。
「ヒュー! やめて、ヒューの手が!」
ヒューの白く優しい手が、擦り傷と内出血で傷ついている。
ヒューを止めるため腕にすがりつき、カトリーナはまたぽろりと涙をこぼした。
「ヒュー、こ、怖かったの。怖くて魔法がうまく、できなくて。ヒューのところにい、行けなくて……! 来てくれて、ありがとう……!」
しゃくりあげるカトリーナの背をヒューは優しく撫でてくれる。
「たぶんカトリーナが僕を呼び寄せたんだと思うけど……。間に合ってよかったよ。カトリーナ、無事でほんとうによかった」
優しい、大好きな私のヒュー。
癒しを、純潔を失うなら、ヒューじゃなきゃいやなの。
カトリーナは顔を上げ、涙で濡れた瞳でヒューをみつめた。
「いますぐ、抱いてほしいのヒュー。私を聖女なんかになれない、癒しなんて使えない、ただのカトリーナにして」
肩にかけてくれた毛布を床に落とすと、ぱさり、と軽い音がした。
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