24 / 83
第11話 ②
しおりを挟む
(うわー! 変な声が出ちゃった! ジルさんが呆れていたらどうしよう……! うぅ、ヴェルナーさんに言われても全然平気だったのに!)
社交辞令だとわかっていても、真面目そうなヘルムフリートさんだからか、軽そうなヴェルナーさんと同じ言葉のはずなのに重みが全く違う……ように感じる。
……というか、ジルさんもいるのにヘルムフリートさんはなんてことを言い出すのか。ジルさんの反応次第で私の心はポッキリ折れてしまうかもしれない。
(だめだめ、こういう時こそ落ち着いて、冷静に冷静に………………ふぅ)
何とか気持ちを切り替えた私が、ヘルムフリートさんにお礼を言おうとした時──
「……おい」
──地の底から響くような、怒気を帯びた低い声がして、馬車の中の雰囲気が一瞬で凍りついた。と同時に、まだほんのり赤かった私の顔からサアっと血の気が引いていく。
(ひいっ!? ……こ、怖っ?! え、今のってジルさんの声……?)
声に何か魔法でもかかっているのか、たった一言だけなのに威圧感が半端ない。
恐る恐る横を見ると、ジルさんがヘルムフリートさんを睨んでいた。
ジルさんの表情はまるで感情が抜け落ちたようなのに、その眼光は鋭い刃のようだ。
「ははは。こんな狭い空間で殺気を出すなんてジギスヴァルトは馬鹿だなぁ。ほら、殺気の余波を受けてアンさんが怖がっているじゃないか」
ヘルムフリートさんの言葉に、ジルさんがハッとした表情で私の方を振り向くと、今度は申し訳無さそうな表情になる。
「……すまない。怖がらせてしまったな」
「……あ、いえ、大丈夫です……!」
殺気が消え、いつものジルさんに戻ってくれたのだとわかった私は、ホッと胸を撫で下ろす。
「冷静沈着な騎士団長と噂のジギスヴァルトが珍しい反応をするねぇ」
「……黙れ」
ヘルムフリートさん曰く、私が感じた威圧感は殺気の余波らしいけれど……余波であれだけ怖かったのに、直接殺気を向けられたヘルムフリートさんはケロッとしている。おまけにジルさんをからかう余裕まであるんだ……と思ったところで、私は気になる一言に気がついた。
「……えっ?! まさかジルさんは騎士団長だったんですか?!」
「ああ……言わなかったか?」
「聞いてませんよーーーーっ!!」
(まさかお客さん達が噂していた超強い騎士団長がジルさんだったなんて……! 私今まですごく失礼な態度だったんじゃ……! ……あれ? そんなジルさんと親しくて王女殿下と恋仲のヘルムフリートさんは……?)
正直聞きたくないけれど、今聞いておかないといけない気がした私は、恐る恐る確認する。
「……あの、念の為お聞きしたいんですけど、ヘルムフリートさんのお仕事は……?」
「ん? 僕は魔術師団で団長をやってるよ」
(ぎゃーー!! よりにもよってそっちーー!!)
国の中枢で、国防を担う二大組織の長二人が今ココに!! なんて密度が濃い空間なのっ!?
余りに身分が高い二人に、ただの花屋の私がどう接すればいいのか悩んでしまう。
「……アン、俺の身分など気にせず、今まで通りにしてくれないか?」
まるで心を読んだかのようなタイミングで、ジルさんが私に懇請する。
正直、ジルさんが国の英雄と誉れ高い騎士団長と言われても、雲の上の人過ぎて全然現実味がないから、そう言ってくれて助かった。
「はい、もちろんです! こちらこそこれからもご贔屓にして貰えたら嬉しいです!」
ジルさんのことをもっと知りたいと思った矢先に、とんでもないことを知ってしまった気がするけれど、今まで通りでいいのなら何も問題はない。
安心したことと条件反射で笑顔になった私を見たジルさんは、何故か複雑そうな難しい顔になってしまう。そんなジルさんを見てヘルムフリートさんはニヤニヤと笑っていた。
色んな意味で対象的な二人を不思議に思っている内に、馬車は私の店に到着したのだった。
社交辞令だとわかっていても、真面目そうなヘルムフリートさんだからか、軽そうなヴェルナーさんと同じ言葉のはずなのに重みが全く違う……ように感じる。
……というか、ジルさんもいるのにヘルムフリートさんはなんてことを言い出すのか。ジルさんの反応次第で私の心はポッキリ折れてしまうかもしれない。
(だめだめ、こういう時こそ落ち着いて、冷静に冷静に………………ふぅ)
何とか気持ちを切り替えた私が、ヘルムフリートさんにお礼を言おうとした時──
「……おい」
──地の底から響くような、怒気を帯びた低い声がして、馬車の中の雰囲気が一瞬で凍りついた。と同時に、まだほんのり赤かった私の顔からサアっと血の気が引いていく。
(ひいっ!? ……こ、怖っ?! え、今のってジルさんの声……?)
声に何か魔法でもかかっているのか、たった一言だけなのに威圧感が半端ない。
恐る恐る横を見ると、ジルさんがヘルムフリートさんを睨んでいた。
ジルさんの表情はまるで感情が抜け落ちたようなのに、その眼光は鋭い刃のようだ。
「ははは。こんな狭い空間で殺気を出すなんてジギスヴァルトは馬鹿だなぁ。ほら、殺気の余波を受けてアンさんが怖がっているじゃないか」
ヘルムフリートさんの言葉に、ジルさんがハッとした表情で私の方を振り向くと、今度は申し訳無さそうな表情になる。
「……すまない。怖がらせてしまったな」
「……あ、いえ、大丈夫です……!」
殺気が消え、いつものジルさんに戻ってくれたのだとわかった私は、ホッと胸を撫で下ろす。
「冷静沈着な騎士団長と噂のジギスヴァルトが珍しい反応をするねぇ」
「……黙れ」
ヘルムフリートさん曰く、私が感じた威圧感は殺気の余波らしいけれど……余波であれだけ怖かったのに、直接殺気を向けられたヘルムフリートさんはケロッとしている。おまけにジルさんをからかう余裕まであるんだ……と思ったところで、私は気になる一言に気がついた。
「……えっ?! まさかジルさんは騎士団長だったんですか?!」
「ああ……言わなかったか?」
「聞いてませんよーーーーっ!!」
(まさかお客さん達が噂していた超強い騎士団長がジルさんだったなんて……! 私今まですごく失礼な態度だったんじゃ……! ……あれ? そんなジルさんと親しくて王女殿下と恋仲のヘルムフリートさんは……?)
正直聞きたくないけれど、今聞いておかないといけない気がした私は、恐る恐る確認する。
「……あの、念の為お聞きしたいんですけど、ヘルムフリートさんのお仕事は……?」
「ん? 僕は魔術師団で団長をやってるよ」
(ぎゃーー!! よりにもよってそっちーー!!)
国の中枢で、国防を担う二大組織の長二人が今ココに!! なんて密度が濃い空間なのっ!?
余りに身分が高い二人に、ただの花屋の私がどう接すればいいのか悩んでしまう。
「……アン、俺の身分など気にせず、今まで通りにしてくれないか?」
まるで心を読んだかのようなタイミングで、ジルさんが私に懇請する。
正直、ジルさんが国の英雄と誉れ高い騎士団長と言われても、雲の上の人過ぎて全然現実味がないから、そう言ってくれて助かった。
「はい、もちろんです! こちらこそこれからもご贔屓にして貰えたら嬉しいです!」
ジルさんのことをもっと知りたいと思った矢先に、とんでもないことを知ってしまった気がするけれど、今まで通りでいいのなら何も問題はない。
安心したことと条件反射で笑顔になった私を見たジルさんは、何故か複雑そうな難しい顔になってしまう。そんなジルさんを見てヘルムフリートさんはニヤニヤと笑っていた。
色んな意味で対象的な二人を不思議に思っている内に、馬車は私の店に到着したのだった。
4
お気に入りに追加
1,868
あなたにおすすめの小説
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
どちらの王妃でも問題ありません【完】
makojou
恋愛
かつて、広大なオリビア大陸にはオリビア帝国が大小合わせて100余りある国々を治めていた。そこにはもちろん勇敢な皇帝が君臨し今も尚伝説として、語り継がれている。
そんな中、巨大化し過ぎた帝国は
王族の中で分別が起こり東西の王国として独立を果たす事になり、東西の争いは長く続いていた。
争いは両国にメリットもなく、次第に勢力の差もあり東国の勝利として呆気なく幕を下ろす事となった。
両国の友好的解決として、東国は西国から王妃を迎え入れる事を、条件として両国合意の元、大陸の二大勢力として存在している。
しかし王妃として迎えるとは、事実上の人質であり、お飾りの王妃として嫁ぐ事となる。
長い年月を経てその取り決めは続いてはいるが、1年の白い結婚のあと、国に戻りかつての婚約者と結婚する王女もいた。
兎にも角にも西国から嫁いだ者が東国の王妃として幸せな人生を過ごした記録は無い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる