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賓客の災難 その後
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ドラゴニュートの国から帰国後数日経って、リリスは学院に通学し始めた。
体調も良く、身体も軽い。ドラゴニュートの国で受けた治療が功を奏したのだろう。
公にはリゾルタからの招聘でドラゴニュートの国を訪れた事になっている。だがそこでリリスが巻き込まれた災難については緘口令が敷かれていて、担任のケイト先生も知らないようだ。
端的に言って招聘したリゾルタの不祥事である。リリスが無事なので大事に成らずに済んではいるが、決して公表できるような事ではない。
ルームメイトのサラやクラスメイトから聞かれても、正直に話すわけにもいかないので、リリスはアイリス王妃の懐妊のお祝いと言う事で誤魔化した。
リリスにとっても正直に話したくなるような事ではないのだが。
思い出しても腹が立つので、リリスはドラゴニュートの国での出来事をなるべく考えない事にした。
退屈な座学を終え、休暇中に溜まった生徒会の書類整理をして、疲れた足取りで学生寮の自室の前に辿り着くと、何やら複数の不審な気配がある。
またあの連中かしら?
そうだとしたら疲れが倍増しちゃうわ。
若干うんざりしながらもリリスは自室のドアを開けた。
「「「お帰り!」」」
ソファの上からリリスに声を掛けたのは、2体のピクシーとノームだった。やはり亜神達だ。
リリスはカバンをデスクにおいて、ピクシー達の対面にドカッと座った。
「お帰りじゃないわよ、また勝手に入り込んで。それでサラはどうしたの?」
リリスの問い掛けに赤い衣装のピクシーが上を指差して、
「あの子ならカバンを置いて直ぐに上の階に行ったわよ。王族の世話をしているメイドのチーフとお茶するって言ってたわ。」
あらあら。
またセラさんとお茶会なの?
あの人に取り込まれていなければ良いのだけど・・・。
「ちょっと待って、タミア。あんた、サラと会ったの?」
「ええ、会ったわよ。私の事は学院の生徒の使い魔だとしか思っていない様子だったけどね。」
まあ、それなら良いのだけど。
「リリス。思っていたよりも元気そうね。ドラゴニュートの国で災難に巻き込まれたって聞いたわ。体調は良いの?」
ブルーの衣装のピクシーがそう言いながら、身を乗り出してきた。
「ええ、快調よ。でも誰から聞いたの?」
「イグリードから事の顛末を直接聞いたのよ。」
しれっと話すユリアである。だがリリスには聞き覚えの無い名前だ。
「イグリードって誰?」
「ああ、リリスは会った事が無かったのね。ドラゴニュートの国の王よ。リゾルタの神殿での儀式で宝玉を受け取った男なんだけど・・・」
「そんなの覚えていないわよ。でもそうするとエドムの兄と言う事になるわね。」
リリスはエドムの名を口にした途端に苦々しい思いが湧いてきた。
「そうなのよ。弟の不祥事を何度も悔いていたわ。それで王家の秘術でリリスに竜の血を輸血させたのよ。」
「人族に適応させて輸血するのって、スキルの術者に相当な負担が掛かるらしいわ。担当した術者の神官の女性が倒れて、今も寝込んでいるからね。」
あらあら。
それは迷惑を掛けちゃったわね。
「そうか。道理で竜の気配がするはずや。」
ノームが興味津々で口を開いた。
「リリスも竜みたいにブレスを吐くようになるんやろか?」
ノームの言葉にブルーの衣装のピクシーが手のひらを横に振りながら、
「チャーリー、今頃何を言ってるのよ。リリスはすでにブレスを吐いたのよ。それも特大級の一発だったそうよ。」
「ええっ! リリスがとうとう魔物になったんか? 人族に未練は無かったんかいな。」
何を馬鹿な事を言ってるのよ。
どこまで本気で言ってるのか分からない連中だが、弁解しないと本気にされそうだ。
「私は人族です! それにあれはブレスじゃなかったのよ。命の危機を感じ取って竜の加護が発動させた疑似的なものだからね。」
「そうか。ブレスやなかったんか。まあ、リリスが魔物になってしまっても、僕は見放さんで。」
何処まで本気で言っているのか分からないわね。
ノームの言葉をスルーしてリリスは大きな欠伸をした。
「そうそう、忘れていたわ。」
そう言いながらブルーの衣装のピクシーが小さな箱を取り出した。
「これはイグリードからリリスへのプレゼントよ。開けてごらんなさい。」
テーブルの上に置かれた10cm四方の箱から微かに魔力が漂ってくる。これは何が入っているのだろうか?
リリスは不思議そうな表情で箱を手に取り開けてみた。
中に入っていたのは2枚の半透明の小さな鱗だ。
これは何の鱗だろうか? 魚の鱗にしては触感が違う。
しかも微かに漂ってくる魔力が自分の魔力に似ている。
不思議そうに見つめるリリスの表情を見て、赤い衣装のピクシーがふふふと含み笑いをした。
「それは幼竜の鱗よ。そう言えば思い当たるでしょ?」
幼竜!
そう言えば石化してしまった幼竜の事などすっかり忘れていたわ。
リリスはそれがドラゴニュートの国に招聘された第一の要件であったことを思い出した。
「あの幼竜って石化から蘇ったの?」
「ええ。2日ほど前に蘇ったわ。その鱗はその時に幼竜から抜け落ちた物よ。滅多に目にする事も無い希少な物だから、イグリードの気持ちを察してあげてよね。」
ユリアの言葉の端々にイグリードへの気遣いが感じられる。
宝玉を授けた件と言い、ドラゴニュートへの特別な思い入れがあるようだ。
「それはそれで良いのだけど、これってどう言う用途があるのかしら?」
幼竜の鱗を手に持ちながら首を傾げるリリスである。
「首の両側に押し当てれば良いとイグリードが言っていたわよ。」
首の両側?
訳も分からずリリスはユリアの言う通りにしてみた。
首の両側に生暖かい感触が伝わってくる。
だがその数秒後に鱗が首に吸い付いてきた。
「やだ! この鱗って剥がれないわよ!」
リリスは焦って鱗を剥がそうとするが、皮膚に食い込んで離れない。しかも徐々に首の両側に埋もれていく。
「これってどうなってるのよ!」
どうして良いか分からず焦るリリスの様子を見て、ピクシー達が腹を抱えて笑い始めた。
「リリス。そんなに焦らんで良いよ。その鱗は君の魔力に同化しようとしてるだけやからね。」
ノームの言葉にリリスは動きを止めた。だが放置していて良いものか否かは分からない。気味悪そうに鱗の端を見つめるリリスの視界から、鱗がふっと消えてしまった。死角になっていたので分からなかったが、どうやら完全に首の中に消え去ってしまったようだ。
それと同時に解析スキルが発動した。
『覇竜の魔力が増強されました。ステータスへの反映にはまだ少し時間が掛かります。』
これって害は無いの?
『勿論害は有りません。それに幼竜の魔力は多様性があるようで、幾つかのスキルの強化が見込めそうです。』
そう。それなら良いのだけど・・・。
「幼竜の魔力が同化した感触はどうなの?」
赤い衣装のピクシーが興味津々で聞いてきた。
「う~ん。良く分からないけど、スキルの強化が見込めるかも知れないわ。効果が出てくるまでまだ少し時間が掛かりそうなんだけど。」
そう言いながらリリスは自分の首の両側を摩ってみた。鱗の端でも突き出していたら、不気味に見えるに違いない。
幸いにも特に異変は無いようだ。
リリスの仕草を面白そうに眺めていた使い魔達は笑いながら立ち上がった。
「リリスが元気そうで良かったわ。顔色も良さそうだし・・・」
「とりあえず今日の要件はこれで終わり。数日後にまた様子を見に来るわね。」
そう言いながら使い魔達は席を立ち、各自消え去って行った。
今日は大人しく消えて行くのね。
一応病み上がりだから気を遣ってくれているのかしら?
その意図は良く分からないが、意外にもあっさりと消えて行った亜神達に少し親近感を感じたリリスである。
だがその直後、赤い衣装のピクシーが再び現れた。
「そうそう。言い忘れていたわ。」
そう言いながら赤い衣装のピクシーが、リリスの目の前に身を乗り出してきた。
「来週、仮装ダンスパーティーがあるわよね。私とユリアも参加するからね。」
「ええっ! タミアって今年も参加するの? しかもユリアまで・・・」
赤い衣装のピクシーの言葉通り、今年の仮装ダンスパーティーの日時が来週に迫っていたのだった。タミアが偽装して参加した事をリリスは覚えている。
だが今年はユリアまで参加すると言うのだ。瞬時にリリスの心に一抹の不安が過った。
「お願いだから騒動を起こさないでよね。」
「そんな心配は要らないわ。今年は心置きなくダンスパーティーを楽しむわよ。」
そう言ってひらひらと手を振りながら、赤い衣装のピクシーは消え去って行った。
う~ん。本気で言っているのかしら?
いずれにしても昨年のようなアクシデントは御免だからね。
リリスはそう思いながら、仮装用の衣装のチェックをしなければならない事を思い出した。今年はどんな衣装が用意されているのだろうか?
まだ届いていない仮装用の衣装を想像しながら、リリスは明日の授業の準備を始めたのだった。
体調も良く、身体も軽い。ドラゴニュートの国で受けた治療が功を奏したのだろう。
公にはリゾルタからの招聘でドラゴニュートの国を訪れた事になっている。だがそこでリリスが巻き込まれた災難については緘口令が敷かれていて、担任のケイト先生も知らないようだ。
端的に言って招聘したリゾルタの不祥事である。リリスが無事なので大事に成らずに済んではいるが、決して公表できるような事ではない。
ルームメイトのサラやクラスメイトから聞かれても、正直に話すわけにもいかないので、リリスはアイリス王妃の懐妊のお祝いと言う事で誤魔化した。
リリスにとっても正直に話したくなるような事ではないのだが。
思い出しても腹が立つので、リリスはドラゴニュートの国での出来事をなるべく考えない事にした。
退屈な座学を終え、休暇中に溜まった生徒会の書類整理をして、疲れた足取りで学生寮の自室の前に辿り着くと、何やら複数の不審な気配がある。
またあの連中かしら?
そうだとしたら疲れが倍増しちゃうわ。
若干うんざりしながらもリリスは自室のドアを開けた。
「「「お帰り!」」」
ソファの上からリリスに声を掛けたのは、2体のピクシーとノームだった。やはり亜神達だ。
リリスはカバンをデスクにおいて、ピクシー達の対面にドカッと座った。
「お帰りじゃないわよ、また勝手に入り込んで。それでサラはどうしたの?」
リリスの問い掛けに赤い衣装のピクシーが上を指差して、
「あの子ならカバンを置いて直ぐに上の階に行ったわよ。王族の世話をしているメイドのチーフとお茶するって言ってたわ。」
あらあら。
またセラさんとお茶会なの?
あの人に取り込まれていなければ良いのだけど・・・。
「ちょっと待って、タミア。あんた、サラと会ったの?」
「ええ、会ったわよ。私の事は学院の生徒の使い魔だとしか思っていない様子だったけどね。」
まあ、それなら良いのだけど。
「リリス。思っていたよりも元気そうね。ドラゴニュートの国で災難に巻き込まれたって聞いたわ。体調は良いの?」
ブルーの衣装のピクシーがそう言いながら、身を乗り出してきた。
「ええ、快調よ。でも誰から聞いたの?」
「イグリードから事の顛末を直接聞いたのよ。」
しれっと話すユリアである。だがリリスには聞き覚えの無い名前だ。
「イグリードって誰?」
「ああ、リリスは会った事が無かったのね。ドラゴニュートの国の王よ。リゾルタの神殿での儀式で宝玉を受け取った男なんだけど・・・」
「そんなの覚えていないわよ。でもそうするとエドムの兄と言う事になるわね。」
リリスはエドムの名を口にした途端に苦々しい思いが湧いてきた。
「そうなのよ。弟の不祥事を何度も悔いていたわ。それで王家の秘術でリリスに竜の血を輸血させたのよ。」
「人族に適応させて輸血するのって、スキルの術者に相当な負担が掛かるらしいわ。担当した術者の神官の女性が倒れて、今も寝込んでいるからね。」
あらあら。
それは迷惑を掛けちゃったわね。
「そうか。道理で竜の気配がするはずや。」
ノームが興味津々で口を開いた。
「リリスも竜みたいにブレスを吐くようになるんやろか?」
ノームの言葉にブルーの衣装のピクシーが手のひらを横に振りながら、
「チャーリー、今頃何を言ってるのよ。リリスはすでにブレスを吐いたのよ。それも特大級の一発だったそうよ。」
「ええっ! リリスがとうとう魔物になったんか? 人族に未練は無かったんかいな。」
何を馬鹿な事を言ってるのよ。
どこまで本気で言ってるのか分からない連中だが、弁解しないと本気にされそうだ。
「私は人族です! それにあれはブレスじゃなかったのよ。命の危機を感じ取って竜の加護が発動させた疑似的なものだからね。」
「そうか。ブレスやなかったんか。まあ、リリスが魔物になってしまっても、僕は見放さんで。」
何処まで本気で言っているのか分からないわね。
ノームの言葉をスルーしてリリスは大きな欠伸をした。
「そうそう、忘れていたわ。」
そう言いながらブルーの衣装のピクシーが小さな箱を取り出した。
「これはイグリードからリリスへのプレゼントよ。開けてごらんなさい。」
テーブルの上に置かれた10cm四方の箱から微かに魔力が漂ってくる。これは何が入っているのだろうか?
リリスは不思議そうな表情で箱を手に取り開けてみた。
中に入っていたのは2枚の半透明の小さな鱗だ。
これは何の鱗だろうか? 魚の鱗にしては触感が違う。
しかも微かに漂ってくる魔力が自分の魔力に似ている。
不思議そうに見つめるリリスの表情を見て、赤い衣装のピクシーがふふふと含み笑いをした。
「それは幼竜の鱗よ。そう言えば思い当たるでしょ?」
幼竜!
そう言えば石化してしまった幼竜の事などすっかり忘れていたわ。
リリスはそれがドラゴニュートの国に招聘された第一の要件であったことを思い出した。
「あの幼竜って石化から蘇ったの?」
「ええ。2日ほど前に蘇ったわ。その鱗はその時に幼竜から抜け落ちた物よ。滅多に目にする事も無い希少な物だから、イグリードの気持ちを察してあげてよね。」
ユリアの言葉の端々にイグリードへの気遣いが感じられる。
宝玉を授けた件と言い、ドラゴニュートへの特別な思い入れがあるようだ。
「それはそれで良いのだけど、これってどう言う用途があるのかしら?」
幼竜の鱗を手に持ちながら首を傾げるリリスである。
「首の両側に押し当てれば良いとイグリードが言っていたわよ。」
首の両側?
訳も分からずリリスはユリアの言う通りにしてみた。
首の両側に生暖かい感触が伝わってくる。
だがその数秒後に鱗が首に吸い付いてきた。
「やだ! この鱗って剥がれないわよ!」
リリスは焦って鱗を剥がそうとするが、皮膚に食い込んで離れない。しかも徐々に首の両側に埋もれていく。
「これってどうなってるのよ!」
どうして良いか分からず焦るリリスの様子を見て、ピクシー達が腹を抱えて笑い始めた。
「リリス。そんなに焦らんで良いよ。その鱗は君の魔力に同化しようとしてるだけやからね。」
ノームの言葉にリリスは動きを止めた。だが放置していて良いものか否かは分からない。気味悪そうに鱗の端を見つめるリリスの視界から、鱗がふっと消えてしまった。死角になっていたので分からなかったが、どうやら完全に首の中に消え去ってしまったようだ。
それと同時に解析スキルが発動した。
『覇竜の魔力が増強されました。ステータスへの反映にはまだ少し時間が掛かります。』
これって害は無いの?
『勿論害は有りません。それに幼竜の魔力は多様性があるようで、幾つかのスキルの強化が見込めそうです。』
そう。それなら良いのだけど・・・。
「幼竜の魔力が同化した感触はどうなの?」
赤い衣装のピクシーが興味津々で聞いてきた。
「う~ん。良く分からないけど、スキルの強化が見込めるかも知れないわ。効果が出てくるまでまだ少し時間が掛かりそうなんだけど。」
そう言いながらリリスは自分の首の両側を摩ってみた。鱗の端でも突き出していたら、不気味に見えるに違いない。
幸いにも特に異変は無いようだ。
リリスの仕草を面白そうに眺めていた使い魔達は笑いながら立ち上がった。
「リリスが元気そうで良かったわ。顔色も良さそうだし・・・」
「とりあえず今日の要件はこれで終わり。数日後にまた様子を見に来るわね。」
そう言いながら使い魔達は席を立ち、各自消え去って行った。
今日は大人しく消えて行くのね。
一応病み上がりだから気を遣ってくれているのかしら?
その意図は良く分からないが、意外にもあっさりと消えて行った亜神達に少し親近感を感じたリリスである。
だがその直後、赤い衣装のピクシーが再び現れた。
「そうそう。言い忘れていたわ。」
そう言いながら赤い衣装のピクシーが、リリスの目の前に身を乗り出してきた。
「来週、仮装ダンスパーティーがあるわよね。私とユリアも参加するからね。」
「ええっ! タミアって今年も参加するの? しかもユリアまで・・・」
赤い衣装のピクシーの言葉通り、今年の仮装ダンスパーティーの日時が来週に迫っていたのだった。タミアが偽装して参加した事をリリスは覚えている。
だが今年はユリアまで参加すると言うのだ。瞬時にリリスの心に一抹の不安が過った。
「お願いだから騒動を起こさないでよね。」
「そんな心配は要らないわ。今年は心置きなくダンスパーティーを楽しむわよ。」
そう言ってひらひらと手を振りながら、赤い衣装のピクシーは消え去って行った。
う~ん。本気で言っているのかしら?
いずれにしても昨年のようなアクシデントは御免だからね。
リリスはそう思いながら、仮装用の衣装のチェックをしなければならない事を思い出した。今年はどんな衣装が用意されているのだろうか?
まだ届いていない仮装用の衣装を想像しながら、リリスは明日の授業の準備を始めたのだった。
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