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第5話 ①
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名前を教えて貰った日を境に、ジルさんと私は雑談を交わすほどには親交を深めていた。
ジルさんに名前を教えて貰った後、そう言えば自分の名前を教えていなかったな、と気付いた私は、ジルさんが来てくれた三回目の日に改めて自己紹介したのだ。
「アン、今日もいつものように花束を頼む」
自分の名前を何度も呼んでくれた人に好感を持つというように、ジルさんに名前を呼ばれる度に私の胸は高鳴ってしまう。
(こんなイケメンなのに声も良いとか反則だよね)
私は胸の高鳴りに気付かれないように、笑顔で誤魔化して返事をする。
「はい! いつも有難うございます!」
実際、私がジルさんにときめいたからと言って、何かが始まる訳じゃない。私はあくまでもジルさんにとってお気に入りの店の店員に過ぎないのだ。
私は気を取り直して、ジルさんの花束に今日はどの花を使おうかと考える。
ここは定番のローゼにリシアンサスは入れるとして、今回はまだ使ったことがないインカリリエンとアドーニスレースヒェンの組み合わせにしようと決める。
以前作ったピンク系の花束になるけれど、花材が変わっただけで全然違う印象になるから、きっと喜んで貰えるに違いない。
「お待たせしました! こんな感じになりましたけど大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。今回も素晴らしい出来だ。彼女はアンの花束をいつも喜んでくれている」
「わぁ! 本当ですか?! 有難うございます! 彼女さんに宜しくお伝え下さい!」
「ああ、わかった」
いつも花束を受け取ると、ジルさんはすぐに帰るので、今日も同じだろうと見送るつもりでいると、彼は店内をキョロキョロと見渡している。
(あれ? どうしたんだろう)
私が不思議に思っていると、ジルさんが「自分用に何か花を見繕ってくれないか」と申し出た。
「え? ジルさんがお花を、ですか?」
「ああ、仕事場に飾ろうと思うのだが……俺は不器用だから、手が掛からない花をお願いしたい」
ジルさんの希望を聞いた私は考える。
(仕事場に手が掛からない花ねぇ……)
切り花だとどうしても水の交換が必要になるし、茎を切ってあげないといけないけれど、それって手間になるのでは、と思うと切り花はあまりお勧めできないかもしれない。
「えっと、切り花じゃなくてもいいですか? 鉢植えだったら基本、水をあげるだけで済みますけど」
「なるほど、じゃあそれでおすすめはあるか?」
「そうですねぇ……」
私には温室があるから、季節関係なく花が育ってくれるけど、一般的な職場はその日の気温が諸に影響する。だったら寒さに強い植物が良いだろう。
「じゃあ、アルペンファイルヒェンなんて如何でしょう。室内の日当たりがいい場所に置いておけば、冬の間中楽しむことが出来ますよ」
どの花でもお手入れは必要だけど、アルペンファイルヒェンなら、花がらや黄色くなった葉をこまめに取り除くぐらいで、そんなに手間はかからないと思う。
アルペンファイルヒェンは色も形も豊富で、贈り物にも喜ばれている。
温室にある白いアルペンファイルヒェンなら、華やか過ぎなくて良いかもしれない。
(騎士団の詰所にピンクのフリフリな花はちょっと違うだろうし……)
ジルさんに名前を教えて貰った後、そう言えば自分の名前を教えていなかったな、と気付いた私は、ジルさんが来てくれた三回目の日に改めて自己紹介したのだ。
「アン、今日もいつものように花束を頼む」
自分の名前を何度も呼んでくれた人に好感を持つというように、ジルさんに名前を呼ばれる度に私の胸は高鳴ってしまう。
(こんなイケメンなのに声も良いとか反則だよね)
私は胸の高鳴りに気付かれないように、笑顔で誤魔化して返事をする。
「はい! いつも有難うございます!」
実際、私がジルさんにときめいたからと言って、何かが始まる訳じゃない。私はあくまでもジルさんにとってお気に入りの店の店員に過ぎないのだ。
私は気を取り直して、ジルさんの花束に今日はどの花を使おうかと考える。
ここは定番のローゼにリシアンサスは入れるとして、今回はまだ使ったことがないインカリリエンとアドーニスレースヒェンの組み合わせにしようと決める。
以前作ったピンク系の花束になるけれど、花材が変わっただけで全然違う印象になるから、きっと喜んで貰えるに違いない。
「お待たせしました! こんな感じになりましたけど大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。今回も素晴らしい出来だ。彼女はアンの花束をいつも喜んでくれている」
「わぁ! 本当ですか?! 有難うございます! 彼女さんに宜しくお伝え下さい!」
「ああ、わかった」
いつも花束を受け取ると、ジルさんはすぐに帰るので、今日も同じだろうと見送るつもりでいると、彼は店内をキョロキョロと見渡している。
(あれ? どうしたんだろう)
私が不思議に思っていると、ジルさんが「自分用に何か花を見繕ってくれないか」と申し出た。
「え? ジルさんがお花を、ですか?」
「ああ、仕事場に飾ろうと思うのだが……俺は不器用だから、手が掛からない花をお願いしたい」
ジルさんの希望を聞いた私は考える。
(仕事場に手が掛からない花ねぇ……)
切り花だとどうしても水の交換が必要になるし、茎を切ってあげないといけないけれど、それって手間になるのでは、と思うと切り花はあまりお勧めできないかもしれない。
「えっと、切り花じゃなくてもいいですか? 鉢植えだったら基本、水をあげるだけで済みますけど」
「なるほど、じゃあそれでおすすめはあるか?」
「そうですねぇ……」
私には温室があるから、季節関係なく花が育ってくれるけど、一般的な職場はその日の気温が諸に影響する。だったら寒さに強い植物が良いだろう。
「じゃあ、アルペンファイルヒェンなんて如何でしょう。室内の日当たりがいい場所に置いておけば、冬の間中楽しむことが出来ますよ」
どの花でもお手入れは必要だけど、アルペンファイルヒェンなら、花がらや黄色くなった葉をこまめに取り除くぐらいで、そんなに手間はかからないと思う。
アルペンファイルヒェンは色も形も豊富で、贈り物にも喜ばれている。
温室にある白いアルペンファイルヒェンなら、華やか過ぎなくて良いかもしれない。
(騎士団の詰所にピンクのフリフリな花はちょっと違うだろうし……)
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