落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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魔族の村にて2

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キラ達の住む魔族の村。

その殲滅を画策するツヴァルクの攻撃が始まった。

ツヴァルクの身体から魔力が一斉に放たれ、村の上空に多数の魔方陣が出現した。
その大きさは直径3mほどで、その数は20以上ありそうだ。
それらはゆっくりと回転しながら、淡い光の点滅を繰り返している。

ツヴァルクがグッと拳を突き出すと、そのすべての魔方陣から大量のファイヤーボールが吐き出され、ゴウッと音を立てて地表に向かって来た。

「拙い! 各自、一斉にシールドを張れ!」

ガドの叫びに応じて、村人が一斉にシールドを張った。
そのシールドに総数で100にもなるファイヤーボールが着弾し、その幾つかはシールドを突き破って村を襲った。
ドドドドドッと衝撃音と爆炎が上がる。
それを急いで消火し、破られたシールドを張り直す村人達の様子を見ながら、ガドはハハハハハと高笑いをした。

「こんなのは序の口だぞ。」

そう言ってガドは再び魔方陣から多数のファイヤーボールを放った。
それをガド達がシールドで防ぐのだが、明らかにこちらが劣勢だ。

「リンディ! あいつを閉じ込められないの?」

リリスの言葉にリンディは、顔を紅潮させながらうんうんと頷いた。

「時限監獄ですね。あのツヴァルクと言う名の魔族は油断しているようだから、隙を見て発動させてみますね。」

リンディはリリスの問い掛けに応えると、フッとその姿を消してしまった。

もしかして瞬間移動?
リンディったらこんな事も出来るのね。

リンディの潜在的な能力の高さを実感しながら、リリスはその様子を見守った。
その間にもツヴァルクの魔方陣からファイヤーボールが大量に落下し、村人達は右往左往している。

「ガハハハハッ。防戦一方ではないか。何時まで防ぎきれるか見てやろう。」

明らかに慢心しているツヴァルクである。

だが気配を消してその背後に移動したリンディが、一瞬の隙を突いて空間魔法の魔力を放った。

ツヴァルクの周囲を亜空間シールドが取り巻き、そのまま球形になって収縮する。
直径5mほどの球体が一気に直径2m程に収縮し、その内壁から魔力で出来た鎖がツヴァルクの身体に巻き付いた。
その状態になるまで5秒も掛かっていない。

ツヴァルクは時限監獄の中で唖然とした。

「時限監獄だと? こんなものを発動させたのは誰だ?」

身動きの出来ない状態でツヴァルクは、リリスの傍に戻って来たリンディを睨んだ。

「リンディ、ご苦労様。時限監獄もバージョンアップしたようね。」

リリスの言葉を聞き、リンディは横に首を振った。

「リリス先輩、まだ油断出来ませんよ。アイツったら抜け出そうとしていますからね。」

「えっ?」

驚いて時限監獄に目を向けると、ツヴァルクは自分の身体から魔力の触手を数本伸ばし、時限監獄の壁面に接触させて魔力を流していた。

「あれって何をしているの?」

「あれはですね・・・・・」

リンディはリリスの問い掛けに少し間を置いた。
その間も時限監獄の様子をジッと見続けている。

「ツヴァルクは私の時限監獄の壁面を構成している魔力の波動と波長を分析しているんです。解析されると破られてしまう・・・」

「そんな事って・・・」

唖然とするリリス。
そのリリスの見ている前で、パリンと音がして時限監獄が破られてしまった。

脱出したツヴァルクは態勢を立て直して、リリスとリンディに向かって来ようとしている。
その様子を見てリンディは再び時限監獄を発動させた。

こちらに向かって来る態勢のまま、再びツヴァルクは時限監獄に閉じ込められた。

「また破られるんじゃないの?」

リリスの心配を少しでも和らげようとして、リンディは無理矢理笑顔を向けた。

「時限監獄を構成する亜空間シールドの波長を少し変えて、二重構造にしました。これで少しは時間が稼げるはずです。」

そんな事も出来るのね!
リンディったらどれだけ空間魔法に精通しているのよ。

リンディの技量に感心しつつ、リリスは真顔で問い掛けた。

「この時限監獄は何分間維持出来そう?」

「そうですね。ツヴァルクが解析するまで5分は掛かるでしょうね。」

5分!
それなら何とかなるかしら?

リリスはその場からダッシュして、時限監獄に向かった。

「リリス、危ないぞ! そいつに近付くな!」

ガドの制止を振り切り、リリスは時限監獄の傍に辿り着くと、魔力吸引をアクティブで発動させた。
大地や大気から魔力が渦を巻いてリリスの身体に流れ込んでくる。
その魔力を身体中に循環させ、リリスは無数の魔力の触手を時限監獄に向けて伸ばした。

時限監獄を構成する亜空間シールドの構造は一方通行になっていて、内部から外側には出られないが、外側から内部には魔力なら侵入出来る。
それは以前にアブリル王国の魔物駆除の際にリリスも体験済みだ。

大地からグッと魔力を吸い上げながら、リリスは魔力の触手を更に伸ばし、時限監獄の外壁からその内部に侵入させた。
その魔力の触手が多方面から一斉にツヴァルクの身体に突き刺さっていく。

時限監獄のシールドの解析に集中していた為に、ツヴァルクはその状況に気付くのが遅れてしまった。
その遅れはツヴァルクにとって致命的なものとなる。

魔力の触手が身体中に突き刺さり、グアッと叫んだツヴァルクの身体から、一気に魔力が吸い上げられたのだ。

吸い上げているのはリリスである。
ツヴァルクの邪悪な魔力がリリスの身体に大量に流れ込んできた。
その邪気を孕んだ魔力によって、頭痛と吐き気がリリスを襲う。
ううっ!と呻きながら、リリスはその魔力を体外に放出し始めた。

邪悪な魔力を周囲に放出するのは、周辺の環境に悪影響を及ぼすので、本来なら避けたいところだ。
以前にはリンディに小さな亜空間を別途用意して貰って、そこに吐き出した事もあった。

だが今はリンディにその余裕はない。
時限監獄の維持に集中しているからだ。

それにここは魔族の棲む魔大陸なので、魔族の魔力は魔族で処理して貰おうと言うのがリリスの発想だった。

大量の魔力を吸い上げられ、ツヴァルクの身体は瞬く間に小さくなっていく。
苦悩に顔を歪めているが、既に悲鳴を上げる事すら出来ない状況だ。

リリスは容赦なく魔力を吸い上げた。
程なくツヴァルクの身体は消滅し、吸い上げる魔力も無くなってしまった。

「恐ろしい娘だな。あのツヴァルクを干物にしてしまうなんて・・・」

何故か少し離れている場所のガドの呟きがリリスの耳に届いた。

これは特殊な念話だわ。

あるいは魔族特有のスキルなのかも知れない。

「リンディ。もう良いわよ。終わったみたいだから。」

リリスの言葉にリンディは安堵の表情を浮かべ、時限監獄を解除した。
ツヴァルクに破られないように、外壁の強化を図り、空間魔法の魔力を放ち続けていたリンディである。
その魔力の消耗に疲弊し、リンディはハアハアと荒い息遣いをしていた。

霧が晴れるように時限監獄は消えていった。
だがその際に地面に何かが落ちて来た。
カランと音を立てて落ちて来たのは小さなサイコロ状の物体だ。
その一辺の長さは5cmほどだろうか。
表面は黒色で赤い筋がランダムに走っている。

恐る恐るそれを拾い上げ、リリスはガドの傍に走り寄った。

「ガド様。これは何でしょうか?」

リリスの手から黒いサイコロ状の物体を取り上げ、ガドはそれを念入りに精査した。

「ふむ。ツヴァルクの奴め、消滅を免れたな。」

そう言うとガドはニヤリと笑った。

「リリス。ツヴァルクは消滅を回避するために結晶化の道を選んだのだよ。これはツヴァルクの成れの果てと言って良い。だがそれでも100年もすれば復活する可能性は高いのだがな。」

「そんな事って出来るんですか?」

リリスの驚きにガドは真顔で頷いた。

「勿論魔族の誰でもが出来る事では無い。ツヴァルクの固有の特殊なスキルに依るものだ。」

そうなのね。
ゴキブリみたいにしつこい奴だわ。

「でも100年後に復活してしまったら、また惨事を引き起こす事になりませんか?」

「それなら手はある。深い海の底に沈めてしまったら良いのだよ。復活出来た途端に水圧で潰されてしまうからな。そうなると時が来たとしても永遠に、復活のタイミングを見いだせないだろうよ。」

そう言いながらガドはマジックバッグを取り出し、結晶化したツヴァルクだと言う物体を収納してしまった。

この村人達を殲滅しようとしてウイルスを放ち、更に焼き払おうとまでしたツヴァルクである。
それ相応の罰を受けるのも止むを得まい。
魔族の事は魔族に任せよう。
そう思ってリリスはそれ以上の言及を避けた。

村の修復には少し時間が掛かりそうだ。
これ以上ここに居ても逆に邪魔になりそうなので、リリスとリンディはレームの街に戻る事をガドに申し伝えた。

「すまんなあ。本来はお前達には色々と歓待をしたいのだが、ツヴァルクが放った大量の火球に運悪く被弾した家屋や施設の修復に、早急に取り掛からなければならんのだ。」

そう言いながらガドは二人に頭を下げた。

「ああ、良いんですよ、お気になさらずに。また機会があったらここに来ますので。」

再訪する当てもなく淡々と、リリスは定型的な返答をした。
そのリリスに離れた場所からキラが駆け寄って来た。

「お姉ちゃん。これ・・・あげるね。」

そう言われて手渡された物は、黒い小さな皮袋で、その中にはカラフルな玉が5個入っていた。
どうやら飴玉のようだ。

「これは飴なの?」

「うん。」

リリスの問い掛けに応えたキラは、うふふと無邪気な笑顔を振り向けた。

「その飴は食べるとおまけが出て来るからね。」

おまけ?
何の事だろうか?

「おまけって何?」

「それは内緒!」

そう言うとキラはアハハと笑ってその場を離れ、その母親らしき魔族の女性に纏わりついた。
その女性はリリスに深々と頭を下げた。
やはりキラの母親なのだろう。

その後、ガドの指図でズールがリリスとリンディを案内し、特殊な転移の魔法で二人は宿舎の部屋の中に戻ったのだった。






宿舎に戻った二人は、お互いに顔を見合わせた。

「夢でも見ていたんですかね。」

そう言いながらリンディはソファに座って身体を伸ばすと、疲れのあまり背もたれに寄りかかったまま転寝を始めてしまった。

今回はリンディのお陰よね。
この子の空間魔法が無かったら、かなり手古摺っていたはず・・・・。

そう思うと頼りになる後輩である。
リリスは感謝の思いを込めてリンディの寝顔を見つめていた。

だがその時、思いがけず解析スキルが急に発動してしまった。

『唐突ではありますが、最適化スキルが発動し始めました。』

うん?
何の事?

『実は先ほど魔族の魔力を吸い上げた際に、その一部が体内に固着してしまったのです。それを分離させようとしたのですが、どうしても上手く分離出来ないので、止むを得ずコピースキルを無意識領域で発動させました。』

『疑似的にコピースキルに依って取り込んだ形にしたのです。それに応じて最適化スキルが発動しました。』

そんな事があったのね。
って言うか、無意識領域での発動なんて可能なの?

『まあ、非常事態での禁じ手だと思って下さい。そのまま放置しておけばどのような悪影響をもたらすか、予想出来ませんので。』

う~ん。
確かに魔族の魔力が固着してしまったら、予想外の悪影響が出て来そうよね。
それで何らかのスキルに転換出来るの?

『スキルになるか、加護のような形に成るかは分かりません。』

そうなのね。
まあ良いわよ。
優秀過ぎると評判の最適化スキルにお任せするわね。

『分かりました。半日ほど時間を下さい。最適化スキルも頑張ると言っていますので。』

ちょっと待ってよ。
最適化スキルまで疑似人格を持っちゃったの?

『あれっ? 以前から持っていますよ。奴は口下手なので表立って主張はしませんが・・・』

あんた達って・・・良く分からないわね。
まあ良いわ。
好きなようにしてよ。

リリスはそう念じて解析スキルの発動を解除した。

ツヴァルクとの闘いで身体が重い。
身体の疲れを癒すために細胞励起を掛け、しばらくソファの上で寛いでいると、目の前ですやすやと眠っているリンディの寝顔に和んでしまう。

この子ったら寝顔まで愛くるしいわね。

そう思いながらソファの背にもたれ掛かると、急に眠気に襲われてきた。
リンディに引き摺られる様に、リリスもそのまま深い眠りに陥ってしまったのだった。





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