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カトリーナと教皇様からの招待状

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 その日の朝、ヒューと手を繋いで市民学校につくと、待ち構えていたらしい先生に捕まった。
 ハーラン先生の代わりに来たおじいちゃん先生だ。

「おはようございま」

「やっときた! カトリーナ、お客様がいらしてます。急いで来なさい!」

 がしっと肩を掴まれ、早足で連行される。

「えっ? えっせんせい?」

 カトリーナはヒューの手を離さないぞ、とかたく握り、困惑の顔でヒューを振り返った。

 ヒューもかたくにぎり返してくれた。


 連れてこられたのは校長室だった。

 先生はコン、とノックし、「連れてまいりました」とカトリーナを室内に押し込んだ。


 その時初めてヒューの存在に気づいたらしく、「あなたは退室を」と慌てた先生を無視して口を開いた。


「あの、ご用ですか? 突然連れてこられてなにがなんだか……」

 室内にいたのはあごひげの校長先生と、立派な体躯を立派な衣装に包んだ男性。
 薄青の丈の長いジャケットに、徽章というやつか、たくさん装飾がついていてかっこいい。
 騎士様だろうか。


「教会騎士団のハルト・バニシュと申します。神の愛し子カトリーナ・ユール様に、教皇様よりの書状をお持ちいたしました」

 騎士様はすっとカトリーナの前に片膝をついて、ものすごい装飾の豪華なカードを載せたトレーを差し出した。


 か、かっこいい。
 ヒューのプロポーズを思い出すわ……!


「カトリーナ」

 ヒューがちょっと低い声で言って繋いだ手を引っ張った。
 ぽうっとしたのがバレたかもしれない。


「え、ええと……拝見いたします……?」

 でいいのかな……?

 そっとヒューの手を離し、おそるおそるカードを手に取った。


 言い回しが難しくて解読に苦労したが、要約すると、「神の愛し子に会ってお話してみたいです。よかったら教会本部に遊びに来てください。」みたいな内容だった。


「教皇様はあなたを賓客として迎えるおつもりです。冬の移動は危険なので、春になりましたら」

「行かないです!」

「えっ」
「えっ」
「は?」


 先生と校長先生と騎士様が目を剥いた。

 ヒューはうんうん頷いている。だよね!


「よかったら、て書いてあるし。ヒューと離れ離れになるのよくないです!」

「か、カトリーナ様、それは言葉のあやといいますか……教皇様のお呼びをお断りになるなどできません」

「じゃあヒューも一緒でいいですか?一緒ならいいです」

 カードはトレーに戻して、ヒューと手を取り合う。


 騎士様は立ち上がり、探るようにヒューを見た。

「ヒューというのは、彼ですか?彼は……」

「ヒュー・セルペンスです。カトリーナの婚約者です」


 ヒューは優雅に礼をした。
 すてき! ヒューはマナーの授業、すっごく成績いいんだから!
 私はいまひとつ!


「婚約者、ですか。それは……ご同行はいかがなものかと……」

「なぜですか? 婚約者ですよ。私たちいつもいっしょなんです」

「カトリーナ様、教皇様はあなたをお呼びです。婚約者の方にはしばしの間……」

「いやです! ヒューと一緒じゃないなら行きません!」

 ひとりで連れ出して、なんか言いくるめる気でしょ!
 教会なんか信じないんだから!


 カトリーナはえりだったことを思い出してから、教会には不信感しかなかった。


「カトリーナ、なんてことを……教皇様のお呼び出しですよ」

 校長先生は怒りに震え、おじいちゃん先生が白目をむいていた。



「カトリーナ、僕と離れたくないんだね!」

「当たり前だよ!」

「カトリーナ様!これは畏れ多くも」

「ヒューといっしょじゃないなら、行かないったら行かないったら行かない!」



 小一時間ぎゃあぎゃあ言い合って、カトリーナがヒューがダメならパパでもいい! と言ったところパパはすんなり認められた。


 騎士様も先生たちもほっとしているけど、パパさえ連れて行けばいつでもヒューのとこに『おでかけ』で行って戻れるし、なにかあったらパパを連れて『おでかけ』で逃げちゃうんだから!


 教会の好きにはさせないよ!



 パパ、勝手にごめんね、お仕事お休みしてね!

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