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召喚者の痕跡4
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聖剣を錬成して数日後。
リリスはマキに連絡を取って、放課後に王都の神殿のゲストルームを訪れた。
新しい聖剣を剣聖アリアに見定めて貰う為である。
この日の前日にスキルで属性の付与をして聖魔法の魔力を纏っているが、そのままでは単なる聖剣に過ぎない。
アリアに剣聖の息吹を吹き入れて貰って、アリアドーネと連携出来るようにしてもらう必要がある。
ゲストルームにマキが祭司の装束で入って来たので、リリスは手短に挨拶を交わすと早速テーブルの上に新しい聖剣を取り出した。
剣身の長さ130cmほどの、聖魔法の魔力を纏った聖剣である。
ちなみにその柄は、ホーリースタリオンの錬成の際と同様に、学舎地下の武具店で仮に用意して貰った。
それ故に豪華なものではない。
どこまでも質素な造りの柄だ。
いずれアストレア神聖王国に手渡った時には、神聖王国側で立派なものに造り直すだろう。
「これが新しいアリアリーゼなんですね。」
マキはその剣の剣身をスッと撫でて呟いた。
「そうなのよ。何とか用意出来たわ。それでマキちゃん。アリアを呼び出して。」
リリスの言葉にマキはうんと頷き、その耳のイヤリングに魔力を送った。
瞬時にリリス達の目の前に、プラチナ色のメタルアーマーを着たアリアが出現した。
そのアリアの表情が嬉しそうだ。
新しい聖剣の剣身を指で撫で、アリアはニヤッと笑ってリリスに問い掛けた。
「意外に早かったじゃないの。聖剣が用意出来たのね。」
アリアはそう言うと聖剣を手に持ち、真剣な表情で剣の隅々まで精査し始めた。
それはリリスにとっても緊張の時間である。
だが5分ほどの沈黙の後、アリアの表情が緩むのが分かった。
「うんうん。この出来栄えなら及第点をあげるわ。錬成に多少の雑なところはあるけど、特に問題は無いわね。」
そう言って剣を持つアリアにリリスは問い掛けた。
「それなら、アリアリーゼとして使って貰えるのね。」
「そう。そう言う事よ。早速私の息吹を吹き込むわね。」
アリアは剣を上に向けて高く持ち、自分の魔力をその柄に吹き込んだ。
その途端に剣身の中央に青白い光が走り、ブンッと音を立てて清らかな魔力を放った。
その魔力はリリスとマキを爽快感で満たし、拡散されて消えていった。
「これで良いわよ。今拡散された魔力に反応する特殊な魔道具がアストレア神聖王国にはあるの。アリアリーゼが復活したと知って、アストレア神聖王国では今頃大騒ぎになっているわよ。」
「そうなの? 俄かに信じられないような事だけど、アリアが言うからには本当なんでしょうね。」
リリスの言葉にアリアは一瞬ムッとしたようだが、次の瞬間にはニヤッと笑った。
「剣聖の言う事を疑うんじゃないわよ。」
「あっ、失礼しました。」
リリスは反射的に謝った。
アリアは何事も無かったように新しいアリアリーゼを再度手に持ち、真剣な目つきでその剣身をジッと眺めた。
「う~ん。造りが多少甘いから、耐用年数があまり長くないわね。500年持つか否かってレベルね。」
それだけ持てば充分じゃないの。
そう思ったリリスだが、剣聖であるアリアに寿命の制約は無い。
そのアリアにとって500年は、短いと言えば短い年月なのかも知れない。
「駄目になればまたあんたが造ってね。」
「そんなに生きていないわよ。」
「それならあんたの後継者を育てておいてよね。」
この言葉のやり取りの中でリリスは、アリアリーゼの錬成者が自分である事をアリアは悟っていると感じた。
亜神達には隠し通せたスキルも、アリアにはお見通しなのだろうか?
だからと言って、それをあからさまにしないような配慮はしてくれているようだが・・・。
不思議な存在だ。
その存在そのものも、また人族に対するその立ち位置も・・・・・。
リリスは脳内を錯綜する様々な思いを一旦断ち切り、聖剣に息吹を吹き入れてくれたアリアに謝意を告げた。
しばらくマキやアリアと歓談した後に、リリスは王都の神殿から馬車で学舎に戻った。だが生徒会の部屋に向かう途中で早速呼び出しを受けた。
ゲストルームに行くようにと言う連絡だ。
動きが速いわね。
そう思いながら職員室の隣のゲストルームに入ると、リリスの予想通りソファには、芋虫を肩に生やした小人が座っていた。
メリンダ王女の使い魔とフィリップ王子の使い魔である。
「リリス! アストレア神聖王国から連絡があったわよ。それで、用意出来たの?」
芋虫の言葉にリリスはうんと頷き、テーブルの上に新しいアリアリーゼを取り出した。
その剣身に青白い光がスッと走る。
放たれる魔力も爽やかなものだ。
小人が身を乗り出してその聖剣をジッと見つめた。
「どうやら間違いなさそうだね。それにしても仕事が早いね、リリス。」
小人の言葉にリリスは謙遜し、
「それもこれも王家からキリルさんに、玉鋼の入手を依頼してくれたからですよ。」
そう言って深々と頭を下げた。
その様子に芋虫が身体を揺らして言葉を掛けた。
「そんなに礼を言わなくても良いわよ。これは間違いなくあんたの功績なんだから。」
芋虫が合図をすると、ゲストルームの隅から執事が現われ、テーブルの上に置かれた聖剣をマジックバッグに収納した。
その執事に芋虫は王都に持参するように指示を出した。
王都ではノイマン卿が既に待機していると言う。
「持っていくだけで良いのね。」
「そうよ。それだけで良いの。アリアドーネと連携出来る事も、神聖王国の魔道具では分かるらしいのよ。」
随分便利な機能を持った魔道具ねえ。
まあ、アリアのお墨付きをもらっているので、間違いない筈だけどね。
リリスはそう思いながら、テーブルの上に出された紅茶を一口啜った。
「褒賞はまた後でね。あんたの実家の屋敷に直接送り付けるから、何が望みなのか考えておいてね。」
「ありがとう、メル。」
リリスは芋虫に礼を言って席を立ち、そのまま生徒会の部屋に向かった。
生徒会では来年度の新入生に向けてのパンフレット作りで忙しい。
この日も遅れて生徒会の部屋に向かったリリスは、賑やかな笑い声が部屋の外まで聞こえている状況に思わず微笑んだ。
エリスの他に複数の笑い声が聞こえてくる。
何時ものようにニーナやリンディが手伝いに来てくれているようだ。
リリスが部屋に入るとエリス達が笑顔で迎えてくれた。
互いに挨拶を交わして自分の席に座ると、リリスの目の前にリンディが近付き、コンパクトに畳まれた黒いドレスを手渡した。
「どうしたの?」
問い掛けるリリスにリンディはうふふと笑った。
「これは私の姉からのプレゼントです。以前に仮装ダンスパーティでリリス先輩が来ていたドレスと、ほとんど同じデザインなんですよ。」
うっ!
あの真紅の派手なドレスの色違いってどうなのよ。
しかもあの黒猫ちゃんの衣装・・・・・。
「姉がリリス先輩のドレス姿を見て、あれだけ似合うんだったら、これも似合うはずだと。サイズは少し大きいかも知れませんが、先輩も最近背が伸びたようなので、着こなせそうですね。」
「隣の来賓用のブースで試しに着て貰えませんか? 私も姉に報告しておきたいので。」
う~ん。
貰っても着る機会が無いわよねえ。
でも断るのもリンディのお姉さんに失礼かも・・・。
そう思っているとエリスが口を開いた。
「リリス先輩。せっかくだから試しに着てみて下さいよ。」
エリスに背中を押される形で、リリスは止む無くリンディと共に生徒会の部屋に隣接された来賓用のブースに入った。
このブースは空間魔法で構築された空間なので、外部から内部は見えず音声も漏れる事は無い。
あまり気乗りがしないままにブースに入ったリリスは、その黒いドレスを広げてう~んと唸った。
背中がぱっくりと開いた大胆なドレスだ。
丈は確かに少し長いが、身体に合わせてみると何とか着こなせそうに思える。
少し躊躇っているリリスに向かって、リンディは意外にも頭を下げた。
「リリス先輩。回りくどい事をして申し訳ありません。でもこうでもしないと二人っきりに成れなかったので。」
「えっ? どう言う事?」
驚くリリスにリンディは真顔で話し始めた。
「実は先日エイヴィス様から連絡があったんです。」
「エイヴィス様って・・・・・ダークリンクスの賢者様の?」
「そうです。正確には既に賢者ではなく超越者ですが、図書館の書物に隠された亜空間で、リリス先輩も会いましたよね。」
リリスは思わずうんうんと頷いた。
「でもエイヴィス様って並行世界に旅立ったと、あなたから聞いたけど・・・・・」
リリスの言葉にリンディは大きく目を開き強く頷いた。
基本的には笑顔の愛くるしい獣人の少女だが、真剣な表情も一際可愛く見える。
「そうなんです。それで私の元に連絡してきたのはエイヴィス様の使い魔で、それも僅かな時間しかこちらでは存在出来ないそうです。」
「それでその用件なんですが、1000年前に生じた時空の綻びが活性化しつつあるので、気をつけるようにと・・・・・」
時空の綻び?
リリスには何の事だか良く分からない。
その表情を見ながら、リンディは話を続けた。
「私も良く理解出来なかったので、エイヴィス様から聞いたままをお話ししますね。」
「その時空の綻びは当初、大陸西方のレイブン諸島で起きたそうです。それは稀に見るほどの大規模なもので、その沈静化には100年以上掛ったと管理者から聞いたそうです。」
「ところが最近、リリス先輩が関りを持った事が発端となって、活性化しつつあると・・・・・」
ちょっと待ってよ!
リンディの言葉にリリスは耳を疑った。
「私が関与したからって、どうしてそんな事になるのよ!」
思わず声を荒げたリリスに、リンディは申し訳なさそうな表情で頷いた。
「そうなんですよね。私も耳を疑いました。でもエイヴィス様の言葉では、リリス先輩のダンジョンメイトの体質が、時空の綻びを刺激している事は間違いないそうです。」
う~ん。
それって理不尽だわ。
そんなの言い掛かりよ。
「それでエイヴィス様の使い魔が、これをリリス先輩に渡すようにと・・・・・」
そう言いながらリンディは小さな鍵をリリスに手渡した。
何の変哲もない鍵だが、不思議な魔力が纏わりついているように感じる。
「この鍵は魔道具で、普通は何の機能も示しません。でもリリス先輩の魔力なら活性化出来るはずだと聞きました。」
「休日にでも一度、起動させて欲しいとの事です。」
そう言われてもねえ。
まあ、明日は休日だけど・・・。
不信感に満ちた表情でリリスはその小さな鍵を懐に仕舞った。
そもそもエイヴィスに関しては理解不能な部分が多くある。
元々は空間魔法を極めた賢者だったと聞いたが、今は既に超越者と言う未知の存在だ。
それなのに言われるままに機能させて良いものなのか?
多くの疑問がリリスの脳内を過った。
「とりあえずエイヴィス様からの伝言はそれだけです。それでこれなんですけど・・・・・」
リンディは申し訳なさそうな表情で黒いドレスを指差した。
「ああ、話の流れでこれを試着しなければならないのね。仕方が無いわねえ。」
リリスの言葉にリンディはハイと答えて頭を下げ、リリスの着替えを手伝った。
程なくブースから外に出て来たリリスに、歓声と嬌声が浴びせられたのは言うまでもない。
来年の仮装ダンスパーティの衣装は既に決まったと騒ぐニーナに笑顔を向けながら、リリスの心の中にはもやもやしたものが渦巻いていた。
その日の夜。
自室でリンディから受け取った小さな鍵を手に持ち、リリスは解析スキルを発動させた。
これって何なの?
『それは鍵の形をした魔道具ですね。』
『纏わりつく魔力は空間魔法のものです。』
それって亜空間に誘う為のものなの?
『それもありますが、転移装置とも考えられますね。』
う~ん。
何処かへ飛ばされちゃうって事?
『可能性はありますね。』
うん。
分かったわ。
無闇に機能させない方が良さそうね。
そう思ってリリスは解析スキルを解除した。
リンディから聞いた話は本当なのだろうか?
思い返すたびに疑問が湧いてくる。
あれこれと考えながらソファに座り寛いでいると、程なくサラが帰って来た。
サラは最近、放課後に召喚術の特別補講を受けていると言う。
「リリス。帰っていたのね。」
そう言いながらサラはカバンを机の上に放り出し、
「夕食を食べに行きましょうよ。」
リリスを誘って外に向かおうとした。だがそのサラの目に、リリスが手に持っていた小さな鍵が映った。
「どうしたの、その鍵?」
何気無くサラはその鍵に指で触れた。
だがその途端に鍵が緑色の光を放ち、点滅を始めた。
「えっ! どうしたの?」
驚いたリリスの言葉が終わらぬうちに、緑の光が大きく放たれ、リリスの視界が暗転していくのが分かった。
「ちょっと待ってよ!」
大きく叫んだリリスの傍らに、動揺するサラの気配が感じられた。
何が起きているの?
その疑問に包み込まれながらも、リリスは身に起きた事態を見守るしかなかったのだった。
リリスはマキに連絡を取って、放課後に王都の神殿のゲストルームを訪れた。
新しい聖剣を剣聖アリアに見定めて貰う為である。
この日の前日にスキルで属性の付与をして聖魔法の魔力を纏っているが、そのままでは単なる聖剣に過ぎない。
アリアに剣聖の息吹を吹き入れて貰って、アリアドーネと連携出来るようにしてもらう必要がある。
ゲストルームにマキが祭司の装束で入って来たので、リリスは手短に挨拶を交わすと早速テーブルの上に新しい聖剣を取り出した。
剣身の長さ130cmほどの、聖魔法の魔力を纏った聖剣である。
ちなみにその柄は、ホーリースタリオンの錬成の際と同様に、学舎地下の武具店で仮に用意して貰った。
それ故に豪華なものではない。
どこまでも質素な造りの柄だ。
いずれアストレア神聖王国に手渡った時には、神聖王国側で立派なものに造り直すだろう。
「これが新しいアリアリーゼなんですね。」
マキはその剣の剣身をスッと撫でて呟いた。
「そうなのよ。何とか用意出来たわ。それでマキちゃん。アリアを呼び出して。」
リリスの言葉にマキはうんと頷き、その耳のイヤリングに魔力を送った。
瞬時にリリス達の目の前に、プラチナ色のメタルアーマーを着たアリアが出現した。
そのアリアの表情が嬉しそうだ。
新しい聖剣の剣身を指で撫で、アリアはニヤッと笑ってリリスに問い掛けた。
「意外に早かったじゃないの。聖剣が用意出来たのね。」
アリアはそう言うと聖剣を手に持ち、真剣な表情で剣の隅々まで精査し始めた。
それはリリスにとっても緊張の時間である。
だが5分ほどの沈黙の後、アリアの表情が緩むのが分かった。
「うんうん。この出来栄えなら及第点をあげるわ。錬成に多少の雑なところはあるけど、特に問題は無いわね。」
そう言って剣を持つアリアにリリスは問い掛けた。
「それなら、アリアリーゼとして使って貰えるのね。」
「そう。そう言う事よ。早速私の息吹を吹き込むわね。」
アリアは剣を上に向けて高く持ち、自分の魔力をその柄に吹き込んだ。
その途端に剣身の中央に青白い光が走り、ブンッと音を立てて清らかな魔力を放った。
その魔力はリリスとマキを爽快感で満たし、拡散されて消えていった。
「これで良いわよ。今拡散された魔力に反応する特殊な魔道具がアストレア神聖王国にはあるの。アリアリーゼが復活したと知って、アストレア神聖王国では今頃大騒ぎになっているわよ。」
「そうなの? 俄かに信じられないような事だけど、アリアが言うからには本当なんでしょうね。」
リリスの言葉にアリアは一瞬ムッとしたようだが、次の瞬間にはニヤッと笑った。
「剣聖の言う事を疑うんじゃないわよ。」
「あっ、失礼しました。」
リリスは反射的に謝った。
アリアは何事も無かったように新しいアリアリーゼを再度手に持ち、真剣な目つきでその剣身をジッと眺めた。
「う~ん。造りが多少甘いから、耐用年数があまり長くないわね。500年持つか否かってレベルね。」
それだけ持てば充分じゃないの。
そう思ったリリスだが、剣聖であるアリアに寿命の制約は無い。
そのアリアにとって500年は、短いと言えば短い年月なのかも知れない。
「駄目になればまたあんたが造ってね。」
「そんなに生きていないわよ。」
「それならあんたの後継者を育てておいてよね。」
この言葉のやり取りの中でリリスは、アリアリーゼの錬成者が自分である事をアリアは悟っていると感じた。
亜神達には隠し通せたスキルも、アリアにはお見通しなのだろうか?
だからと言って、それをあからさまにしないような配慮はしてくれているようだが・・・。
不思議な存在だ。
その存在そのものも、また人族に対するその立ち位置も・・・・・。
リリスは脳内を錯綜する様々な思いを一旦断ち切り、聖剣に息吹を吹き入れてくれたアリアに謝意を告げた。
しばらくマキやアリアと歓談した後に、リリスは王都の神殿から馬車で学舎に戻った。だが生徒会の部屋に向かう途中で早速呼び出しを受けた。
ゲストルームに行くようにと言う連絡だ。
動きが速いわね。
そう思いながら職員室の隣のゲストルームに入ると、リリスの予想通りソファには、芋虫を肩に生やした小人が座っていた。
メリンダ王女の使い魔とフィリップ王子の使い魔である。
「リリス! アストレア神聖王国から連絡があったわよ。それで、用意出来たの?」
芋虫の言葉にリリスはうんと頷き、テーブルの上に新しいアリアリーゼを取り出した。
その剣身に青白い光がスッと走る。
放たれる魔力も爽やかなものだ。
小人が身を乗り出してその聖剣をジッと見つめた。
「どうやら間違いなさそうだね。それにしても仕事が早いね、リリス。」
小人の言葉にリリスは謙遜し、
「それもこれも王家からキリルさんに、玉鋼の入手を依頼してくれたからですよ。」
そう言って深々と頭を下げた。
その様子に芋虫が身体を揺らして言葉を掛けた。
「そんなに礼を言わなくても良いわよ。これは間違いなくあんたの功績なんだから。」
芋虫が合図をすると、ゲストルームの隅から執事が現われ、テーブルの上に置かれた聖剣をマジックバッグに収納した。
その執事に芋虫は王都に持参するように指示を出した。
王都ではノイマン卿が既に待機していると言う。
「持っていくだけで良いのね。」
「そうよ。それだけで良いの。アリアドーネと連携出来る事も、神聖王国の魔道具では分かるらしいのよ。」
随分便利な機能を持った魔道具ねえ。
まあ、アリアのお墨付きをもらっているので、間違いない筈だけどね。
リリスはそう思いながら、テーブルの上に出された紅茶を一口啜った。
「褒賞はまた後でね。あんたの実家の屋敷に直接送り付けるから、何が望みなのか考えておいてね。」
「ありがとう、メル。」
リリスは芋虫に礼を言って席を立ち、そのまま生徒会の部屋に向かった。
生徒会では来年度の新入生に向けてのパンフレット作りで忙しい。
この日も遅れて生徒会の部屋に向かったリリスは、賑やかな笑い声が部屋の外まで聞こえている状況に思わず微笑んだ。
エリスの他に複数の笑い声が聞こえてくる。
何時ものようにニーナやリンディが手伝いに来てくれているようだ。
リリスが部屋に入るとエリス達が笑顔で迎えてくれた。
互いに挨拶を交わして自分の席に座ると、リリスの目の前にリンディが近付き、コンパクトに畳まれた黒いドレスを手渡した。
「どうしたの?」
問い掛けるリリスにリンディはうふふと笑った。
「これは私の姉からのプレゼントです。以前に仮装ダンスパーティでリリス先輩が来ていたドレスと、ほとんど同じデザインなんですよ。」
うっ!
あの真紅の派手なドレスの色違いってどうなのよ。
しかもあの黒猫ちゃんの衣装・・・・・。
「姉がリリス先輩のドレス姿を見て、あれだけ似合うんだったら、これも似合うはずだと。サイズは少し大きいかも知れませんが、先輩も最近背が伸びたようなので、着こなせそうですね。」
「隣の来賓用のブースで試しに着て貰えませんか? 私も姉に報告しておきたいので。」
う~ん。
貰っても着る機会が無いわよねえ。
でも断るのもリンディのお姉さんに失礼かも・・・。
そう思っているとエリスが口を開いた。
「リリス先輩。せっかくだから試しに着てみて下さいよ。」
エリスに背中を押される形で、リリスは止む無くリンディと共に生徒会の部屋に隣接された来賓用のブースに入った。
このブースは空間魔法で構築された空間なので、外部から内部は見えず音声も漏れる事は無い。
あまり気乗りがしないままにブースに入ったリリスは、その黒いドレスを広げてう~んと唸った。
背中がぱっくりと開いた大胆なドレスだ。
丈は確かに少し長いが、身体に合わせてみると何とか着こなせそうに思える。
少し躊躇っているリリスに向かって、リンディは意外にも頭を下げた。
「リリス先輩。回りくどい事をして申し訳ありません。でもこうでもしないと二人っきりに成れなかったので。」
「えっ? どう言う事?」
驚くリリスにリンディは真顔で話し始めた。
「実は先日エイヴィス様から連絡があったんです。」
「エイヴィス様って・・・・・ダークリンクスの賢者様の?」
「そうです。正確には既に賢者ではなく超越者ですが、図書館の書物に隠された亜空間で、リリス先輩も会いましたよね。」
リリスは思わずうんうんと頷いた。
「でもエイヴィス様って並行世界に旅立ったと、あなたから聞いたけど・・・・・」
リリスの言葉にリンディは大きく目を開き強く頷いた。
基本的には笑顔の愛くるしい獣人の少女だが、真剣な表情も一際可愛く見える。
「そうなんです。それで私の元に連絡してきたのはエイヴィス様の使い魔で、それも僅かな時間しかこちらでは存在出来ないそうです。」
「それでその用件なんですが、1000年前に生じた時空の綻びが活性化しつつあるので、気をつけるようにと・・・・・」
時空の綻び?
リリスには何の事だか良く分からない。
その表情を見ながら、リンディは話を続けた。
「私も良く理解出来なかったので、エイヴィス様から聞いたままをお話ししますね。」
「その時空の綻びは当初、大陸西方のレイブン諸島で起きたそうです。それは稀に見るほどの大規模なもので、その沈静化には100年以上掛ったと管理者から聞いたそうです。」
「ところが最近、リリス先輩が関りを持った事が発端となって、活性化しつつあると・・・・・」
ちょっと待ってよ!
リンディの言葉にリリスは耳を疑った。
「私が関与したからって、どうしてそんな事になるのよ!」
思わず声を荒げたリリスに、リンディは申し訳なさそうな表情で頷いた。
「そうなんですよね。私も耳を疑いました。でもエイヴィス様の言葉では、リリス先輩のダンジョンメイトの体質が、時空の綻びを刺激している事は間違いないそうです。」
う~ん。
それって理不尽だわ。
そんなの言い掛かりよ。
「それでエイヴィス様の使い魔が、これをリリス先輩に渡すようにと・・・・・」
そう言いながらリンディは小さな鍵をリリスに手渡した。
何の変哲もない鍵だが、不思議な魔力が纏わりついているように感じる。
「この鍵は魔道具で、普通は何の機能も示しません。でもリリス先輩の魔力なら活性化出来るはずだと聞きました。」
「休日にでも一度、起動させて欲しいとの事です。」
そう言われてもねえ。
まあ、明日は休日だけど・・・。
不信感に満ちた表情でリリスはその小さな鍵を懐に仕舞った。
そもそもエイヴィスに関しては理解不能な部分が多くある。
元々は空間魔法を極めた賢者だったと聞いたが、今は既に超越者と言う未知の存在だ。
それなのに言われるままに機能させて良いものなのか?
多くの疑問がリリスの脳内を過った。
「とりあえずエイヴィス様からの伝言はそれだけです。それでこれなんですけど・・・・・」
リンディは申し訳なさそうな表情で黒いドレスを指差した。
「ああ、話の流れでこれを試着しなければならないのね。仕方が無いわねえ。」
リリスの言葉にリンディはハイと答えて頭を下げ、リリスの着替えを手伝った。
程なくブースから外に出て来たリリスに、歓声と嬌声が浴びせられたのは言うまでもない。
来年の仮装ダンスパーティの衣装は既に決まったと騒ぐニーナに笑顔を向けながら、リリスの心の中にはもやもやしたものが渦巻いていた。
その日の夜。
自室でリンディから受け取った小さな鍵を手に持ち、リリスは解析スキルを発動させた。
これって何なの?
『それは鍵の形をした魔道具ですね。』
『纏わりつく魔力は空間魔法のものです。』
それって亜空間に誘う為のものなの?
『それもありますが、転移装置とも考えられますね。』
う~ん。
何処かへ飛ばされちゃうって事?
『可能性はありますね。』
うん。
分かったわ。
無闇に機能させない方が良さそうね。
そう思ってリリスは解析スキルを解除した。
リンディから聞いた話は本当なのだろうか?
思い返すたびに疑問が湧いてくる。
あれこれと考えながらソファに座り寛いでいると、程なくサラが帰って来た。
サラは最近、放課後に召喚術の特別補講を受けていると言う。
「リリス。帰っていたのね。」
そう言いながらサラはカバンを机の上に放り出し、
「夕食を食べに行きましょうよ。」
リリスを誘って外に向かおうとした。だがそのサラの目に、リリスが手に持っていた小さな鍵が映った。
「どうしたの、その鍵?」
何気無くサラはその鍵に指で触れた。
だがその途端に鍵が緑色の光を放ち、点滅を始めた。
「えっ! どうしたの?」
驚いたリリスの言葉が終わらぬうちに、緑の光が大きく放たれ、リリスの視界が暗転していくのが分かった。
「ちょっと待ってよ!」
大きく叫んだリリスの傍らに、動揺するサラの気配が感じられた。
何が起きているの?
その疑問に包み込まれながらも、リリスは身に起きた事態を見守るしかなかったのだった。
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◆◇◆◇◆◇
誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。
100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。
更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。
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