落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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ニーナの再チャレンジ

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ニーナの再チャレンジの日。

リリスの予想通り、エレンはガイを同伴させてきた。

「ガイ。どうしてあんたがついて来たのよ。」

リリスの問い掛けにガイは平然と、

「俺とエレンと二人で一人だと思ってくれよ。」

何を言ってるんだろうかと思ってエレンを見ると、今のガイの言葉でやだぁとか言いながら照れて赤くなっている。

馬鹿じゃないの?

呆れてロイドを見ると、目を逸らしてしまった。見て見ぬふりと言う事なのだろう。

「リリス。耐えて。」

気を遣ったニーナの言葉が心に痛い。

「別に嫌だと言ってるんじゃないからね。」

気を取り直してリリスはニーナに問い掛けた。

「ニーナ。心の準備は出来ているの?」

リリスの言葉にニーナの表情が急にきりっとして、目が力強く光った。

「うん。大丈夫。今日はリリスには面倒を掛けないからね。」

穏やかな口調だが言葉にも力がこもっている。

この様子なら大丈夫そうね。

気を引き締めてリリスはニーナ達とシトのダンジョンに向かった。



ダンジョンの1階層に入ると、担任のロイドが全員にシールドを張ってくれた。リリスはリリスで魔道具に魔力を流して、簡易シールドを発動させた。リリスの身体を透明なウェットスーツが包み込むような感覚だ。

さあ出発と言うその時に、リリスの目の前に赤い衣装を着たピクシーが現われ、リリスの肩にスッと座った。タミアだ。

早速来たわね。

緊張するリリスに念話が伝わってきた。

(いらっしゃい。歓迎するわよ。)

(わざわざお出迎えとは有り難いわね。)

笑顔の無い言葉のジャブのやり取りだ。

(でも珍しいわね。リリスが此処に来るなんて。もっと難易度の高いダンジョンじゃないと満足出来ないんじゃないの?)

(そんな事は無いわよ。今日はそこに居るニーナの補佐で来たのよ。再チャレンジなのでお手柔らかにね。)

ピクシーは身体を傾けてニーナの方を見た。

「そのピクシーってリリスの使い魔なの?」

ピクシーと目が合ったニーナは、リリスに無邪気に問い掛けた。

「そうなのよ。上空からの偵察に使ってみようと思っているので気にしないでね。」

そう答えてリリスはタミアに念話を送った。

(そう言う事にしておいてね。まさかこのダンジョンのダンジョンマスターだなんて言えないからね。)

(分かったわ。それでそのニーナって子なんだけど、なかなか面白いスキルを持っているわね。)

タミアはニーナに関心を持ったようだ。

(この子ってゲームで言えば、アサシンかシーフね。)

まあ、確かにそうなんだけど・・・・・。

(良いわ。この子に合わせた仕様でダンジョンを組み替えてあげるからね。楽しみにして。)

そう言いながらピクシーは上空に飛び立っていった。

(難易度を高くしないでね!)

(はーい!)

リリスのお願いに明るい口調で念話が返ってきた。

返事は良いんだけどねえ。実際にはどうなんだか。

若干の不安を感じつつリリス達は第1階層を進んだ。

草原の木立から現れた3体のゴブリンに向けて、ニーナは早速ウィンドカッターを放って攻撃した。その手数が多い。小さいながらも20個以上の水の刃が蜂の群れのようにゴブリンに向かう。更に間髪を入れず第二陣を放つニーナに隙は無い。

同級生に比べて魔力量が多いから瞬時に連続攻撃が出来るのね。

リリスは前回のチャレンジでのニーナのおどおどしていた姿を思い出して、別人のような手際の良さに驚いていた。おそらくニーナ自身も今日を迎えるまでに自主練をしていたのだろう。

ニーナの放ったウォーターカッターは小さな刃なので致命傷にはならないが、それでも数の暴力でダメージを与え続ける。3体のゴブリンは瀕死の状態でその場に倒れた。すかさずニーナは短剣を取り出し、ゴブリンに止めを刺した。その表情に迷いはない。

「私の出番は無さそうね。」

リリスの言葉にエレンはうんうんとうなづいた。

「ニーナってすっかり頼もしくなっちゃったのよね。でもリリスってダンジョンメイトなんでしょ? 凶悪な魔物が出てきたらお願いね。」

エレンの言葉にガイが首を突っ込んできた。

「その時は俺が守ってやるよ。」

「やだぁ。ガイったら。」

はいはい。ご馳走様。
付き合ってられないわ。

そう思って後方のロイドを見ると、リリスはまた目を逸らされてしまった。

仕方が無いなあと言う視線を送りながら、ニーナは何時の間にか先頭に立ち、フロアの奥に再度進み始めた。
だが草原を少し進んだ時、ニーナは突然周りを制して立ち止まった。

「罠が仕掛けてある。」

そう言いながら探知を巡らせると、ニーナは大きめの石を持ち前方に投げつけた。石が地面に落ちた途端に地面から土の槍がグッと突き出した。その数は約30本。斜めに交差してダメージを加える形式だ。横幅10m奥行2mほどの領域が土の槍で埋め尽くされた。

これって土魔法のアースランスよね。

(タミア! あんた、土魔法はダサいって言ってたじゃないの!)

(そんな事言ったかしらね?)

しらばっくれてるわね。

気を取り直してリリスは前に進んだ。だが50mほど進むとまたニーナが立ち止まった。

全員を制して周囲を探知すると、前方の地面にかがみこんで何かをし始めた。手に魔力を纏っている。これは罠の解除のスキルを使っているのだろう。
ニーナが立ち上がり、何かを試すように少し前に進むと、5mほど離れた両側の藪から合計40本ほどの矢がドサッと前に落ちてきた。

「ニーナ。あれって解除していなかったらそのまま飛んできてたの?」

エレンが呑気に尋ねると、ニーナはうんうんとうなづきながら、地面に落ちた矢を一本拾い上げた。それをリリスの目の前に持ってきたのだが、その先端がドロッと緑色に濡れて光っている。

「毒矢じゃないの!」

「悪質な罠だよね。」

そんなに落ち着いている場合じゃないわよ、ニーナ。
それでも解除に自信があって意に介さないのかしら?

リリスは鑑定スキルを発動させた。


**************

ニーナ・メル・ハーネスト

種族:人族 レベル11

年齢:13

体力:500
魔力:1100+

属性:火・水

魔法:ファイヤーボール  レベル1

   ウォータースプラッシュ レベル2 

   ウォーターカッター  レベル2

秘匿領域

スキル:探知 レベル2

    隠形 レベル1
        
    罠解除 レベル2

    暗視 レベル2

    千里眼 レベル2

    魔力吸引 レベル1
      (阻害要素により発動不可) 

呪縛要素:商人の枷 ステージ1(残余15%)
     商人の枷 ステージ2(無効化処置完了)
     商人の枷 ステージ3(無効化処置完了)

    
**************

以前に比べてスキルのレベルが上がっている。相当自主練を積んだのね。
それに<商人の枷>の影響も僅かに減少している。

ニーナのスキルの使用状況って分かる?

『上手くスキルを連動させていますね。探知スキルと罠解除や千里眼や暗視を連動させて、効率よく罠の確認と分析をしているようです。』

『探知と千里眼と暗視の連動で、常人には気付かない高度な偽装さえ見破っていますね。シーフとして立派に大成出来ますよ。』

いやいや。
大商人の娘がシーフになってどうするのよ。
でもニーナがそれで生き生きとダンジョンに潜れるのなら良いのかな。

リリスの思いを知る事も無く、ニーナは更に前方に進んだ。だが第2階層への階段の近くまで来て、ニーナはまたも立ち止まった。

「階段の降り口に罠がある。」

そう言いながらニーナが小石を取り上げて階段の降り口に投げると、バリバリバリバリッと目も眩むような閃光と雷撃が走った。

「おいおい。こんな罠なんて何時から仕掛けられていたんだ?」

ロイドも唖然として階段を見つめている。ニーナは階段の降り口の前にかがんで、罠の解除を始めた。30秒ほどで解除を終えると恐る恐る足を踏み出したが変化はない。うんうんとうなづきながらニーナが階下に進んでいく。

「ニーナ。急いでいかないでね。」

「大丈夫。しっかり探知出来ているから。」

探知のみならず千里眼や暗視まで駆使しているからだろう。自信に漲るニーナだ。


第3階層までは同じような造りだったが、第4階層に入って様相が変わった。草原の向こうからブラックウルフの群れが近付いてくる。その数約20。

流石にここはリリスの出番だ。チームで闘わないとあの数のブラックウルフは倒せない。

リリスは魔力を集中させて敵の接近を待っていた。








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