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カトリーナの旅立ち 3
しおりを挟む「カトリーナ様、お飲み物はいかがですか?」
「少し馬車の外にお出でになりませんか?」
顔のいい騎士と顔のいい少年従者が馬車をノックしてくるがしらんぷりをする。
1度目の休憩の時に誘われるままに馬車を降りたらあれよあれよと囲まれ、過度な接待を受けた。
にこにこと笑顔を貼り付けて手を握られ、カトリーナは気分が悪くなりすぐに馬車に逃げ込んだ。
ヒューにされたら嬉しいけど、よく知らない人にされても気持ち悪い。
いや、ヒューだって初めて会った時から手を握ってきたけど……ヒューははじめから不快じゃなかった。
(もしかして初めて会った時から、ヒューのこと、ちょっと、好きだった?)
カトリーナは改めてヒューへの思いを認識して、ぽっと頬を染めた。
カトリーナとヒューの仲を裂く為に若い男で誘惑しにくるかも、と教皇様対策会議でヒューのママが発言したとき、カトリーナはぎくっとした。
ヒューの顔に弱い自覚があるからだ。
美しい顔の人にはときめいてしまうかもしれない。
カトリーナは少し不安だった。
しかし狙いは明らかだが、騎士にも従者にもヒューほど美しい人はおらず、触られると不快になるだけ。カトリーナはホッとした。
「……そろそろ馬車を動かしますね。お立ちになりませんよう」
従者の声のあとしばらくして、馬車がゆっくりと動き出した。
ちなみにパパは町を出てからずっと寝ている。
いい馬車だからか、揺れがとても心地いい。
はふ、とあくびをして、カトリーナも眠ることにした。
開かない馬車の扉にハルト・バニシュは小さくため息をついた。
神の愛し子カトリーナ・ユール。
神の声を聞いたという、地方の町の眉唾な話だったが、ずいぶんと強い清めを使えるようだという話に教皇様が興味を持たれた。
光魔法の適性を持つものは少なくなり、神官も減った。
ひと昔前は癒しを持つ者は神官に、と言われていたが今は光の適性があるなら神官に取りたてたいほどだ。
そんな中聞こえた神の愛し子の噂。
神の声を聞いたという真偽はどうあれ、強い清めを使える彼女が教会に欲しいというお気持ちはよくわかる。
神の愛し子カトリーナ・ユールが首都に残りたくなるように彼女を籠絡せよ、との命令により集められた見目の良い騎士と従者たちだったが、彼女はひとかけらも反応しなかった。
「ちっ地味な女がお高く止まりやがって……」
「……」
騎士になりたての若者がその整った顔を歪めて罵る。
隣の少年従者も笑顔は崩さないが同じ思いが透けて見えた。
「お前たちはお好みではないようだな。そのような口を聞くなら2度とカトリーナ様の前に出るな」
ハルトが手を振ると、若い騎士はなにか言い返そうとしたが、年上の騎士に押さえられ馬車の後方に移動させられた。
田舎娘の1人くらい容易に誑しこめると、顔に自信のある若い騎士は余裕綽々でこの一行について来たのだろう。
しかし、顔も所作もあの騎士よりよほど美しい婚約者のいる彼女にとっては、たいして魅力的に映らないようだ。
そして会計士だというのに、身長こそ低いが騎士のようにたくましく、身のこなしも軽く、若々しく整った顔をした父親。
あれを見慣れているとなると、若いなりたて騎士が剣を振り回したところで少しも気を引かれないだろうな……。
先程急に距離を詰めすぎたのか警戒され、馬車から降りても来ないし。
その上女神と呼ばれるほどの、予想外の人気ぶり。
下手なことをすると町民から反感を買いそうだ。
馬車はゆっくり進める予定だ。
時間はまだまだある。
しかし神の愛し子カトリーナ・ユールを誑しこめる気が、ハルトはまったくしなかった。
あとがき
パパ「えっそんなめずらしいの?俺も親父も光の清め使えるけど」
ハルト「えっ?!神官になりません?!」
パパ「いやならないけど」
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