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ルーチェの心中、パトリックの脳内

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 教皇からカトリーナちゃんに呼び出しがあった。


 ヒューの母ルーチェは包丁を動かす手を休め、はぁ、とひとつため息をつく。



 ヒューとカトリーナちゃんが帰宅して告げられた。
 パパと行くことになったから大丈夫! とカトリーナちゃんは笑ったが、ルーチェは心配だった。
 なにせあのパトリック・ユールだ。
 どうも、頭の中がめでたい。

 あのカトリーナちゃんの癒しを知っていて、ちょっといって聞かせただけで教会の目をごまかせると思っていたアホだ。
 あの日キースを癒したとヒューが気づき、諭していなかったら、今頃すでに教会に取られていただろう。


 結局教会に目をつけられたのは悔しいが、癒しを使えない、ということになっている神の愛し子。
 ヒューとの結婚には文句は出ていない。しかし。


(教皇はどういうつもりかしら。ヒューの同行は頑なに拒んだというし、……男の神官をあてがう気かしら。)


 ルーチェは神の使いだったというヒューを育てる中で、知られたら癒しがなくても神官に召されるのではと危ぶんでいた。
 実際生まれる前の記憶がある、という子供が光の適性もないのに神官に召されたという例があり、ずっと教会を警戒していた。

 信心深くありがたく差し出す親もいるがルーチェはごめんだ。


 カトリーナも癒しはなくても神の声を聞いた。
 光の適性があるのは知られているようだ。
 神官に望まれてもおかしくない。


 カトリーナちゃんとヒューはしっかり仲良くやっている。
 たまに、夜中に部屋に忍んで来ているのは気づいていたが、子供ができるほどのことはしていないようなので知らぬふりをしてやっている。


「せ、性交渉があるから聖女になれないと言ったのは、あの場を乗り切るためのでまかせだからね!」

 とヒューに赤面しながら言われたが、知っていた。


 それにうちのヒューより麗しい神官などいるものか!

(色仕掛けでくるなら無駄よ、無駄。他の搦め手だったら……しっかり守りなさいよ、パトリック・ユール!)

 カトリーナちゃんはうちのお嫁さんになるのよ!

 ずばん! とまな板の上のにんじんを両断した。







 娘から、

「教皇様にお手紙もらって、会いに行くことになったの。パパと」


 と告げられた翌日、パトリック・ユールは勤め先の事務所の上司に頭を下げに行った。


 なにせ教皇様のいる首都まで、町から馬で一週間ほど。
 滞在を考えると一ヶ月は仕事を休むことになるかもしれない。
 同僚たちにも多大な迷惑をかけることになる。

 それでもパトリックは行かなくてはならない。
 カトリーナを守るために。

(教皇様……聖女になれとか言わない、よな?)

 パトリックは不安な気持ちで所長室の扉を叩いた。


 室内には所長、副所長、所長秘書の3人がいた。
 春にしばらく休みをいただきたい、と言うと一様に渋い顔をされたが、事情を説明すると一転、大賛成してくれた。

「教皇様にお会いできるなんて、こんな機会ないぞ! もちろん行ってこい!」

「本当に、得難い機会だ。教皇様からお呼びがあるなんてさすが神の愛し子だ」

「娘さんも一人で見知らぬ土地へ旅するのは不安なんだろう。一緒にいってあげなさい」


 もっと怒られるかと思った……教皇様パワーすげえ!
 とてもありがたい。


 春になったら首都から迎えが来ることも言うと、今からじゃ帰りは積雪だものな、さすが教皇様は思慮深いとみなさん絶賛だ。

 教皇様、そんなに気遣ってくれくれてたのか。

 それにしても首都久しぶりだな。
 早く教皇様の用事が終わったら観光できるかな?
 せっかくだしカトリーナをあそこに連れていってやりたいな!
 あの店はまだあるのかな?


 さきほどまで恐れていた首都行きが、上司たちに賛成されただけで少し……だいぶ楽しみになってきた。


「ありがとうございます、みなさん。助かります」


 パトリックはきりっと引き締めた顔で所長室の面々に礼をした。


(おみやげ買ってきますね!)



 パトリック・ユールの頭はやっぱり少しめでたかった。






あとがき

ヒュー「しっかりしてよねおじさん。遊びに行くんじゃないってわかってるよね?」

パパ「あっハイもちろん!!」

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