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リゾルタでの休暇2
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窓の音に複数の火災が見える。
これって同時多発テロじゃないの?
そう言おうとした時、ドアをコンコンと叩き、入るよと言ってフィリップ王子が部屋に入ってきた。部屋のエントランスとリビング、寝室が区切られているので、突然入られてきても問題は無い。
身なりを整えて二人はリビングに出た。一方フィリップ王子はテディベアのような小熊の使い魔を抱きかかえ、勢いよくリビングに駆け込んできた。
「あらっ! ライオネス様も来られていたんですね。」
そう言いながらメリンダ王女は小熊に挨拶した。
メリンダ王女はリリスに向かって、
「この使い魔の召喚主はライオネス様。アイリスお姉様のご主人様で、リゾルタの国王様なのよ。」
その言葉にリリスはお辞儀をして、
「リリスです。初めまして。」
使い魔相手なのでどうしても紋切り型の挨拶になってしまう。
「ああ! 君がリリス君か。アイリスがお世話になったね。改めて礼を言うよ。」
そう言いながら小熊は頭を下げた。
「挨拶はこれぐらいにして、外の騒ぎが気に成るね。同時多発で王都を掻きまわして混乱させている中だが、本当の狙いは王城の方かもしれないね。」
小熊は状況を冷静に分析していた。
その間にも窓の外からドンッと鈍い爆発音が聞こえてくる。
「ライオネス様。敵の状況は掴めているのですか?」
フィリップ王子の問い掛けに小熊は静かにうなづいた。
「現王家の統治に反抗する勢力が身近に居るんだよ。その連中に側近の呪術師まで取り込まれていたのは意外だったがね。王城はあらかじめ厳戒態勢にしているから大丈夫だ。だが王都の被害が気に成るね。軍からの報告では数か所に複数のキメラを放ったらしい。」
「キメラですか!」
メリンダ王女の言葉に小熊は強くうなづいた。
「そうだ。魔道具でテイムしているのだろう。かなり強力な合成獣なので軍でも苦戦しているらしい。」
人の居ない場所であれば大規模な戦闘を繰り広げられる。だが人家や店舗の密集した街中で、被害を最小限にとどめるのは簡単ではないだろう。
リリスはリビングの窓の外を見つめて心を痛めた。
「僕は王城の軍の指揮をするので戻るよ。このホテルの近くのキメラはリリス君に退治して貰おうかね。頼んだよ。」
そう言って小熊は消えて行った。
ちょっと待ってよ!
私が退治するの?
小熊に反論しそこなったリリスの肩をメリンダ王女がポンと叩いた。
「リリス。そう言う事だから。」
「そう言う事ってどういう事よ!」
メリンダ王女に向かって叫ぶリリスの肩を背後からフィリップ王子がポンッ叩いた。
「リリス。この近くに水の亜神を祀る神殿があるんだよ。そこが荒らされるのをライオネス様も懸念しているんだ。」
「だからと言って・・・・・」
そこまで言ってリリスは言葉を止めた。フィリップ王子とメリンダ王女が目をぎらつかせているからだ。
本気だわ、この二人。
どうせ自分達は使い魔の形で付いてくるんでしょうけど。
人使いの荒い王族ねえ。
「二人共憑依させるのは大変なんだけど。」
「大丈夫よ、リリス。私がフィリップお兄様の使い魔を取り込んだ形で、あんたの肩に憑依するからね。」
あれこれと画策する王族達である。
結局、リリスの肩に芋虫が生えている形態になった。何時もと違うのはその芋虫の顔の下にもう一つの顔があるだけだが。
「まるで私がキメラじゃないの。」
リリスの言葉に芋虫がアハハと笑った。
「フィリップお兄様は見ているだけよ。私が取り込んでいる形なのでね。」
そこまでして見物したいのかしら?
リリスは芋虫に小声で、
「将来のあんた達の姿を見ているようだわ。」
その呟きに芋虫は言葉も無くニヤリと笑った。図星だと言いたいのかも知れない。
装備を整え、フィリップ王子から預かった転移の魔石を使って、リリスはホテルの外の暗闇に飛び出していった。
闇の中からがやがやと多数の人の声が聞こえてくる。その喧騒の中、鈍い爆発音が鳴り響き、きな臭い匂いが漂ってきて鼻を突く。
外に飛び出して分かった事だが、ホテルから100mほど離れた場所に神殿が建っていた。その近くで火災が起きている。
リリス達が部屋の窓から見ていたのはあの場所のようだ。
「それにしても軍が居るのに私がしゃしゃり出て良いのかしら?」
リリスの呟きに肩の芋虫が応えた。
「この国は軍と言ってもほとんどが傭兵なのよ。元々商業で興隆した国だからね。」
「剣や弓などの武器の扱いに長けている者はそれなりに居るのよ。でも魔法攻撃に対応出来る戦力は少ないって聞いたわよ。」
それってダメじゃん。魔物だって魔法を放つのに。
リリスの心の中の突っ込みにメリンダ王女は気付かない。
だが暗闇の中を走るうちにリリスは異様な精神波を感じた。
『魔装を発動してください!』
解析スキルの勧めに応じて、リリスは即座に魔装を非表示で発動させた。
「リリス。今、何かした? 魔力が多重に纏わり始めたわよ。でもシールドでは無さそうだし・・・」
魔装の発動を感じ取ったようだ。
見た目には分からなくても、メリンダ王女の使い魔を深度に憑依させているので、彼女は魔力の流れで違和感を感じるのだろう。
「何でもないわよ。気にしないで。」
「どうも怪しいわねえ。特別な隠しスキルでも使ったのかしら?」
勘の良い子ねえ。
リリスはドキッとしながらも知らぬふりをして先を急いだ。現場に近付くにつれて禍々しい妖気が漂ってきて、少し頭が痛くなってきた。
これって耐性が無ければ厳しいわね。
そう思ったリリスの発想は正しかった。火災の発生している場所の周囲に、多数の兵が呻きながら倒れていたからだ。だからと言って救助に向かう余裕はない。
その兵達の向こうに金色の獣が見えているからだ。
胴体は象だ。大きさも象に近い。だが尻尾に蛇が生えていて火を吐いている。更にその頭部は鬣の生えたライオンだ。
随分醜悪なものを造ったものだ。だが胴体が象なのでそれほどに移動速度は速くない。その点を考えても、複数の箇所での長時間にわたる陽動作戦だと見て良いだろう。
キシャーッと言う気味の悪い声を上げてキメラが強い妖気を発し、尻尾の蛇が火を吐いて周りの家屋を焼き焦がしている。
「リリス。あのキメラの頭頂部に触角があるわ。あそこから妖気を発しているのよ。」
芋虫の声に応じてキメラの頭部を探知すると、確かに触角から妖気を発している。メリンダ王女は即座に探知したようだ。
リリスは高速で軽量のファイヤーボルトを数発放った。キーンを言う金切り音を立てて、ファイヤーボルトはキメラの頭部に向かい、投擲スキルの補正もあって正確にキメラの頭頂部に着弾した。
だが着弾と同時にファイヤーボルトがふっと消えてしまった。
どうやら特殊な耐性を持っているようだ。
「効かないわよ!」
芋虫の叫び声が聞こえてきた。
「黒炎を試してみる?」
メリンダ王女の提案にリリスはうんと応えた。
リリスが両手を前に突き出すと、肩に生えた芋虫を通してメリンダ王女の意志と闇魔法のスキルがリリスの脳内に浸食してくる。少し身体が硬直してきた。リリスの意志とは関係なく魔力が両手に集中し、その手の前に大きな黒炎が出現した。
黒い炎の塊の随所に赤い火が走る。如何にも禍々しい闇魔法の所産だ。
キメラの頭部に向けてリリスはその黒炎を放った。音も無く黒炎が高速で滑空し、キメラの頭部を直撃した。
キメラもその衝撃で身体が揺らぐ。
だがそれでもキメラにこれと言ったダメージが見られない。
キメラはリリスに向かってゆっくりと歩き始めた。
「全く効いていないわよ!」
芋虫の叫び声が響き渡る。だがリリスにはまだ余裕がある。キメラの移動速度が速くないからだ。
これなら泥沼に沈められるわね。
そう思ってリリスは足早にキメラに近付いた。
キメラの尻尾から飛び込んでくる火炎を避けながら、リリスはキメラの足元に土魔法を発動させ、直径10mほどの泥沼を出現させた。
その深さは10mほどだ。
図体の大きなキメラは突然現れた泥沼に見事に沈んでいった。暴れるキメラの動作で泥が周囲に飛散している。
同時にリリスは浸透性の高い毒を精製し、持っていた水袋の水に付与させて泥沼に投げ入れた。
だがその毒が拡散されるまでの数秒の間に、泥沼から黒く太い触手が2本飛び出して泥沼の縁を掴んだ。
逃げだそうとしているのか!
驚いたリリスは慌てて泥沼の表面を硬化させた。慌てていたので上層部の1mほどだが、しっかりと硬化されて黒い触手もその動きを止めてしまった。
「リリス。あんたって器用に土魔法をこなせるのねえ。こんなの初めて見たわよ。」
感心する芋虫の声に笑って応えようとしたその時、リリスの背後でパキッと言う音がした。思わず振り向くと、硬化された泥沼の表面を砕き、細く黒い触手が1本飛び出してきた。
ええっ?
まだ生きているの?
驚くリリスの目の前で、飛び出した触手の先端に光の球が現われ、次第に大きくなっていった。
不安を感じたリリスは解析スキルを発動させた。
あれって逃げ出そうとしているの?
『多分そうですね。形状を変えて脱出を図ろうとしているのでしょう。』
毒にも耐性を持っているのね。
『いや、かなり効いていますよ。ですがあのキメラは自分の魔力の大半を解毒に使ってしまった為に、元の形状を保てなくなったと思われます。』
そうなのね。しぶとい奴だわ。
逃げ出す前にもう一度泥沼に沈めてやろうと思ったリリスは、硬化された表面の傍に近付いた。その時、触手の先端の光球がカッと光り、それと同時にリリスの魔力が少し吸い出されてしまった。
リリスの心に油断があった事は否めない。
魔装を発動しているのにもかかわらず、キメラに魔力吸引を赦してしまったリリスは、驚いてその場から飛び上がる様に後方に離れた。
光球は奪った魔力で勢いを取り戻したようで、触手の先端から分離し、高速で近くにあった神殿の内部に飛び込んでいった。
「逃げちゃったわよ! リリス! 追いかけて!」
言われなくても追いかけるわよ。
ここまで翻弄されて、私も頭に来ているんだからね。
そう思いつつ、リリスは気を引き締めて神殿の内部に向かって走り出した。
これって同時多発テロじゃないの?
そう言おうとした時、ドアをコンコンと叩き、入るよと言ってフィリップ王子が部屋に入ってきた。部屋のエントランスとリビング、寝室が区切られているので、突然入られてきても問題は無い。
身なりを整えて二人はリビングに出た。一方フィリップ王子はテディベアのような小熊の使い魔を抱きかかえ、勢いよくリビングに駆け込んできた。
「あらっ! ライオネス様も来られていたんですね。」
そう言いながらメリンダ王女は小熊に挨拶した。
メリンダ王女はリリスに向かって、
「この使い魔の召喚主はライオネス様。アイリスお姉様のご主人様で、リゾルタの国王様なのよ。」
その言葉にリリスはお辞儀をして、
「リリスです。初めまして。」
使い魔相手なのでどうしても紋切り型の挨拶になってしまう。
「ああ! 君がリリス君か。アイリスがお世話になったね。改めて礼を言うよ。」
そう言いながら小熊は頭を下げた。
「挨拶はこれぐらいにして、外の騒ぎが気に成るね。同時多発で王都を掻きまわして混乱させている中だが、本当の狙いは王城の方かもしれないね。」
小熊は状況を冷静に分析していた。
その間にも窓の外からドンッと鈍い爆発音が聞こえてくる。
「ライオネス様。敵の状況は掴めているのですか?」
フィリップ王子の問い掛けに小熊は静かにうなづいた。
「現王家の統治に反抗する勢力が身近に居るんだよ。その連中に側近の呪術師まで取り込まれていたのは意外だったがね。王城はあらかじめ厳戒態勢にしているから大丈夫だ。だが王都の被害が気に成るね。軍からの報告では数か所に複数のキメラを放ったらしい。」
「キメラですか!」
メリンダ王女の言葉に小熊は強くうなづいた。
「そうだ。魔道具でテイムしているのだろう。かなり強力な合成獣なので軍でも苦戦しているらしい。」
人の居ない場所であれば大規模な戦闘を繰り広げられる。だが人家や店舗の密集した街中で、被害を最小限にとどめるのは簡単ではないだろう。
リリスはリビングの窓の外を見つめて心を痛めた。
「僕は王城の軍の指揮をするので戻るよ。このホテルの近くのキメラはリリス君に退治して貰おうかね。頼んだよ。」
そう言って小熊は消えて行った。
ちょっと待ってよ!
私が退治するの?
小熊に反論しそこなったリリスの肩をメリンダ王女がポンと叩いた。
「リリス。そう言う事だから。」
「そう言う事ってどういう事よ!」
メリンダ王女に向かって叫ぶリリスの肩を背後からフィリップ王子がポンッ叩いた。
「リリス。この近くに水の亜神を祀る神殿があるんだよ。そこが荒らされるのをライオネス様も懸念しているんだ。」
「だからと言って・・・・・」
そこまで言ってリリスは言葉を止めた。フィリップ王子とメリンダ王女が目をぎらつかせているからだ。
本気だわ、この二人。
どうせ自分達は使い魔の形で付いてくるんでしょうけど。
人使いの荒い王族ねえ。
「二人共憑依させるのは大変なんだけど。」
「大丈夫よ、リリス。私がフィリップお兄様の使い魔を取り込んだ形で、あんたの肩に憑依するからね。」
あれこれと画策する王族達である。
結局、リリスの肩に芋虫が生えている形態になった。何時もと違うのはその芋虫の顔の下にもう一つの顔があるだけだが。
「まるで私がキメラじゃないの。」
リリスの言葉に芋虫がアハハと笑った。
「フィリップお兄様は見ているだけよ。私が取り込んでいる形なのでね。」
そこまでして見物したいのかしら?
リリスは芋虫に小声で、
「将来のあんた達の姿を見ているようだわ。」
その呟きに芋虫は言葉も無くニヤリと笑った。図星だと言いたいのかも知れない。
装備を整え、フィリップ王子から預かった転移の魔石を使って、リリスはホテルの外の暗闇に飛び出していった。
闇の中からがやがやと多数の人の声が聞こえてくる。その喧騒の中、鈍い爆発音が鳴り響き、きな臭い匂いが漂ってきて鼻を突く。
外に飛び出して分かった事だが、ホテルから100mほど離れた場所に神殿が建っていた。その近くで火災が起きている。
リリス達が部屋の窓から見ていたのはあの場所のようだ。
「それにしても軍が居るのに私がしゃしゃり出て良いのかしら?」
リリスの呟きに肩の芋虫が応えた。
「この国は軍と言ってもほとんどが傭兵なのよ。元々商業で興隆した国だからね。」
「剣や弓などの武器の扱いに長けている者はそれなりに居るのよ。でも魔法攻撃に対応出来る戦力は少ないって聞いたわよ。」
それってダメじゃん。魔物だって魔法を放つのに。
リリスの心の中の突っ込みにメリンダ王女は気付かない。
だが暗闇の中を走るうちにリリスは異様な精神波を感じた。
『魔装を発動してください!』
解析スキルの勧めに応じて、リリスは即座に魔装を非表示で発動させた。
「リリス。今、何かした? 魔力が多重に纏わり始めたわよ。でもシールドでは無さそうだし・・・」
魔装の発動を感じ取ったようだ。
見た目には分からなくても、メリンダ王女の使い魔を深度に憑依させているので、彼女は魔力の流れで違和感を感じるのだろう。
「何でもないわよ。気にしないで。」
「どうも怪しいわねえ。特別な隠しスキルでも使ったのかしら?」
勘の良い子ねえ。
リリスはドキッとしながらも知らぬふりをして先を急いだ。現場に近付くにつれて禍々しい妖気が漂ってきて、少し頭が痛くなってきた。
これって耐性が無ければ厳しいわね。
そう思ったリリスの発想は正しかった。火災の発生している場所の周囲に、多数の兵が呻きながら倒れていたからだ。だからと言って救助に向かう余裕はない。
その兵達の向こうに金色の獣が見えているからだ。
胴体は象だ。大きさも象に近い。だが尻尾に蛇が生えていて火を吐いている。更にその頭部は鬣の生えたライオンだ。
随分醜悪なものを造ったものだ。だが胴体が象なのでそれほどに移動速度は速くない。その点を考えても、複数の箇所での長時間にわたる陽動作戦だと見て良いだろう。
キシャーッと言う気味の悪い声を上げてキメラが強い妖気を発し、尻尾の蛇が火を吐いて周りの家屋を焼き焦がしている。
「リリス。あのキメラの頭頂部に触角があるわ。あそこから妖気を発しているのよ。」
芋虫の声に応じてキメラの頭部を探知すると、確かに触角から妖気を発している。メリンダ王女は即座に探知したようだ。
リリスは高速で軽量のファイヤーボルトを数発放った。キーンを言う金切り音を立てて、ファイヤーボルトはキメラの頭部に向かい、投擲スキルの補正もあって正確にキメラの頭頂部に着弾した。
だが着弾と同時にファイヤーボルトがふっと消えてしまった。
どうやら特殊な耐性を持っているようだ。
「効かないわよ!」
芋虫の叫び声が聞こえてきた。
「黒炎を試してみる?」
メリンダ王女の提案にリリスはうんと応えた。
リリスが両手を前に突き出すと、肩に生えた芋虫を通してメリンダ王女の意志と闇魔法のスキルがリリスの脳内に浸食してくる。少し身体が硬直してきた。リリスの意志とは関係なく魔力が両手に集中し、その手の前に大きな黒炎が出現した。
黒い炎の塊の随所に赤い火が走る。如何にも禍々しい闇魔法の所産だ。
キメラの頭部に向けてリリスはその黒炎を放った。音も無く黒炎が高速で滑空し、キメラの頭部を直撃した。
キメラもその衝撃で身体が揺らぐ。
だがそれでもキメラにこれと言ったダメージが見られない。
キメラはリリスに向かってゆっくりと歩き始めた。
「全く効いていないわよ!」
芋虫の叫び声が響き渡る。だがリリスにはまだ余裕がある。キメラの移動速度が速くないからだ。
これなら泥沼に沈められるわね。
そう思ってリリスは足早にキメラに近付いた。
キメラの尻尾から飛び込んでくる火炎を避けながら、リリスはキメラの足元に土魔法を発動させ、直径10mほどの泥沼を出現させた。
その深さは10mほどだ。
図体の大きなキメラは突然現れた泥沼に見事に沈んでいった。暴れるキメラの動作で泥が周囲に飛散している。
同時にリリスは浸透性の高い毒を精製し、持っていた水袋の水に付与させて泥沼に投げ入れた。
だがその毒が拡散されるまでの数秒の間に、泥沼から黒く太い触手が2本飛び出して泥沼の縁を掴んだ。
逃げだそうとしているのか!
驚いたリリスは慌てて泥沼の表面を硬化させた。慌てていたので上層部の1mほどだが、しっかりと硬化されて黒い触手もその動きを止めてしまった。
「リリス。あんたって器用に土魔法をこなせるのねえ。こんなの初めて見たわよ。」
感心する芋虫の声に笑って応えようとしたその時、リリスの背後でパキッと言う音がした。思わず振り向くと、硬化された泥沼の表面を砕き、細く黒い触手が1本飛び出してきた。
ええっ?
まだ生きているの?
驚くリリスの目の前で、飛び出した触手の先端に光の球が現われ、次第に大きくなっていった。
不安を感じたリリスは解析スキルを発動させた。
あれって逃げ出そうとしているの?
『多分そうですね。形状を変えて脱出を図ろうとしているのでしょう。』
毒にも耐性を持っているのね。
『いや、かなり効いていますよ。ですがあのキメラは自分の魔力の大半を解毒に使ってしまった為に、元の形状を保てなくなったと思われます。』
そうなのね。しぶとい奴だわ。
逃げ出す前にもう一度泥沼に沈めてやろうと思ったリリスは、硬化された表面の傍に近付いた。その時、触手の先端の光球がカッと光り、それと同時にリリスの魔力が少し吸い出されてしまった。
リリスの心に油断があった事は否めない。
魔装を発動しているのにもかかわらず、キメラに魔力吸引を赦してしまったリリスは、驚いてその場から飛び上がる様に後方に離れた。
光球は奪った魔力で勢いを取り戻したようで、触手の先端から分離し、高速で近くにあった神殿の内部に飛び込んでいった。
「逃げちゃったわよ! リリス! 追いかけて!」
言われなくても追いかけるわよ。
ここまで翻弄されて、私も頭に来ているんだからね。
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