上 下
9 / 9

おまけ(その後)

しおりを挟む
 アランは美的感覚が少しおかしい。
 それが完璧に見える彼の唯一の「欠点」だと思っていたのだが、どうやら違うらしいということが最近わかってきた。

「ですから……私、そんなに男性に人気のある見た目ではないんです。特別美しいわけではありません。不細工というわけでもないと思っていますが、平凡です。ものすごく、平凡なんです」

 婚約を継続することが決まって以来、アランとは週に一度ほどお茶をしている。アランが学園に入ってから消えてしまった習慣を復活させたような形だ。
 雰囲気は悪くないと思う。お互いに相手ともう少し話をすべきだったと実感して、踏み込んだ話もするようになった。アランは話が上手いので楽しいし、美しい婚約者を存分に眺められるので目の保養になる。メアリはこのお茶の時間を気に入っていた。
 けれどこの話題になった時だけは、メアリの心は穏やかではいられない。

「メアリ、君は自分の魅力を全くわかっていないんだね……でもそういうところも可愛いよ」
「アラン様……」

 顔が熱い。
 メアリは真っ赤になって顔を伏せた。近頃のアランは頻繁に恥ずかしげもなく甘い言葉を吐く。いくらメアリが自分はモテないのだと真実を伝えようとしても、この調子なのでメアリの方がどうしようもなく照れてしまい、いつも有耶無耶になってしまう。最近の悩みの種だった。

──周りの人に言われても、信じないらしいし。

 この前、アランの友人であるポール(アランがメアリの愚痴を言っていた相手だ)と話す機会があった。その時彼に聞いた話によれば、アランの友人や周囲の女の子が、メアリの容姿を地味だと評したことは幾度もあった。けれど、アランはそのどれをも「目が極端に悪いか、美的感覚が変わっているんじゃないか?」の一言で一蹴していたらしい。なんというか……うん。

 流石にメアリも察した。
 アランは美的感覚がおかしいだけでなく、やや思い込みが激しいのだと。

「メアリ、これは前にも言ったけどね。もしも仮にメアリの容姿が他の人から見ればそれほど美しいものではなかったとしても、僕にとっては誰よりも可愛くて素敵な女性なんだ。だから平凡だとか美しくないとか、そんなふうに言わないで?」

 そう言って、アランはメアリの髪を優しく撫でた。
 こういう風に言ってくれるから、訂正する気力も失せてしまう。自分のことを不美人だと強弁するのも地味に精神的負荷がかかるし。その度アランに容姿をほめられるのも恥ずかしい。

「ありがとうございます。……私も、もし他の人が私の容姿を褒めてくれたとしても、アラン様に可愛いって言われるのが一番嬉しいです」

 顔を伏せたまま小声でそう伝えると、ガタンと音を立てて立ち上がったアランに抱きしめられた。

「嬉しい、メアリ」



 つまりはこんな風に、この話題はいつも流れてしまうのだった。
 でもまあいいかな、とメアリは思う。だって今、とても幸せなのだから。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(10件)

hiyo
2021.12.25 hiyo

サラリと楽しい物語でした。この二人はきっと上手くいくのでしょう~
めでたし、めでたし。

読ませて頂いて有難うございました。

解除
藤乙
2021.12.24 藤乙

バカップルは撲滅すべし!
嫉妬マスク見参!!

  / ̄\__
`_/ / / / \
/ _( /( | 人ヽ
LU | ∧ハ(|)ノ/|(|
Lノ ヽレ \ヘレ/ |ソ|
 こ ∧ヘ_木_ノ<ハ
 こ||^~个~⌒/ \
 迄|ヽ |  /|
バ来|\\⊥_/ノ
カた| ヽ ノ__
ッか \ __(_ \
プ!  V / / /ヽ|
ル   ( ( ( ( ノ|
!   \    /

…好きなだけイチャイチャしておいてくださいさいしい

解除
2021.12.23 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

解除

あなたにおすすめの小説

どうやら私は不必要な令嬢だったようです

かのん
恋愛
 私はいらない存在だと、ふと気づいた。  さようなら。大好きなお姉様。

私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?

新野乃花(大舟)
恋愛
ミーナとレイノーは婚約関係にあった。しかし、ミーナよりも他の女性に目移りしてしまったレイノーは、ためらうこともなくミーナの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたレイノーであったものの、後に全く同じ言葉をミーナから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。

婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った

葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。 しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。 いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。 そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。 落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。 迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。 偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。 しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。 悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。 ※小説家になろうにも掲載しています

私の婚約者を狙ってる令嬢から男をとっかえひっかえしてる売女と罵られました

ゆの
恋愛
「ユーリ様!!そこの女は色んな男をとっかえひっかえしてる売女ですのよ!!騙されないでくださいましっ!!」 国王の誕生日を祝う盛大なパーティの最中に、私の婚約者を狙ってる令嬢に思いっきり罵られました。 なにやら証拠があるようで…? ※投稿前に何度か読み直し、確認してはいるのですが誤字脱字がある場合がございます。その時は優しく教えて頂けると助かります(´˘`*) ※勢いで書き始めましたが。完結まで書き終えてあります。

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

【完結】仕方がないので結婚しましょう

七瀬菜々
恋愛
『アメリア・サザーランド侯爵令嬢!今この瞬間を持って貴様との婚約は破棄させてもらう!』 アメリアは静かな部屋で、自分の名を呼び、そう高らかに宣言する。 そんな婚約者を怪訝な顔で見るのは、この国の王太子エドワード。 アメリアは過去、幾度のなくエドワードに、自身との婚約破棄の提案をしてきた。 そして、その度に正論で打ちのめされてきた。 本日は巷で話題の恋愛小説を参考に、新しい婚約破棄の案をプレゼンするらしい。 果たしてアメリアは、今日こそ無事に婚約を破棄できるのか!? *高低差がかなりあるお話です *小説家になろうでも掲載しています

離婚された夫人は、学生時代を思いだして、結婚をやり直します。

甘い秋空
恋愛
夫婦として何事もなく過ごした15年間だったのに、離婚され、一人娘とも離され、急遽、屋敷を追い出された夫人。 さらに、異世界からの聖女召喚が成功したため、聖女の職も失いました。 これまで誤って召喚されてしまった女性たちを、保護している王弟陛下の隠し部屋で、暮らすことになりましたが……

初恋の人と結ばれたいんだと言った婚約者の末路

京佳
恋愛
婚約者は政略結婚がどういうものなのか理解して無かった。貴方のワガママが通るとでも? ゆるゆる設定

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。