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カトリーナと2回目のお祭り 3
しおりを挟む「カトリーナ!」
マリアンの声に振り向くと、屋台の中にエプロンをして並んだマリアンとフレッドくんがいた。
フレッドくんは頭が屋台の骨組みに当たらないようにきゅうくつそうに背を丸め、にこにことマリアンを見ている。
まるで新婚夫婦だ。
「マリアン! お手伝いしていたの?」
カトリーナが駆け寄ると、マリアンが屋台から出てきてくれて手を取り合った。
「そうなの! お手伝いしたあとは、フレッドくんと一緒にお祭りをまわるの!」
マリアンは嬉しそうだ。
マリアンの描いたアイシングクッキーを、今年は5枚ほど買った。
昨年はすっかり忘れていたが、集落のじいちゃんたちへのおみやげにするのだ。
「たくさんありがとうカトリーナ! これ、試食よ! 食べてみて。パパの新作なの」
小さく切ったパンが入った皿をさしだされ、ヒューと1つずつつまんで食べた。
「あっおいしいー!」
「ほんと、塩気がいいね」
バターがたっぷりでほんのり塩が効いている。
もしかして、塩パン?
「パパ、氷屋さんの塩ミルクシャーベットに衝撃を受けたんですって。対抗して塩のパンを作ったんだけど、おいしいわよね。売れると思うのよ! ね、フレッドくん!」
「いいよね、塩バターパン。親方にはまだまだかなわないって思ったよ」
マリアンとフレッドくんが仲良く頷きあっている。
塩バターパン売れそうだ。
町に塩ブームが来ているようだ。
マリアンに手を振って別れ、次はなにを食べようかな?と歩き出してすぐに声をかけられた。
「カトリーナ、ヒュー」
そろって振り向くと、担任の神様に捧げる歌になると人が変わるハーラン先生が立っていた。
肩まで伸ばした金茶の髪。
金色のふちの細いめがね。
今はお歌の授業じゃないので穏やかな微笑みを浮かべている。
「ハーラン先生。どうしたんですか?」
ヒューがちょっと警戒をにじませて言った。
ヒューは一年目からハーラン先生には気を許していない。
というかハーラン先生大好きって生徒が少ない。
お歌の時間の豹変にみんな引いているのだ。
「これから、教会で歌を歌うのです。ふたりも聞きに来ませんか?」
ハーラン先生はヒューの態度を気にせず笑顔で言った。
「えっまたアルヒェントゥー歌うんですか?」
「アルヒェンテュ、ですよカトリーナ。今度は余興ですよ。吟遊詩人のまねごとです。歌の教師ですからね、歌はいろいろ知っているんですよ」
ぽん、と肩に担いだケースを叩いた。
中身は楽器なのかもしれない。
歌かぁ。あの歌専門の教師なのに、ほかの歌も知ってるんだ……。
ちょっと興味があったが、ヒューが嫌そうなので返事はしなかった。
「いえ……まだ、屋台を見るので」
「そうですか。生徒が来てくれたらと思ったのですが……気が向いたら来てくださいね。では、楽しんでね」
ヒューが断るとハーラン先生は気分を害した様子もなく教会の方向へ歩き去った。
神様に捧げる歌の時間じゃなければ、いい人なんだよなぁ。
それから先生のことはすっかり忘れてまた買い食いをして楽しんで。
その後なぜか、教会の広場でギターみたいな楽器を奏で歌うハーラン先生を見ることになってしまった。
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