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カトリーナの旅立ち 5

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 夜遅くにパパのもとに戻って眠り、朝パパがまだ寝ているうちにじいちゃんのところに顔を出した。
 少し眠いけど馬車で寝れるから平気!


(『おでかけ』じいちゃんとこ!)


「カトリーナ来たのか。おはよう」

「じいちゃんおはよう! あっポーラ! ちゃんと戻ってたのね、よかった!」


 じいちゃんはポーラの朝のお世話をしているところだった。
 ポーラがちゃんと帰れたか気になっていたし、ちょうど良かった!



 じいちゃんにも女神の話と顔のいい騎士の話をしておく。

「なんかベタベタしようとするけど気持ち悪いし、しらんぷりしてるよ。それよりじいちゃん聞いてよ、パパがなぞなぞの答えを変えちゃうんだよ」

「なぞなぞ? あれのそういうのは変わらないな。子どもの頃よく怒られていた」


 ポーラの水飲み用の木桶に魔法でおみずを出してあげる。
 じいちゃんはポーラにブラシをかける手を止めずに話を聞いてくれた。


「最初は4本足、つぎは2本足、最後は3本足のいきものなーんだって問題なんだけど……。答えは人間なのに、パパはヴァンランディヤーンだって言うの」

「……それはヴァンランディヤーンだろう。なんで人間なんだ?」


 怪訝な顔のじいちゃんに、ハイハイの赤ちゃん(4本足)、おとな(2本足)、杖をついた老人(3本足)、人間の一生を表している、と説明しても納得しなかった。

「俺はじいさんだが杖はついていない。赤ちゃんはハイハイするが、あれは手だ」


 パパと同じようなこと言ってる……。やっぱり親子だわ……。

 このなぞなぞの答えはやはりヴァンランディヤーンになった。

 ヴァンランディヤーンてどんないきものなの?
 すごく気になる! 一度見てみたいな!



 また来るね! とじいちゃんをぎゅっと抱きしめて、宿の部屋に戻った。
 パパはまだ寝ていた。


「カトリーナ様、ユール様、朝食にいたしませんか」

 ドアが控えめにノックされた。
 ハルト様の声だ。

「おはようございます。部屋まで運んでもらえませんか?」

「……食堂でいっしょに召しあがりませんか?」

 ハルト様が優しく誘う。
 これは顔のいい騎士で囲んで朝食にする気だな。


「いいです! 女神って囲まれたくないんで! じゃ、お願いしまーす! パパ、朝だよー起きてー!」


 魔法で水の塊を出して、パパの頭をつっこむ。


 パパはこれじゃなきゃしゃきっと目覚めないんだから。

 暴れてふとんが濡れても大丈夫!
 ほんと魔法って便利!


 ハルト様が運んでくれた朝食をパパとゆっくり食べて、2日目の出発だ!




 町を出る時も、「女神カトリーナ様!」と盛大に見送られた。
 スパイスシチューと塩キャラメル、案を出しただけで作ったわけでもないのに……。噂ってすごい……。


 町からしばらく走り、パパと馬車でまったりうとうとしていると、突如馬車が止まり、外が騒がしくなった。


「なんだあれは!」

「こちらへ来るぞ! 倒すしかないか?!」



 うとうとしていたパパがパッと身を起こして、カーテンを開け様子をうかがった。

 パパ、こういう時の身のこなしが勇者っぽくてかっこいいの!


「ヴァンランディヤーンだ! カトリーナ見てごらん、あれがヴァンランディヤーンだよ。4本足だよ!」


「えっヴァンランディヤーン?!」


 噂の?!
 

 カトリーナが窓から外を覗くと、若い騎士の2倍はあろうかという大きさの、すごい巻き毛のヤギ? がいた。

 四足歩行で、2人の若い騎士が必死に剣を振り回すのを踊るようにかわしている。
 むき出しの歯が笑ってるように見えてなんだか楽しそうだ。
 あれの2本足って二足歩行なの?
 一番強い3本足ってどんななの?


 ヴァンランディヤーンの謎が深まる。



「ふつう群れでいるんだけど……1匹でいるなんて珍しいよ。いい毛並みだ」



 カトリーナは騎士と踊るヴァンランディヤーンとばっちり目があった。

 けけけけけっ!
 と大きな声で鳴くと、ひらりと身を翻し去っていった。
 向こうに見える森から来たのかもしれない。



 ……もしかして、カトリーナが見てみたいって思ったから、来てくれた、のかな……?


「カトリーナ様、ユール様、開けますね。急に止まりましたが怪我はないですか?驚いたでしょう、獣が出まして……」


 扉をそっと開け、ハルト様が顔を覗かせる。


「見てましたよ、ヴァンランディヤーンでしたね。あいつの毛は高く売れるのに、逃したんですねもったいない!」


 パパの言葉にハルト様の笑顔が固まった。

「もったいない……とは……」

「4本足は倒しやすいじゃないですか。せっかく1匹で出てきて、大チャンスだったのでもったいないなと」


「……ユール様はアレを、倒したことが……?」

「もちろんありますよ。アレを仕留めるとすごい臨時収入だ」


 パパはヴァンランディヤーンを仕留めたかったようだ。
 去っていった方向を目で未練がましく追っている。

 カトリーナは集落であんなでかいヤギみたいなの見たことないのに、パパはいったいいつあんなの仕留めてるんだ。

 さすが集落の男だ。


「パパすごいね。騎士様遊ばれてたのに」

「騎士様は倒す気がなかったんだと思うよ。ヴァンランディヤーンは足を狙うんだよ」


 追い払うためにわざと派手に切りかかっていたんだろうね、との解説にハルト様は乾いた笑いで答えた。



「あの……出発しますのでお座りになってくださいね……」



 それからしばらく、騎士様たちが話しかけてこなくて快適だった。







あとがき

パパが騎士のプライドをへし折った!
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