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プロローグ
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13歳の誕生日。
夜も遅くなってリリスは和やかに終えたホームパーティを思い返しながら、ソファに座ってメイドのフィナのベッドメイクを待っていた。
「お嬢様。ベッドのご用意が出来ました。」
フィナはリリスよりも2歳年上で、リリスのお付きの若いメイドだ。黒髪で美人と言うよりは可愛い顔立ちで、リリスよりも背が高くスタイルも良い。
メイドと言いながらもリリスにとっては姉のような存在でもある。
「ありがとう、フィナ。あなたも早く休んでね。」
リリスはお気に入りのパジャマに着替えてフィナに礼を言った。その言葉に恐縮するフィナはお休みなさいませと言いながら、静かにリリスの部屋から出て行った。その楚々とした仕草にリリスの心も和む。
リリス・ベル・クレメンス。
彼女は下級貴族の子女であり、クレメンス家の長女でもあった。ミラ王国の国土の南西部に位置するクレメンス領は農作物が豊かに採れる穀倉地帯であり、緑に溢れた山や清流に心癒されるのどかな領地だ。心優しい両親に育てられたリリスはこの領地が大好きで、メイドのフィナを連れて村のあちらこちらに出向き、領民と話をしたり、同年齢の子供達と遊ぶのが日課でもあった。
リリスの父親ドナルドは田舎貴族の子弟であり、リリスの母親マリアの元に婿養子に入って15年になる。リリスには今年7歳になる弟のアレンが居て、いずれは弟がクレメンス家の跡取りとなる筈だ。
リリスの母マリアは魔法に長けた女性で、冒険者ギルドに登録していた事も有るとリリスは聞いていた。爆炎のマリアとまで呼ばれていた母の武勇伝を聞いても信じられない程に、マリアは慈愛に満ちた思慮深い女性で、リリスもそんな母が大好きだった。
その母が失望の表情を見せたのは、リリスが5歳を迎えた誕生日。しきたりに従って子供の魔法属性を神殿で調べて貰った日の事だ。
土魔法。
それしかリリスには魔法の属性が備わっていなかった。しかも特殊なスキルさえも皆無である。
マリアはリリスにも魔法の才能が備わっているに違いないと期待していたのだが、土魔法と言う地味な属性のみを持っていると分かって、リリスの前でも落胆の表情を隠せなかった。
だがそれでもマリアはリリスに愛情を注いできた。それが痛いほどに分かるリリスも、マリアに失望させないように明るく振舞ってきた。幸いにして何事にも前向きな性格のリリスなので、魔法の才能の無さをカバーするだけの行動力が求められていると感じていたのかも知れない。
『土魔法だって極めれば強力な武器になる。』
誰かが呟いた言葉が耳に残っている。
あの言葉は誰から聞いたのかしら?
リリスは時々思い出そうとするが思い出せない。まあ良いわと思いつつリリスはベッドに潜り込んだ。真新しいシーツの香りが爽やかで心地良い。
お気に入りのぬいぐるみを抱いたまま、リリスはあっという間に眠りに入った。
夢の中で誰かがリリスに話し掛けてくる。
「リリス。ようやく13歳になったね。」
両親の声ではない。誰だろうと思って起きようとするが身体が動かない。
声を出そうとすると目の前に白髪で白衣の老人が現れた。これは現実なのか幻なのか良く分からない。でも自分にとって敵ではないと本能的にリリスは感じ取った。
「リリス。封印していた君の記憶を蘇らせてあげるよ。」
その言葉と共にリリスの頭に記憶の渦が流れ込んで来た。躊躇いと戸惑いの中でリリスは思い出す。
そうだ!
私は日本人だった!
走馬灯のように脳内に巡る記憶は、かつて29歳のOLとして東京で働いていたものだった。稼ぎの大半をコスプレの衣装やゲームに費やしていた過去が思い出されて少し気恥しい気持ちになったのだが、一人暮らしをしていたマンションの自分の部屋から突然消えてしまったところで記憶が終わっていた。
そう言えば自分の名前すら思い出せない。
私はどうしたのだろうか?
その疑問に老人は答えた。
「召喚術の手違いだったのだよ。君は本来は召喚の対象ではなかったのに、巻き込んでしまったのだ。」
何よ、それ?
間違って召喚しちゃったって言うの?
リリスの焦りが老人にも伝わった。
「君には本当に申し訳のない事をした。改めて謝罪するよ。」
いやいや、ここで謝られてもねえ。
でも異世界召喚ともなると、高レベルの魔法やチートの能力やスキルが付きものよね。
そこはどうなのよと思いを告げると老人は再び頭を下げた。
「予定外の召喚だったので、君には土魔法の属性を付与するだけしか出来なかったのだ。」
それって酷いわね!
残り物しかなかったって事?
怒りに満ちたリリスの表情に老人も恐縮するばかりだ。
「それでなあ。申し訳ないので特殊なスキルを幾つか付与したのだ。」
スキルって私には何も無いわよ。
責めるような視線を感じて老人は一瞬たじろいだ。
「隠しスキルだ。隠匿してあるので他人には判別出来ん。しかもそれなりの知能や判断力を要するスキルなので、君が13歳になるまで前世界の記憶と共に封印していたのだよ。」
それでどんなスキルを付与してくれたの?
若干の期待がリリスの胸に生じてきた。
「うむ。他人の魔法属性やスキルをコピー出来るスキルだ。このスキルは特殊なものである故に一日に一度しか使えない。このスキルの発動時間は約5分間で、発動条件は対象者と額を1分間接触させる事になっている。」
ええっ!
他人と額と額を1分間くっつけるの?
それって難易度高くない?
知人友人なら何とかなるかも知れないけれどねえ。
少し躊躇うリリスの心を読んで、老人はニヤッと笑った。
「このスキルの補助として邪眼も付与したぞ。これも隠しスキルだ。効果時間は5分で、一日に一度しか使えないので気を付ける様にな。まあ、邪眼でボーッとさせてその間にコピーしてしまえば良い。」
う~ん。
邪眼って便利かもしれないけど、見破られたら拙いんじゃないの?
「それはほぼ大丈夫だ。この世界では邪眼はそれほどに認知されておらん。余程の研究者や一握りの賢者でもない限り気付く者は居ない筈だ。」
それなら大丈夫かしら。
リリスは少し安心した。
「とりあえず自分の周りの人間からコピーして、スキルの使い方に慣れるのが良いよ。このスキルは特殊なので色々と制約もあり、我々にも良く分からない部分がある。上手く発動する筈なのに発動しない場合もあると思う。使いながら確かめてくれ。」
それって何よ。
私を実験台にしようって言うの?
リリスの心には少し不満が募ってきた。だが老人はそんな事には構わずに話を続けた。
「このスキルは額の接触で自動的に発動される。でも同じレベルの人物を何度コピーしてもレベルが上がる事は無いから、少しレベルの高い人物との接触を心掛けるのが効率的だよ。但し、あまりレベルがかけ離れているとコピーできないので、自分の魔力量やレベルを上げる努力は必要だからね。それと、コピーした属性やスキルは秘匿領域に表記されるので、他人からは鑑定しても見えない。秘匿領域から出す事も出来るが、なるべく隠しておいた方が良いぞ。」
老人の言葉にうんうんとリリスはうなづいた。
それなら自分にも出来そうだ。
「まあ、焦る事は無い。今の状態で全属性をコピーし、様々な魔法やスキルを手に入れたとしても、君のレベルや魔力量が付いて行かないので、どっちつかずになるか、魔力切れを頻繁に起こすだけだ。最初のうちは自分の使い易い属性魔法やスキルに絞って訓練する事を薦めるよ。でも5~10年かけて自分のレベルアップと共に、様々な属性魔法やスキルを使いこなせるようになったら、この世界では誰も君に追随できなくなるだろうね。」
そうよね。私はまだ13歳なんだから、時間はたっぷりあるわ。
そう自分に言い聞かせるリリスだが、彼女には一つ気に成る事があった。
このリリスって言う子は実在の人物なの?
「ああ、その事かね。実在の人物だよ。但し、1歳の時に熱病で亡くなっているけどね。」
えっ!
そう言えばお母様から幼少時に熱病で死にそうになったって聞いたわ。
そうすると私が入れ替わりに肉体を継いだって言うの?
「そう言う事だ。君の元の身体は不慮の召喚で致命的なダメージを受けてしまった。それゆえの苦肉の策だ。その身体を大切にしてあげてくれ。」
それは当然よね。
でも貴族の娘で良かったわ。これが貧民窟の少女だったら目も当てられないもの。
その点に関してはありがたい。
リリスは感謝の思いを老人に伝えた。
老人がにこやかな表情で消えていく。それと共にリリスの意識も闇の中に吸い込まれていった。
夜も遅くなってリリスは和やかに終えたホームパーティを思い返しながら、ソファに座ってメイドのフィナのベッドメイクを待っていた。
「お嬢様。ベッドのご用意が出来ました。」
フィナはリリスよりも2歳年上で、リリスのお付きの若いメイドだ。黒髪で美人と言うよりは可愛い顔立ちで、リリスよりも背が高くスタイルも良い。
メイドと言いながらもリリスにとっては姉のような存在でもある。
「ありがとう、フィナ。あなたも早く休んでね。」
リリスはお気に入りのパジャマに着替えてフィナに礼を言った。その言葉に恐縮するフィナはお休みなさいませと言いながら、静かにリリスの部屋から出て行った。その楚々とした仕草にリリスの心も和む。
リリス・ベル・クレメンス。
彼女は下級貴族の子女であり、クレメンス家の長女でもあった。ミラ王国の国土の南西部に位置するクレメンス領は農作物が豊かに採れる穀倉地帯であり、緑に溢れた山や清流に心癒されるのどかな領地だ。心優しい両親に育てられたリリスはこの領地が大好きで、メイドのフィナを連れて村のあちらこちらに出向き、領民と話をしたり、同年齢の子供達と遊ぶのが日課でもあった。
リリスの父親ドナルドは田舎貴族の子弟であり、リリスの母親マリアの元に婿養子に入って15年になる。リリスには今年7歳になる弟のアレンが居て、いずれは弟がクレメンス家の跡取りとなる筈だ。
リリスの母マリアは魔法に長けた女性で、冒険者ギルドに登録していた事も有るとリリスは聞いていた。爆炎のマリアとまで呼ばれていた母の武勇伝を聞いても信じられない程に、マリアは慈愛に満ちた思慮深い女性で、リリスもそんな母が大好きだった。
その母が失望の表情を見せたのは、リリスが5歳を迎えた誕生日。しきたりに従って子供の魔法属性を神殿で調べて貰った日の事だ。
土魔法。
それしかリリスには魔法の属性が備わっていなかった。しかも特殊なスキルさえも皆無である。
マリアはリリスにも魔法の才能が備わっているに違いないと期待していたのだが、土魔法と言う地味な属性のみを持っていると分かって、リリスの前でも落胆の表情を隠せなかった。
だがそれでもマリアはリリスに愛情を注いできた。それが痛いほどに分かるリリスも、マリアに失望させないように明るく振舞ってきた。幸いにして何事にも前向きな性格のリリスなので、魔法の才能の無さをカバーするだけの行動力が求められていると感じていたのかも知れない。
『土魔法だって極めれば強力な武器になる。』
誰かが呟いた言葉が耳に残っている。
あの言葉は誰から聞いたのかしら?
リリスは時々思い出そうとするが思い出せない。まあ良いわと思いつつリリスはベッドに潜り込んだ。真新しいシーツの香りが爽やかで心地良い。
お気に入りのぬいぐるみを抱いたまま、リリスはあっという間に眠りに入った。
夢の中で誰かがリリスに話し掛けてくる。
「リリス。ようやく13歳になったね。」
両親の声ではない。誰だろうと思って起きようとするが身体が動かない。
声を出そうとすると目の前に白髪で白衣の老人が現れた。これは現実なのか幻なのか良く分からない。でも自分にとって敵ではないと本能的にリリスは感じ取った。
「リリス。封印していた君の記憶を蘇らせてあげるよ。」
その言葉と共にリリスの頭に記憶の渦が流れ込んで来た。躊躇いと戸惑いの中でリリスは思い出す。
そうだ!
私は日本人だった!
走馬灯のように脳内に巡る記憶は、かつて29歳のOLとして東京で働いていたものだった。稼ぎの大半をコスプレの衣装やゲームに費やしていた過去が思い出されて少し気恥しい気持ちになったのだが、一人暮らしをしていたマンションの自分の部屋から突然消えてしまったところで記憶が終わっていた。
そう言えば自分の名前すら思い出せない。
私はどうしたのだろうか?
その疑問に老人は答えた。
「召喚術の手違いだったのだよ。君は本来は召喚の対象ではなかったのに、巻き込んでしまったのだ。」
何よ、それ?
間違って召喚しちゃったって言うの?
リリスの焦りが老人にも伝わった。
「君には本当に申し訳のない事をした。改めて謝罪するよ。」
いやいや、ここで謝られてもねえ。
でも異世界召喚ともなると、高レベルの魔法やチートの能力やスキルが付きものよね。
そこはどうなのよと思いを告げると老人は再び頭を下げた。
「予定外の召喚だったので、君には土魔法の属性を付与するだけしか出来なかったのだ。」
それって酷いわね!
残り物しかなかったって事?
怒りに満ちたリリスの表情に老人も恐縮するばかりだ。
「それでなあ。申し訳ないので特殊なスキルを幾つか付与したのだ。」
スキルって私には何も無いわよ。
責めるような視線を感じて老人は一瞬たじろいだ。
「隠しスキルだ。隠匿してあるので他人には判別出来ん。しかもそれなりの知能や判断力を要するスキルなので、君が13歳になるまで前世界の記憶と共に封印していたのだよ。」
それでどんなスキルを付与してくれたの?
若干の期待がリリスの胸に生じてきた。
「うむ。他人の魔法属性やスキルをコピー出来るスキルだ。このスキルは特殊なものである故に一日に一度しか使えない。このスキルの発動時間は約5分間で、発動条件は対象者と額を1分間接触させる事になっている。」
ええっ!
他人と額と額を1分間くっつけるの?
それって難易度高くない?
知人友人なら何とかなるかも知れないけれどねえ。
少し躊躇うリリスの心を読んで、老人はニヤッと笑った。
「このスキルの補助として邪眼も付与したぞ。これも隠しスキルだ。効果時間は5分で、一日に一度しか使えないので気を付ける様にな。まあ、邪眼でボーッとさせてその間にコピーしてしまえば良い。」
う~ん。
邪眼って便利かもしれないけど、見破られたら拙いんじゃないの?
「それはほぼ大丈夫だ。この世界では邪眼はそれほどに認知されておらん。余程の研究者や一握りの賢者でもない限り気付く者は居ない筈だ。」
それなら大丈夫かしら。
リリスは少し安心した。
「とりあえず自分の周りの人間からコピーして、スキルの使い方に慣れるのが良いよ。このスキルは特殊なので色々と制約もあり、我々にも良く分からない部分がある。上手く発動する筈なのに発動しない場合もあると思う。使いながら確かめてくれ。」
それって何よ。
私を実験台にしようって言うの?
リリスの心には少し不満が募ってきた。だが老人はそんな事には構わずに話を続けた。
「このスキルは額の接触で自動的に発動される。でも同じレベルの人物を何度コピーしてもレベルが上がる事は無いから、少しレベルの高い人物との接触を心掛けるのが効率的だよ。但し、あまりレベルがかけ離れているとコピーできないので、自分の魔力量やレベルを上げる努力は必要だからね。それと、コピーした属性やスキルは秘匿領域に表記されるので、他人からは鑑定しても見えない。秘匿領域から出す事も出来るが、なるべく隠しておいた方が良いぞ。」
老人の言葉にうんうんとリリスはうなづいた。
それなら自分にも出来そうだ。
「まあ、焦る事は無い。今の状態で全属性をコピーし、様々な魔法やスキルを手に入れたとしても、君のレベルや魔力量が付いて行かないので、どっちつかずになるか、魔力切れを頻繁に起こすだけだ。最初のうちは自分の使い易い属性魔法やスキルに絞って訓練する事を薦めるよ。でも5~10年かけて自分のレベルアップと共に、様々な属性魔法やスキルを使いこなせるようになったら、この世界では誰も君に追随できなくなるだろうね。」
そうよね。私はまだ13歳なんだから、時間はたっぷりあるわ。
そう自分に言い聞かせるリリスだが、彼女には一つ気に成る事があった。
このリリスって言う子は実在の人物なの?
「ああ、その事かね。実在の人物だよ。但し、1歳の時に熱病で亡くなっているけどね。」
えっ!
そう言えばお母様から幼少時に熱病で死にそうになったって聞いたわ。
そうすると私が入れ替わりに肉体を継いだって言うの?
「そう言う事だ。君の元の身体は不慮の召喚で致命的なダメージを受けてしまった。それゆえの苦肉の策だ。その身体を大切にしてあげてくれ。」
それは当然よね。
でも貴族の娘で良かったわ。これが貧民窟の少女だったら目も当てられないもの。
その点に関してはありがたい。
リリスは感謝の思いを老人に伝えた。
老人がにこやかな表情で消えていく。それと共にリリスの意識も闇の中に吸い込まれていった。
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【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
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