28 / 92
カトリーナとヒューの夏のある日 2
しおりを挟むそれから今日のお目当て、氷屋さんのシャーベットを買って、お店の前の椅子に腰掛けて食べることにした。
カトリーナはレモン、ヒューはミルクを選んだ。
もちろん味見させてもらった!
あーんで!
だからあーんしてお返ししてあげる。
「ヒューのミルクの、おいしい!」
「レモンもおいしいね」
笑い合っていると、
「おあついねー氷がとけちまうなー!」
と、氷屋さんのおじさんににやにやからかわれた。
照れちゃう!
「カトリーナ、あと行きたいところはない?」
シャーベットを食べながらヒューが聞く。
「うん、ないよ。今年もシャーベット食べられてよかった!」
カトリーナはヒューに連れてきてもらうまで、この国にシャーベットがあるなんて知らなかった。
ヒューが昨年の夏、冷たいお菓子が売ってるよ、食べに行かない?て誘ってくれたのだ。
あまずっぱくて冷たくて、加藤里菜が好きだったレモンシャーベットと変わらなかった。感激した!
そろそろ行こうか、と立ち上がろうとしたヒューの隣に、痩せた男の人……フレッドくんくらいの年かな? が腰掛けた。
「おじさん、悪いけど少し座らせて。くらくらするんだ」
「それはかまわないが……大丈夫か? お前細工師のとこの弟子だな。顔色やばいぞ」
店先から出てきたおじさんが男の人を覗き込んで言った。
たしかに顔色が悪かった。
土色だ。
「うん、おつかいの帰りなんだけど、急にくらくらして……」
土色の男の人はだらだら汗をかいて俯いた。
熱中症かな……?
カトリーナはシャーベットを食べたカップをヒューに差し出し、
「ヒュー、ここにお水をいれて」
とお願いした。
「もしかしてこの人に飲ませる? ……ならこっちね。」
頷くとヒューは自分のカップに水を入れた。
「おじさん、お塩ある? 少しだけここに入れてほしいの」
(『ちょっとだけいたいのとんでけ』)
カップを受け取り、氷屋さんのおじさんに差し出す。
「塩? あるが、飲ませるのか?ぜったいまずいぞ」
「汗をかきすぎて塩が足りないんだと思うの。まずくても飲んだら良くなる……と、思います。おばあちゃんが言ってました」
加藤里菜のおばあちゃんだけど。
そう言って夏の農作業のときは塩飴を舐めさせられてた。
「へぇ……そういうことがあるのか。年寄りの言うことってのは意味があるもんだからな。……ほら、こんなもんでいいか?」
一旦店に戻ったおじさんが、カウンター越しにスプーンで塩をぼちゃっとひとすくい入れてくれる。
……多いかな?
まぁ、試してみよう!
ジェラートのスプーンでくるくる混ぜとかしていると、さっとヒューがカップをとり男の人に差し出した。
「飲んで」
男の人は朦朧としているのか、言われるまま一口飲んでぐっとむせた。
「出すな。飲んで」
ヒューが容赦なく飲ませる。
「おえっなんだこれ、まずっ……あっ楽になってきた」
顔色が少し良くなった。
うーん、塩かな?『いたいのとんでけ』がきいたのかな?
わかんないけど効いてるみたいだからいいか!
「全部飲んで、少し休んでください」
カトリーナが声をかけると、まずいが効いたとわかっているのか、ぐえぐえ言いながら飲んでいた。
「おおほんとうに良くなったな。やはり年寄りの言うことは聞くもんだな」
「よかったです! 私たち帰りますね、ごちそうさまでした! おにいさんおだいじに!」
うんうん頷くおじさんに、カトリーナはレモンシャーベットのカップを返し、ヒューと手を繋いでお店を離れた。
「ありがとうな! また来てなー!」
魔法は(ちょっとしか)使ってないけど、元気になってよかった!
「ヒュー、手伝ってくれてありがとう!」
「いくらでも手伝うよ。夏の間にまたシャーベット食べに行こうね」
まだ明るい夏の夕方を、ヒューのママとルカくんの待つお家へ向かい寄り添って歩いた。
次に訪れた時、氷屋さんのシャーベットに塩ミルク味が新登場して大ヒットしていた。
開発力が高い!
あとがき
その後、細工師の弟子は助けてくれた白銀の天使を探し町を彷徨うのだった……。
弟子「恋に落ちたんだ」
ヒュー「やめて」
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】
ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。
※ムーンライトノベルにも掲載しています。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる