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竜達との交流2
しおりを挟む仮想空間での対戦。
試合開始の合図と共にタレスの炎を纏った拳がリリスの身体に突き刺さる。その衝撃でリリスの身体はリングに張り巡らされたロープに飛ばされた。
だが痛くも痒くもない。
なるほど仮想空間だ。
そう思いながら自分のゲージを見ると生命力の赤いゲージが僅かに減っている。
それを意外に思ったのはリリスだけではない。
「どう言う事だ? 俺は全力で拳を放った筈だが・・・」
不思議がるタレスの隙を突いて、今度はリリスが炎を纏った拳をタレスのボディに放った。タレスもガードしようと思えばガード出来たのだろう。だが相手は人族の少女だ。こんな相手からダメージを受ける筈も無い。そう思って油断したタレスは敢えてリリスにボディを撃たせた。
ブンッと音を発ててタレスの身体がリングのロープに吹き飛ばされる。態勢を整えて自分のゲージを見たタレスは首を傾げた。
「おい、嘘だろ! 随分ゲージが削られたじゃないか。」
タレスの生命力のゲージは10%ほど消えていた。
あら、これなら勝てるんじゃないの?
気を良くして調子に乗ってしまったリリスは、タレスの懐に向かって走り込むと、矢継ぎ早にボディを強打し続けた。体格の差もあるので顔面まで拳が届かない。ボディを撃つしか無いのだが、それが功を奏したようで、瞬く間にタレスの生命力のゲージが消えて行った。
他方、リリスの生命力のゲージはまだ半分残っている。
勿論これは仮想空間でのゲームのようなものだ。実際の戦闘となると恐らくタレスも20mもある竜だろう。ブレスを吐かれたらあっという間に勝敗はつくに違いない。
「こんなはずではない!」
そう叫びながらタレスは消えて行った。復活には1時間掛かる仕組みだそうだ。
「リリスお姉様、凄い!」
そう言って拍手を送るリンとは裏腹に、デルフィの表情は硬い。何事かを考えている表情だ。
「リリス。君はどれだけのスキルを持っているんだ? 覇竜の加護があるとは言え、戦闘力で竜に勝つ人族なんて・・・」
う~ん。
やはり拙いわね。
隠しているスキルまで算入されちゃうなんて。
えへへと笑って誤魔化そうとしたリリスに、リンの護衛のヌディアが声を掛けた。
「今度は俺と戦ってくれ!」
ちょっと待ってよ!
嫌なパターンになってしまった。
「お姉様! 頑張ってね!」
リンが期待に目を輝かせている。
リリスはタレスの挑戦を受けた事を後悔しつつも、リングに上がってくるヌディアを待つしかなかった。
リリスの生命力のゲージは再戦と認識されると同時にリセットされた。
一方、ニヤッと笑いながらリングに上がってきたヌディアの戦闘力のゲージは、先程戦ったタレスよりもかなり太く長い。
明らかに力自慢のヌディアだ。自信もあるのだろう。
増々嫌なパターンだわ。
リリスはうんざりとしてヌディアの準備を待った。
試合開始!
早々にヌディアのリーチの長い拳がリリスを襲った。リリスは虚を突かれた形である。
リリスの身体が弾き飛ばされ、生命力のゲージが5%ほど削られた。だがその表示を見てヌディアは首を傾げた。
「意外に少ししか削れないな。防御力も相当ありそうだな。まあ良い。戦いの相手に不足は無い。」
そう言い捨てるとヌディアは再びリリスに襲い掛かってきた。拙いと思ったリリスだが避けようがない。
咄嗟にリリスはヌディアの拳に自分の拳をぶつけた。どうせ痛くも痒くもないのだ。それなら同士討ちで闘えば良い。
拳と拳のぶつかる衝撃で、お互いにリングの端まで吹き飛ばされる。その都度リリスもヌディアも生命力のゲージが僅かずつ削れていく。
それでも痛くは無い。それ故に殴られる恐怖心も次第に湧かなくなってきた。
こうなると消耗戦だ。幾度も幾度も拳をぶつけ合い、その都度リングロープに飛ばされる。
だがお互いに生命力のゲージが残り20%ほどに減った時点で、ヌディアが我慢しきれなくなってしまった。
「何故俺が人族の子供相手にこんな地道な戦いを強いられるんだ!」
そう叫ぶとヌディアはリリスに掴み掛り、その勢いで頭突きをする形になってしまった。襲い掛かられた恐怖でキャアッと叫びながら、リリスは咄嗟にヌディアを跳ね除けた。
何をするのよ!
そう叫びそうになったリリスだが、この時リリスの身に予期せぬことが起きてしまった。
コピースキルが発動してしまったのだ。
ええっ? どうして・・・・・・。
訳も分からぬ状況でリリスも困惑するばかりだ。一瞬、額と額がぶつかったが、その後直ぐに離れている。それなのにコピースキルが発動し続けているのは何故だろうか?
何をコピーするつもりなのよ?
そう思った矢先に、ヌディアの身体が霧のようになってリリスの額にすうっと吸い込まれていった。ヌディアの悲鳴がかすかに聞こえる。
「どうした? 何が起きているんだ?」
デルフィも目の前で起きている事が理解出来ず、唖然とした表情で呟いた。リンはリングで立ち尽くすリリスに駆け寄って、
「リリスお姉様。護衛のヌディアは何処に行ったの?」
そう聞かれてもリリスも答えられない。う~んと唸りながら首を傾げた。
だがリングの傍で観戦していたもう一人の護衛のハドルの元に、若い男性が駈け寄り、耳元で何かを呟いた。その途端にハドルの表情が驚きから陰鬱に変わっていく。
ハドルはデルフィの元に走り寄り、伝え聞いた事を話し始めた。
「デルフィ殿。ヌディアが、・・・ヌディアの実体が突然意識を失ってしまいました。大地に突っ伏して動かなくなってしまったそうです。」
デルフィはそれを聞いて眉をひそめた。
「何故だ? この仮想空間での出来事が実体に影響を及ぼす筈は無いのだが・・・」
そう言いながら考え込むデルフィにハドルは追い討ちを掛けるように話を続けた。
「ヌディアの魔力が極度に消耗しています。しかも・・・・・生命力が風前の灯だと・・・・・」
「何だと!」
ハドルの言葉に驚いたデルフィは思わずリリスの傍に走り寄った。
「リリス。これはどう言う事なんだ? 分かるように説明してくれ!」
そう言われてもリリスにも何が何だか分からない。
「私にも何が起きたのか分からないんです。」
そう答えるのがやっとの事だった。だがデルフィは何かを感じ取ったようで、少し落ち着いて話を続けた。
「君は何か特殊なスキルを持っているね? おそらくそれが突発的に発動したのではないのか?」
図星である。リリスもコピースキルが暴走したのかと一瞬考えた。だがそれにしては異常な状況だ。
「致死的なスキルであれば、今すぐに止めてくれ! そうでないとヌディアが死んでしまう。」
脇から哀願の目でリリスを見つめるハドルだが、そんなものをリリスは持ち合わせていない。
首を横に振りながら、
「致死的なスキルなんて持っていません。私の持っているスキルは相手のスキルをコピーするだけですから・・・」
隠し通せる状況ではない。リリスはコピースキルの存在を明かしてしまった。
「何と! そんなスキルを持っているのか。だがそれならどうしてヌディアが瀕死の状態なのだ?」
そう問われても返す言葉が無い。
「少し時間をください。」
そう言いながらリリスは解析スキルを発動させた。解析スキルなら何か分かるかも知れない。
だがここでまたアクシデントが起きた。
リリスの傍に黒い人影が突然現れたのだ。
えっ!
驚くリリスの脳内に言葉が届く。
『拙いですね。この仮想空間では疑似人格も形状化されてしまうようです。』
黒い人影は解析スキルだった。
一体、どうなっているのよ!
訳が分からないわ!
動揺するリリスにデルフィも驚きの表情を隠せない。
「それは一体何だ?」
そう言いながら黒い人影を訝し気に睨み続けていた。
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