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カトリーナと2回目のお祭り 5

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 そうだ、加藤里菜になるまえは、えりだった。
 おそらく日本から、こちらに来て、聖女エリーと呼ばれた。
 そうだ、初代聖女だった。


 断片的な、おぼろげな記憶しかないが、そう理解するには充分だった。




 ハーラン先生は、あのえりの夫になった神官のような、おそろしい目をしている。

 泣き暮らすえりに、癒せ、癒せ、とあの目で迫る神官がたくさんいた。
 えりはすごく怖がっていた。
 ハーラン先生はもしかして、神官なのだろうか。



 えりのぶんまで、加藤里菜は幸せになろうとしたのにまた死んでしまって、カトリーナはまた教会に捕まろうとしている。

 もう、あんなところに行くのは、いや!



 カトリーナの頭上に降りてきた光輝く大きな手が、ぴた、と止まり、ハーラン先生をつまんだ。



『かわいい子が、いやがっているよ。
 やめなさい。』




 そう声が聞こえたと思ったら、ハーラン先生は元々歌っていた辺りにぽいっと放られ、ぱっと神様の像の輝きは消えた。


 教会のお庭は、しん、と静まりかえった。




 カトリーナはすぐ近くまで来ていたヒューの手首を女性をかきわけてつかみ、この場を去ろうと足を動かした。



「ま、待て待て待て! 待ってください!」

 ハーラン先生が慌てて立ち上がり、ハーラン先生を追う神官様とこちらに向かってくる。


 ハーラン先生目当ての聴衆も、同じクラスの男子たちも、みんな神様の光に驚きかたまっていた。
 今のうちに逃げようとしたのに、失敗だ。


「初代聖女の生まれ変わり、でしょう? カトリーナ! 聖女となるべきです。次代の聖女に!」

「ちがいます!」

 大きな声でなんてことを言うんだ!
 ちがわないけど!


「しかし、あなたの歌で、光輝く神が降臨したではないですか!」

「歌っていたのはハーラン先生じゃないですか!」

 おっいいぞ!ヒュー!

「いえ、たしかにカトリーナは……」

「ハーラン! 教会の機密の譜をこんなところで! あなたはなんてことを!」

 機密だったのか。神官様が怒っている。いいぞ! 神官様!

「カトリーナが現れたから試したのです! ふふふ、おかげで初代聖女の生まれ変わりをみつけたのですよ! 次代の聖女になるべき存在です!」

「だからちがいますってば!」

「妄言を……! 勝手に歌って畏れ多くも神を呼んだのはハーランでしょう! 前代未聞ですよ! 神もお怒りで放り投げられたではないですか。だいたい次代の聖女はいるじゃないですか! やっと現れた癒しの乙女、現教皇のお孫様ですよ!」


 いいぞ! 神官様! もっと言って!
 よし、私が歌ってたことは、先生しか知らないんだ!


 言い合うカトリーナ、ヒュー、ハーラン先生、神官様の周りからいつのまにか人が避け、囲まれる形になっていた。


「カトリーナは癒しは使えませんよ!」

 ヒューが大きく声を上げた。
 ヒューは『いたいのとんでけ』は使わないように、て会ってすぐから言っていた。

 ……聖女にされないように、だった?


「使えない?! そんなわけが、清めだけであんなに光輝く初代聖女たるカトリーナが……」

「だーかーらーちがいますってばー!」

 ハーラン先生はカトリーナの否定など聞かず言葉を重ねた。


「使えます、使えるはずですよカトリーナ。教会の奥で身を潔斎し、祈りを捧げるのです。ヒューとの婚約も破棄なさい。神官と白い結婚をし、神に永遠に身を捧げれば、癒しが使えるはずです」

「はあぁ?」

 ヒューが冷たい声で凄んだ。
 まぁ『いたいのとんでけ』はたしかに使えるけど、なぜハーラン先生に婚約を破棄しろなんて言われなければいけないんだ。



「ヒューじゃなくてなんで神官と結婚しなきゃいけないの? 白い結婚てなに?」


「聖女様は癒しの魔法が消えないよう神官と白い結婚する決まりなのです。
 白い結婚とは……性的な関わりをしないことです。それで癒しが発現するわけがないのに、ああ、ハーランは本当に……」

 カトリーナのいらいらとした声に応えてくれたのはこちらもいらだった神官様だった。

「ハーラン、機密の譜を勝手に歌ったこと、生徒に迷惑をかけたこと、上に報告しますからね! 厳罰を覚悟なさい!」

「だから、必要なことでしたと……」

 神官様がハーラン先生と言い争っている。

 あの神官との名前だけの結婚。
 あれが白い結婚か。
 えりが恋なんてしないように縛った。その後の聖女にもさせているのか。


 カトリーナは遠くかすかなえりの記憶のなかの、優しい男の子を思い教会に怒りを募らせた。



 あんなの、もういや!
 カトリーナは、ヒューのお嫁さんになるんだから!


「じゃあなんにせよ聖女になれないですね! 私、ヒューと性的な関わりしてるし! たくさん!」

「ええええええ!」


 人々、主にクラスの男の子たちが大きくどよめいた。

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