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少年の初恋1
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夜明け前。
学生寮を抜け出したリリスは、学舎から離れた薬草園の近くに足を運んだ。間も無く日の出の時間なので空は薄暗いが、たなびく雲がうっすらと朱色に色づいていて目に優しい。風も穏やかに心地好く吹いている。
ここなら人目に付く事も無い。
自分の服の懐に抱いていたリンを空に向けて放った。
(リンちゃん、元気でね。)
念話を送るとリンはこちらを向いて目の高さでホバリングし始めた。
(ハドルさんが迎えに来てくれました。)
えっ!
巨大な竜が迎えに来るの?
驚いているリリスを嘲笑うかのように、上空からリンと同じくらいの大きさの竜が近付いてきた。ハドルも気を遣って小さなサイズで迎えに来たようだ。
(リリス殿。姫様を連れて来てくださってありがとうございます。)
ハドルの念話がリリスの脳内に響く。念話なのに圧が強いのは何故だろうか?
そう思いつつもリリスは、
(ハドルさんも人目を警戒して小さなサイズで来てくれたんですね。それに魔力まで表に現れないように制限しているのね。)
(勿論ですよ。実体で現れたら人族の標的にされてしまいます。ドラゴンスレイヤーに目を付けられるのは嫌ですからね。)
そんなものは魔法学院の敷地には居ないわよ。
母のマリアが此処に居たら、どうするか分からないけどね。
(ヌディアさんは来ていないのね。まだ体調が良くないの?)
リリスの念話に手のひらサイズの黒い竜はその翼でポリポリと頭を掻いた。
(ヌディアの体調は万全です。ですが・・・・・ばつが悪くてリリス殿の前には出てこれないと言って、付いて来ませんでした。)
そうなのね。
まあ、私もまだ少し心にしこりがあるのも事実なんだけど。
リリスはそう思いながら、徐々に上空に向かおうとするリンとハドルに手を振った。
(リリスお姉様。また来ますね。)
(ええ、いつでも歓迎よ。でもその姿のままで帰れるの?)
リリスの念話にハドルが入り込んできた。
(このまま上空5000mまで上昇します。そこで元の姿に戻って北西に向かう予定です。)
そう言う事なのね。
(それでは!)
ハドルの念話と共にリンとハドルの姿が急上昇し、一瞬で見えなくなってしまった。
突然の事にリリスも唖然とするばかりだ。
さらに1分ほど経って、上空に大きな魔力の存在を一瞬感じたが、それも瞬時に消えてしまった。
あんな風に高速移動出来るのね。
改めて高位の竜の能力に感心するリリスである。朝焼けの空を見つめながら、リリスは急ぎ足で学生寮に戻った。
この日の午前中の授業は座学で、人工知能やホムンクルスに関するものだった。
担当の教師はエルクと言う初老の男性の非常勤講師で、普段は王立の科学院で研究に没頭していると言う。
ホムンクルスや人工知能は一時失われてしまった技術だが、古代の遺跡や遺物の研究の成果もあって、今は一つの研究分野として確立しているそうだ。
その第一人者がこのエルクである。
リリスは以前から疑問があって、授業の終了時に教室を出ようとするエルクに質問してみた。
「先生、人工知能の疑似人格の話について質問があるのですが・・・」
エルクは足を止めリリスに笑顔を向けた。
「リリス君。どんな質問かね?」
「はい。疑似人格を持つものは人工知能以外にもありますよね。それで・・・スキルが疑似人格を持つ事ってあり得ますか?」
突然の質問内容にエルクは一瞬真顔になったが、直ぐに元の笑顔に戻った。
「それはまず有り得ないね。疑似人格と言うものはその存在の背景に、膨大な情報量を有してこそ生み出されると言うのが定説だからね。スキルや魔力が単体で疑似人格を持つと言う事は有り得ない。君はそんなものを見た事があるのかい?」
「いいえ。」
リリスは反射的に首を横に振った。
「ただ可能性として有り得るのかなと思って・・・・・」
リリスの言葉にエルクは手に持っていたカバンを置き、少し考える仕草をした。
「こう言う議論は僕も好きなので、可能性を考えてみよう。例えば・・・」
エルクは一息入れて、
「例えば君のスキルが疑似人格を持っていたとしよう。その疑似人格の背景となる膨大な情報量とは何だろうか? それを考えると幾つかの仮説が浮かんでくる。」
「例えば君の身体に何者かが深く憑依していたとしよう。その者の持つスキルだけが君のスキルとして表に出ていて、そこに現れる疑似人格はその憑依者のものかも知れない。」
エルクの言葉にリリスは内心、小さく動揺した。
「それは気味の悪い話ですね。」
「まあ、たとえ話だよ。憑依と言ったが、魔力に混入していると言う事も考えられるし、封じ込められていると言う事だって考えられる。」
「また、何処かに膨大な情報量を持つ人工知能があって、その疑似人格が君の脳内に中継機能を創出して具象化する事も考えられる。いや、むしろそっちの方が実現性が高いかもね。」
エルクはそれなりに結論付けしようとしている様子だ。
「脳内の中継機能って後から出来るものですか?」
「それは多様性があると思うよ。先天的に持っていてある時に急に覚醒する事も有るだろうし、後天的に魔道具などを埋め込むことで得られるものもあるだろうからね。」
そう言いながらエルクはカバンを取り、話を終えようとした。だがもう一度カバンを置き、
「そう言えば別な可能性もある。そのスキルを持つ者が多重人格者で、普段隠れている別人格の言葉に騙されているケースだ。」
「それは精神疾患と言う事ですね。それはまた違う話になってしまいます。」
「そうだね。話が横道に入ってしまったようだ。だが先程の話だが、先天的な脳の機能と言う事は、可能性としてはあると思うよ。」
エルクはそう言うと再びカバンを手に取った。
「気に成る事があればまた質問してくれたまえ。」
「はい。ありがとうございます。」
そう答えて、リリスは自分の席に戻った。私の解析スキルって何なのと言う疑問を抱いたが、プリントの配布等、次の授業の準備に勤しむうちにその疑問も忘れてしまった。
その日の放課後、リリスは学生寮の自室にカバンを置くと、即座に階段を上がり最上階に向かった。この日の授業の終了時に担任のケイト先生から、リリスが王族から呼び出されていると伝えられたからだ。
どうやらメリンダ王女が呼んだらしい。
また何の用事かしら?
厄介事でなければ良いのだけれど・・・。
そう思いつつ階段を上がる。最上階に上がるとメイドのチーフのセラのチェックがあるので、あらかじめ護身用のダガーは自室に置いてきた。
武器マニアのセラを刺激したくないからだ。
それでなくてもルームメイトのサラを取り込まれているように思えるので、リリスの警戒心は高まっていた。
「今日は丸腰で来たのね、残念だわ。」
黒いメイド服を着たセラの開口一番の言葉が生々しい。
今日はあんたの好物は持ち合わせていないわよ。
そう思いつつ、わざとらしい笑顔でリリスは会釈をし、別のメイドの案内でメリンダ王女の部屋に向かった。
(リリス様。お久し振りですね。)
歩くリリスの脳内にロイヤルガードのリノの念話が飛び込んできた。
(リノ。元気だった?)
(ええ。それなりに多忙ですけどね。ところでリリス様は覇竜の加護を受けられたと聞きましたが・・・)
どうしてそれを知っているの?
そう思いつつもリリスの頭にメリンダ王女の顔が浮かんだ。
(メリンダ王女から聞いたのね。)
(はい。そうなんですけど・・・)
何を言い淀んでいるの?
(私の部下で魔力の波動に極度に敏感なメンバーが居るのですよ。その子はリリス様が上がってきた瞬間に、巨大な魔物が来たような魔力の波動を感じてしまって、卒倒してしまいました。)
まあ、嫌だわねえ。
(リノ。あなたはどうなの?)
(私はそこまで過敏ではありませんので。それでも一瞬大きな魔力を感じましたが、すぐに消えてしまいました。まるで勘繰られるのが嫌で姿を隠したような気配で・・・・・)
(それは私の意志とは関係なく出現するのかも知れないわね。覇竜の加護に関しては私にも良く分からないのよ。それでリノ達に迷惑が掛かったら申し訳ないのだけど。)
(いえ。迷惑なんて有りません。それにリリス様の事は基本的にスルーしますので。)
(そうして貰えると助かるわ。)
リノとの念話を終えるとリリスはメイドの案内で、メリンダ王女の部屋に入る様に促された。
豪華な装飾の施された扉を開けて中に入ると、長いソファにメリンダ王女とフィリップ王子が座って談笑していた。
相変わらず仲が良いわね。
だからと言って別に羨ましがる気持ちも無く、リリスは笑顔を見せて挨拶を交わした。
ソファに座ったリリスには上質な紅茶が振舞われた。
菓子を摘まみ、紅茶の馥郁とした香りを楽しむリリスにメリンダ王女が話を切り出した。
「実は人を探しているのよ。」
人探し?
そんなものは諜報部員に任せれば良いじゃないの。
リリスの思いを感じ取って、フィリップ王子が口を開いた。
「メル。最初から事情を話さないとリリスには分からないよ。」
そう言われてメリンダ王女はうなづいた。
「そうよね。」
メリンダ王女は紅茶をぐっと飲み干してリリスを見つめた。
「ところでリリス。グランバート家って知ってる?」
「グランバートって上級貴族の?」
「そう。外戚待遇になっている家門で、昔から武勇で王家に対する貢献度も高い名門よ。私の母上の妹のフランソワ様が嫁いでいて、2人の女の子と1人の男の子を生んだの。その男の子がグランバート家の後継ぎになるんだけど病弱でね。本来は来年この魔法学院に入る年齢なんだけど、それすら危ぶまれているのよ。」
「リトラスって名前で頭が良くて他人に気遣い出来る優しい子なんだけどね。」
うんうん。
病弱な子って他人にも優しく対する傾向があるわよね。
「そのリトラスが体調が良かったので、先日の仮装ダンスパーティーに参加したのよ。姉のソニアが最上級生なのでね。」
「最初は暫く壁際で座っていたそうよ。その後同じくらいの年齢の女の子に誘われてダンスをしたんだけど、その子はダンスが上手でリトラスをうまくリードしてくれたの。ダンスが終わった後も色々と話をして、すっかり気が合ったみたいね。」
「その子は白い上品なデザインのワンピースを着ていたそうよ。愛嬌のある笑顔が可愛い女の子なんだけど、あれこれと手を尽くして調べてもその素性が分からないのよ。貴族の子女だとは思うんだけどね。」
メリンダ王女の話が進むにつれて、リリスの心に悪い予感が沸き上がってきた。
「それでね、リトラスがもう一度会いたいって言うのよ。」
「どうやら初恋みたいなの。その子に心を奪われちゃったのね。」
う~ん。
嫌な予感がする。
リリスは恐る恐る聞いてみた。
「その子の名前は分かるの?」
「リンって名乗っていたそうよ。」
うっ!
リリスの予感は的中した。
「その女の子がリリスと親し気に話をしていたって聞いたから、リリスに聞けば分かるんじゃないかと思って呼び出したってわけよ。」
期待に膨らむメリンダ王女の瞳がリリスをじっと見つめる。
困った事態になってしまった。本当のことを言うべきか?
リリスは暫く困惑してどうしたものかと考え込んでしまった。
学生寮を抜け出したリリスは、学舎から離れた薬草園の近くに足を運んだ。間も無く日の出の時間なので空は薄暗いが、たなびく雲がうっすらと朱色に色づいていて目に優しい。風も穏やかに心地好く吹いている。
ここなら人目に付く事も無い。
自分の服の懐に抱いていたリンを空に向けて放った。
(リンちゃん、元気でね。)
念話を送るとリンはこちらを向いて目の高さでホバリングし始めた。
(ハドルさんが迎えに来てくれました。)
えっ!
巨大な竜が迎えに来るの?
驚いているリリスを嘲笑うかのように、上空からリンと同じくらいの大きさの竜が近付いてきた。ハドルも気を遣って小さなサイズで迎えに来たようだ。
(リリス殿。姫様を連れて来てくださってありがとうございます。)
ハドルの念話がリリスの脳内に響く。念話なのに圧が強いのは何故だろうか?
そう思いつつもリリスは、
(ハドルさんも人目を警戒して小さなサイズで来てくれたんですね。それに魔力まで表に現れないように制限しているのね。)
(勿論ですよ。実体で現れたら人族の標的にされてしまいます。ドラゴンスレイヤーに目を付けられるのは嫌ですからね。)
そんなものは魔法学院の敷地には居ないわよ。
母のマリアが此処に居たら、どうするか分からないけどね。
(ヌディアさんは来ていないのね。まだ体調が良くないの?)
リリスの念話に手のひらサイズの黒い竜はその翼でポリポリと頭を掻いた。
(ヌディアの体調は万全です。ですが・・・・・ばつが悪くてリリス殿の前には出てこれないと言って、付いて来ませんでした。)
そうなのね。
まあ、私もまだ少し心にしこりがあるのも事実なんだけど。
リリスはそう思いながら、徐々に上空に向かおうとするリンとハドルに手を振った。
(リリスお姉様。また来ますね。)
(ええ、いつでも歓迎よ。でもその姿のままで帰れるの?)
リリスの念話にハドルが入り込んできた。
(このまま上空5000mまで上昇します。そこで元の姿に戻って北西に向かう予定です。)
そう言う事なのね。
(それでは!)
ハドルの念話と共にリンとハドルの姿が急上昇し、一瞬で見えなくなってしまった。
突然の事にリリスも唖然とするばかりだ。
さらに1分ほど経って、上空に大きな魔力の存在を一瞬感じたが、それも瞬時に消えてしまった。
あんな風に高速移動出来るのね。
改めて高位の竜の能力に感心するリリスである。朝焼けの空を見つめながら、リリスは急ぎ足で学生寮に戻った。
この日の午前中の授業は座学で、人工知能やホムンクルスに関するものだった。
担当の教師はエルクと言う初老の男性の非常勤講師で、普段は王立の科学院で研究に没頭していると言う。
ホムンクルスや人工知能は一時失われてしまった技術だが、古代の遺跡や遺物の研究の成果もあって、今は一つの研究分野として確立しているそうだ。
その第一人者がこのエルクである。
リリスは以前から疑問があって、授業の終了時に教室を出ようとするエルクに質問してみた。
「先生、人工知能の疑似人格の話について質問があるのですが・・・」
エルクは足を止めリリスに笑顔を向けた。
「リリス君。どんな質問かね?」
「はい。疑似人格を持つものは人工知能以外にもありますよね。それで・・・スキルが疑似人格を持つ事ってあり得ますか?」
突然の質問内容にエルクは一瞬真顔になったが、直ぐに元の笑顔に戻った。
「それはまず有り得ないね。疑似人格と言うものはその存在の背景に、膨大な情報量を有してこそ生み出されると言うのが定説だからね。スキルや魔力が単体で疑似人格を持つと言う事は有り得ない。君はそんなものを見た事があるのかい?」
「いいえ。」
リリスは反射的に首を横に振った。
「ただ可能性として有り得るのかなと思って・・・・・」
リリスの言葉にエルクは手に持っていたカバンを置き、少し考える仕草をした。
「こう言う議論は僕も好きなので、可能性を考えてみよう。例えば・・・」
エルクは一息入れて、
「例えば君のスキルが疑似人格を持っていたとしよう。その疑似人格の背景となる膨大な情報量とは何だろうか? それを考えると幾つかの仮説が浮かんでくる。」
「例えば君の身体に何者かが深く憑依していたとしよう。その者の持つスキルだけが君のスキルとして表に出ていて、そこに現れる疑似人格はその憑依者のものかも知れない。」
エルクの言葉にリリスは内心、小さく動揺した。
「それは気味の悪い話ですね。」
「まあ、たとえ話だよ。憑依と言ったが、魔力に混入していると言う事も考えられるし、封じ込められていると言う事だって考えられる。」
「また、何処かに膨大な情報量を持つ人工知能があって、その疑似人格が君の脳内に中継機能を創出して具象化する事も考えられる。いや、むしろそっちの方が実現性が高いかもね。」
エルクはそれなりに結論付けしようとしている様子だ。
「脳内の中継機能って後から出来るものですか?」
「それは多様性があると思うよ。先天的に持っていてある時に急に覚醒する事も有るだろうし、後天的に魔道具などを埋め込むことで得られるものもあるだろうからね。」
そう言いながらエルクはカバンを取り、話を終えようとした。だがもう一度カバンを置き、
「そう言えば別な可能性もある。そのスキルを持つ者が多重人格者で、普段隠れている別人格の言葉に騙されているケースだ。」
「それは精神疾患と言う事ですね。それはまた違う話になってしまいます。」
「そうだね。話が横道に入ってしまったようだ。だが先程の話だが、先天的な脳の機能と言う事は、可能性としてはあると思うよ。」
エルクはそう言うと再びカバンを手に取った。
「気に成る事があればまた質問してくれたまえ。」
「はい。ありがとうございます。」
そう答えて、リリスは自分の席に戻った。私の解析スキルって何なのと言う疑問を抱いたが、プリントの配布等、次の授業の準備に勤しむうちにその疑問も忘れてしまった。
その日の放課後、リリスは学生寮の自室にカバンを置くと、即座に階段を上がり最上階に向かった。この日の授業の終了時に担任のケイト先生から、リリスが王族から呼び出されていると伝えられたからだ。
どうやらメリンダ王女が呼んだらしい。
また何の用事かしら?
厄介事でなければ良いのだけれど・・・。
そう思いつつ階段を上がる。最上階に上がるとメイドのチーフのセラのチェックがあるので、あらかじめ護身用のダガーは自室に置いてきた。
武器マニアのセラを刺激したくないからだ。
それでなくてもルームメイトのサラを取り込まれているように思えるので、リリスの警戒心は高まっていた。
「今日は丸腰で来たのね、残念だわ。」
黒いメイド服を着たセラの開口一番の言葉が生々しい。
今日はあんたの好物は持ち合わせていないわよ。
そう思いつつ、わざとらしい笑顔でリリスは会釈をし、別のメイドの案内でメリンダ王女の部屋に向かった。
(リリス様。お久し振りですね。)
歩くリリスの脳内にロイヤルガードのリノの念話が飛び込んできた。
(リノ。元気だった?)
(ええ。それなりに多忙ですけどね。ところでリリス様は覇竜の加護を受けられたと聞きましたが・・・)
どうしてそれを知っているの?
そう思いつつもリリスの頭にメリンダ王女の顔が浮かんだ。
(メリンダ王女から聞いたのね。)
(はい。そうなんですけど・・・)
何を言い淀んでいるの?
(私の部下で魔力の波動に極度に敏感なメンバーが居るのですよ。その子はリリス様が上がってきた瞬間に、巨大な魔物が来たような魔力の波動を感じてしまって、卒倒してしまいました。)
まあ、嫌だわねえ。
(リノ。あなたはどうなの?)
(私はそこまで過敏ではありませんので。それでも一瞬大きな魔力を感じましたが、すぐに消えてしまいました。まるで勘繰られるのが嫌で姿を隠したような気配で・・・・・)
(それは私の意志とは関係なく出現するのかも知れないわね。覇竜の加護に関しては私にも良く分からないのよ。それでリノ達に迷惑が掛かったら申し訳ないのだけど。)
(いえ。迷惑なんて有りません。それにリリス様の事は基本的にスルーしますので。)
(そうして貰えると助かるわ。)
リノとの念話を終えるとリリスはメイドの案内で、メリンダ王女の部屋に入る様に促された。
豪華な装飾の施された扉を開けて中に入ると、長いソファにメリンダ王女とフィリップ王子が座って談笑していた。
相変わらず仲が良いわね。
だからと言って別に羨ましがる気持ちも無く、リリスは笑顔を見せて挨拶を交わした。
ソファに座ったリリスには上質な紅茶が振舞われた。
菓子を摘まみ、紅茶の馥郁とした香りを楽しむリリスにメリンダ王女が話を切り出した。
「実は人を探しているのよ。」
人探し?
そんなものは諜報部員に任せれば良いじゃないの。
リリスの思いを感じ取って、フィリップ王子が口を開いた。
「メル。最初から事情を話さないとリリスには分からないよ。」
そう言われてメリンダ王女はうなづいた。
「そうよね。」
メリンダ王女は紅茶をぐっと飲み干してリリスを見つめた。
「ところでリリス。グランバート家って知ってる?」
「グランバートって上級貴族の?」
「そう。外戚待遇になっている家門で、昔から武勇で王家に対する貢献度も高い名門よ。私の母上の妹のフランソワ様が嫁いでいて、2人の女の子と1人の男の子を生んだの。その男の子がグランバート家の後継ぎになるんだけど病弱でね。本来は来年この魔法学院に入る年齢なんだけど、それすら危ぶまれているのよ。」
「リトラスって名前で頭が良くて他人に気遣い出来る優しい子なんだけどね。」
うんうん。
病弱な子って他人にも優しく対する傾向があるわよね。
「そのリトラスが体調が良かったので、先日の仮装ダンスパーティーに参加したのよ。姉のソニアが最上級生なのでね。」
「最初は暫く壁際で座っていたそうよ。その後同じくらいの年齢の女の子に誘われてダンスをしたんだけど、その子はダンスが上手でリトラスをうまくリードしてくれたの。ダンスが終わった後も色々と話をして、すっかり気が合ったみたいね。」
「その子は白い上品なデザインのワンピースを着ていたそうよ。愛嬌のある笑顔が可愛い女の子なんだけど、あれこれと手を尽くして調べてもその素性が分からないのよ。貴族の子女だとは思うんだけどね。」
メリンダ王女の話が進むにつれて、リリスの心に悪い予感が沸き上がってきた。
「それでね、リトラスがもう一度会いたいって言うのよ。」
「どうやら初恋みたいなの。その子に心を奪われちゃったのね。」
う~ん。
嫌な予感がする。
リリスは恐る恐る聞いてみた。
「その子の名前は分かるの?」
「リンって名乗っていたそうよ。」
うっ!
リリスの予感は的中した。
「その女の子がリリスと親し気に話をしていたって聞いたから、リリスに聞けば分かるんじゃないかと思って呼び出したってわけよ。」
期待に膨らむメリンダ王女の瞳がリリスをじっと見つめる。
困った事態になってしまった。本当のことを言うべきか?
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