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カトリーナのとある1日 2
しおりを挟む焼きたてのパンとトマトのサラダ、昨日の夕飯の残りのスープを温め直して並べたら出来上がり。
うん、とってもおいしい。
野菜を育てて、パンを焼いて、まるでスローライフ転生。
田舎育ちの加藤里菜も、家の畑の手伝いをよくしていた。
スローライフなんかじゃなく、一家総出の収穫とか出荷の箱詰めとか本気の手伝いだったけど、加藤里菜は楽しんでいた。
そうだ、加藤家のトマトもおいしかった。
加藤里菜の好むもの、カトリーナの好むものはよく似ている。
性格や考え方も記憶が戻る前から似ている、と思う。
やはり魂が同じなのだ。
加藤里菜の大好きだった、おもちが食べたいなぁ。
「行くよカトリーナ」
しゃきっと目覚めてパリッとしたシャツに着替えて、いつものかっこいいパパになった。
馬に跨って、今日も勇者っぽい。
「じいちゃん、いってきます!」
(『げんきになあれ』)
じいちゃんのほっぺにいってきますのキスをする。
「ポーラ、今日もよろしくね!」
(『げんきになあれ』)
馬のポーラの首筋をなでなでしてから、パパに馬上に引っ張り上げてもらう。
「いってらっしゃい、カトリーナ」
じいちゃんが手を振って見送ってくれる。カトリーナも笑顔で振り返した。
ポーラに揺られること1時間、町の門に着いた。
うちの集落から町まで1時間で着くのはかなり早いらしい。
ポーラは駿馬なのね。
馬から降りて門をくぐると、すぐに優しい声に呼ばれた。
「カトリーナ! おじさん! おはよう!」
ヒューだ!
ヒューは毎朝門まで迎えにきてくれるのだ。
「ヒュー、おはよう。いつもありがとう。カトリーナ、パパは厩舎に寄っていくから。勉強がんばってね」
ポーラを引いて行こうとするパパを袖を引いて呼び止めた。
「パパ! パパもいってらっしゃい!」
(『げんきになあれ』)
かがんでくれたパパの頬に、いってらっしゃいのキスをする。
『げんきになあれ』は『いたいのとんでけ』みたいに傷が治ったりしないから、効いているのかよくわからないけど、気休めのおまじないだ。
カトリーナはみんなに元気でいてほしいのだ。
「いってきますカトリーナ」
カトリーナの頬にキスを返して、パパは厩舎へ向かって行った。
「ヒューおはよう! 学校へ行く前にヒューのおうちに寄ってもいい? 今朝採れたトマトを持ってきたの」
「いいけど、トマト? どこに?」
いつもの肩掛けバッグしか持っていないから不思議に思ったのだろう。
ヒューが小首を傾げると白銀の髪がさらりと揺れる。
今日も朝から眩しいほどに美少年だ。
「ここだよ! うーちーのートーマートー!」
ジャンパースカートに作った◯次元ポケットから、青いロボット風にトマトの入った籠を取り出した。
ヒューにしては珍しく、ものすごくぎょっとしていた。
「なにそれ?! この籠ポケットに入らないでしょ?!」
「私が作ったの。なんでも入るから便利なの」
ヒューに見せたの初めてだったかな?
ポケットにはいつもお菓子や着替え、釣り竿とかいろいろ入っている。
「これ……たしかにすごく便利だけど、人に見せないほうがいい。偉い人に取り上げられるかも」
「そうなの……?」
カトリーナはしゅんとした。便利と思ったら取り上げないで自分で作ればいいのに……。
「僕の前ではいいけどね。秘密にしよう、ね?」
手を握られて微笑みかけられると、ついこくこく頷いてしまう。
ヒューは私がヒューの顔に弱いとわかってやっている気がする。
「よし行こう。僕が持つよ」
自分で持つよと言う前にトマトの籠をカトリーナの手からさっと取って歩きだした。
もちろん手は繋いでいる。
ヒューって本当に10歳なの?
スマートが過ぎると思う。
あとがき
『げんきになあれ』のおかげでポーラは軍馬の如き逞しさと競走馬の如き駿足を兼ね備えたすごい子に育ちました。
パパが会計士に見えない逞しさなのも『げんきになあれ』の効果です。
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