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協力者2

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「クシュロを型抜きしようと思ったんですけど、型にくっついちゃうんです。簡単に外す方法はないですか?」

「そうさなぁ……。型を石膏かなんかで分解できるように作るか、粘土みたいな柔らかいもので──「それだっ!!」おおぅ?! なんだ、どうした?!」

 親方の話からヒントを得た私は思わず叫んでしまう。話の途中で突然叫んだので、親方を驚かせてしまった。

「ごめんなさい! 良い考えが浮かんだのでつい……!」

 私はアクリルの再現中に出来た失敗作のことを説明した。
 お酒を入れる前の、水で解いたクシュロがまさにゴムのような材質だから、型にぴったりではないか、と思いついたのだ。

「ほほう。そんなものまであるのか。一度そのクシュロを持って来てくれねぇか?」

「はい! 喜んで!」

 私は居酒屋の店員のように声を上げると、一目散に屋敷へと戻った。

「……ぜぇ、ぜぇ……。お、親方、こ、これを……っ!」

 全速力でクシュロの粉末が入った瓶を持って来た私は、息も絶え絶えに手をプルプルさせながら親方に瓶を手渡した。まるで死にかけの人間が最後の希望を託すような絵面だ。

「お、おう……。そんなに急がなくてもよかったのによ……。お疲れさん、ゆっくり休んどいてくれや」

 親方は私に休むようにソファーを指差した。さっきまでは無かったから、私のためにわざわざ用意してくれたのだと思う。
 ふと見れば、ソファーの横にお茶が用意されていた。
 そんなさりげない気配りに、親方への好感度が爆上がりだ。これがギャルゲーなら私はチョロインと言われていたと思う。

「ほうほう、こりゃたまげたな。嬢ちゃん、クシュロからよくこんなものを思いついたな。天才か?」

 持ってきたクシュロを色々いじっていた親方が感心したように褒めてくれた。

「どうしても作りたいものがあったのです……」

 キャラグッズを作りたいと言う熱意が、熟練の職人を唸らせたのだ。……オタクの執念ぱねぇっす。

 私はこの勢いでアクリルキーホルダーの構想をプレゼンした。
 親方は引き気味ながらも、アクキーの話に興味津々だ。

「嬢ちゃんの話は理解した。面白そうじゃねぇか。俺でよければ手伝うぜ!」

「有難うございます!! 親方さんが手伝ってくれるならとても心強いです!!」

 父さまたち以外に、ここまで私の希望を叶えてくれる人は果たして何人現れるだろうか……。そう言う意味では親方とは強固な信頼関係を築きたいな、と思う。

 もしキャラグッズ展開が軌道に乗ったら、親方にも十分に利益を分配しよう。

 それから私たちは一日中アクキーや新しいクッキー型の制作に取り掛かった。

 私が屋敷にいないことを心配した使用人さんたちには心配をかけてしまったのは、反省の極みだけれど。

 ──そうして親方の鍛冶場に入り浸ることしばらく、新しいクッキー型とアクキー試作版が完成した。歴史的瞬間である。
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