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おもちゃ箱の中から謎の音が聞こえてきた件について

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私はカナデ。
つい最近、バツイチ子持ちのイケメンに猛アタックして結婚したところ。
夫のシンちゃんは私にメロメロなのに、連れ子のユカちゃんは多感な年ごろだからなかなか懐いてくれなくて苦労してる。
こっちから歩み寄ってあげてるんだけど、何様なんだろう。
あんまりシンちゃんに相談してうまくいってないと思われるのもまずいしどうすればいいんだろ。
友達に相談しても「なんでそんな地雷と急いで結婚したの?」とか言われるし…
しょうがないじゃん、顔が好みだったんだもん。

「HEY SIRI。義理の娘と仲良くするにはどうすればいい?」

ポポン、とSIRIが起動する。

--その質問に、ご興味があるんですね。

「娘と仲良くする方法を教えて。」

--その質問にはお答えできません。

え、何か禁則事項でもあるの…?


「娘のご機嫌を取る方法。」

--Webで、娘のご機嫌を取る方法お調べしました。

結局、ありきたりな情報ばかりが表示される。イラっとした私は、ちょっとSIRIに嫌がらせしてやることにした。

「オーケーGoogle。」

--あの、SIRIはここにいますよ。

「オーケーGoogle。」

--別のアシスタントと間違えているんじゃないでしょうか。

あーもう、イライラする。

「…オーケーGoogle。」

--やっぱり、気まずいですね。

あーもううざい!逆にイライラしただけだったわ!

「消えて。」

--お話しできてうれしかったです…

ひとつ、ため息をつく。無音のはずの部屋なのに、部屋の隅にある大きなおもちゃ箱から、

「カチャッ」

と音がした。
というかあのおもちゃ箱、大きすぎじゃない?
人間入れるよ?


「カチャカチャカチャ…」

何の音だろ。
ちょっと見てみようかな…

近寄ってみると箱から


「ガラガラガラ」
と何かが崩れる音がした。

思わず一歩下がっちゃった。
気を取り直して箱に手をかけると、甲高い笛の音が聞こえてきた。
…人でも入ってる?

とんとんとん、とノックをすると、とんとんとん、とノックが返ってきた。
これ、もしかして人?
とりあえず…開ける?


箱に手をかけると
「がさがさ」「ぶーん」
と虫が大量にいるような音がしたので、慌てて手を離した。
万一虫なんか飼ってたら、開けたら大惨事じゃん…


「カナちゃん!」

大きな声にふりむくと、バツイチ子持ちに見えないイケメン、つまり自分の夫が立っていた。


「いや、ゆかも悪気があったわけじゃないんだよ。一周忌終わったばっかりだし、新しいお母さんって存在にまだ頭がついてってないんだ。許してやってくれよ。まだ3カ月しか経ってないんだしさ。これからゆっくり家族になっていければいいんだ。」


箱からは相変わらず「がりがり」とひっかくような音が聞こえてくる。
シンちゃん、気にならないんだろうか。

「俺にできることなら何でもするからさ。そうだ!今度の日曜日、家族でドライブにでも行かない?かなちゃんの荷物運び込んだりとかバタバタしてたから全然でかけれてなかったし。あ、でもゆかは部活合宿かな…それならそれで二人でゆっくり美島川町あたりまで行って温泉でもどうかな?」

いや、そんなことより…

「ねえカナちゃん、聞いてる?」
「あーえーと…」

おもちゃ箱はまたカチャカチャとなってるんだよね。
シンちゃん、やっと気づいてくれたんだ。

「何の音?」

いや、どう見てもおもちゃ箱から聞こえてるんだけど…さ。

「おもちゃ箱?」
「…うん。」
「スイッチ切ればいいじゃん。」

箱を開けようとシンちゃんが立ち上がるけど、さっきの虫の音が頭をよぎる。

「ちょっとまって。」
「え?」
「触らない方が…」
「なんで?」
「だってさっき、」


言いかけたところに箱から「どすん!」と重たいものが落ちたような大きな音がした。


「何が入ってるんだ?」
「…わかんない。」

私だって聞きたいよ。
顔を見合わせてたら、今度は調子っぱずれな「メリークリスマス」が聞こえてきた。

「…おもちゃ?」
「ホントに?」

シンちゃんは慎重に近寄って

「…おい。誰か入ってるのか?」

と「トントン」とノックした。
私の時と同じで、箱の中からも「トントン」とノックが返ってくる。

「誰だよ。出てこい。」

「トントン」が「ゴンゴン」に変わると、箱から聞こえる音もどんどん激しくなる。

あれ?これ、もしかしてコウタ君が隠れてるとかじゃない?
さっきの音は全部録音流してたとか…
だとしたら、シンちゃんと鉢合わせるのまずいかも…
ユカちゃんあの娘と「内緒」って約束させられたんだった。
こんなことでご機嫌損ねても面倒なばっかりだ。
ここを隠し通したら恩を売れるかもしれないし。

「開けろったら!」
「シンちゃん、ちょっと。」
「なに?」
「やめた方が良いんじゃない?」
「なんで?」
「いや、だってゆかちゃんの…。」

おっといけない、口が滑るところだった。
まぁ、シンちゃんは聞いてないんだけどね!
またバンバンと箱をたたいてるし。

「おい!!!」
「ほら、きっと変わったおもちゃとか入ってるんじゃない???」
「どう考えても人はいってるだろ!」

ですよねー。
コウタ君はいろんなおもちゃのボタンを押しまくってるのか、「ヘイ!」とか「ヤッホー」とか聞こえる。いや、おとなしくしててよ…

「…もしかして…ユカの彼氏か?」

ほらバレた!

「俺とカナちゃん来たからあわてて隠れたとか?」
「ユカちゃん、彼氏いないって言ってたよ!」

とりあえずごまかすしかないか。

「…嘘ついてるかもしれないだろ?」
「いやいやいや、ないでしょ!」
「おい!ユカの彼氏か!出てこい! 」

話聞いてよ!もう。
もう箱をゆすっちゃってるけど…コウタ君大丈夫なんだろうか。

「いや、シンちゃんマジやめなって!」
「止めるなカナちゃん!」
「やめなってば!」

とりあえず箱から引き離すのには成功したけど…

「何で止めるんだよ!」

ですよね…

「いやだって…ほら、人が入ってるわけないじゃん。」
「充分入れるサイズだろ!」
「さっき虫が入ってる音とかもしたんだって!」
「…録音流してるかもしれないぞ。」

ですよねー。言い訳を考えてると、シンちゃんの思考はなんと斜め上方向に飛んでった。

「なんでそんなかばうんだよ。まさか…浮気?」
「いや、浮気なんかしてないよ!」
「そっか…俺、浮気されたのか…」
「してないってば!」

いや、そんな短時間に思い込まないでよ!

「いや、カナちゃんかわいいし…そうだよな…こんな子持ちの男やもめなんて…」
「違うってば!話聞いてよ!」

もうなんだかめんどくさくなってきたわ…

「じゃあ開けたっていいだろ?」
「それは…」
「やっぱり浮気なんだ…」


シンちゃんはオイオイと泣き始めた。
いや、思い込み激しすぎなくない?

「カナちゃん、俺を見捨てないで!」
「だから違うって!」
「…ちくしょう!(涙ぐみながら)俺のかなちゃんを返せ!」

シンちゃんはまたおもちゃ箱と格闘し始めた。
…もう、十分義理立てしたと思わない?

と思っていたら、ピタッと箱が鳴りやんだ。

「「…止まった?」」


そんな私たちをバカにするように、今度は何か小動物がトタトタと歩くような音が聞こえてきた。


「なんだよこれ…」
「ちっちゃいおっさんじゃない?」
「ちっちゃいおっさん。」

もうやけくそな言い訳になってきたよ…

「きっとそうだよ!」
「…んなわけあるか!なあ、ホントのこと言ってくれよ!」

もういいや…

「ああもう!ユカちゃんの彼氏だってば!」
「え、ユカの彼氏?さっきいないって…」
「コウタ君でしょ!?もう出て来なよ!」

最大の敗因は、ドアが開く音に気付かなかったこと。
最悪のタイミングで後ろにユカちゃんあの娘が立っていた。

「何してるの?」

部屋に入らないように言われているシンちゃんも動揺してる。

「いや、これは…」
「なんで二人ともゆかの部屋にいるの。」
「お前、彼氏いるのか!」

シンちゃんそこでそれ突っ込むの!?

「お母さんばらしたの!?内緒って約束したのに!」

あーあ。

「ホントにいるのか!?」

とりあえず謝っておくしかないよね。

「…ごめん。」

シンちゃんは何を考えたのか、また箱と格闘し始めた。

「こらー!正々堂々出てこい!」
「…パパ、何やってんの?」
「お前の彼氏が入ってんだろ!」
「何言ってるの?」

あー、ユカちゃんはごまかし切りたいわけね。

「しらばっくれるな!」
「いや、コウタが入ってるわけないじゃん。」
「それが彼氏の名前か! 」

あ、さっき聞いてなかったわけね。

「お母さん、パパどうしたの?」

私にまでとぼけなくてもいいんだけど…

「いや、箱からいろんな音がして…コウタ君入ってるんでしょ?」

怪訝な顔をして黙られても困るんだけど…

「ホントにこうた君入ってないの?」
「あー…。とりあえず今外で会って話してきたとこ。入ってないよ。」





は?



「じゃああの中は何が入ってるの?」
「…おもちゃだけど。」
「そんなわけないだろ!」

シンちゃんからもツッコミが入る。
すると、突然おもちゃ箱のなかでオルゴールが鳴り始めた。

「私のお気に入り」だ。



「この曲…あいつの好きだった…」
「…うん。」

そこでいきなり二人の世界に入られましても…

「ホントに、誰も入ってないの?」

ユカちゃんは観念したように箱に近寄って、シンちゃんに話しかけた。

「開ける?」
「開かないんだって。」
「…ほら。開くし。」


ユカちゃんが箱を開けると、中にはアルバムやテディベア、ほほえましい家族写真がぎっしり。
ああ、これって前妻のものが詰まってるんだ。
ふわっとお線香の香りがした。

「これ…」

シンちゃんは絶句してる。

「…ママの思い出箱。」

黙る私たちを見てユカちゃんは

「きっと、お母さんにやきもち焼いてたんだよ。」

なんて言い出した。え?やきもちって何?さっきまでの音は前妻の亡霊が鳴らしてたってこと?

「ユカ、お前これ。」

シンちゃんもまだ頭がついていかないみたいだ。

「ママのもの、集めておいたの。見えるとこに会ったらお母さん気にするかなって…でもパパまでママのことどんどん忘れちゃってる気がして…お母さんにパパを取られた気がして…」
「…ごめん。」
「箱から音がすることもあって『ママがいるから大丈夫』て思ってた。」

シンちゃんは土下座して謝り始めた。

「ごめん!俺、俺…!
 お前が、私のこと忘れて幸せになってっていってたから…
 つい、自分のことばっか考えてて…ゆかのこと、心配だったんだろ?
 俺、仕事を言い訳にあんまり家にいなくて…ごめん。俺がパパだもんな。
 おまえの分までしっかりゆかのこと大事にするよ。」
「…パパ。」

少し押し黙った後、何かを決意したようにユカちゃんが話し出した。

「…ママ、心配しないで。私は、大丈夫だから。」
「ユカ。」

「さっきは、ごめんなさい。」

え、私?

「え?」

「お母さん、仲良くしようとしてくれてるのに、私までママを忘れたらママが可哀想って思ってた。でも、こんなんじゃママ心配しちゃうよね…。」
「…ユカちゃん。」
「あらためて、よろしくお願いします。」

中学生に、ここまで言わせたらこっちも誠意をもって返さなきゃね。

「…こちらこそ、よろしくお願いします。」
「…よし、週末、3人であいつの墓参り兼ねて家族旅行でも行くか。しばらく忙しくてどこも行ってなかったし。」
「部活、休めないか聞いてみる。」
「よし、そうと決まったらまずはご飯食べるか。」
「…うん、そうだね。」

すべてが解決したような感じで二人とも出ていったけどさ、



どうするのこの箱?

「HEY、SIRI。幽霊に勝つ方法を教えて。」

--その質問に、ご興味があるんですね。


おもちゃ箱から、激しい音が聞こえてきた。
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