落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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図書館での出来事

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エレンから自家製のポーションの思わぬ効果を教えられたリリスだったが、次の授業の準備を始めた矢先に、魔法学院の事務スタッフが教室に出向き、クラス委員であるリリスに事務連絡を伝えた。

次の授業の担当教師の急な用事で、次の授業は学舎に併設された図書館での自習となったのだ。

自習って休憩時間みたいなものよね。

そう思って周りの生徒達の様子を見ると、半数以上の者が嬉々とした表情を見せている。やはり興味のない分野の座学は退屈だったのだろう。
リリスは全員に声を掛け、教室から図書館の前へと誘導した。

担当教師の代理としてリリス達の世話をするのは図書館の司書のケリー女史だ。彼女の案内でリリスのクラスの生徒全員が図書館に入った。地上5階地下3階の図書館は広々とした造りで天井も高く、高さ3mほどの大きな木製の書架が並び、数えきれないほどの書物が管理されている。
古書の匂いがあちらこちらから漂ってくるのだが、その雰囲気に飲み込まれ、自然に心が穏やかになってくるのが不思議だ。

「新入生のみなさんは図書館に入るのは初めてよね。ここには5万冊の蔵書があります。書物の探し方や貸し出しのルールを体得して、有意義に活用してくださいね。」

眼鏡をかけた研究者風の容貌のケリー女史の指図で、各自が興味のある書物を探し始めた。授業の内容の補完にあてがうのが目的なのだろう。
色々な分野の書物がそのカテゴリーごとに分けられ、それぞれのブースに纏められているので、生徒達もそのカテゴリーの表示を見ながら分散していく。
リリスは薬学関係の書架を閲覧していたが、書架の片隅に僅かに魔力を纏った古書があるのを見つけた。

何故古書が魔力を纏っているの?

不思議に思ってその古書を手に取ると、それは古代の賢者が書き残したもので、薬剤の調合に関するものだった。だがこの書物が書かれた頃は薬師の職分は確立されていなかったので、錬金術のような技術やスキルまで論及されている。

書架の傍の机にその古書を置き興味深そうに読んでいると、ケリー女史が通りがかったので、リリスはおもむろにその古書の事を聞いてみた。

「その本の纏っている魔力の正体は、実は良く分からないのよ。書かれたのは500年ほど前で、その保存状態を維持する為だと言う事は分かっているのだけど、それ以外にも目的があると後書きには書かれているわ。でもその部分が暗号化されていて解読できないのよね。」

「この本を書いたのは賢者なのですか?」

「そうよ。賢者ユーフィリアス。元々は錬金術師で薬学にも精通し、さらに魔素や魔力の研究にも多くの成果を残したと言われているの。魔導工学の基礎を築いたのもこの賢者様なのよ。」

「そうなんですか。でもそれほどの方なのにあまり名前が知れ渡っていませんね。」

リリスの疑問にケリー女史はふっとため息をついた。

「それはこの賢者様の性格に癖があったからなのよ。相当偏屈な人物だったらしいわ。」

「でも賢者様ってそう言う人物像が普通に思い浮かびますけどね。」

「賢者ユーフィリアスは社会性が全く無かったのよ。それ故にその研究も当代に世間に知られる事は無かったの。彼の研究成果が徐々に知られるようになったのは彼の死後なのよ。」

そうなんだ。それって幸せな人生だったのかしら?
研究に没頭出来れば他には何も必要無かったのかも知れないわね。

しばらくその本を読みながら、リリスは授業内容に役立ちそうな部分を記録していた。ふと周りの机を見ると、すでに飽きてしまった男子生徒が本を枕にして、机に突っ伏しているのが目に入った。

寝ちゃったのね。

その様子を微笑ましく眺めながら、リリスはふと気に成った。

あの姿ってまるで本を額に当てているみたいだわ。

自分の手元にあるこの本を額に当てればどうなるのだろう? 突拍子もない事が頭に思い浮かんでくる。
これはただの本だ。でもこの纏っている魔力が気に成る。

あれこれと迷った挙句、リリスは眠気を催した振りをして机に突っ伏し、本を自分の額に当ててみた。
すると即座にコピースキルが発動された。

ええっ! コピー出来るの?
そんな馬鹿な!

しかも頭に浮かんでくるのはスキルではない。

『ガイダンス』と『データ』だ。

これは何だろうかと思いつつ、リリスは解析スキルを発動させてみた。

これは何なの? スキルじゃないわよね。

『スキルではありませんが、スキルに似せた仕様になっています。コピースキルの対象にはなるようです。むしろそう言うスキルを持つ人物に対応するように、最初から仕組まれていると考えた方が良いでしょう。』

それでこれは何なの?

『ガイダンスは案内用の召喚魔法でデータは魔力で圧縮構成されたアーカイブです。』

分かったような分からないような説明ね。

『コピースキルでコピーした上でガイダンスを発動させる事をお勧めします。非常に有益な情報であると推測出来ますので。』

あんたがそう言うのならやってみるわね。


リリスは深く考えずにコピーしてみた。普通に魔物や人からコピーする際の突き刺すような頭痛が来ない。これは対象が生命体ではなく、本だからなのだろうか?

コピーを終えたうえでガイダンスを発動させると、机の上に小さな半透明の老人が現れた。これはホログラムだろうか?
身長5cmほどの半透明の老人がリリスの顔をまじまじと眺めてほほ笑んだ。その表情は賢者と言うには似つかわしくない好々爺の笑顔のように感じられるのだが、これが賢者ユーフィリアスの姿なのだろう。

程なくリリスの脳内に念話が届いてきた。

(お嬢ちゃん、あまり驚いておらんようだな。)

驚いている暇も無いわよ。
それでこれは何なの?

(儂は賢者ユーフィリアスが生前に残した人工知能のガイダンスプログラムだ。お嬢ちゃんが発動させることで召喚されたのじゃよ。)

何処から召喚されたのか聞くのも無駄よね。
それでこの『データ』って何?

(ああ。それはこの書物に付いてくるおまけじゃ。付録とも言うが・・・)

本のおまけ?
要するにDVDの付いてくる雑誌のようなものだと思えば良いのね。

(このおまけは二つある。一つは薬草と薬効の調合マニュアルで、これはお嬢ちゃんの持つ解析スキルや調合スキルの機能拡張として連携される。)

あら?
私が解析スキルや調合スキルを持っている事を知っているの?

(ガイダンスの発動と共に鑑定させて貰ったよ。稀有なスキルの持ち主じゃな、お嬢ちゃんは。まあ、そうでなくてはこのおまけの正体すら分からないだろうからなあ。)

それでもう一つのおまけは何?

(うむ。もう一つのおまけは賢者ユーフィリアスが晩年研究していた魔導工学の所産じゃ。目の前に示す小さな魔方陣に魔力を流してくれ。)

その言葉と共に、机の上に直径5cmほどの小さな魔方陣が現れた。どう言う仕組みなのか分からないが、実に興味深い仕掛けだ。言われるままにリリスがそれに魔力を流すと、カッと光って魔方陣の中心に小さな金色の指輪が現れた。

(これは全属性魔法に耐性を持つプロテクトスーツじゃよ。その指輪をお嬢ちゃんの指に嵌めてごらん。)

深く考える事も無くリリスはその指輪を自分の右手の子指に嵌めた。指輪が小さいので小指にしか嵌められないからだ。
だが嵌められた指輪が瞬時にリリスの小指に埋没していく。まるで小指が呑み込んでいくように・・・・。

ええっ!
埋め込まれちゃった!
これって大丈夫なの?

(気に病むことは無い。それはコントロールスイッチじゃよ。プロテクトスーツの着脱は埋め込まれた指輪に魔力を流す事で行なう仕様になっておる。)

(とりあえず試してごらん。細かな仕様は解析スキルで調べれば良い。ガイダンスは以上で終了じゃ。)

そう言うと老人のホログラムは消えてしまった。

とりあえず試せと言われてもここは図書館だから出来ないわね。

リリスはおもむろに席を立つと、図書館の片隅の化粧室に入った。大きな鏡の前で老人のホログラムに言われた通り、自分の小指に埋まっている筈の指輪に魔力を注いでみた。

それと同時に小指が仄かに光り、身体の表面に透明で薄い皮膜が広がった。これはまるでラバースーツだ。上半身は丸首のシャツ状になっていて手首まで覆っている。下半身は足首まで覆っていてレギンスのようだ。伸縮性があって身体にぴったりとフィットしているが負荷は無い。
皮膚を直接覆うので肌着の下に現れるようになっている。

これってどの程度の魔法耐性があるのかしら?

鑑定スキルを発動させると、

『簡易シールド型なのでレベル3程度の属性魔法なら対応できますが、それ以上のレベルの魔法には対応出来ません。』

チート装備じゃないのか。でも本のおまけでユニークランクの装備は付いてこないわよね。
とりあえず便利だから使わせて貰うわ。

リリスは満足してもう一度小指に魔力を流し、プロテクトスーツの着用を解除した。








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