落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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フィナの災難

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倒れているフィナ。

その傍に駆け寄るとフィナは冷や汗を掻き、うんうんと唸って足を痛そうに摩っていた。
かなりの怪我をしているようだ。

レイが上半身を抱きかかえて水を飲ませると、フィナは苦しそうな表情でかすれるような声を出した。話を聞いてみるとフィナが厩舎に来た時に、野犬が紛れ込んできたそうで、それに驚き興奮した馬に後ろ足で蹴られてしまったと言う。実に気の毒な状況だが、レイはその姿勢で青く腫れあがったフィナの足を摩りながら、精査するように魔力を流し始めた。

「幸い骨が折れて無さそうだから、すぐに直してあげるわね。」

そう言いながらレイの手から放たれたのはヒールの魔法だった。レイは聖魔法の使い手だったのだ。
レイの手が白く光り、放たれる魔力がフィナの患部を見る見るうちに癒していく。腫れが消えてフィナの足が元通りになるまでに3分も掛からなかった。

「レイさん。ありがとう。」

レイにお礼を言いながらリリスは別の事を考えていた。

私もヒールを使えるようになりたい!
だって、自分で自分の傷を治せるなんて、如何にもゲームっぽくて憧れちゃうわ。

ヒーラーと言う言葉に異常に執着するリリスである。それはRPGでも彼女が選ぶ事の多かった職種だった。ここでリリスが聖魔法を手に入れたとしても、ステータス上では隠しておく事になる上に、聖魔法にまで投入するほどに魔力量に余裕も無い。
焦って手に入れる必要などないのだ。
だが、それでもリリスの心からは執着が消えなかった。

フィナが治癒され立ち上がり、レイに感謝しつつ差し入れを探して馬車の中に乗り込んだ。その治療を受けたばかりのフィナの身を案じて、レイも手伝うために馬車に乗り込んだ。

二人の女性が馬車の中で動いている。

その様子を馬車の窓からリリスが覗き込んだ。

「差し入れは座席の下の収納箱の中にあるわ。カバーを掛けたバスケットよ。」

リリスが声を掛けるとフィナとレイが同時にリリスの顔を見た。それはあくまでも偶然訪れた瞬間である。

ここだ!

千載一遇のチャンスとばかりに、リリスは瞬時に邪眼を発動した。その途端に二人の目がとろんとなって視線が定まらず、馬車の中でそのまま動きが止まってしまった。周りに人が居ない事を確認して、リリスは素早く馬車に乗り込み、馬車のドアを閉めて内側からカーテンを引いた。

「フィナ。向こうを向いて大人しくしていてね。」

「・・・・・はい、お嬢様。」

フィナは指示に従って馬車の後方に下がった。

「レイさん。あなたの額を私の額に付けるのよ。私が良いと言うまで離れちゃ駄目ですからね。」

「・・・・・はい。」

ボーッとした表情で視線も定まらないままに、レイは髪を掻き上げ額を出してリリスの額に擦りつけてきた。

女同士とは言えドキッとするわね。

妙に高鳴るリリスの思いとは裏腹に、コピースキルが瞬時に発動した。

聖魔法の属性が見つかった。ヒールはレベル1だ。これならすぐにコピー出来る。

リリスは急いでコピーを始めた。リリスの脳内に鋭い痛みが走り、ヒールの情報が具現化していく。
コピーを終えて痛む頭を摩りながら、リリスはレイの持つ魔法とスキルの情報の中に気に成るものを発見した。

火魔法と投擲スキルだ。

聖魔法と火魔法の持ち主って珍しいわね。
しかもファイヤーボールはレベル1なのに、ファイヤーボルトはレベル3だわ。レイさんはどう言う使い方をしているのかしら?

自分もファイヤーボルトを訓練しているので、レベル3のファイヤーボルトがやたらに気に成る。リリスは思い切ってレベル3のファイヤーボルトをコピーし始めた。その途端に頭を錐で突き刺すような痛みが走り、リリスは思わず痛い!と声をあげてしまった。
だが一旦コピーが始まると止めることは出来ない。痛みに耐えつつコピーを終えたリリスは息を荒げ、脂汗を流していた。

自分とレベルの差がある場合、こんなに苦労するのね。

リリスはレベルがかけ離れているとコピーできないと言う老人の言葉を思い出した。だが一方でリリスは自分の脳内に妙なイメージが浮かび上がっているのに気が付いた。それはファイヤーボルトのイメージだが、何故か二重構造になっている。

これってレイさんが造り上げていたファイヤーボルトのイメージじゃないの!

それにしても二重構造のボルトって何?
中に何を入れるの?

武器なのだから元の世界で考えれば、金属製のボルトの内部に入れるのは火薬でしょうね。でもこの世界では・・・・・。

何となくその用途を思い浮かべながらも、リリスはコピースキルのもたらす効果に改めて感心した。術者の構築したイメージまでコピーしてしまうのだ。

これって気が利いているわねえ。

高揚する気持ちを何とか抑えながら、リリスは更にレイの持つ投擲スキルに意識を傾けた。

レベル2だ。

これも今の自分にとっては魅力的な情報だ。投擲スキルのレベルをあげれば、更に補正が掛かるのだろうかと思うと、無性にコピーしたくなってきた。
リリスは邪眼の効果時間を気にしながら、素早く投擲スキルもコピーを始めたのだが、先程よりも激しい痛みがリリスの頭を襲った。レベルが上のスキルをコピーするってこんなに苦痛を伴うのか。リリスはレベルアップの効果を期待して、痛みに折れてしまいそうな心を諫めた。本来なら相当な苦労をした代償として勝ち取るレベルアップなので、この程度の苦痛で済むなら儲けものだ。
ううっと呻きながらも耐えて、リリスはレベル2の投擲スキルのコピーを終了した。

何時になく強く痛む頭を摩りつつ、リリスは邪眼の効果時間が終わるのを待った。この時間が妙に長く感じてしまう。

5分間が過ぎて邪眼の効果が切れ、フィナとレイは正気に戻り、お互いに目を見合わせながらも差し入れのバスケットを取り出した。

「私・・・・・どうしたのかしら?」

レイの言葉にリリスはわざとらしく、うん?と首を傾げ、しらを切ってバスケットを受け取った。

「私から団長さんに直接手渡しますね。」

そう言って馬車から離れるリリスの後ろに、フィナとレイが頭をポンポンと軽く叩きながら言葉少な気に付き従った。

後に団長から聞いた話では、レイは劇団が馬車で移動する際に、僻地の道などでは時折出没する魔物退治も引き受けていたそうだ。要するに火魔法が彼女のメインで、それゆえのレベル3のファイヤーボルトなのだろう。



その後、屋敷に返る途中でリリスは自分の頭にヒールを掛けてみた。フィナが御者を務めているので馬車の中は一人だけだったからだ。
ヒールを意識しながら手のひらに魔力を集めると、手のひらが白く光り始めた。

案外簡単に出来たわね。

気を良くしてその手でまだ少し痛む頭に触れると、心地良い魔力の波動が伝わり、頭の痛みも直ぐに消えてしまった。しかもその癒しの波動が頭から次第に全身に広がっていく。あれっと驚いて手足を見ると、連日の魔法の訓練で出来てしまった小さな傷まで治ってしまっている。

ヒールのレベルは1よね。

不思議に思ってリリスは自分に鑑定を掛けてみた。


**************

リリス・ベル・クレメンス

種族:人族 レベル11

年齢:13

体力:500
魔力:1000

属性:土・火

魔法:アースウォール   レベル3

   ファイヤーボール  レベル1

   ファイヤーボルト  レベル3




(秘匿領域)

属性:水・聖

魔法:ウォータースプラッシュ レベル1 

   ウォーターカッター レベル1

   ヒール       レベル1+ (親和性による補正有り)
 
スキル:探知 レベル1

    鑑定 レベル1

    投擲 レベル2


**************


総合的なレベルが少し上がっていた。

でもこのヒールのレベル1+って何かしら?

親和性と言う表現から察するに術者との相性と言う事なのか。それ故の補正効果なのかも知れない。

私って聖魔法との相性が良いの? そうだとしたら進路を誤ったのかしら。神殿に務めて聖職者でも目指した方が良いの?

そんな気持ちなど毛頭無いにも拘らず、リリスは妄想を巡らせた。

聖魔法の属性とヒールとスキルは秘匿領域のままにしておこう。

リリスはそう決めて操作し、次に手のひらに魔力を集め、二重構造のファイヤーボルトをイメージした。これも彼女が早急に確認しておきたかった事項である。
リリスの手の平の上にファイヤーボルトが出現した。
見た目は普通のファイヤーボルトだ。だがリリスにはそれが二重構造になっていて、内部にもファイヤーボルトが仕込まれていることが認識出来た。

ファイヤーボルトの中にもう一本のファイヤーボルト。火魔法で二重構造と考えてまず思い浮かんだのはこの構造だ。
レイの操っていたものがこれだとすれば、要するに僅かな時間差で敵に二重のダメージを与えると言う発想なのだろう。単純にそう考えてリリスは魔力の流れを断ち、出現させたファイヤーボルトを消し去った。後は実践あるのみだ。

ガタゴトと揺れる帰途の馬車の中で、リリスは何度もイメージトレーニングを繰り返していたのだった。




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