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新生した王国2
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アブリル王国の王城。
女王様との謁見を終え、宿舎に向かう途上、ジーナはノイマンやジークの案内を部下に任せ、リリスとリンディを王城の城門の近くで立ち止まらせた。
「リリス様には少しの間立ち寄っていただきたい所があるのです。」
「これはローラ様からの要望でして、リリス様にぜひチェックしていただきたいとの仰せです。」
うん?
何の事かしら?
疑問を抱きつつ、リリスとリンディはジーナの案内に従って、別の通路から王城の中に入っていった。
頑丈そうな石材の擁壁の傍を通り、リリス達が辿り着いたのは王城の中庭だった。
中庭と言ってもかなり広いスペースだ。
その中央に円形の柵があり、その中には高さ10mほどの樹木が植えられていた。
柵の周囲には照明の為の魔道具がいくつも設置されていて、夜にはライトアップされるのだろう。
だが、それとは別に柵の周囲に半球状の物体が複数埋め込まれていた。
そこからその樹木に向けて魔力が放たれているようで、樹木の周囲に魔力の渦が巻き上がっているのを微かに感じる。
少し歩いてその樹木に近付くと、リリスはふっと異様な気配を感じた。
二の腕の小さな三つの黒点がざわざわと疼いている。
「いかがですか? リリス様。この樹木から何か感じられますか?」
「ええ、確かに・・・・・」
そう言いながらリリスはその樹木の幹に手を触れた。
リリスの手に温かい波動が伝わってくる。
「この樹木って世界樹に通じる要素を持っていますね。この樹木をどこで見つけたんですか?」
リリスの問い掛けにジーナは嬉しそうな表情で口を開いた。
「リリス様が活躍されていた、ワームホールの多発地帯の山の中です。おそらく時空の歪や大量の魔素の生滅の影響を受けて育ってきたのでしょう。ローラ様が見つけ出されて、即座にこちらに移植したのです。」
ジーナの言葉を聞きながら、リリスの傍でリンディは首を傾げていた。
リンディは話に付いていけない様子で、おずおずとリリスに問い掛けた。
「世界樹って・・・先日リリス先輩と転移してしまった世界で見た、あの世界樹の事ですか?」
リンディの言葉にリリスはうんうんと頷いた。
「そうなのよ。そうなんだけど一から話さないと、何が何だか分からないわよね。追々話すから今は、あの世界樹と通じる要素を持った樹木だとだけ理解していれば良いわよ。」
このリリスの言葉に驚いたのはジーナである。
「リリス様。この従者のリンディ様は、世界樹と関わりを持っておられるのですか?」
「ええ、ロキ様のちょっとした手違いで、世界樹のある世界に二人で転移してしまった事があるのよ。」
「ええっ! そうなんですか・・・」
驚きながらもジーナはふっと思いを巡らすような仕草をした。
おそらくリンディを瞬時に鑑定してみたのだろう。
だが腑に落ちないような表情でジーナはリンディを見つめた。
「リンディ様も不思議な方ですね。ステータスに現われているスキルと実体とでかなりのギャップがありそうだわ。」
ジーナの言葉にリンディはにやりと笑った。
「それはリリス先輩も同じですよ。ねえ先輩。」
「リンディ。こっちに話を振らないでよ。」
そう言って失笑するリリスの反応を見ながら、ジーナは再度リンディに話し掛けた。
「リンディ様って、獣人としてはかなり特殊な魔力の波動をお持ちですね。」
「ええ、私は先祖からダークリンクスの血を受け継いでいるんです。先祖返りだとも言われていますけどね。」
「ええっ! それって伝説の一族じゃないですか!」
ダークリンクスの血が流れていると聞いて、ジーナは絶句してしまった。
獣人同士ではダークリンクスと聞いた際の反応が、人族とは違うようだ。
ジーナは自分を諭すようにうんうんと頷き、リンディに話し掛けた。
「リンディ様は単なるリリス様の従者ではない事が良く分かりました。それなら宿舎で色々とお話しても大丈夫ですね。」
そう言うとジーナはリリスに話し掛けた。
「リリス様。宿舎に到着して少し寛いでいただいた後に、ローラ様が直接お目に掛かりにまいります。その際にリンディ様がおられても構いませんので、そのおつもりでいて下さい。」
直接来るってどう言う事?
疑問を抱きつつもリリスはハイと返事をした。
ジーナは笑顔で頷き、リリスとリンディを王城の外へと案内した。
王城から歩いて5分ほどの場所にリリス達の宿舎が建っていた。
宿舎とは名ばかりで、明らかに宮殿である。
3階建てで豪華な石材をふんだんに使った宮殿は、その屋根の部分がドーム状になっていて、四方に尖塔を配した造りだ。
シャンデリアが輝く広いエントランスから奥に入り、階段で3階に上がるとゲストルームが4部屋設置されていた。
その内の一つがリリスとリンディの泊る部屋で、広いリビングスペースの奥に二つのベッドルームとダイニングルームが用意されている。ベッドルームの一つは通常は従者の為のものだが、今回はリリスとリンディでメインのベッドルームを使う予定だ。
荷物を整理し、しばらくリビングスペースで寛いでいると、メイドが入室してきてリンディにメモを手渡した。
「あと5分ほど後に、ローラ女王様とジーナさんが来られるそうです。」
「そう。分かったわ。でもどんな形で来られるのかしら?」
宮殿とは言え、女王様が直接に来るとなると、護衛も付いて来るんじゃないの?
そう思ったリリスだが、その予想とは全く違った形でローラとジーナが現われた。
リビングスペースの片隅に白い光点が現われたかと思うと、あっという間に実体化し、二人の人物になってしまった。
一人はジーナで、もう一人は10歳前後の少女。
ローラの現実の姿である。
瀟洒なワンピース姿でローラはリリスに近付き、笑顔で会釈をしてリリス達の対面のソファに座った。
「リリス様。お久し振りです。先ほどは対外的な姿でお目に掛かったので、違和感を感じられたと思いますが。」
「そうねえ。びっくりしちゃったわよ。大人の姿に擬態しているなんて思っていなかったからね。」
リリスの言葉にローラは少しはにかんだ笑顔を見せた。
「この国を新たに治める際に、子供だと示しが付きませんからね。対外的な交渉事でも見下される事は明らかですから。」
「でも単なる擬態じゃないんですよ。10歳ほど加齢した時の現実の姿を実現しただけなんです。」
う~ん。
そう言うスキルを持っているのね。
「でも対外的には良いとしても、国内でローラの年齢を知っている者も居るはずよね。それってどうしたの? まさか知っている者を全て口封じとか・・・」
リリスの言葉にローラはアハハと笑った。
「そんな事はしませんよ。以前にもお伝えしたように、世界樹が私の心の中の規範ですから。」
「全国民の心に働き掛け、私の20歳前後の姿が現実であるように教え込んでいるだけです。」
「そんな事って出来るの?」
リリスの疑問にローラとジーナはウフフと含み笑いをした。
「そう言う波動を国内に送り続けているのです。」
ジーナはそう言うとリンディの方に顔を向けた。
「リンディ様なら感じ取っておられるのではありませんか? 獣人ならでは感性で・・・」
ジーナの言葉にリンディは深く頷いた。
「この国に入った時から不思議な波動を感じていたんです。道徳的な言葉を繰り返し伝えられているかと思えば、気分を高揚させられる言葉が繰り返されたりして。」
リンディの返答にジーナは少し驚いたような表情を見せた。
「やはりリンディ様は只者ではありませんね。大半の国民は無意識化で感じているだけで、内容まで把握している者は殆ど居ませんよ。あえてそう言う波長にしてあるのですから。」
ジーナはそう言うとリリスの方に顔を向けた。
「明日にでも神殿にご案内します。そこでその仕組みが分かると思いますし、リリス様と会う事を切望している者がそこに居りますので。」
「私と会いたい人?」
リリスの問い掛けにジーナは強く頷いた。
「リリス様の持つ世界樹の加護とその権限でもある産土神のスキルによって、4名の者が個別進化を遂げました。ここにおられるローラ様と私、それとあと二人の従者です。」
「一人はケネスと言う名の従者で、獣人には珍しく聖魔法を扱う人物です。彼はローラ様の健康面を管理する為に孤島に送られたのですが、現在は神殿で大祭司を務めています。」
「もう一人はグルジアと言う名の従者で、彼はローラ様の身辺の護衛の為に孤島に送られました。現在は王国軍の司令官を務めています。」
「ケネスとは神殿で、グルジアとは今晩の歓迎晩さん会でお会い出来ると思います。」
そう言う事になっているのね。
そう思って横を見ると、リンディは深く思案しているような仕草をしていた。
話の内容を整理しているのだろう。
「リンディ。何となく話の内容が分かってきた?」
「はい。大まかな内容は把握出来ました。それでリリス先輩が産土神のスキルをローラ様達に発動させたのは、ロキ様の管理下の事なんですよね?」
「ええ、もちろんよ。原則的にはロキ様の許可無く発動出来ないわ。」
リリスの言葉にリンディはふうんと答えてローラ達に目を向けた。
「私達は幸運だったのです。孤島で幽閉されていた時には、絶望感しかありませんでしたからね。」
「実は孤島から王国に戻った日の夜、私達はロキ様に会ったのです。」
えっ!
そうなの?
「その際にロキ様から聞いたのですが、リリス様の持つ世界樹の加護はこの世界のものでは無いそうですね。その加護の権能である産土神のスキルをこの世界で試行する目的で、私達が偶然にも選ばれたのであると聞きました。」
「偶然選ばれたとは言え、せっかく与えられたチャンスだから、個別進化した成果を存分にこの世界で示して欲しいとも言われました。」
そうよね。
あのままだったら、一生孤島から抜け出られなかったんだからね。
リリスは結果的にローラ達を救った事を喜ばしく思った。
その後しばらく歓談した後、ローラ達は空間魔法でその場から消えていった。
リリスとリンディはその日の夜の歓迎晩さん会に向けての準備に入った。
準備と言っても衣装は王国からのレンタルで、王家に仕えるコーディネーターがメイクやアクセサリーや衣装も整えてくれる。
リリス達はそれに身を任せるだけだ。
宮殿の2階にコーディネートの為の衣裳部屋があり、晩さん会の会場は宮殿1階のバンケットルームになっている。
およそ2時間掛けて、リリスとリンディの準備は整った。
リリスは真紅のドレスを身に纏い、少し濃いめのメイクを施してもらった。リンディは淡いブルーのドレスを身に纏い、メイクも若干控えめだ。これはあくまでも主賓とその従者と言う立場に合わせたものである。
1階のバンケットルームに入ると、既に大勢のゲストが席に着き、そのテーブルの間をメイドがドリンクの給仕の為に動き回っている。
ちなみにこの晩さん会には王国の要職に就く者も多数参席しているので、表向きにはミラ王国との関係をより強固なものにするための招待と言う事になっている。
リリスはミラ王国の王族の代理の立場であり、ノイマン卿の計らいで王家の外戚であると触れ回っていた。
それでも実質的にはリリスの為の歓迎晩さん会に違いは無い。
そこはローラ達の立場もあるので、リリスとしてもあれこれと口を挟む立場ではないと理解した。
艶やかなドレス姿のリリスに衆目が集まる。
その美しさに周囲の参席者からも称賛の声が上がった。
定められた席に着くと、その隣にはローラ女王の席があり、反対側にはノイマン卿の席がある。同じテーブルの少し離れた位置には従者であるリンディの席が設けられていた。
タキシード姿のノイマン卿がリリスを見つけ、会場の隅からこちらに向かってきた。
席に着くとノイマン卿はリリスに満面の笑みを向けた。
「リリス君。獣人達が一様に君を美しいと褒めたたえておるよ。中でも王国軍の若い司令官が君を探して、会場の中を右往左往していたのだがね。」
そう言うとノイマン卿は会場の中央に目を向けた。
「ああ、彼だよ。王国軍の司令官だ。」
ノイマンが指さす方向に目を向けると、若い獣人の軍人が嬉しそうな表情で近付いてきた。
端正な顔立ちの若い男性で、白い軍服にたくさんの徽章を付けている。
肌の色は淡い褐色で体毛が薄い印象だ。
「王国軍の司令官のグルジアと申します。ようやくお会い出来ましたね、リリス様。その節は大変お世話になりました。」
ああ、この人がグルジアさんなのね。
確かに他の獣人との違いを感じるわ。
個別進化を受けた四人の内の一人なのね。
リリスは席を立ち、グルジアと強く握手を交わした。
「ジーナから、リリス様は明日神殿を訪れる予定であると伺いました。その折に大祭司のケネスと共に改めてお目に掛かりたいと思います。」
そう言ってグルジアはその場から離れた。
その後ろ姿を目で追いながら、ノイマン卿がリリスに話し掛けた。
「リリス君。話せる範囲で良いから、君がこの国から国賓扱いで招待を受けている理由を教えてくれるかね?」
ノイマン卿の言葉にリリスは少し考え込んだ。
その後、言葉を選びながら簡略に説明を始めたのだった。
女王様との謁見を終え、宿舎に向かう途上、ジーナはノイマンやジークの案内を部下に任せ、リリスとリンディを王城の城門の近くで立ち止まらせた。
「リリス様には少しの間立ち寄っていただきたい所があるのです。」
「これはローラ様からの要望でして、リリス様にぜひチェックしていただきたいとの仰せです。」
うん?
何の事かしら?
疑問を抱きつつ、リリスとリンディはジーナの案内に従って、別の通路から王城の中に入っていった。
頑丈そうな石材の擁壁の傍を通り、リリス達が辿り着いたのは王城の中庭だった。
中庭と言ってもかなり広いスペースだ。
その中央に円形の柵があり、その中には高さ10mほどの樹木が植えられていた。
柵の周囲には照明の為の魔道具がいくつも設置されていて、夜にはライトアップされるのだろう。
だが、それとは別に柵の周囲に半球状の物体が複数埋め込まれていた。
そこからその樹木に向けて魔力が放たれているようで、樹木の周囲に魔力の渦が巻き上がっているのを微かに感じる。
少し歩いてその樹木に近付くと、リリスはふっと異様な気配を感じた。
二の腕の小さな三つの黒点がざわざわと疼いている。
「いかがですか? リリス様。この樹木から何か感じられますか?」
「ええ、確かに・・・・・」
そう言いながらリリスはその樹木の幹に手を触れた。
リリスの手に温かい波動が伝わってくる。
「この樹木って世界樹に通じる要素を持っていますね。この樹木をどこで見つけたんですか?」
リリスの問い掛けにジーナは嬉しそうな表情で口を開いた。
「リリス様が活躍されていた、ワームホールの多発地帯の山の中です。おそらく時空の歪や大量の魔素の生滅の影響を受けて育ってきたのでしょう。ローラ様が見つけ出されて、即座にこちらに移植したのです。」
ジーナの言葉を聞きながら、リリスの傍でリンディは首を傾げていた。
リンディは話に付いていけない様子で、おずおずとリリスに問い掛けた。
「世界樹って・・・先日リリス先輩と転移してしまった世界で見た、あの世界樹の事ですか?」
リンディの言葉にリリスはうんうんと頷いた。
「そうなのよ。そうなんだけど一から話さないと、何が何だか分からないわよね。追々話すから今は、あの世界樹と通じる要素を持った樹木だとだけ理解していれば良いわよ。」
このリリスの言葉に驚いたのはジーナである。
「リリス様。この従者のリンディ様は、世界樹と関わりを持っておられるのですか?」
「ええ、ロキ様のちょっとした手違いで、世界樹のある世界に二人で転移してしまった事があるのよ。」
「ええっ! そうなんですか・・・」
驚きながらもジーナはふっと思いを巡らすような仕草をした。
おそらくリンディを瞬時に鑑定してみたのだろう。
だが腑に落ちないような表情でジーナはリンディを見つめた。
「リンディ様も不思議な方ですね。ステータスに現われているスキルと実体とでかなりのギャップがありそうだわ。」
ジーナの言葉にリンディはにやりと笑った。
「それはリリス先輩も同じですよ。ねえ先輩。」
「リンディ。こっちに話を振らないでよ。」
そう言って失笑するリリスの反応を見ながら、ジーナは再度リンディに話し掛けた。
「リンディ様って、獣人としてはかなり特殊な魔力の波動をお持ちですね。」
「ええ、私は先祖からダークリンクスの血を受け継いでいるんです。先祖返りだとも言われていますけどね。」
「ええっ! それって伝説の一族じゃないですか!」
ダークリンクスの血が流れていると聞いて、ジーナは絶句してしまった。
獣人同士ではダークリンクスと聞いた際の反応が、人族とは違うようだ。
ジーナは自分を諭すようにうんうんと頷き、リンディに話し掛けた。
「リンディ様は単なるリリス様の従者ではない事が良く分かりました。それなら宿舎で色々とお話しても大丈夫ですね。」
そう言うとジーナはリリスに話し掛けた。
「リリス様。宿舎に到着して少し寛いでいただいた後に、ローラ様が直接お目に掛かりにまいります。その際にリンディ様がおられても構いませんので、そのおつもりでいて下さい。」
直接来るってどう言う事?
疑問を抱きつつもリリスはハイと返事をした。
ジーナは笑顔で頷き、リリスとリンディを王城の外へと案内した。
王城から歩いて5分ほどの場所にリリス達の宿舎が建っていた。
宿舎とは名ばかりで、明らかに宮殿である。
3階建てで豪華な石材をふんだんに使った宮殿は、その屋根の部分がドーム状になっていて、四方に尖塔を配した造りだ。
シャンデリアが輝く広いエントランスから奥に入り、階段で3階に上がるとゲストルームが4部屋設置されていた。
その内の一つがリリスとリンディの泊る部屋で、広いリビングスペースの奥に二つのベッドルームとダイニングルームが用意されている。ベッドルームの一つは通常は従者の為のものだが、今回はリリスとリンディでメインのベッドルームを使う予定だ。
荷物を整理し、しばらくリビングスペースで寛いでいると、メイドが入室してきてリンディにメモを手渡した。
「あと5分ほど後に、ローラ女王様とジーナさんが来られるそうです。」
「そう。分かったわ。でもどんな形で来られるのかしら?」
宮殿とは言え、女王様が直接に来るとなると、護衛も付いて来るんじゃないの?
そう思ったリリスだが、その予想とは全く違った形でローラとジーナが現われた。
リビングスペースの片隅に白い光点が現われたかと思うと、あっという間に実体化し、二人の人物になってしまった。
一人はジーナで、もう一人は10歳前後の少女。
ローラの現実の姿である。
瀟洒なワンピース姿でローラはリリスに近付き、笑顔で会釈をしてリリス達の対面のソファに座った。
「リリス様。お久し振りです。先ほどは対外的な姿でお目に掛かったので、違和感を感じられたと思いますが。」
「そうねえ。びっくりしちゃったわよ。大人の姿に擬態しているなんて思っていなかったからね。」
リリスの言葉にローラは少しはにかんだ笑顔を見せた。
「この国を新たに治める際に、子供だと示しが付きませんからね。対外的な交渉事でも見下される事は明らかですから。」
「でも単なる擬態じゃないんですよ。10歳ほど加齢した時の現実の姿を実現しただけなんです。」
う~ん。
そう言うスキルを持っているのね。
「でも対外的には良いとしても、国内でローラの年齢を知っている者も居るはずよね。それってどうしたの? まさか知っている者を全て口封じとか・・・」
リリスの言葉にローラはアハハと笑った。
「そんな事はしませんよ。以前にもお伝えしたように、世界樹が私の心の中の規範ですから。」
「全国民の心に働き掛け、私の20歳前後の姿が現実であるように教え込んでいるだけです。」
「そんな事って出来るの?」
リリスの疑問にローラとジーナはウフフと含み笑いをした。
「そう言う波動を国内に送り続けているのです。」
ジーナはそう言うとリンディの方に顔を向けた。
「リンディ様なら感じ取っておられるのではありませんか? 獣人ならでは感性で・・・」
ジーナの言葉にリンディは深く頷いた。
「この国に入った時から不思議な波動を感じていたんです。道徳的な言葉を繰り返し伝えられているかと思えば、気分を高揚させられる言葉が繰り返されたりして。」
リンディの返答にジーナは少し驚いたような表情を見せた。
「やはりリンディ様は只者ではありませんね。大半の国民は無意識化で感じているだけで、内容まで把握している者は殆ど居ませんよ。あえてそう言う波長にしてあるのですから。」
ジーナはそう言うとリリスの方に顔を向けた。
「明日にでも神殿にご案内します。そこでその仕組みが分かると思いますし、リリス様と会う事を切望している者がそこに居りますので。」
「私と会いたい人?」
リリスの問い掛けにジーナは強く頷いた。
「リリス様の持つ世界樹の加護とその権限でもある産土神のスキルによって、4名の者が個別進化を遂げました。ここにおられるローラ様と私、それとあと二人の従者です。」
「一人はケネスと言う名の従者で、獣人には珍しく聖魔法を扱う人物です。彼はローラ様の健康面を管理する為に孤島に送られたのですが、現在は神殿で大祭司を務めています。」
「もう一人はグルジアと言う名の従者で、彼はローラ様の身辺の護衛の為に孤島に送られました。現在は王国軍の司令官を務めています。」
「ケネスとは神殿で、グルジアとは今晩の歓迎晩さん会でお会い出来ると思います。」
そう言う事になっているのね。
そう思って横を見ると、リンディは深く思案しているような仕草をしていた。
話の内容を整理しているのだろう。
「リンディ。何となく話の内容が分かってきた?」
「はい。大まかな内容は把握出来ました。それでリリス先輩が産土神のスキルをローラ様達に発動させたのは、ロキ様の管理下の事なんですよね?」
「ええ、もちろんよ。原則的にはロキ様の許可無く発動出来ないわ。」
リリスの言葉にリンディはふうんと答えてローラ達に目を向けた。
「私達は幸運だったのです。孤島で幽閉されていた時には、絶望感しかありませんでしたからね。」
「実は孤島から王国に戻った日の夜、私達はロキ様に会ったのです。」
えっ!
そうなの?
「その際にロキ様から聞いたのですが、リリス様の持つ世界樹の加護はこの世界のものでは無いそうですね。その加護の権能である産土神のスキルをこの世界で試行する目的で、私達が偶然にも選ばれたのであると聞きました。」
「偶然選ばれたとは言え、せっかく与えられたチャンスだから、個別進化した成果を存分にこの世界で示して欲しいとも言われました。」
そうよね。
あのままだったら、一生孤島から抜け出られなかったんだからね。
リリスは結果的にローラ達を救った事を喜ばしく思った。
その後しばらく歓談した後、ローラ達は空間魔法でその場から消えていった。
リリスとリンディはその日の夜の歓迎晩さん会に向けての準備に入った。
準備と言っても衣装は王国からのレンタルで、王家に仕えるコーディネーターがメイクやアクセサリーや衣装も整えてくれる。
リリス達はそれに身を任せるだけだ。
宮殿の2階にコーディネートの為の衣裳部屋があり、晩さん会の会場は宮殿1階のバンケットルームになっている。
およそ2時間掛けて、リリスとリンディの準備は整った。
リリスは真紅のドレスを身に纏い、少し濃いめのメイクを施してもらった。リンディは淡いブルーのドレスを身に纏い、メイクも若干控えめだ。これはあくまでも主賓とその従者と言う立場に合わせたものである。
1階のバンケットルームに入ると、既に大勢のゲストが席に着き、そのテーブルの間をメイドがドリンクの給仕の為に動き回っている。
ちなみにこの晩さん会には王国の要職に就く者も多数参席しているので、表向きにはミラ王国との関係をより強固なものにするための招待と言う事になっている。
リリスはミラ王国の王族の代理の立場であり、ノイマン卿の計らいで王家の外戚であると触れ回っていた。
それでも実質的にはリリスの為の歓迎晩さん会に違いは無い。
そこはローラ達の立場もあるので、リリスとしてもあれこれと口を挟む立場ではないと理解した。
艶やかなドレス姿のリリスに衆目が集まる。
その美しさに周囲の参席者からも称賛の声が上がった。
定められた席に着くと、その隣にはローラ女王の席があり、反対側にはノイマン卿の席がある。同じテーブルの少し離れた位置には従者であるリンディの席が設けられていた。
タキシード姿のノイマン卿がリリスを見つけ、会場の隅からこちらに向かってきた。
席に着くとノイマン卿はリリスに満面の笑みを向けた。
「リリス君。獣人達が一様に君を美しいと褒めたたえておるよ。中でも王国軍の若い司令官が君を探して、会場の中を右往左往していたのだがね。」
そう言うとノイマン卿は会場の中央に目を向けた。
「ああ、彼だよ。王国軍の司令官だ。」
ノイマンが指さす方向に目を向けると、若い獣人の軍人が嬉しそうな表情で近付いてきた。
端正な顔立ちの若い男性で、白い軍服にたくさんの徽章を付けている。
肌の色は淡い褐色で体毛が薄い印象だ。
「王国軍の司令官のグルジアと申します。ようやくお会い出来ましたね、リリス様。その節は大変お世話になりました。」
ああ、この人がグルジアさんなのね。
確かに他の獣人との違いを感じるわ。
個別進化を受けた四人の内の一人なのね。
リリスは席を立ち、グルジアと強く握手を交わした。
「ジーナから、リリス様は明日神殿を訪れる予定であると伺いました。その折に大祭司のケネスと共に改めてお目に掛かりたいと思います。」
そう言ってグルジアはその場から離れた。
その後ろ姿を目で追いながら、ノイマン卿がリリスに話し掛けた。
「リリス君。話せる範囲で良いから、君がこの国から国賓扱いで招待を受けている理由を教えてくれるかね?」
ノイマン卿の言葉にリリスは少し考え込んだ。
その後、言葉を選びながら簡略に説明を始めたのだった。
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ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
あ、出ていって差し上げましょうか?許可してくださるなら喜んで出ていきますわ!
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◆◇◆◇◆◇
誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。
100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。
更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。
また、更新は亀ではなくカタツムリレベルのトロさですので、ご承知おきください。
更新停止なども長期の期間に渡ってあることもありますが、お許しください。
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