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カトリーナと2回目のお祭り 4
しおりを挟むギターみたいな楽器をじゃらん、と鳴らし、恋の歌を歌うハーラン先生は控えめに言ってかっこよかった。
集まった女性客の目がうっとりしている。
なんで神様に捧げる歌専門なんだろう。
いろんな歌教えてくれればいいのに。
少し前、おいもを揚げたあつあつのやつをヒューとはふはふつまんでいたら、ヘンリーくんやクラスの男の子達に囲まれた。
婚約者がいてうらやましいねーなんて冷やかされた。
いつもはヒューに話しかけてこない子達だけど、お祭りで盛り上がっているんだろうか。
わいわい話していたら、教会の前を通りかかり、一人の男子が
「あれハーラン先生じゃない?」
と歌うハーラン先生を目ざとく見つけ、教会のお庭に足を向け、みんなもついていった。
流れに巻き込まれたカトリーナは、ここに来るのをヒューが嫌がっていたから離脱を試みたが抜けられなかった。
吟遊詩人ハーラン先生目当ての女性客が次々と詰めかけ、混雑していたのである。
一角を仕切ったお庭の、吟遊詩人ハーラン先生ソロコンサートのむこうではうさぎや子猫のふれあい動物園をやっていた。
そっちに行きたい。
ヒューとも離れてしまった。
カトリーナに近づこうとしているが、女性に触らないようにしているのでなかなか進まない。
カトリーナはヒューとふれあい動物園に行こうと、ヒューを目指して女性をかきわけていた。
ふと、ハーラン先生と目があった気がした。
ハーラン先生はギターみたいな楽器を鳴らし、次の曲を歌い始める。
カトリーナは驚いた。
知っている曲だったのだ。
歌詞は違うが、旋律は同じだ。
先生の斜め後ろにいた神官様も驚いた顔をした。
加藤里菜のいとこのおねえさんの結婚式で歌った、賛美歌だ。
中学生になったばかりの加藤里菜は美しい花嫁さんに見とれながら、一生懸命に歌詞を追い、歌った。
歌うハーラン先生の目が、カトリーナを捉えていた。
覚えのある歌詞で旋律を追い、最後のひとことを呟いた。
「アー、メン……」
視界が真っ白になった。
教会が、神様の像が、激しく光っている。
驚くカトリーナの腕を誰かがつかんだ。
ヒュー、と声をあげかけたが違う。
大人の男の人の手だ。
「ハーラン先生……」
「もしかしたら、と思っていました。カトリーナはこの歌を本当の意味で歌うのではないかと。カトリーナ、あなたの神聖文字はあまりに美しい。習い始めの市民学校の生徒とは思えないほどです。
しかしあなたは初めて習うという……」
なんの話をしているんだろう。
神聖文字?
「そしてあなたを注意して見ていると……まれに光に包まれていることがありました。
あなた光の清めを使っているでしょう。しかし清めを使いあんなに光る人は神官でもいません」
なんの話をしているんだろう。
ヒュー!
「初代聖女は、この世のすべての言語を理解し、話せたという伝承があります。そして聖なる輝きに包まれ、癒しの力は無限であったと。
カトリーナ、神聖文字、習わなくても書けるんでしょう。あぁ、発音も素晴らしいですよ」
ハーラン先生の目がお歌の授業以上の、おそろしい目になっていた。
わたしはこんな目を、知っている。
「そして今の歌。初代聖女が残した譜です。教会の外には出ていないものです。神が降臨した歌と伝わっていました。その通りでしたね、素晴らしいです。……あなた、なぜ知っていました?」
「カトリーナ!」
「カトリーナ、あなたは初代聖女の生まれ変わりなのではないですか?」
ヒューの声が遠くに聞こえた。
私は、カトリーナ・ユールになるまえ、加藤里菜だった。
でもそう、加藤里菜になる、そのまえは……。
スローライフ転生じゃなかった。
聖女転生だった。
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