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「僕だけでなく、他の女子生徒にも嫌味を言っているところを見かけたことがある。学園の制服が質素で見窄らしいと文句を言っている女子生徒に、彼女は『でもあなたにはよく似合っていると思うわ』と」

 それも言った。言ったけど! 別にあれは嫌味のつもりではなくて、美人なあなたにはどんな服装でも似合うのだからいいでしょう、と宥めるつもりだったのだ。言った瞬間空気が凍りついて初めて自分の言葉が嫌味にしか聞こえないことに気がついたっけ。

「それに、学園では常に複数の男を侍らせているし……」

 侍らせ……!?
 学園に仲のいい男子生徒はいるけれど、全員ただの友人だ。一緒に行動したり話したりする事もあるが、そういう時は大抵女子の友達も一緒にいるし、やましいことなんて何もないのに。
 というか男性側も、婚約者のいる地味な女にあえて手を出そうとはしないと思う。なぜ「侍らせている」などと誤解されたのか謎だ。

「そしてこれが極め付けだが、彼女は何か失敗をした時、誤魔化すようにこちらを見てへらっと笑うのだ! うっかりつまづいたり、話す途中でかんだり、失言をしたときなんかに! 一度笑顔を向ければ私は頭が真っ白になって何も言えなくなるとわかってやっているのだ、まったくたちの悪い!」

 それまで淡々と話していたアランが急に口調を強めたので、びくりと体が跳ねた。こんな風に感情的な彼は初めて見る。
 なんだか……よくわからないところもあったけれど、つまり何か失敗してもヘラヘラしている態度が気に入らないってことみたいだ。そういえば、お母様にも「都合が悪くなったとき笑って誤魔化そうとするのはやめなさい」とよく注意されていたっけ、とメアリは思い出した。

 この件に関しては完全に自分が悪い。笑って誤魔化す癖は早急に治そう。メアリはそう決意した。

 これまでのふるまいについて思い返して反省していると、アランの友人のやや困惑したような声が聞こえてきた。どうやら、彼の話に違和感があったようだった。


「えっと、それって本当にお前の婚約者のメアリ・ハミルトンの話か? なんかイメージと違うっていうか、お前のいうことを疑うわけじゃないけど、何か誤解とか行き違いとか、あったりするんじゃ……」
「ふん、まあ慰めてくれるのはありがたいけど」
「いや慰めてるとかじゃ……」
「どうせ彼女とは結婚することになるんだから、ふるまいがどうあれなんとかうまくやっていかなきゃいけないってことはわかってるよ。単に愚痴を吐き出し違っただけだから、あまり気にしないでくれ」

 アランの語るメアリ像に疑問を抱いた様子の友人は慎重な意見を口にしたが、彼はその言葉を遮り、キッパリと言い切った。すると友人も「まあお前がそういうならいいか」ととりあえずは納得し、その話題はそこで終わりになった。
 生垣に身を隠したメアリは、試験対策に話題が移った二人の会話を背後に、先ほど聞いたあれこれについてぐるぐると思考を巡らせていた。
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