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宝玉の儀式
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儀式の当日。
早朝にマリアナ王女と共にドルキア王国内に転移したリリスは、フィリップ王子の命を受けた女性兵士の指示で王都の神殿に案内された。
初めて訪れたドルキア王国の王都は華やかで美しい都市だった。整備された広い街路が縦横に走り大きな石造りの建物が連なっている。そのところどころにお洒落な装飾を施された商店が見える。実に洗練された雰囲気の都市だ。時間があれば観光したいと切に思うリリスだが、それが可能な時間の余地があるか否かは分からない。何より今回の儀式に参加するのが第一の目的なのだから。
案内された神殿も立派な物だった。王家の命令で急遽、徹底的な清掃を行ったそうで、石材の壁やエントランスの通路もきれいに磨き上げられている。
女性兵士の案内でその内部に入ったリリスは、用意された神官の衣装に着替え、顔に薄いベールを掛けて儀式の場所である神殿中央の間に待機した。祭祀に使われるこの広間は天井までが20m以上もあるドーム状の造りで、中央に大きな円形の祭壇があり、その中央にあの淡いブルーの宝玉が台座に乗せられて置かれている。その周りの白い装束の神官が囲むように配置され、その背後に豪華な椅子がずらりと並べられている。その椅子に座るのは王族や諸侯達だ。
その豪華な椅子の中央に一際大きな椅子が見える。これは国王と王妃の席だろう。
広間の背後の壁際に立っているとは言え、普通なら見知らぬ神官が居るのだから周りからは不審に思われるだろう。それ故にフィリップ王子の配慮で、リリスは胸に王家の紋章を模った金色のバッジをつけている。これは王家由来の要人の証しで、これを着けている人物には安易にかかわってはならないと言う不問律があるそうだ。それに加えて王子はリリスの傍に女性のロイヤルガードを付けてくれた。
目には見えないがその気配は良く分かる。ダークエルフ特有の気配だ。リリスに手渡された魔道具の効果で、そのロイヤルガードとは念話でやり取りが出来る。このロイヤルガードの名を聞くとリノと言うコードネームだと答えてくれたのだが、影の存在なので本名では呼び合わないそうだ。
広間の壁に造られたテラスから、荘厳な音楽が流れてきた。国王や王族達の入場だ。それに続いて諸侯を始めとする要人達も入場してきた。その場の空気にも緊張が張り詰めてくる。
壁際で立って居るリリスも緊張で喉が渇いてきた。
(リノ。緊張してきちゃったわ。私の存在って場違いよねえ。)
念話を飛ばすとふふふと笑い声が聞こえてきた。
(リリス様でも緊張するのですか?)
(だって、通りすがりの神官や貴族に話し掛けられたら、素性がばれちゃうよ。)
(それを避けるための胸の金バッジですよ。それに万が一リリス様に近付いて来る者がいたら、私が追い払いますからね。)
(それって力づくで?)
(いえ。神聖な場所ですから物騒な事はしません。相手の心に精神波を送って躊躇させるだけです。)
それなら良いわ。
(それにしてもリリス様は・・・・・年齢相応の少女なのですね。)
(意外そうなものの言い方をするわね。)
(だって私達のリーダーからは、あまり接近しない方が身の為だと念を押されていたんですから。)
(私って危険人物扱いなの?)
(ある意味、そうですね。あらゆる探知の魔力の波動を跳ね返してしまうし、精神への干渉も受け付けないし・・・)
ああ、それって保養地の屋敷での夜の事を言っているのね。
(しかも未知の毒を扱えるようですし、その攻撃方法も尋常ではないようで・・・・・)
う~ん。
そんなに危険視されていたのかしら?
やはり無暗に手の内を見せるものじゃないわね。
(そんな危険な奴が緊張しているのが滑稽だと言いたいのね。失礼だわ。私はごく普通の13歳の学生ですからね。)
(ごく普通って・・・それは無いわあ・・・・・)
リノはしばらく黙ってしまった。
そこで言葉を失わないでよね。
少し憤慨しているリリスの目の前で、儀式は厳かに始められた。
3人の神官が台座の周りに立ち、祈りを捧げ始めた。
それに合わせてその周囲を神官たちが囲み、同じように祈りを捧げている。
その祈りの波動を受けて、台座の中央に置かれた宝玉が少し光り始めた。反応しているようだ。
(あの宝玉はリリス様が見つけたと聞いていますが・・・)
そう言う事になっているのね。ここは話を合わせておくわ。
(ええ、そうよ。ドメルのダンジョンで手に入れたのよ。)
(ふうん。やはり不思議な方だわ。)
不思議ちゃんにされちゃった。
(それよりも参席している諸侯や貴族に不審な動きは無いの?)
(それは仲間がしっかりと見張っていますよ。)
(でも中にはこの儀式自体に不信感を持っている貴族も居るんじゃないの?)
(そうですね。ここに召集された事への不信感を小声で口にしている者は見受けられますね。)
そうよねえ。無理も無いと思うわ。それでもユリアの言った事を信じるしかないけどね。
そう思いながらリリスが貴族達に目を向けると、突然おおっと言う驚きの声があがった。
広間のドーム状の天井に淡いブルーの大きな光の球が現われたからだ。
ユリアが来たようね。
リリスの見守る中、その光球は徐々に降りて来て人の形に変化していく。そこに出現したのはゆったりとした衣を纏った半透明の女神の姿だった。淡いブルーに光るその女神は、ユリアを大人にしたような面長の美しい表情で優しく宝玉を見つめている。だがその大きさは3mもありそうだ。明らかに人ではないと分かるサイズでしかも八頭身になっている。
おおっと叫ぶ人の声が幾重にも重なり、怒号のように広間中に響き渡った。
「水を司る亜神が降臨された。」
「アクア=エル=リヴァイタル。」
座っていた者は一斉に立ち上がり、口々にその名を呼んだ。
現われた女神は宝玉の少し上で止まり、宙に浮かんで口を開いた。
「この宝玉はお前達の国の始祖に与えた物に間違いない。良く探し出しましたね。」
その言葉に一同は頭を下げた。
「以前と同じように私の息吹を吹き込んであげましょう。」
女神はそう言うとその魔力を宝玉に注ぎ込んだ。その途端に宝玉から淡いブルーの光が強く放たれ、清廉な波動が広間中に広がった。ヒールの癒しの波動とはまた違った、清廉であり清楚で気力を奮い立たせてくれるような波動だ。
これが水の亜神の放つ波動なの?
リリスも心が洗われるような気持ちになった。
「この国の現国王はそなたか?」
女神の問い掛けに国王がハッと答え、胸に手を当てて答礼した。
「私の加護を与えましたから、善くこの国を治めなさい。国と民を栄えさせて中興の祖となるのですよ。」
その言葉に国王はその場で額づいた。
女神は柔らかな表情で周囲を見回しながら、上に昇っていく。
「この場に居る全ての者にも私の加護を分け与えましょう。」
そう言うと女神は周囲に光を振りまき始めた。その光の粒が広間中に拡散されていく。それは光の形をした加護の波動で、降り注がれた者の心を清々しく清めてくれた。
程なく女神は光の球と化してそのまま消えていった。
ユリアったら役者ねえ。
リリスの思いを知る由もなく、神官達は感謝の祈りを捧げ、儀式は無事に終了した。
(リノ。無事に終了して良かったわね。)
(・・・・・・・・・)
念話の返事が無い。
(リノ? どうしたの?)
(・・・・・ううっ。)
リノの様子がおかしいと思ったリリスだが、どうやら嗚咽しているようだ。感激しているのだろうか?
(・・・ああ、申し訳ありません。つい感激してしまって・・・)
そうよねえ。
何も知らずにあのユリアの姿や儀式の内容を見れば、誰でも感極まってしまうわよねえ。
(良いのよ、リノ。ドルキアにとって素晴らしい儀式になったわね。)
(はい。これで現国王様の統治も盤石になるでしょう。)
ここまでのリノとの念話でのやり取りを通して、リリスはリノに少なからず好感を持っていた。
(リノ。私はこれでこの国を離れるけど、リノとはまた会う機会を楽しみにしているわね。)
(私もリリス様とは色々と通じ合えるような気がします。)
リノから親愛の情が精神波となって伝わってきた。これはダークエルフ特有の心のやり取りなのだろう。リノの仕事は過酷だ。明日にも命を落とすかも知れない仕事が、王族のロイヤルガードなのだから。リノとの交流を一期一会として楽しみながら、リリスはフィリップ王子の命を受けた女性兵士の案内に従って神殿を離れた。このまま王宮に戻ってマリアナ王女と共に魔法学院に転移する事になるのだろう。そう思いながらも何故か、後ろ髪を引かれるような思いでドルキアを離れようとするリリスだった。
早朝にマリアナ王女と共にドルキア王国内に転移したリリスは、フィリップ王子の命を受けた女性兵士の指示で王都の神殿に案内された。
初めて訪れたドルキア王国の王都は華やかで美しい都市だった。整備された広い街路が縦横に走り大きな石造りの建物が連なっている。そのところどころにお洒落な装飾を施された商店が見える。実に洗練された雰囲気の都市だ。時間があれば観光したいと切に思うリリスだが、それが可能な時間の余地があるか否かは分からない。何より今回の儀式に参加するのが第一の目的なのだから。
案内された神殿も立派な物だった。王家の命令で急遽、徹底的な清掃を行ったそうで、石材の壁やエントランスの通路もきれいに磨き上げられている。
女性兵士の案内でその内部に入ったリリスは、用意された神官の衣装に着替え、顔に薄いベールを掛けて儀式の場所である神殿中央の間に待機した。祭祀に使われるこの広間は天井までが20m以上もあるドーム状の造りで、中央に大きな円形の祭壇があり、その中央にあの淡いブルーの宝玉が台座に乗せられて置かれている。その周りの白い装束の神官が囲むように配置され、その背後に豪華な椅子がずらりと並べられている。その椅子に座るのは王族や諸侯達だ。
その豪華な椅子の中央に一際大きな椅子が見える。これは国王と王妃の席だろう。
広間の背後の壁際に立っているとは言え、普通なら見知らぬ神官が居るのだから周りからは不審に思われるだろう。それ故にフィリップ王子の配慮で、リリスは胸に王家の紋章を模った金色のバッジをつけている。これは王家由来の要人の証しで、これを着けている人物には安易にかかわってはならないと言う不問律があるそうだ。それに加えて王子はリリスの傍に女性のロイヤルガードを付けてくれた。
目には見えないがその気配は良く分かる。ダークエルフ特有の気配だ。リリスに手渡された魔道具の効果で、そのロイヤルガードとは念話でやり取りが出来る。このロイヤルガードの名を聞くとリノと言うコードネームだと答えてくれたのだが、影の存在なので本名では呼び合わないそうだ。
広間の壁に造られたテラスから、荘厳な音楽が流れてきた。国王や王族達の入場だ。それに続いて諸侯を始めとする要人達も入場してきた。その場の空気にも緊張が張り詰めてくる。
壁際で立って居るリリスも緊張で喉が渇いてきた。
(リノ。緊張してきちゃったわ。私の存在って場違いよねえ。)
念話を飛ばすとふふふと笑い声が聞こえてきた。
(リリス様でも緊張するのですか?)
(だって、通りすがりの神官や貴族に話し掛けられたら、素性がばれちゃうよ。)
(それを避けるための胸の金バッジですよ。それに万が一リリス様に近付いて来る者がいたら、私が追い払いますからね。)
(それって力づくで?)
(いえ。神聖な場所ですから物騒な事はしません。相手の心に精神波を送って躊躇させるだけです。)
それなら良いわ。
(それにしてもリリス様は・・・・・年齢相応の少女なのですね。)
(意外そうなものの言い方をするわね。)
(だって私達のリーダーからは、あまり接近しない方が身の為だと念を押されていたんですから。)
(私って危険人物扱いなの?)
(ある意味、そうですね。あらゆる探知の魔力の波動を跳ね返してしまうし、精神への干渉も受け付けないし・・・)
ああ、それって保養地の屋敷での夜の事を言っているのね。
(しかも未知の毒を扱えるようですし、その攻撃方法も尋常ではないようで・・・・・)
う~ん。
そんなに危険視されていたのかしら?
やはり無暗に手の内を見せるものじゃないわね。
(そんな危険な奴が緊張しているのが滑稽だと言いたいのね。失礼だわ。私はごく普通の13歳の学生ですからね。)
(ごく普通って・・・それは無いわあ・・・・・)
リノはしばらく黙ってしまった。
そこで言葉を失わないでよね。
少し憤慨しているリリスの目の前で、儀式は厳かに始められた。
3人の神官が台座の周りに立ち、祈りを捧げ始めた。
それに合わせてその周囲を神官たちが囲み、同じように祈りを捧げている。
その祈りの波動を受けて、台座の中央に置かれた宝玉が少し光り始めた。反応しているようだ。
(あの宝玉はリリス様が見つけたと聞いていますが・・・)
そう言う事になっているのね。ここは話を合わせておくわ。
(ええ、そうよ。ドメルのダンジョンで手に入れたのよ。)
(ふうん。やはり不思議な方だわ。)
不思議ちゃんにされちゃった。
(それよりも参席している諸侯や貴族に不審な動きは無いの?)
(それは仲間がしっかりと見張っていますよ。)
(でも中にはこの儀式自体に不信感を持っている貴族も居るんじゃないの?)
(そうですね。ここに召集された事への不信感を小声で口にしている者は見受けられますね。)
そうよねえ。無理も無いと思うわ。それでもユリアの言った事を信じるしかないけどね。
そう思いながらリリスが貴族達に目を向けると、突然おおっと言う驚きの声があがった。
広間のドーム状の天井に淡いブルーの大きな光の球が現われたからだ。
ユリアが来たようね。
リリスの見守る中、その光球は徐々に降りて来て人の形に変化していく。そこに出現したのはゆったりとした衣を纏った半透明の女神の姿だった。淡いブルーに光るその女神は、ユリアを大人にしたような面長の美しい表情で優しく宝玉を見つめている。だがその大きさは3mもありそうだ。明らかに人ではないと分かるサイズでしかも八頭身になっている。
おおっと叫ぶ人の声が幾重にも重なり、怒号のように広間中に響き渡った。
「水を司る亜神が降臨された。」
「アクア=エル=リヴァイタル。」
座っていた者は一斉に立ち上がり、口々にその名を呼んだ。
現われた女神は宝玉の少し上で止まり、宙に浮かんで口を開いた。
「この宝玉はお前達の国の始祖に与えた物に間違いない。良く探し出しましたね。」
その言葉に一同は頭を下げた。
「以前と同じように私の息吹を吹き込んであげましょう。」
女神はそう言うとその魔力を宝玉に注ぎ込んだ。その途端に宝玉から淡いブルーの光が強く放たれ、清廉な波動が広間中に広がった。ヒールの癒しの波動とはまた違った、清廉であり清楚で気力を奮い立たせてくれるような波動だ。
これが水の亜神の放つ波動なの?
リリスも心が洗われるような気持ちになった。
「この国の現国王はそなたか?」
女神の問い掛けに国王がハッと答え、胸に手を当てて答礼した。
「私の加護を与えましたから、善くこの国を治めなさい。国と民を栄えさせて中興の祖となるのですよ。」
その言葉に国王はその場で額づいた。
女神は柔らかな表情で周囲を見回しながら、上に昇っていく。
「この場に居る全ての者にも私の加護を分け与えましょう。」
そう言うと女神は周囲に光を振りまき始めた。その光の粒が広間中に拡散されていく。それは光の形をした加護の波動で、降り注がれた者の心を清々しく清めてくれた。
程なく女神は光の球と化してそのまま消えていった。
ユリアったら役者ねえ。
リリスの思いを知る由もなく、神官達は感謝の祈りを捧げ、儀式は無事に終了した。
(リノ。無事に終了して良かったわね。)
(・・・・・・・・・)
念話の返事が無い。
(リノ? どうしたの?)
(・・・・・ううっ。)
リノの様子がおかしいと思ったリリスだが、どうやら嗚咽しているようだ。感激しているのだろうか?
(・・・ああ、申し訳ありません。つい感激してしまって・・・)
そうよねえ。
何も知らずにあのユリアの姿や儀式の内容を見れば、誰でも感極まってしまうわよねえ。
(良いのよ、リノ。ドルキアにとって素晴らしい儀式になったわね。)
(はい。これで現国王様の統治も盤石になるでしょう。)
ここまでのリノとの念話でのやり取りを通して、リリスはリノに少なからず好感を持っていた。
(リノ。私はこれでこの国を離れるけど、リノとはまた会う機会を楽しみにしているわね。)
(私もリリス様とは色々と通じ合えるような気がします。)
リノから親愛の情が精神波となって伝わってきた。これはダークエルフ特有の心のやり取りなのだろう。リノの仕事は過酷だ。明日にも命を落とすかも知れない仕事が、王族のロイヤルガードなのだから。リノとの交流を一期一会として楽しみながら、リリスはフィリップ王子の命を受けた女性兵士の案内に従って神殿を離れた。このまま王宮に戻ってマリアナ王女と共に魔法学院に転移する事になるのだろう。そう思いながらも何故か、後ろ髪を引かれるような思いでドルキアを離れようとするリリスだった。
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