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森の中で罠に掛かり、怪我をしている子犬を発見した私は、持ってきていた図鑑を参考に化膿止めの薬草を探し、子犬に応急処置を施した。
その子犬は綺麗な毛並みをしていて、とても野生動物に見えなかったので、何処かの家の飼い犬の可能性がある。
「もしかして、迷い犬?」
この森はランベール家が所有している森だから、部外者が散歩に立ち入る筈がない。だとするとこの子犬は道に迷った可能性が高い。
私は更に子犬を観察し続けていて気が付いた。何となく子犬の足が太い気がしたのだ。
「そもそも何ていう犬種なんだろ? シベリアンハスキー?」
足が太い子犬は身体が大きくなると聞いたことがある。それが本当なら、この子犬は大型犬に成長するだろう。
「今が一番可愛い時期なんだろうなぁ。いいなーモフりたいなー」
怪我をしていなかったらその毛並みを堪能させて貰うのに、と残念に思っていると、子犬の目がピクピクと動き出した。
そろそろ目が覚めるのかな、と思いながら見ていると、子犬の目がゆっくりと開いた。
「うわぁ! 綺麗な色!」
目覚めた子犬の瞳の色は、すごく綺麗な金色をしていた。黄色っぽいとかではなく、本当の金色だ。
「ガルゥ!!」
だけど、私が思わず大声を出したからか、意識を取り戻した子犬は私に向かって威嚇の声を上げる。
「え、えっと! 怖くないよ! 大丈夫だよ! あ、ほら! お水あるよ!」
警戒する子犬に向かって話しかけるけれど、人間の言葉が通じる訳がなく。
子犬は私から背を向けると、森の奥へと足を引きずりながら走って行く。
「あ! 駄目! 走ったら傷が……!」
私は慌てて引き止めようとしたけれど、結局子犬は森の中へと消えてしまった。
「……ええ~~?」
私は子犬が走り去った方角を呆然と眺めることしか出来なかった。まさかこんな展開になるとは思ってもみなかったのだ。
「まさか子犬が逃げるなんて……! うわああぁん!! モフりたかったよー!!」
怪我をしていたから我慢していたのに、モフる間もなく子犬に逃げられた私はひどくショックを受ける。
例えばこれが漫画やラノベなら、目覚めた子犬が怪我の治療に気付き、更にお水を飲ませてくれた主人公に心を開いて仲良く……いや、親友になる、という展開になっただろう。
そして子犬は親友である主人公を守るために強くなり、この森の主となるのだ──!
──なんて考えて、ちょっと期待していたのに、実際は目覚めて早々トンズラされてしまうとは……人生ままならぬものである。
「……まあ、走れるほど子犬は元気だってことだもんね。ならいっか!」
私はポジティブに考え、子犬を罠から救えただけでも良かったのだと満足する。
差し当たって当面の問題としては、どうやってうちに帰るか、だろうか……。
「うーん、また一人ぼっちに逆戻りか……」
意識はなかったけれど、子犬がいてくれたから寂しさが紛れていたのだと思う。だけど再び一人になってしまった反動なのか、孤独感が半端ない。
「よーし! 気を取り直して出発するか!」
だからと言ってこんなところでじっとしてても仕方がないので、わざと元気な声を出して自分に発破をかけた私は、子犬が走っていった方向へ向かってみることにした。
子犬が逃げた後を追うように森の中に入り、茂みを掻き分けると、開けた場所に辿り着いた。
「……えっ?! 何で?!」
薄暗い森から抜けた先には、見覚えのある風景──私が母さまと暮らす家代わりの別荘があった。
余りの出来事に、私の頭の中がこんがらがってしまう。
いくら方向がわからなくて森の中で迷ったとしても、この状況はどう考えてもおかしいのだ。
私はてっきり森の奥で迷子になったと思っていた。けれど実際は家の近くをウロウロしていたことになる。
「私が勘違いしてる……? いや、でも確かに森の奥にいたはず……」
鬱蒼としていて薄暗く、生き物の気配がないあの場所が、こんなに浅くて家の側だったなんて思えない。
──まるで森の中は、この世界と全く別の空間のようではないか。
その子犬は綺麗な毛並みをしていて、とても野生動物に見えなかったので、何処かの家の飼い犬の可能性がある。
「もしかして、迷い犬?」
この森はランベール家が所有している森だから、部外者が散歩に立ち入る筈がない。だとするとこの子犬は道に迷った可能性が高い。
私は更に子犬を観察し続けていて気が付いた。何となく子犬の足が太い気がしたのだ。
「そもそも何ていう犬種なんだろ? シベリアンハスキー?」
足が太い子犬は身体が大きくなると聞いたことがある。それが本当なら、この子犬は大型犬に成長するだろう。
「今が一番可愛い時期なんだろうなぁ。いいなーモフりたいなー」
怪我をしていなかったらその毛並みを堪能させて貰うのに、と残念に思っていると、子犬の目がピクピクと動き出した。
そろそろ目が覚めるのかな、と思いながら見ていると、子犬の目がゆっくりと開いた。
「うわぁ! 綺麗な色!」
目覚めた子犬の瞳の色は、すごく綺麗な金色をしていた。黄色っぽいとかではなく、本当の金色だ。
「ガルゥ!!」
だけど、私が思わず大声を出したからか、意識を取り戻した子犬は私に向かって威嚇の声を上げる。
「え、えっと! 怖くないよ! 大丈夫だよ! あ、ほら! お水あるよ!」
警戒する子犬に向かって話しかけるけれど、人間の言葉が通じる訳がなく。
子犬は私から背を向けると、森の奥へと足を引きずりながら走って行く。
「あ! 駄目! 走ったら傷が……!」
私は慌てて引き止めようとしたけれど、結局子犬は森の中へと消えてしまった。
「……ええ~~?」
私は子犬が走り去った方角を呆然と眺めることしか出来なかった。まさかこんな展開になるとは思ってもみなかったのだ。
「まさか子犬が逃げるなんて……! うわああぁん!! モフりたかったよー!!」
怪我をしていたから我慢していたのに、モフる間もなく子犬に逃げられた私はひどくショックを受ける。
例えばこれが漫画やラノベなら、目覚めた子犬が怪我の治療に気付き、更にお水を飲ませてくれた主人公に心を開いて仲良く……いや、親友になる、という展開になっただろう。
そして子犬は親友である主人公を守るために強くなり、この森の主となるのだ──!
──なんて考えて、ちょっと期待していたのに、実際は目覚めて早々トンズラされてしまうとは……人生ままならぬものである。
「……まあ、走れるほど子犬は元気だってことだもんね。ならいっか!」
私はポジティブに考え、子犬を罠から救えただけでも良かったのだと満足する。
差し当たって当面の問題としては、どうやってうちに帰るか、だろうか……。
「うーん、また一人ぼっちに逆戻りか……」
意識はなかったけれど、子犬がいてくれたから寂しさが紛れていたのだと思う。だけど再び一人になってしまった反動なのか、孤独感が半端ない。
「よーし! 気を取り直して出発するか!」
だからと言ってこんなところでじっとしてても仕方がないので、わざと元気な声を出して自分に発破をかけた私は、子犬が走っていった方向へ向かってみることにした。
子犬が逃げた後を追うように森の中に入り、茂みを掻き分けると、開けた場所に辿り着いた。
「……えっ?! 何で?!」
薄暗い森から抜けた先には、見覚えのある風景──私が母さまと暮らす家代わりの別荘があった。
余りの出来事に、私の頭の中がこんがらがってしまう。
いくら方向がわからなくて森の中で迷ったとしても、この状況はどう考えてもおかしいのだ。
私はてっきり森の奥で迷子になったと思っていた。けれど実際は家の近くをウロウロしていたことになる。
「私が勘違いしてる……? いや、でも確かに森の奥にいたはず……」
鬱蒼としていて薄暗く、生き物の気配がないあの場所が、こんなに浅くて家の側だったなんて思えない。
──まるで森の中は、この世界と全く別の空間のようではないか。
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