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パトリック・ユールの悩み 2

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 市民学校に通い始めて数ヶ月。
 カトリーナは毎日楽しく通っている。

 恐れていた教会からの接触もない。
 家ではよく、市民学校で出会いずいぶんと仲が良くなった美少年、ヒュー・セルペンスとその家族の話を嬉しそうにしている。

 カトリーナは面食いだったようだ。ヒューに会うといつもデレデレしている。

 ヒューとイチャイチャしては目立っているようだが、魔法で目立つことはしていないようだ。
 カトリーナの魔法は人より強いから集落の外ではあまり使わないように、と言い含めたのをよく聞いているのだろう。




 勤めている事務所に、カトリーナがいつもお世話になっているセルペンス夫人がやってきた。
 金髪碧眼のふくよかな美女の登場に、男だらけの事務所がどよめいた。
 子供達のいないあいだに話をしたいと言う。



「セルペンス夫人、いつもカトリーナがお世話になっております。それで、お話とは?」


 セルペンス夫人に誘われたのは、近所のコーヒーショップの、人払いをしたテラスだった。
 人に聞かれたくない話なのかもしれない。

 コーヒーに口をつけて問いかける。
 セルペンス夫人もホットミルクに口をつけた。



「私、赤子を授かったのです」

「えっ! 俺の子!?」

 思わず大声で言ってしまい、セルペンス夫人にぎろりと睨みつけられる。
 なんというか、言わずにいられないシチュエーションだった。



「そ、そんなわけないですよねー、ははは。あの、なぜわざわざこんな場で?」

 子供達のいる場で話しても構わないだろうに。
 
 夫人はカップに視線を落とし、声をひそめた。


「夫は……怪我をしてから子作りのできない体でした。もう子は諦めていたのですが、カトリーナちゃんが初めて来た日に、突然あの……大変元気になりまして……それで授かったのです」



 パトリックはさっと青褪めた。
 使ったのだ。癒しの魔法を。


「隠したいと思ってらっしゃる? ならなぜきちんと、知られると危険であると教えておかないのです。ヒューが知らない人の前で使わないよう約束したそうですが……」

 市民学校には教会の目がありますよ。とごく小さな声で囁いた。
 明言しないが、わかっているのだ。

 カトリーナが教会の目に止まるだろう癒しの魔法を持つ、と。



 まさか登校初日から、勃起不全を治すほどの癒しを使っていたとは……。

 カトリーナのアホ!
 と叫びたい反面、怪我と知ると治すカトリーナの心が誇らしかった。
 ひどく悲しむと天変地異を起こしかねない。
 それもあって強くは言わなかった。
 しかし、なにより、


「使ってはいけないと言って、苦しむ人を見て見ぬふりをさせるのが、嫌だったのです。カトリーナに、人を救うのをためらってほしくなかった」


 声が震えた。
 涙がこみあげてきて、慌てて手で目元を覆った。


「ヒューがついています。目立つことはさせないでしょう。私も夫も、カトリーナちゃんを大切に思っています。お手伝いしますわ」

 声を和らげてセルペンス夫人が言った。


「ずいぶんヒューを信頼していますね。まだ10歳ですよ? なぜ迂闊なことはしないと思うんです? 俺は10歳の頃なんていつも衝動的でした。それに協力して本当にいいんですか?」


 聖女を隠すのは罪深い。
 パトリックの実感だ。


「……ヒューもまた特別な子です。ごく小さな頃からとても冷静で思慮深いのです。そして生まれて初めて執着を見せたのがカトリーナちゃんです。
 大切な子を奪われないよううまく立ち回るでしょう。私たちもお嫁さんになる子を守るだけですわ」

 カトリーナ、ヒューのお嫁さんになる約束してるのか? パパは聞いてないぞ!


 相談しあってカトリーナを守ると約束して、後回しにしてしまった祝いの言葉に礼をして、セルペンス夫人は去っていった。
 すっかり冷めたコーヒーを一気に飲み干す。


 何も解決していないが、町に相談できる人間ができてものすごくほっとした。

 まさか泣いてしまうとは……張りつめて限界だったんだな、俺……。
 涙を押さえていた手で、おもいきり鼻をかんだ。

「『光よ、我が身を清め給え』」


 さっと汚れた手が清められる。
 うん、光魔法は便利だ。




 後日、俺の子と大声で言ったのが聞こえてしまった奴により、パトリックが人妻を妊娠させたと噂になった。


 誤解だ!






あとがき

この時まだカトリーナはヒューのママの妊娠を知りません。
そしてヒューと結婚の約束もしてません。
そしてパパは実はけっこうアホです。


このパパ視点を入れるかどうか、すごく迷いました。

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