落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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リリスの帰省4

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実家に帰った翌朝。

リリスが目を覚ますとすでにフィナは居なかった。早くに起きてメイドの仕事に取り掛かっているようだ。元気になってくれていれば良いのだけれど。
そう思いつつ身支度をして部屋を出ると、にこやかな表情で仕事をしているフィナに廊下で顔を合わせた。

「お嬢様。昨夜は申し訳ありませんでした。でももう大丈夫です。」

明るい表情のフィナにリリスも一安心だ。

「そう。それは良かったわ。」

「でも随分ウキウキしているわね。良い夢でも見たの?」

軽くカマを掛けるとフィナは顔を少し赤らめて、

「いえ、大した事はありません。」

そう言いながら小走りにその場を離れて行った。

う~ん。
気に成るわねえ。

朝食の間もフィナの事が気に成っていたリリスはマリアにフィナの出自を聞いた。
その話によるとフィナは隣国の山村の生まれで、幼い頃に魔物の大群に襲われて家族も目の前で殺され、地下の暗渠に隠れたフィナだけが助かったそうだ。
その後、このクレメンス領に住む親戚に預けられて育ったのだと言う。

悲しい過去があったのね。

朝の様子を見る限りフィナは大丈夫だろう。そう思いつつ自室に戻る途中でフィナを見つけたリリスは、何の用事も無いのにフィナを自分の部屋に呼びつけた。

とりあえず確かめたいわね。

ちょっとしたいたずら心で、リリスは部屋に入ってきたフィナがこちらを向いた途端に邪眼を発動させた。
瞬時にフィナは視点が定まらなくなり、虚ろな目でその場に立ち尽くしている。

「フィナ。昨日は良い夢を見たんでしょ? どんな夢だったか教えてよ。」

「・・・・・はい・・・お嬢様。・・・夢の中でケイン様が私を村のお祭りに誘って下さって・・・」

あらあら、そんな夢だったの? 
ケインの名前が出てくるなんて思ってもみなかったわ。確かに彼はイケメンだけどね。

興味津々でリリスが聞き出した内容は、初々しいフィナの片思いが叶った夢だった。

夢の中で思いを寄せていたケインとキスまでしたなんて、とても人には言えないわよねえ。
まあ、フィナの願いが叶うように遠くから見守っていてあげるわよ。

そう思ってリリスはボーっとして動かないフィナを誘導し、ドアの外に立たせてドアを閉じた。
程なく邪眼の効果が消えて、フィナは正気に戻った。

どうして私はここに居るのかしら?

首を傾げて考えても分からない。ポンポンと頭を軽く叩き、気持ちを切り替えてフィナはダイニングルームのあと片付けに戻っていった。





その日の午前中。

リリスは両親と共に祖先の霊廟に入る様に言われた。ドナルドの話ではリリスの成長を祖先に報告したいそうだ。

あそこに行くのは嫌なんだけどなあ。

リリスは幼い頃から霊廟に入るのが嫌だった。屋敷の広大な敷地の外れに建てられた霊廟には、クレメンス家の開祖からの歴代の当主の遺骨が安置されている。中はとても広くそれほどに暗いわけでもない。だが陰気な気配が漂い、アンデッドが生息して居そうな雰囲気もある。
リリスは生理的に受け付けられないのだった。

何か出てきたらヒールで浄化できるかしら?

そんな事を考えながら、嫌そうな表情を見せないように我慢しつつ、リリスは両親と共に霊廟の大きな両開きの扉を開いた。その途端にむっと湿っぽい空気が漂ってくる。

これが嫌なのよね。

そう思いながらも親の顔を立て、我慢しつつ中に入るリリスである。

霊廟の内部は魔道具の明かりで照らされていた。広く大きな石造りの壁面に7つの棺が間隔を開け、横に並んで埋め込まれている。その棺の頭の部分が壁面から30cmほど飛び出していて、そこについている扉から棺の中を見れるようになっている。まず開ける事は無いのだが、数年に一度、中を掃除する事も有るらしい。

その時は同席したくないわね。

そう思いながらリリスは両親の所作に倣って祖先の棺に祈りを捧げた。その時リリスは何かに呼ばれているような感覚を覚えたのだが、気にするときりが無いので何も考えないようにした。
だがリリスは開祖の棺の傍の暗がりに、剣を突き立てた大きな石が置かれているのに気が付いた。

あれっ? こんなものが前からあったかしら?

暗がりに置かれているので見落としていたのだろう。興味が無ければ気にも留めない筈だ。
だがそこに突き立てられている長さ1mほどの剣は、リリスが近付くと仄かに鈍い光を放った。

これってまるで英雄伝説じゃないの?
この剣を抜いた者が勇者として認定されるなんてね。

リリスが訝し気に剣を見つめている事に気が付き、ドナルドがその傍に近付いてきた。

「リリス。その剣は開祖の持っていた魔剣だそうだよ。剣先が30cmほど石の中に突き刺さっているんだが、どうやっても抜けないんだ。石を割ろうとしても極度に硬化されていて傷もつかないんだよ。」

へえ~。
そうなのね。

何気なくリリスがその剣の柄を握ると、即座に違和感を感じた。剣の柄が手のひらに吸い付いてくる。

「嫌だ! 手に吸い付いてくるわ!」

不気味に感じて手を離そうとするが離れない。

「リリス。ふざけていないで離しなさい。」

笑いながら声を掛けてくるマリアだが、リリスの心は焦る一方だ。

「この剣って私の手から魔力を吸っているわよ!」

焦るリリスの表情を見て演技ではないと知ったマリアは、

「リリス。大丈夫よ。私の爆炎で吹き飛ばしてあげるから。」

「お母様! 私まで焼き尽くすつもりなの!」

そう言い合っているうちに、ふっと手の感覚が軽くなった。
剣が石から抜けてしまったのだ。

ええっ!

唖然とするリリスと、それを茫然と見つめる両親。無言の時間が数秒過ぎた。

剣は白い光を放っている。

ハッと気が付いて剣を離そうとするがやはり離れない。
それなら魔金属錬成で金属の塊にしてやろうかと思った途端に、その剣はリリスの手のひらに吸い込まれるように消えて行った。

「どうしよう。入り込まれちゃったわ!」

焦って手を振るリリスだが、勿論その手からは何も出てこない。

「単に消えただけじゃないのか?」

ドナルドがそう問い掛けたがリリスは首を横に振った。

「違うのよ、お父様。手に入ってきた感覚が残っているのよ。」

リリスの言葉にマリアも戸惑っていた。
だがそのマリアの目に霊廟の壁が歪んでいく光景が映った。

目の錯覚かしら?

そう思った途端に何もなかった壁面に、大きな両開きの扉が現われた。
その前に光の塊が現われ、徐々に形が変わっていく。
程なくその光は人の形になった。

ローブを着た老人が突然現れた扉の前に立っている。うっすらと向こう側が見えるので実体では無さそうだ。

リリス達は突然の事で身構え、警戒心を露わにした。
だが老人は笑顔で語り掛けてきた。

「警戒せんで良い。儂は怪しいものではない。ここに眠るクレメンス家の開祖グレナドの従弟ユリアスだ。お主達はこのグレナドの子孫じゃな。封印の一部を解いてくれて感謝するぞ。」

無言でリリス達はうなづいた。

「儂はこれでも当時は賢者と呼ばれておったのじゃよ。グレナドの武功を陰で支えるのが儂の役目じゃ。だが敵に呪いを掛けられてしまった儂は、グレナドの配慮でこの霊廟に封印して貰った。封印しなければ周囲にどんな被害が及ぶかもしれんからのう。」

深刻な話にもかかわらず老人は終始笑顔だ。

「ユリアス様。その封印ってさっきのあの剣の事なの?」

「そうじゃ、お嬢ちゃん。あの剣は特殊なスキルを持つ者でなければ抜けん。お嬢ちゃんが抜いてくれたので封印の一部は解かれた。それ故に残りの封印をあの剣を使って解いて欲しい。」

「でも剣は消えてしまったわよ。」

リリスの言葉にユリアスはハハハと笑った。

「消えてはおらん。お嬢ちゃんの魔力と融合したのじゃ。手を突き出して念ずれば剣は現れるぞ。」

そうなの?

半信半疑でリリスは言われる通りにした。突き出したリリスの手からすっと剣が現われたのだが、その刀身は半透明で白く光っている。

「その剣は破邪の剣じゃ。アンデッドを滅ぼし、闇魔法を無効にしてしまう。魔力を相当消耗するのであまり長い時間は使えんが・・・」

リリスの手に生えた剣をドナルドもマリアも興味深く見つめた。

「凄いわ。褒美をもらったようなものね。」

感心しているマリアだが、リリスは素直に喜べない。

「それで残りの封印ってどうやって解くの?」

リリスの言葉にユリアスはふむとうなづき、壁面に現れた扉を指差した。

「その扉から中に入っておくれ。奥に辿り着き、儂の身体を縛り付けている鎖を破邪の剣で断ち切れば良いだけじゃ。但し・・・・・」

ユリアスは一息入れた。

「呪いの波動に惹かれてアンデッドがこの扉の中の通路に蔓延っておる。それを破邪の剣で駆逐しないと儂の身体の傍には近付けんのだ。」

う~ん。
そう言う事なのね。
でもそれって割に合うのかしら?

それ以前にこのユリアスと言う人物を信じて良いのかしら?

リリスはその場で考え込んでしまった。






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