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ヒューとカトリーナの放課後 3
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息子が突然連れてきた友達とその父を、ヒューのママはあたたかく歓迎してくれた。
「はじめまして、カトリーナです! おじゃまします!」
「ようこそ、カトリーナちゃん。ヒューがお友達を連れてくるなんて初めて! 嬉しいわ」
ヒューのママは美人の条件、金髪碧眼を備えていた。
にこにこと細めた優しい瞳、ふくよかだからこそ豊かな胸部。
カトリーナの思い描くママそのものの姿だった。
カトリーナを生んだママは、病気で苦しんで苦しんで亡くなった。
ママも生きていたら、こんなふうに笑ってくれたんだろうか?
記憶の中のママはいつも、痩せて顔色悪く、苦しんでいるのだ。
(あのころ、『いたいのとんでけ』が使えたらなぁ)
「カトリーナちゃん、学校に来る日はお父さんのお仕事が終わるまで仕事場で待つんですって? うちにいらっしゃい。お天気が悪くて集落まで帰れない日はお泊りしてもいいわ。ね、ユールさん」
パパにうちの事情を聞いたらしいヒューのママがそう言った。
「そ、そこまでお世話になるのは」
「それがいいよ! カトリーナ、毎日うちにおいでよ! ね?」
慌てて断るパパの言葉を遮ってヒューがまたカトリーナの手を握って、とびきりの笑顔を向けて言った。
美少年の笑顔……!
どきどきしてついこくこくと頷いてしまった。
さすがに図々しいから、遠慮するつもりだったのに!
「カトリーナ……」
パパの呆れた声が聞こえる。この流れさっきもやった。
「いいじゃないですか、一人でおとなしくさせておくより子ども同士遊んでいた方が楽しいものですよ」
「はぁ、それはそうですが……いや、ありがとうございます。お世話になります。カトリーナ、パパはもう時間だ、仕事に戻るね。失礼します、セルペンス夫人。夕刻に迎えにきます」
カトリーナに軽く手を振って、パパは事務所に戻って行った。
パパの勤める事務所もここからそう遠くないらしい。
あの様子、相当呆れているだろう。でも放課後、素敵なママのいる、お友達のおうちにいられるなんて嬉しい。
「よかったね、カトリーナ。僕の部屋に行こうよ。ボードゲームがあるよ」
「おやつの支度ができたら呼ぶから、居間にいらっしゃいね」
「はーい! 行こう、こっちだよ」
ヒューに手を引かれてお部屋に向かい、すごろくみたいなゲームをした。
この国にもこういうのあったんだ、初めて! 楽しい!
「父さんとやるより、カトリーナとやるほうが楽しいな」
ヒューが駒を進めながら言った。
「私年の近い子と遊ぶの初めて。とっても楽しい! いつもお父さんと遊ぶんだね、ヒューも兄弟いないの?」
兄弟でもいたら遊び相手がいたのになぁ、て集落のおじいちゃんたちがよく言うのだ。
じじいの相手ばかりでつまらないだろう、て。
おじいちゃんたちと遊ぶのだって楽しいのに!
私の言葉にヒューはちょっと困った顔になって、
「父さん、仕事で怪我をして、もう子供ができないんだ。二人とも気にしてるから兄弟の話はしないでね」
しぃっと人差し指を唇にあてた。
ヒューのママに呼ばれておやつのすごくおいしい手作りクッキーをごちそうになっていると、ヒューのパパが帰ってきた。
ヒューのパパは、町の警備員だそうだ。
今日は早番だから、帰りが早いんだよ、てヒューが教えてくれた。
「こんにちは、お嬢さん。ヒューと友達になってくれてありがとう。おじさんもお茶をご一緒させてもらうよ」
椅子を引いたヒューのパパに、思い切って抱きついた。
「こんにちは! カトリーナです!」
(『いたいのいたいの、ぜんぶとんでけ!』)
「カトリーナちゃんか……、な! これ、は……」
ヒューのパパは慌てて私の体を離した。
信じられないような顔で私を見たあと、お茶の支度をしてるヒューのママのいるキッチンへ駆け込んだ。
「し、失礼する!」
話し声のあと、二人は戻ってこなかった。
奥の貯蔵室に入ったみたい。
「……カトリーナ、なにかした?」
「『いたいのとんでけ』したよ。怪我よくなったらいいなって。」
私の『いたいのとんでけ』は肩凝りや古傷にもよく効くっておじいちゃんたちに評判なのだ。
「それ……」
ヒューは驚いたように目を見開いた。
「それは、あまり使える人がいない魔法だと思う。知らない人の前では使わないほうがいい」
手を握られ、目をまっすぐに見て、わかった? と聞かれ、こくこくと頷いた。
誰でも使えるんじゃなかったのか。知らなかった。
「でも、父さんを治してくれてありがとう」
はにかみ笑顔いただきました。美少年の笑顔、プライスレス!
しばらく経って、嬉しそうにヒューが教えてくれた。
来年赤ちゃんが生まれるそうです。
楽しみ!
あとがき
ヒューのパパ「息子の友達に抱きつかれて、8年勃たなかったムスコがギンギンになったんです。あの時は焦りました」
「はじめまして、カトリーナです! おじゃまします!」
「ようこそ、カトリーナちゃん。ヒューがお友達を連れてくるなんて初めて! 嬉しいわ」
ヒューのママは美人の条件、金髪碧眼を備えていた。
にこにこと細めた優しい瞳、ふくよかだからこそ豊かな胸部。
カトリーナの思い描くママそのものの姿だった。
カトリーナを生んだママは、病気で苦しんで苦しんで亡くなった。
ママも生きていたら、こんなふうに笑ってくれたんだろうか?
記憶の中のママはいつも、痩せて顔色悪く、苦しんでいるのだ。
(あのころ、『いたいのとんでけ』が使えたらなぁ)
「カトリーナちゃん、学校に来る日はお父さんのお仕事が終わるまで仕事場で待つんですって? うちにいらっしゃい。お天気が悪くて集落まで帰れない日はお泊りしてもいいわ。ね、ユールさん」
パパにうちの事情を聞いたらしいヒューのママがそう言った。
「そ、そこまでお世話になるのは」
「それがいいよ! カトリーナ、毎日うちにおいでよ! ね?」
慌てて断るパパの言葉を遮ってヒューがまたカトリーナの手を握って、とびきりの笑顔を向けて言った。
美少年の笑顔……!
どきどきしてついこくこくと頷いてしまった。
さすがに図々しいから、遠慮するつもりだったのに!
「カトリーナ……」
パパの呆れた声が聞こえる。この流れさっきもやった。
「いいじゃないですか、一人でおとなしくさせておくより子ども同士遊んでいた方が楽しいものですよ」
「はぁ、それはそうですが……いや、ありがとうございます。お世話になります。カトリーナ、パパはもう時間だ、仕事に戻るね。失礼します、セルペンス夫人。夕刻に迎えにきます」
カトリーナに軽く手を振って、パパは事務所に戻って行った。
パパの勤める事務所もここからそう遠くないらしい。
あの様子、相当呆れているだろう。でも放課後、素敵なママのいる、お友達のおうちにいられるなんて嬉しい。
「よかったね、カトリーナ。僕の部屋に行こうよ。ボードゲームがあるよ」
「おやつの支度ができたら呼ぶから、居間にいらっしゃいね」
「はーい! 行こう、こっちだよ」
ヒューに手を引かれてお部屋に向かい、すごろくみたいなゲームをした。
この国にもこういうのあったんだ、初めて! 楽しい!
「父さんとやるより、カトリーナとやるほうが楽しいな」
ヒューが駒を進めながら言った。
「私年の近い子と遊ぶの初めて。とっても楽しい! いつもお父さんと遊ぶんだね、ヒューも兄弟いないの?」
兄弟でもいたら遊び相手がいたのになぁ、て集落のおじいちゃんたちがよく言うのだ。
じじいの相手ばかりでつまらないだろう、て。
おじいちゃんたちと遊ぶのだって楽しいのに!
私の言葉にヒューはちょっと困った顔になって、
「父さん、仕事で怪我をして、もう子供ができないんだ。二人とも気にしてるから兄弟の話はしないでね」
しぃっと人差し指を唇にあてた。
ヒューのママに呼ばれておやつのすごくおいしい手作りクッキーをごちそうになっていると、ヒューのパパが帰ってきた。
ヒューのパパは、町の警備員だそうだ。
今日は早番だから、帰りが早いんだよ、てヒューが教えてくれた。
「こんにちは、お嬢さん。ヒューと友達になってくれてありがとう。おじさんもお茶をご一緒させてもらうよ」
椅子を引いたヒューのパパに、思い切って抱きついた。
「こんにちは! カトリーナです!」
(『いたいのいたいの、ぜんぶとんでけ!』)
「カトリーナちゃんか……、な! これ、は……」
ヒューのパパは慌てて私の体を離した。
信じられないような顔で私を見たあと、お茶の支度をしてるヒューのママのいるキッチンへ駆け込んだ。
「し、失礼する!」
話し声のあと、二人は戻ってこなかった。
奥の貯蔵室に入ったみたい。
「……カトリーナ、なにかした?」
「『いたいのとんでけ』したよ。怪我よくなったらいいなって。」
私の『いたいのとんでけ』は肩凝りや古傷にもよく効くっておじいちゃんたちに評判なのだ。
「それ……」
ヒューは驚いたように目を見開いた。
「それは、あまり使える人がいない魔法だと思う。知らない人の前では使わないほうがいい」
手を握られ、目をまっすぐに見て、わかった? と聞かれ、こくこくと頷いた。
誰でも使えるんじゃなかったのか。知らなかった。
「でも、父さんを治してくれてありがとう」
はにかみ笑顔いただきました。美少年の笑顔、プライスレス!
しばらく経って、嬉しそうにヒューが教えてくれた。
来年赤ちゃんが生まれるそうです。
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