落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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ロキの画策2

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突然目の前に現れた獣人のローラ。

猫耳の可愛い少女だが、その言葉にリリスは愕然としていた。
そのリリスに代わって龍がローラに近付いた。

「ほう! 獣人でありながら魔法にもかなり長けておるのは、リリスによる個別進化の影響なのか?」

龍の言葉にローラはハイと答えた。

「元々私は魔法は苦手でしたが、現在は属性魔法を4種類持つ事が出来ました。私の傍に居た従者達も同様です。更に彼等は体術に関しても獣人としての限界を突破しています。まあ、だからと言ってそれを無暗に使う事はありませんが・・・」

ローラの言葉に含みがある。
それをロキが問い質そうとした矢先、ローラの傍に突然光点が現われ、そこから一人の獣人の女性が現われた。
その女性はリリスや龍に会釈をし、ローラの前に跪いて口を開いた。

「ローラ様。王宮に戻る準備が整いました。すでに政敵は存在しておりません。」

そう言うとその女性はリリスに近付いてきた。

「リリス様ですね。私はローラ様の身の回りのお世話をしておりますジーナと言います。今回は私達を救出してくださってありがとうございます。」

「救出って言われても・・・。まあ、結果として救出した事になったと言う意味ね。それでジーナさん、政敵が居ないってもしかして処断したって事?」

リリスの問い掛けにジーナは少し躊躇いがちに口を開いた。

「どうしても抵抗する者は処断しました。ですが最低限の犠牲で事を進めています。それは私の中に潜在する世界樹の意思でもありますから。」

世界樹の意思?

リリスの抱いた疑問に龍も同様に反応した。

「世界樹の意思がお前達の脳内に働きかけていると言うのか?」

龍の言葉にローラもジーナも強く頷いた。
その仕草に龍は更に問いかけた。

「それは世界樹の意思に支配されているという事なのか?」

「いいえ、そうではありません。」

ジーナはそう言うときりっとした表情で龍を見つめた。

「世界樹の意思は私の中での規範です。リリス様による個別進化によって魔法やスキルも大幅に向上しました。ですがそれ以上に精神性を高められたのです。」

ジーナの言葉にローラも続く。

「ジーナの言うように私にも世界樹の意思が働きかけています。私の意思決定や行動に対して働き掛け、それが他者を統べる者としての規範にもなっていますので・・・」

う~ん。
個別進化って外見だけでなく内面性までも進化、向上させたって事?

戸惑うリリスにジーナは笑顔で話し掛けた。

「ローラ様によってアブリル王国は精神性の豊かな国に様変わりするでしょう。いずれ国賓としてリリス様をお迎えいたしますので、またお会い出来る日を私も楽しみにしています。」

ジーナは話し終えるとローラの傍に密着し、前触れもなく二人はふっとその姿を消してしまった。
瞬間的に空間魔法で転移したのだろう。
リリスにはその魔力の気配すら感じられなかったのだが。

一瞬の転移に唖然としているリリスに龍が話し掛けた。

「なかなか面白い結果を見せてもらった。個別進化が形状的な面だけでなく、精神性までも向上させるとは思わなかったぞ。」

「これなら本来の対象者達にも活用出来そうだ。」

えっ?
本来の対象者?

龍の言葉に含みを感じるリリスである。

「ロキ様。本来の対象者って何ですか?」

「ああ、この孤島での実験結果を見た上で、本格的に個別進化を試みたい者達が居るのだよ。既にお前はその者達に会った事があるのだがな。」

「えっ! それって誰ですか?」

リリスの驚きに龍は少し間を置いて答えた。

「デビア族と言えば分かるだろう? 」

「デビア族って・・・魔族じゃないですか。」

リリスはデビア族と聞いて、ブレスレットの形の魔道具をくれた長老タレスの顔を思い出した。

そう言えばデビア族って絶滅寸前だったわね。
デビア族で生存しているのは老人5人だけだって、タレスさんが言っていたわよねえ。

「お前も知っての通り、彼らはもはや絶滅寸前だ。このまま滅びるよりは、個別進化で生き延びる道を模索した方が、彼等にとっても得策だろうと思うのだよ。」

「この世界の法則に従えば、彼等はこのまま滅びていくだけだ。だが、お前が異世界から取り込んだ世界樹の加護や産土神体現スキルの活用によって、新たな選択肢が生み出された。この孤島での実証実験の結果を見て、デビア族に個別進化を適用する決断が出来たのは喜ばしい事だ。」

そうなのね。

「でも、デビア族のタレスさん達はそれに同意しているのですか?」

「ああ、話の大枠は彼等に打診してある。もう一度会って本格的に話を進めるつもりだ。決定事項となればまたお前に協力してもらうのだが、それまではしばらく待っていてくれ。」

龍はそう言うとリリスの頭上に位置を変えた。

「とりあえずフィリスに戻してやろう。ここでの時間経過は無かった事にするからな。」

龍の言葉が終わるのと同時にリリスの身体が光に包み込まれ、その場から消え去ってしまった。





気が付くとリリスはフィリスの宿舎の部屋の中に居た。
窓から外を見ると日が傾き始めている。

この部屋から孤島に転移した時と同じ時刻なのね。

リリスはそれを確かめて安堵した。
時間経過を無かった事にすると言うロキの約束は果たされたようだ。

しばらく部屋でくつろいでいると、メリンダ王女とフィリップ王子が宿舎に戻ってきたようで、リリスの部屋に兵士からの伝令があった。
それに従ってメリンダ王女の居る部屋に向かうと、二人はドルキア王国の官吏と打ち合わせをしているところだった。

「あらっ! お邪魔だったかしら?」

リリスの言葉にメリンダ王女は首を横に振った。

「大丈夫よ。話はもう終わったからね。」

そう言うとメリンダ王女はその官吏をその場から去らせた。
リリスをソファに座るように案内し、メリンダ王女はニヤッと笑って口を開いた。

「リリス。フィリスの街の修復に随分頑張ってくれたそうね。ケネスから聞いたわよ。」

メリンダ王女の言葉にフィリップ王子も続く。

「宮殿や噴水やその周辺の街路なども綺麗に修復してくれたそうだね。自分の出る幕はないってケネスが自嘲気味に話してくれたよ。」

「それと伝染病の件でも活躍してくれたそうだけど、賢者オルヴィス様と接触出来た事は驚きだね。あの賢者様の事は僕も幼少期に良く聞かされたものだ。是非またドルキア王国の為に色々と助言を頂きたいのだけど、君から連絡は取れないのかい?」

フィリップ王子の言葉にリリスはう~んと唸った。

「おそらく仮想空間の研究施設にまだおられると思うんですけど、使い魔を使って今のフィリスの様子を調べていましたから、そのうちに戻ってこられると思いますよ。」

「そうか。まあ、気紛れな賢者様だからね。気長に待っていれば会える機会もあるだろうね。」

そう言ってフィリップ王子はメリンダ王女の方に目を向けた。
それを受けてメリンダ王女は軽く頷いた。

「リリスに話しておかなければならない事があるのよ。」

少しもったいぶった口調でメリンダ王女は話を切り出した。

「このフィリスの街の南端に霊廟があるのよ。地上部分は平屋の建物で地下は5階まであって、フィリスでドルキア帝国を統治していた代々の王族達を埋葬してあるの。」

「フィリスの衰亡に伴ってその霊廟も荒れ果ててしまってね。今では大量のアンデッドが棲み付いてしまっているのよ。」

うっ!
嫌な流れね。
その大量のアンデッドを駆除しろって言うんじゃないでしょうね。

リリスはその心の内を表情に出してしまった。
それを見てメリンダ王女はハハハと笑った。

「そんな顔をしないでよ。あんたにその駆除をやらせようとは思っていないから。」

メリンダ王女の言葉にリリスはホッとして頬を緩めた。

「最初は新入生のサリナにやってもらおうと思っていたのよ。彼女ってアンデッド退治の特別なスキルを持っているそうね。」

メルったらチラさんやべリアさんから聞いたのね。

そう思ってリリスはうんうんと頷いた。

「でもね、以前に召喚術の担当教師のバルザックから聞いたんだけど、あんたの同級生のサラが、アンデッド退治の強力な召喚獣を幾つも持っているそうじゃないの。それを見てみたくてね・・・・・」

メリンダ王女の言葉に含みがある。

「実はここにサラを呼んだのよ。もちろん公務扱いでね。貴族の娘だから基本的に拒否権は無いわよ。」

「まあっ! メルったら・・・」

そこまでするの?

リリスは呆れて言葉を失った。
そのリリスを嘲笑うかのように、宿舎のスタッフがサラを部屋の中に案内してきた。
サラはリリスと目が合うと、ばつの悪そうな表情を見せた。

「サラ、お疲れ様。休日返上になっちゃったみたいね。」

リリスの言葉にサラは失笑を浮かべた。

「まあ、王女様のお呼びだからね。」

そう言いながらサラはメリンダ王女とフィリップ王子に恭しく挨拶をした。
そこはやはりミラ王国に仕える貴族の娘の所作である。

明日の早朝に霊廟に向かうと言うので、一通りの打ち合わせをしてその場は解散となった。

サラは荷物をリリスと同じ部屋に運び込み、明日の為の準備をし始めた。
そのサラの様子を見ながらリリスは微笑ましく思った。

サラったら・・・なんだかんだ言いながら、張り切っているじゃないの。

自分の召喚術を頼りにして貰えるのが嬉しいのだろう。
アンデッド退治のスキルは重宝されるので隠す必要はないと言うトーヤの言葉が、リリスの脳裏にはしっかりと浮かび上がっていたのだった。





そして翌日の早朝。

リリス達は宿舎から軍用馬車で移動し、フィリスの南端にある霊廟に向かった。

現地に到着すると霊廟もその周辺もかなり荒れ果てていた。
それはフィリスの街の衰退を象徴していると言っても良い。

霊廟の朽ちて崩れた壁の一部から、ギヤーッギヤーッと言う金切り声が重なり合って聞こえてくる。
建物の内部には大量のアンデッドが蔓延っているようだ。

これじゃあこの周辺には住めないわね。

そう思いながら念のため、リリスは魔装を非表示で発動させた。
レイス等の精神攻撃が既に周辺に及んでいるからである。

同行するメリンダ王女やフィリップ王子、サラも魔道具などで精神攻撃に対する防御の準備を整えた。

霊廟は意外にも大きな建物だった。

地上部分の平屋の建物は30m四方の大きさで高さも5mほどある。
外壁はあちらこちらが崩れていて、蔓植物がびっしりと繁茂していた。

「ねえ、サラ。とりあえず地上部分の建物の中のアンデッドを駆除してよ。」

メリンダ王女の言葉にサラはハイと答え、体内の魔力を循環させ始めた。

サラは霊廟の前に魔法陣を出現させ、一体の召喚獣を呼び出した。
眷属化されているので召喚獣と言う呼び方は適切では無い。
現われたのは片手に魔剣を持ち、もう片手には自分の頭部を抱え、真っ黒な馬に跨る黒い騎士。
デュラハンである。

その周囲に瘴気を放ち、如何にも怪しい気配を漂わせているデュラハンに、メリンダ王女もウッと呻いて後退りをした。

まあ、初見ならそう言う反応になるわよね。

リリスの反応を心の中で笑うリリスである。

そのデュラハンはサラの指示を受け、ワハハハハッと高笑いをしながら、霊廟の壁から溶け込むように内部に突撃していった。
それと同時にレイス達のギヤーッと言う悲鳴が霊廟の周囲に響き渡り、霊廟そのものがガタガタと激しく揺れ始めた。
おそらくデュラハンが無双しているのだろう。

その様子をどうしても見たいようで、メリンダ王女はリリスを先頭に立て、霊廟の扉を開いた。

魔道具の灯りで内部を照らすと、案の定デュラハンの一方的な戦いだった。
デュラハンの持つ魔剣が一閃するたびに、数体のレイスやグールが消滅していく。

「凄いわね。100体以上のアンデッドを単体で駆除しているわよ。」

メリンダ王女の目が輝いている。

デュラハンは一通りの駆除を終えると、サラの元に戻ってきた。

「ご苦労様、ロイさん。」

そう声を掛け、サラはデュラハンの召喚を解いた。
デュラハンは光の粒となって消えていく。

「ロイさんって・・・名前を付けたの?」

リリスの問い掛けにサラは首を横に振った。

「そうじゃないのよ。自分から名乗ったの。ロイ・ロベルト・フェルディナンド5世だって・・・」

うっ!
どこかの王侯貴族の名前としか思えないわ。
あえて事情を知りたいとは思わないけど、闇落ちしてデュラハンになっちゃったのね。

「ここから先もお願いするわね。」

メリンダ王女の言葉にサラは嬉しそうにハイと返事をし、リリス達は霊廟の内部に進んでいったのだった。






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