49 / 92
カトリーナの旅立ち 5
しおりを挟む夜遅くにパパのもとに戻って眠り、朝パパがまだ寝ているうちにじいちゃんのところに顔を出した。
少し眠いけど馬車で寝れるから平気!
(『おでかけ』じいちゃんとこ!)
「カトリーナ来たのか。おはよう」
「じいちゃんおはよう! あっポーラ! ちゃんと戻ってたのね、よかった!」
じいちゃんはポーラの朝のお世話をしているところだった。
ポーラがちゃんと帰れたか気になっていたし、ちょうど良かった!
じいちゃんにも女神の話と顔のいい騎士の話をしておく。
「なんかベタベタしようとするけど気持ち悪いし、しらんぷりしてるよ。それよりじいちゃん聞いてよ、パパがなぞなぞの答えを変えちゃうんだよ」
「なぞなぞ? あれのそういうのは変わらないな。子どもの頃よく怒られていた」
ポーラの水飲み用の木桶に魔法でおみずを出してあげる。
じいちゃんはポーラにブラシをかける手を止めずに話を聞いてくれた。
「最初は4本足、つぎは2本足、最後は3本足のいきものなーんだって問題なんだけど……。答えは人間なのに、パパはヴァンランディヤーンだって言うの」
「……それはヴァンランディヤーンだろう。なんで人間なんだ?」
怪訝な顔のじいちゃんに、ハイハイの赤ちゃん(4本足)、おとな(2本足)、杖をついた老人(3本足)、人間の一生を表している、と説明しても納得しなかった。
「俺はじいさんだが杖はついていない。赤ちゃんはハイハイするが、あれは手だ」
パパと同じようなこと言ってる……。やっぱり親子だわ……。
このなぞなぞの答えはやはりヴァンランディヤーンになった。
ヴァンランディヤーンてどんないきものなの?
すごく気になる! 一度見てみたいな!
また来るね! とじいちゃんをぎゅっと抱きしめて、宿の部屋に戻った。
パパはまだ寝ていた。
「カトリーナ様、ユール様、朝食にいたしませんか」
ドアが控えめにノックされた。
ハルト様の声だ。
「おはようございます。部屋まで運んでもらえませんか?」
「……食堂でいっしょに召しあがりませんか?」
ハルト様が優しく誘う。
これは顔のいい騎士で囲んで朝食にする気だな。
「いいです! 女神って囲まれたくないんで! じゃ、お願いしまーす! パパ、朝だよー起きてー!」
魔法で水の塊を出して、パパの頭をつっこむ。
パパはこれじゃなきゃしゃきっと目覚めないんだから。
暴れてふとんが濡れても大丈夫!
ほんと魔法って便利!
ハルト様が運んでくれた朝食をパパとゆっくり食べて、2日目の出発だ!
町を出る時も、「女神カトリーナ様!」と盛大に見送られた。
スパイスシチューと塩キャラメル、案を出しただけで作ったわけでもないのに……。噂ってすごい……。
町からしばらく走り、パパと馬車でまったりうとうとしていると、突如馬車が止まり、外が騒がしくなった。
「なんだあれは!」
「こちらへ来るぞ! 倒すしかないか?!」
うとうとしていたパパがパッと身を起こして、カーテンを開け様子をうかがった。
パパ、こういう時の身のこなしが勇者っぽくてかっこいいの!
「ヴァンランディヤーンだ! カトリーナ見てごらん、あれがヴァンランディヤーンだよ。4本足だよ!」
「えっヴァンランディヤーン?!」
噂の?!
カトリーナが窓から外を覗くと、若い騎士の2倍はあろうかという大きさの、すごい巻き毛のヤギ? がいた。
四足歩行で、2人の若い騎士が必死に剣を振り回すのを踊るようにかわしている。
むき出しの歯が笑ってるように見えてなんだか楽しそうだ。
あれの2本足って二足歩行なの?
一番強い3本足ってどんななの?
ヴァンランディヤーンの謎が深まる。
「ふつう群れでいるんだけど……1匹でいるなんて珍しいよ。いい毛並みだ」
カトリーナは騎士と踊るヴァンランディヤーンとばっちり目があった。
けけけけけっ!
と大きな声で鳴くと、ひらりと身を翻し去っていった。
向こうに見える森から来たのかもしれない。
……もしかして、カトリーナが見てみたいって思ったから、来てくれた、のかな……?
「カトリーナ様、ユール様、開けますね。急に止まりましたが怪我はないですか?驚いたでしょう、獣が出まして……」
扉をそっと開け、ハルト様が顔を覗かせる。
「見てましたよ、ヴァンランディヤーンでしたね。あいつの毛は高く売れるのに、逃したんですねもったいない!」
パパの言葉にハルト様の笑顔が固まった。
「もったいない……とは……」
「4本足は倒しやすいじゃないですか。せっかく1匹で出てきて、大チャンスだったのでもったいないなと」
「……ユール様はアレを、倒したことが……?」
「もちろんありますよ。アレを仕留めるとすごい臨時収入だ」
パパはヴァンランディヤーンを仕留めたかったようだ。
去っていった方向を目で未練がましく追っている。
カトリーナは集落であんなでかいヤギみたいなの見たことないのに、パパはいったいいつあんなの仕留めてるんだ。
さすが集落の男だ。
「パパすごいね。騎士様遊ばれてたのに」
「騎士様は倒す気がなかったんだと思うよ。ヴァンランディヤーンは足を狙うんだよ」
追い払うためにわざと派手に切りかかっていたんだろうね、との解説にハルト様は乾いた笑いで答えた。
「あの……出発しますのでお座りになってくださいね……」
それからしばらく、騎士様たちが話しかけてこなくて快適だった。
あとがき
パパが騎士のプライドをへし折った!
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】
ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。
※ムーンライトノベルにも掲載しています。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる