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カトリーナの幸せ 3
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「クリスティア!」
「あああああ! うでが! いやぁぁぁ!」
肘から先を失った左の腕をだらりと垂らし膝をついたクリスティアが、床に転がる腕を見て悲鳴をあげた。
見ているだけの騎士はこんなときも見ているだけだ。
立ち尽くす騎士を置き去りにし、カトリーナは叫ぶクリスティアに駆け寄り、その肩に触れた。
(『いたいのいたいの、とんでけ!』)
「カトリーナ!!!」
部屋から飛び出してきたパパの叫び声が聞こえた。
いままでみんなが協力してくれて逃げてきたのに、教会の中で癒しを使ってしまった。
聖女と言われてしまうかもしれない。
でもこんなひどい怪我、見て見ぬふりはできないよ!
「大丈夫だよ、クリスティア。もう大丈夫」
カトリーナはクリスティアの震える肩を撫でさすった。
清らかなあたたかさに包まれた、と思ったらふわりと痛みがなくなった。
そしてクリスティアは肘のあたりで切り落とされたはずの袖の先に、いつもどおり白い腕があるのを見た。
床に目をやると、血溜まりにクリスティアの、袖をまとった腕が転がっている。
クリスティアは目を見開いてカトリーナを見つめ、ぼろぼろと涙をこぼした。
こんな。こんな奇跡を、こんな、わたしなんかに。
「聖女様……! 聖女様、ありがとう……! わたし、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……!」
ごめんなさい、と何度も繰り返し、涙をこぼしながら両手を床につき、カトリーナに頭を下げた。
「せ、聖女では、ないけど、治ってよかった……!」
ちゃんと指先まで動くようで安心した。
しかしまずいことになった。
聖女になるのは、クリスティアだから!
頭なんか下げないでいいよ……!
腕を生やしたのは失敗だった。
くっつくか試してみるべきだった。
治した証拠ができてしまった……!
◯次元ポシェットに隠してしまおうか?
でもポシェットに腕……いやだなぁ……。
「カトリーナ様、遅くなりました、ハーランが参りました! いったいなにがあったのです?!」
走ってきてくれたんだろう、ハーラン先生が汗だくで現れた。
血だらけの廊下で土下座するクリスティアを見て、ものすごく驚いてる。
名前、呼んだっけ……?
でもちょうどいい、まかせちゃお!
「ハーラン先生! あとはお願い! 私たち、明日には帰るね!」
「えっ?! そんな、」
カトリーナは返事も聞かず、パパの腕を引っ掴んで部屋に駆け込んだ。
もうあの腕を隠したってどうにもならない。諦めよう。
トンズラしよう!
部屋の扉を閉めて、2人揃ってため息をつく。
「パパ、ごめんなさい」
「カトリーナ……派手にやってしまったね。でも仕方ない。君はいいことをしたんだよ」
パパがカトリーナを胸に抱き寄せてくれる。
「しかしなんであんなところで腕を落とすような怪我を……いや、そんなこといいか。どうする? もうあの魔法で帰ろうか」
「うん、すぐに逃げよう。それでヒューと……ごにょごょしちゃって、癒しを失っちゃうのがいい気がしてきた」
「そうだね……パパとしては複雑だけど。癒しを失えば聖女にはなれないからね。でも結婚前に……いや仕方ないよね」
「う、うん……」
親子でこんな話、気まずい!
お互い視線を彷徨わせた。
「ところでそのケープ、ヒューのかい?」
「うん、さ、寒かったから、かしてくれたの」
白いワンピースも、ケープの銀の刺繍も、クリスティアの血で汚れていた。
(『きれいになあれ』)
どちらもシミひとつ無くきれいに清め、ケープは◯次元ポシェットに大切にしまった。
「いつもの服に着替えるね」
「じゃあ寝室を使って。パパはここで荷物をまとめるよ」
豪華だけどウエストのリボンを緩めれば一人でずぼっと着替えられる素敵なワンピース。
ずぼっと脱いで、見事なレースやフリルの始末をしげしげと眺めた。
すごい細かい……ハーラン先生に返したほうがいいかな?
もらってもいいのかなぁ。
とりあえず丁寧にたたんでベッドに置き、着てきたブラウスとジャンパースカートをポシェットから取り出した。
その時。かちゃり、静かに寝室の扉が開いた。
「パパ、まだ入らない……で……」
カトリーナはスリップ一枚しか身につけていない体をブラウスで隠し振り返り、固まった。
そこに立っていたのは、濃い金髪の、見覚えのある騎士だった。
「あああああ! うでが! いやぁぁぁ!」
肘から先を失った左の腕をだらりと垂らし膝をついたクリスティアが、床に転がる腕を見て悲鳴をあげた。
見ているだけの騎士はこんなときも見ているだけだ。
立ち尽くす騎士を置き去りにし、カトリーナは叫ぶクリスティアに駆け寄り、その肩に触れた。
(『いたいのいたいの、とんでけ!』)
「カトリーナ!!!」
部屋から飛び出してきたパパの叫び声が聞こえた。
いままでみんなが協力してくれて逃げてきたのに、教会の中で癒しを使ってしまった。
聖女と言われてしまうかもしれない。
でもこんなひどい怪我、見て見ぬふりはできないよ!
「大丈夫だよ、クリスティア。もう大丈夫」
カトリーナはクリスティアの震える肩を撫でさすった。
清らかなあたたかさに包まれた、と思ったらふわりと痛みがなくなった。
そしてクリスティアは肘のあたりで切り落とされたはずの袖の先に、いつもどおり白い腕があるのを見た。
床に目をやると、血溜まりにクリスティアの、袖をまとった腕が転がっている。
クリスティアは目を見開いてカトリーナを見つめ、ぼろぼろと涙をこぼした。
こんな。こんな奇跡を、こんな、わたしなんかに。
「聖女様……! 聖女様、ありがとう……! わたし、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……!」
ごめんなさい、と何度も繰り返し、涙をこぼしながら両手を床につき、カトリーナに頭を下げた。
「せ、聖女では、ないけど、治ってよかった……!」
ちゃんと指先まで動くようで安心した。
しかしまずいことになった。
聖女になるのは、クリスティアだから!
頭なんか下げないでいいよ……!
腕を生やしたのは失敗だった。
くっつくか試してみるべきだった。
治した証拠ができてしまった……!
◯次元ポシェットに隠してしまおうか?
でもポシェットに腕……いやだなぁ……。
「カトリーナ様、遅くなりました、ハーランが参りました! いったいなにがあったのです?!」
走ってきてくれたんだろう、ハーラン先生が汗だくで現れた。
血だらけの廊下で土下座するクリスティアを見て、ものすごく驚いてる。
名前、呼んだっけ……?
でもちょうどいい、まかせちゃお!
「ハーラン先生! あとはお願い! 私たち、明日には帰るね!」
「えっ?! そんな、」
カトリーナは返事も聞かず、パパの腕を引っ掴んで部屋に駆け込んだ。
もうあの腕を隠したってどうにもならない。諦めよう。
トンズラしよう!
部屋の扉を閉めて、2人揃ってため息をつく。
「パパ、ごめんなさい」
「カトリーナ……派手にやってしまったね。でも仕方ない。君はいいことをしたんだよ」
パパがカトリーナを胸に抱き寄せてくれる。
「しかしなんであんなところで腕を落とすような怪我を……いや、そんなこといいか。どうする? もうあの魔法で帰ろうか」
「うん、すぐに逃げよう。それでヒューと……ごにょごょしちゃって、癒しを失っちゃうのがいい気がしてきた」
「そうだね……パパとしては複雑だけど。癒しを失えば聖女にはなれないからね。でも結婚前に……いや仕方ないよね」
「う、うん……」
親子でこんな話、気まずい!
お互い視線を彷徨わせた。
「ところでそのケープ、ヒューのかい?」
「うん、さ、寒かったから、かしてくれたの」
白いワンピースも、ケープの銀の刺繍も、クリスティアの血で汚れていた。
(『きれいになあれ』)
どちらもシミひとつ無くきれいに清め、ケープは◯次元ポシェットに大切にしまった。
「いつもの服に着替えるね」
「じゃあ寝室を使って。パパはここで荷物をまとめるよ」
豪華だけどウエストのリボンを緩めれば一人でずぼっと着替えられる素敵なワンピース。
ずぼっと脱いで、見事なレースやフリルの始末をしげしげと眺めた。
すごい細かい……ハーラン先生に返したほうがいいかな?
もらってもいいのかなぁ。
とりあえず丁寧にたたんでベッドに置き、着てきたブラウスとジャンパースカートをポシェットから取り出した。
その時。かちゃり、静かに寝室の扉が開いた。
「パパ、まだ入らない……で……」
カトリーナはスリップ一枚しか身につけていない体をブラウスで隠し振り返り、固まった。
そこに立っていたのは、濃い金髪の、見覚えのある騎士だった。
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