落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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演武会2

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リリスの不安と共に始まった演武会の武技部門。

2年生の参加者ダルトンはその大柄な体躯を奮い立たせ、両手剣をしっかりと握りしめた。
目の前に迫ってくるのは、3年生の担任であるバルザックの召喚したスケルトンの兵士達だ。
だがその雰囲気がやたらに禍々しい。

話が違うぞ!

ダルトンはそう思いながらも魔力を集中させ、身体強化のスキルを発動させた。身体中に力が漲ってくる。
それと同時に身体中の筋肉が盛り上がり、見た目にも一回り大きくなったように感じられる。
更に両手から流れる魔力が両手剣を循環し、両手剣は青白い光を放ち始めた。
彼の持つ両手剣も魔剣である。
魔力によってその威力が格段に上がるのだ。

2年生ながら並外れた身体強化のスキルを持つダルトンは、その大きな両手剣を身体の真横に構え、スケルトン達の真正面に駆け込んでいった。
迎え撃つスケルトンはまず3体が魔剣を振り上げ、盾を正面に持ちながら間合いを詰めた。だがダルトンはその両手剣の届く間合いに入る直前にソニックを放ち、一歩進んだタイミングで両手剣で真横に一閃した。
スケルトンの兵士はソニックで態勢を崩されガードが空いた間隙を襲われ、なす術もなく両断されてしまった。
ダルトンの動きに反応してその3体の背後のスケルトン達が迎撃に向かう。だが身体強化されたダルトンの動きはその時間的な隙を与えない。
素早い両手剣の動きで2体のスケルトンが切り裂かれ、その手に持っていた魔剣が宙に舞う。

だがダルトンが5体のスケルトンを撃破している間に、最奥部に居たスケルトンのうちの1体が不気味な魔力を蓄えていた。
そのスケルトンは魔剣から異様な魔力を放ち、それを周囲のスケルトンの魔剣に共鳴させ、4体のスケルトンの魔剣から邪気を含んだ精神波がダルトンの周囲に放たれた。

その途端にダルトンの動きに切れが無くなり、その足取りが鈍くなってしまった。
どうやら精神攻撃に対する耐性を持っていなかったようだ。
身体強化のスキルもこの状態では無効に等しい。

そのダルトンに向かって残り5体のスケルトンが間合いを詰めてくる。
これでは拙い。

ロイドが戦闘を中断させようとしたその時、次の出番の為に待機していたガイが飛び出した。

「加勢するぞ!」

そう叫んでガイは亜空間収納からハルバートを取り出し、同時に身体強化のスキルを発動させ、そのハルバートを両手で頭上に回転させながら切り込んでいった。ガイは精神攻撃に耐性を持っているので、スケルトン達の魔剣の放つ精神波にも惑わされない。
ハアアアアアッと気合を入れて振り回すハルバートは、ガイの魔力を受けて白い光を放ち始め、まるで光の鞭のようにスケルトン達を切り刻んだ。
スケルトンの身体は粉々に砕かれて舞い上がり、ガイの周囲にバラバラと撒き散らされた。

スケルトンの殲滅に伴って精神波も消え、ダルトンは頭をトントンと叩きながらガイの傍に歩み寄った。そのダルトンをいたわるようにガイは肩を抱き、ハルバートを高く突き上げた。
そのガイの戦闘に会場内も盛り上がり、歓声と拍手が鳴り響いた。

その様子にほっと胸を撫で下ろすロイドは、直ぐにバルザックの元に駆け寄った。

「バルザック先生。少しは加減してくださいよ。ガイ君には対処出来たようですが、今のようなレベルのスケルトンは、生徒達の攻略対象としては少々荷が重いと思います。」

ロイドから詰められたバルザックの表情が強張っている。まるで父親に咎められている子供のような表情だ。

「いや、それがだね・・・。私としても予期せぬ召喚だったんだよ。」

そう言ってバルザックは頭を掻きながら一息入れた。

「何故か自分が意図しているものよりも、レベルの高いものが召喚されてしまったんだ。私としてもこんな事は経験が無い。」

「それに魔力の消耗も大きいんだよ。これも自分の意図するものではないのだが・・・」

その言葉が終わらないうちに、バルザックは懐からマナポーションを取り出して、ためらわずにそれを飲み干した。
そのマナポーションはリリスが前日生成したもののうちの1本だ。


バルザックがロイドと話し合っている様子を遠めに見ていたリリスは、ガイの活躍に安堵の溜息をついた。だがバルザックがリリス特製のマナポーションを再び飲み干した情景を見て、リリスの胸に再び不安が過ってきた。

私の生成したポーションの影響でこの混乱が起きているとしたら拙いわねえ。
しかもバルザック先生ったら、もう1本飲んじゃったわ。

生徒会のメンバーとしては申し訳ない限りだ。リリスはこれ以上の突発事項の無い事を願うのだが、その願いは聞き届けられなかった。

演武の舞台に残ったガイの目の前に召喚されたのは、やはり魔剣を持ち妖気を放つスケルトン達だった。
その様子を見たロイドの突き刺すような視線がバルザックに向けられ、バルザックは恐縮して小さくなってしまった。

だがそれでも彼らはガイの敵ではない。

ガイは気合を入れて奮い立ち、ハルバートを頭上に掲げてスケルトン達に切り込んでいった。
魔力に満ちたハルバートは物理的にも魔法的にも驚異的な攻撃力を見せる。金属の盾ごとスケルトンを粉砕し、魔力に伴う衝撃波が背後に対峙するスケルトンまで吹き飛ばす。その吹き飛ばされたスケルトンにハルバートでとどめの一撃を撃ち込みながら、素早いスピードで態勢を整えるガイに隙は無い。瞬時に身体の向きを変えてダッシュし、最奥部のスケルトンの殲滅に向かった。

一方、最奥部のスケルトンの1体が魔力を集中させて身体中に循環させると、そのスケルトンを取り囲むように2体のスケルトンが寄り添い、そのまま合体して大きなスケルトンになってしまった。その体長は2mを越えている。大きく頑丈そうな盾を持ち、その手に持つ魔剣もダルトンが手にしていた両手剣ほどの大きさだ。
この大きなスケルトンは目が赤く光り、妖気と邪気を放ちながらガイを迎え撃った。

ガイのハルバートとスケルトンの魔剣がガツンッと鈍い音を立ててぶつかり、火花を散らして両者が睨み合い対峙する。
この時、リリスにはガイの口角が上がっているのが見えた。

「ガイったら、楽しんじゃっているわね。」

思わず口走った言葉に隣席のエリスも、えっと驚いてガイの様子を見つめ、一人で納得したように無言でうんうんと頷いた。

ガイは更に魔力を集中させハルバートに流しながら、大きなスケルトンの魔剣と何度もぶつけ合った。
真横から魔剣にぶつけたハルバートを斜め下から斬り上げ、反対側の斜め上から斬り降ろす。その動作を繰り返すたびに激しい衝撃音と火花が飛び散り、大きなスケルトンも少しづつ後ろに下がらざるを得なかった。

ガイの激しい攻撃を受けながら、斬り込むきっかけを作ろうとして、大きなスケルトンが威圧を放った。その波動が観客席にまでびりびりと伝わってくるのだが、それでもガイは屈しなかった。

大きなスケルトンの僅かに見せた隙をついて、ガイが水平に振り回した渾身の一撃がスケルトンの魔剣をへし折り、その巨躯を真っ二つに引き裂いてしまった。

オオオオオオッと言う歓声が会場内に響き渡り、拍手が鳴り響く。
ガイはハルバートを高く突き上げて、勝利のアピールをした。それに呼応して会場からも歓声が再び沸き上がる。
ガイがその場から離れても、会場内の興奮は冷める様子が無かったほどだ。

そしてこの日の真打の登場となる。

ロイドの紹介で会場に現れたのは生徒会長のロナルドだ。

レザーアーマーにブーツと言う軽装ではあるが、その手に持つ魔剣がロナルドの闘気を孕み、不思議な波動を放っている。
エクリプスと呼ばれるこの魔剣は扱いの難しい魔剣である。剣技に長けた者でもその評価は分かれており、邪剣であると決めつける者もいる。
だがその制御を上手くこなせば、絶大な威力を発揮するとも言われているのがこのエクリプスだ。

ロナルドはエクリプスを高く突き出し、その剣身に魔力を更に流した。エクリプスはカッと光り、妖気を放ち始めた。

「バルザック先生! 召喚獣のレベルを上げてください!」

ロナルドの叫びが会場内に響き渡る。それに応じて会場からも歓声が上がった。

ロイドは好きにしろと言わんばかりにロナルドに合図をし、ロナルドの要求に応えるようにバルザックに指示を出した。
バルザックは自分の意思と異なるものが召喚されていたので、それほどには応じようとしていなかった。だがいざ召喚となると、何故か魔力が暴走気味になってしまう。
まあ、多少のミスは我慢して貰おう。
そんな気持ちで召喚すると、前回にも増して異様なものを召喚してしまった。

「何!」

バルザックが驚いたのも無理はない。

ロナルドの目の前に召喚されたのは、作務衣を着た大柄なスケルトンだった。その腰に帯刀しているのは明らかに刀だ。スケルトンは威圧を放ちながら、その大小の刀を鞘から抜いた。

右手に2m近くの細身の刀、左手には1mほどの細身の刀。二刀流だ。

あれって・・・・・日本刀じゃないの!

思わず息を呑むリリスの驚嘆は計り知れない。
照明を受けて刀身をツーッと走る光が実に不気味だ。しかも魔力を纏い、妖気と瘴気まで放っている。

その瘴気の影響を受けないために、観客席に再度シールドが重ね張りされた。

「面白そうな相手だ。バルザック先生、恩に着るぞ!」

そう言ってロナルドは魔剣エクリプスを振り上げ、スケルトンに向かって斬り込んだ。一方、スケルトンは赤い目を光らせ、大小二本の刀を交差させながらロナルドを迎え撃った。

ロナルドの振り下ろした魔剣を交差する二本の刀で受け止め、跳ね上げながら長刀で真横から斬り込むスケルトン。だがロナルドも刀の動きを見切っていて、地に立てた魔剣で受け止めると飛び上がって魔剣を振り下ろした。袈裟懸けにするつもりだったのだが、スケルトンはくるりと身体を反転させ、小刀で魔剣を受け止めると、身体を低くしながら長刀を斜め下方に振り回した。
だがこれもロナルドは魔剣の剣身で受け止めながら後方に飛んで回避する。
その動きが実に滑らかだ。

スケルトンの刀に魔剣の剣身を合わせながら、刀身の向きと流れを僅かに逸らしながら隙を突こうとするロナルド。振り下ろされる魔剣の剣身の流れを大小二本の刀が受け止め跳ね上げながら一閃しようとするスケルトン。
両者の剣技のぶつかり合う時間が更に続き、魔剣と刀の交差する瞬間のキンキンキンと言う金属音と火花が飛び交う。
その息を呑むような闘いに、観客席は異様なほどに静まり返った。

だが剣技には秀でたロナルドである。

幾度かの交錯の後、大小二本の刀を交差してロナルドの魔剣を上から抑え込む形になったその瞬間、ロナルドは大量の魔力を流し、その魔力を衝撃波に変えながら大きく上方に突き上げた。
絶妙のタイミングで捌かれた二本の刀はスケルトンの手から離れ、上空に舞い上がった。その瞬間を見逃さず、ロナルドが魔剣を一閃する。
スケルトンは作務衣ごと両断されてしまった。

ウオオオオオオッと歓声が上がり、観客席からの拍手が会場内に鳴り響いた。

ロナルドはエクリプスを高く突き上げ、勝利の雄たけびを上げようとした。
だがその足取りがふらふらしている。それほどに消耗してしまったのか?

リリスも不思議に思ってみていると、突き上げたエクリプスの尖端から、黒い霧のようなものが噴き出しているのが見えた。

あれって何?

疑問を抱きつつロナルドの顔を見ると、その目が赤く光っていた。

ええっ!
ロナルド先輩、どうしたの?

異様な事態を感じたのはリリスだけではない。観客席からもざわざわと声が上がっている。心配したロイドがロナルドに近付くと、ロナルドはふらふらしながらエクリプスを振り回し、人を寄せ付けない状態になってしまった。

止むを得ずロイドは魔力の衝撃波をロナルドに放ち、正気に戻そうとした。だが振り回されているエクリプスからその都度シールドが生み出され、衝撃波がロナルドにまで届かない。逆にロイドが魔剣を振り回すロナルドに追い回されてしまう始末である。

「これってどうしたら良いんですか?」

エリスが問い掛けるがリリスも答えようがない。
どうしようかと案じていると、リリスの背後に二人の男性が近付いて来た。
一人はリトラスで、もう一人はリトラスと一緒に居た初老の男性だ。
二人はリリスの後ろに立ち、再度ロナルドの様子を見た。

「あれはエクリプスの妖気に囚われてしまっておるぞ。あの男の剣技に対する慢心に、エクリプスの妖気がつけ込んだのだろうな。」

そう言いながら、初老の男性はリトラスに聖剣の準備をするように促した。

何をするつもりなの?

リリスはそう思いながら、初老の男性とリトラスの行動を見つめていた。







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