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第34話 ②

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「ヘルムフリートの言う通り本当に美味しいわ! 毎日食べたいぐらいよ! このお茶もスッキリしていて良い香りだし、お店が出せそうね!」

「あ、有難うございます……! お気に召して貰えて嬉しいです!」

 まさか自分が作ったプレッツヒェンやクロイターティを王女様に気に入って貰えるとは思わなかった。

「そう言えば最近、話題になっているお菓子のお店があるのだけれど。アンさんはご存知かしら?」

「いえ、全く。どんなお店なんですか?」

 以前は新しいお店の情報をお客さんから聞いていたけれど、最近は全然聞いていなかった。

「モーンクーヘンが売りのお店らしくて、美味しいってとても評判になっているのよ」

 モーンクーヘンとは、モーンの実を使った焼き菓子で、サクサクとしたプレッツヒェン生地にモーンマッセをたっぷりと詰め、ぼろぼろとした食感のシュトロイゼルを振りかけている。
 モーンの実のプチプチとした独特の食感や、ノワゼットのような深く芳ばしい風味が魅力のお菓子なのだ。

「あの『プフランツェ』を経営している会社の、新しい事業らしいわ」

「へぇ……! 凄いですね……! 私も食べてみたいです!」

「む。アンが興味あるなら買ってこよう」

「えっ!」

 突然ジルさんが立ち上がって驚いた。

「ははは。ジギスヴァルトはちょっと落ち着こっか。今日はこうして集まっているんだし、モーンクーヘンは次の機会にしようよ」

「……む」

「それにモーンクーヘンを口実に……」

「……なるほど」

 ジルさんの暴走をヘルムフリートさんが止めてくれたみたいだけれど、何やら二人でコソコソと話している。
 何を話しているのだろう、と耳を澄ましてみるけれど、全く会話は聞こえない。

「あの二人は放って置きましょう。それより、さっきはジギスヴァルトに止められたけれど、私婚約式のこともお礼を言いたかったの。本当に有難う。素晴らしい花だったわ」

「あ、有難うございます……! 身に余る光栄です!」

「婚姻式の時もぜひマイグレックヒェンで神殿を飾って欲しいわ」

「はい、殿下がお望みでしたら用意させていただきます」

 婚約式の花は色が付いている花を使ったけれど、婚姻式には白い花がメインとなるので、マイグレックヒェンはぴったりだと私も思う。

「フフ。楽しみだわ。そうそう、マイグレックヒェンを貴族のご令嬢たちがとても欲しがっていたわよ。今売りに出すととんでもない高値で取引されるかもね」

「ふぁっ?!」

 王女殿下はそう言うと、いたずらっぽく微笑んだ。
 やけにマイグレックヒェンを欲しがる人が多いな、と思っていたけれど、そういう理由か……と納得する。

 紫のマイグレックヒェンなら手に入るけれど毒があるし、同じ花の形でも色が違うと印象が全く違うから、確かに希少性はすごく高いのかもしれない。

「あ、そう言えばアンさん。お店に花が全く無かったけど、今日お店はお休みだった?」

 ジルさんと内緒話をしていたヘルムフリートさんが、思い出したように尋ねてきた。

「いえ、それが……」

 私はお店の現状をヘルムフリートさんに説明する。
 貴族の使用人らしき人たちが花を買い占めること、マイグレックヒェンを売れとしつこく迫ってくること──。

「……アンさんごめんなさい。私が浅はかだったばっかりに、迷惑をかけてしまったわね」

「ひぇっ?! いやいや、王女殿下のせいではありませんから!! それに私の花を喜んで下さったこと、本当に嬉しかったんです!!」

 まさか王族の方から謝られるとは思わなかった。私のような平民に王女様が頭を下げるなんて、あってはならないことなのに。

「いや、僕たちがアンさんの花を自慢しちゃったのも原因だと思う。これ以上迷惑をかけないよう貴族たちに通達を出しておくよ」

「うむ。それでも無理を言ってくる貴族がいれば教えてくれ。俺が処理する」

「へっ?! しょ、処理……」

 ヘルムフリートさんの申し出はとても助かるけれど、ジルさんの発言が物騒すぎる。

「マイグレックヒェンのことも安心していいよ。王家が特別に用意した花だから、市場には出回らないってことにするから」

「あ、それはとても助かります! よろしくお願いします!」

 まさかエマさんとヒルデさんが言ったことが現実になるとは思わなかったけれど、王女様とヘルムフリートさんのおかげでお店の問題はすっかり解決することとなる。

 それから、ヘルムフリートさんは早速行動に移してくれたらしく、花の買い占めはなくなり、いつものお客さんたちにも花が行き渡るようになった。

 それでもお客さんの数は増え続け、連日お店は大盛況だ。

「──はい、おまたせしました! こんな感じで大丈夫ですか?」

「わぁ! すごく素敵! お母さんが喜ぶわ! 本当に有難う!」

 毎日目が回るほど忙しいけれど、私が作る花束を見た人の笑顔に、私はこの仕事を続けて本当に良かったな、と思う。
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