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ルシア12歳、今私にできる事

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これは、もしかして聞き出しておいた方がいい話ではないだろうか。
感情が昂っている時の方が口を滑らせやすいような……
とりあえずとぼけてみよう。

「お母様、何を仰ってるのかさっぱりわからないのですが。」

「なんですって!どこまで私を愚弄するつもりなの。」

ギリギリと歯ぎしりの音でも聞こえてきそうな程の般若顔となったお母様は、地を這うような低い声を出し威嚇してくる。
盛りのついた猫じゃないんだから、もう少し年相応の落ち着きというのを持てないものだろうか。

「こんな小さな伯爵家、エンリオの言葉一つで吹き飛ぶんだから。」

エンリオ、というのはリッチオーニ公爵の名前だ。
ただ、割と多い男性名でもある。

「シルベストリー伯爵夫人たるお母様の言葉とは思えません。それにいったい、どちらのエンリオ様の話をしていらっしゃるのでしょうか。」

「ホントにあなたは人を小馬鹿にして!」

お母様の手から扇子が飛んでくるが、大した速さではないので首を傾けてひょいと躱す。
結果大きな花瓶が落ちてガシャーンという大きな音と共に割れる。
あーあ、そこそこ良い値段のものなのに。
それにここにあるものの大半はお父様のお金を浪費して作ったものだ。
お母様はその苦労をわかっているのだろうか。

「リッチオーニ公に決まっているじゃない!私なんてしょっちゅう城に呼ばれているんだから!高々1度お礼のお茶に誘われたからって良い気になるんじゃ無いわよ!」

「はあ、左様でございますか。」

よし、諸々確定だ。
やはりジョルジオの言っていたお母様の仕事とやらはリッチオーニ公爵との密会だろう。
王宮を使って、というのがいい度胸をしている。
この人はあまり深く考えていないだろうが、それであれば陛下やお父様は当然把握されているはず。
ジョルジオの養子縁組の決め手にすらしてくるだろう。

「ああもう、本当に頭にくる……!出ていきなさい!!」

おっと、やりすぎたようだ。
仕方が無いのでにやり、と今まで通りの悪役笑いを浮かべる。

「はい、失礼いたします。」

そう言って私はなるべく優雅に見えるように立ち上がり、ゆったりと退室した。

部屋の中からは苛立った叫びが聞こえてきた。
侍女たちには会うことがあればあとで謝ろう。
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