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番外編
ソリヤの聖女01
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サロライネン王国にある辺境の地、ソリヤにある小さな孤児院には、「ソリヤの聖女」と呼ばれる少女がいる。
この世界での聖女とは、聖属性を持つ女性のことで、人々の病や傷を癒やし、悪しき闇のモノを浄化する、神の力を体現する存在だ。
──しかし「ソリヤの聖女」と呼ばれている少女にそんな力はない。
少女は愛らしい見た目に優しく明るい性格と、困っている者に救いの手を伸ばす慈悲深さで、街中の人々に可愛がられているが、特別な力は何も持っていない、至って普通の少女なのだ。
それなのに何故、彼女が聖女と呼ばれているのかと言うと──……
「俺の父上はこの領地の行政官だぞっ!! お前らの孤児院なんかすぐ潰せるんだぞっ!!」
ソリヤの市場近くにある空き地に、何人もの少年たちが集まっていた。
その少年たちの中には孤児院で暮らしているラミロとカミロ、クルトの3人もおり、同じ年頃の少年たち8人と対峙している。
「たかが行政官にそんな権限あんの?」
「領主でも無理なのにねぇ。馬鹿なの?」
「……っ!! こ、こいつらっ!! 親無しのくせに生意気だぞっ!!」
「孤児院の子供とお前らの何が違うんだ? 大事なのは育つ環境だろ? あ、ちなみに俺の親ちゃんと生きてるから」
8人の少年たちは身なりが良く、それぞれが良いところのお坊ちゃんたちのようだった。
しかし、孤児院出身の3人は身なりこそ質素だが、醸し出す雰囲気はお坊ちゃんたちの比ではなく、その整った顔立ちには気品すらあった。
正直、孤児院3人組が貴族子息なのだと言われた方が納得出来るかもしれない。
その中で一番体格が良いリーダー格の少年は、ラミロたちに論破され、怒り心頭のようだ。
彼は街で評判の孤児院3人組に、自分の子分になれと命令した。そうすれば自分の格も上がると思ったのだ。
ところが3人組は速攻で断った。しかも蔑みの目で。
その態度が、リーダーの少年のプライドを酷く傷つけたらしい。
「う、うるさーーーーいっ!! 黙れ黙れっ!! こっちの方が人数多いんだからなっ!! お前ら、やっちまえーーーーーっ!!」
リーダーの少年の掛け声を聞いた、他の少年たちが一斉に3人に襲いかかる。倍以上の人数差は、孤児院3人組には不利な状況だろう。……普通ならば。
「おりゃああっ!!」
手下の少年が大振りで殴りかかるのを、クルトがヒョイッと避ける。
「なあ、これって正当防衛だよな?」
「先に手を出したのはあっちだもんね!」
「僕たちから手を出してないもんね!」
双子から同意を貰ったクルトがニヤリと笑う。
暴れられる大義名分が出来て喜んでいるのだろう、彼もそろそろ我慢の限界だったのだ。
「早く俺等に謝れよっ!! てやぁっ!!」
ラミロとカミロも、それぞれ同じように殴りかかってくる少年たちを難なく躱している。
「いやだね」
「そっちこそ早く僕たちに謝ったほうが良いよ」
「何だとっ?! 孤児のくせにっ!!」
4人の少年相手にしても、双子たちは臆するどころか、むしろ挑発して楽しんでいるように見える。
「それしか言えないの?」
「もう聞き飽きたよね」
「こいつらっ!!」
いくら殴りかかっても、軽々と避けられ続けた少年たちが焦り始める。
自分たちは息が上がっているのに、孤児院3人組は全然平気そうだからだ。
「じゃあ、そろそろ反撃すっか!」
クルトが素早く少年の懐に入り込み、手のひらでみぞおちを強打した。
「ぐえっ!!」
みぞおちを打たれた少年は、あまりの痛みにのたうち回りながら嘔吐する。
更にクルトは対峙していた少年の顎やこめかみなどの急所を的確に、絶妙な力加減で打っていく。
「うわぁああん!! ママーーーーっ!!!」
「ぎゃぁあああっ!! いてぇーーっ!! いてぇよーーっ!!」
「わぁああっ!! 来るなっ!! 来るなぁあああっ!! ぎゃーーーーっ!!」
クルトから掌底を食らった少年たちの戦意はすっかり消失していた。今は患部を押さえて泣きじゃくっている。
双子たちもクルトと同じように反撃し、倍以上の人数差をものともせず、あっという間に決着をつけてしまった。
「子分たちはすっかり大人しくなったぜ? ほら、お前大将なんだろ? 早くかかってこいよ」
「……っ! ひ、ひいっ……!!」
クルトから挑発されているものの、リーダーの少年はあっという間に手下がやられていくのを目の当たりにし、3人組の強さに震え上がっている。
「大将なら責任取らないと駄目だよね」
「そうそう、お詫びに腕の一本ぐらい貰っとこうよ」
「た、助け……っ!!」
双子たちの言葉を聞いたリーダーの少年が、泣きながら土下座をする。顔は真っ青で身体はガクガクと震え、大きな身体が今は縮み上がっている。
「はぁ? 何で許されると思ってんだ? お前、俺らが謝っても許すつもりなかったんじゃねぇの? なのに自分は許されるってか? めでてぇ頭してんなぁオイ!!」
「ひぃっ!! ひぃいいいいいいっ!! すみばぜんっ!! ずびばぜんっ!! ゆるじてぐだざいっ!!」
リーダーの少年がクルトの威圧をモロに受け、泣きじゃくりながら謝罪する。顔は涙や鼻水でぐちゃぐちゃだ。
「自分が取った行動のけじめは自分でつけろってな!! 腕と足どっちが良い? 特別に選ばせてやんよ!! オラっ!! とっとと決めろやっ!!」
「ごべんなざいっ!! ごべんなしゃいっ!! もうしまぜんからっ!!」
「うるさいなぁ。じゃあ僕が決めてあげるよ! 腕!」
「えー。僕は足がいいなぁ!」
「じゃあ今日は特別に両方なっ!! オラ、歯ぁ食いしばれっ!!」
「うわぁああああああああああっ!!」
孤児院3人組をよく知る街の人々の間には”絶対あの3人には手を出すな”という暗黙の了解があった。
年齢に似合わない強さに加え、悪意あるものには容赦がない3人を止められる者はここにはいない。
唯一、彼らが逆らえない存在である神殿の司祭は、めったに市場へ来ることがないのだ。
身の程を知らない哀れな少年が、今まさに腕を折られようとしている緊迫した雰囲気の中、その雰囲気を壊すような可愛い声が響いた。
「あー! いたっ!! ちょっと皆んなー! お爺ちゃんが呼んでるよ!」
鮮やかな赤い髪の少女が、孤児院3人組に向かって声を掛けてきた。
「あ、サラ!!」
「サラだ!! 買い物していたの?」
双子にサラと呼ばれたのは、綺麗な緑色の瞳を持つ可愛い少女だった。
「うん、お爺ちゃんに頼まれたの」
「僕が荷物持つよ」
「じゃあ、僕も」
「え? 良いの? 有難う!」
先程まで漂っていた緊迫した空気はどこへやら、双子とサラはほのぼのとした会話を繰り広げていた。
「あれ? クルト何してるの?」
「チッ、うるせーな! お前には関係ねーだろっ!!」
「えー、でもその子泣いてるよ? 喧嘩でもしたの?」
サラに視線を向けられたリーダーの少年が、顔を真赤にして俯いた。
可愛い女の子に泣いているところを見られ、しかも目が合って恥ずかしいらしい。
「何顔赤くしてんだゴラァっ!!」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
「あ、こらクルトっ!! やめなよ! 怖がってるでしょ!!」
「お前は黙ってろっ!!」
リーダーの少年にクルトが怒鳴る。彼がサラに見惚れていたことに目敏く気付き、ムカついたのだ。
しかしそんなことを知らないサラが少年を庇うので、クルトのイライラはMAXになり、思わずサラに怒鳴ってしまう。
「もー。ホント口が悪いんだから。お爺ちゃんそっくり! ラミロとカミロは真似しちゃ駄目だよ」
「うん! 僕は大丈夫だよ!」
「僕も大丈夫!」
「お前らなぁ!」
サラが来たからか、いつもの調子に戻った3人組からはすっかり毒気が抜けていた。先程までの殺伐とした雰囲気が嘘のようだ。
「ほら、立てる? クルトが驚かせてごめんね」
「……っ! う、うん……。ぎゃっ!!」
サラが伸ばした手をリーダーの少年が真っ赤な顔で握ろうとした時、クルトが少年のお尻を蹴っ飛ばした。
「一人で立てんだろうがっ!! 甘えた声出すなっ!! しばくぞっ!!」
「もうクルトっ!! ……ごめんね、口は悪いけど本当は良い奴なの。これから仲良くしてくれたら嬉しいな」
「……っ!! (コクコク)」
サラに笑顔を向けられた少年は全身を真っ赤にして何度も頷いた。その顔はすっかり恋する少年の顔だ。
「あーあ。サラは天然だよね」
「ホント、たらしだよね」
双子たちが呆れたようにぼやいている。どうやらこういうことは今までに何度もあったらしい。
「サラっ!! 余計なこと言うなっ!!」
「もーっ!! クルトはいい加減にしなよ! ほら一緒に帰るよっ!! お爺ちゃんに怒られちゃう!!」
サラがクルトの手を掴んでグイグイと引っ張っていく。クルトならサラの手を振りほどくなど造作もないことだろう。
しかしクルトは抵抗せず、サラにされるがままになっていた。
「クルトは素直じゃないね」
「ホントかまってちゃんだよね」
サラに大人しく手を掴まれたままのクルトを見て、双子たちが悪態をついている。彼らは彼らでクルトを羨ましく思っているのだ。
そんな孤児院3人組とサラが去っていくのを、少年たちは呆気に囚われながら見送った。
「もしかしてあの子が『ソリヤの聖女』……?」
誰かがポツリと呟いた。
そうしてその呟きを聞いた少年たちは理解する。
──誰も手が付けられない、悪鬼の如き強さを誇る問題児3人を、いとも簡単に鎮めることができる唯一の存在。
そしてその悪鬼に守られ、愛されている彼女こそが「ソリヤの聖女」なのだと。
この世界での聖女とは、聖属性を持つ女性のことで、人々の病や傷を癒やし、悪しき闇のモノを浄化する、神の力を体現する存在だ。
──しかし「ソリヤの聖女」と呼ばれている少女にそんな力はない。
少女は愛らしい見た目に優しく明るい性格と、困っている者に救いの手を伸ばす慈悲深さで、街中の人々に可愛がられているが、特別な力は何も持っていない、至って普通の少女なのだ。
それなのに何故、彼女が聖女と呼ばれているのかと言うと──……
「俺の父上はこの領地の行政官だぞっ!! お前らの孤児院なんかすぐ潰せるんだぞっ!!」
ソリヤの市場近くにある空き地に、何人もの少年たちが集まっていた。
その少年たちの中には孤児院で暮らしているラミロとカミロ、クルトの3人もおり、同じ年頃の少年たち8人と対峙している。
「たかが行政官にそんな権限あんの?」
「領主でも無理なのにねぇ。馬鹿なの?」
「……っ!! こ、こいつらっ!! 親無しのくせに生意気だぞっ!!」
「孤児院の子供とお前らの何が違うんだ? 大事なのは育つ環境だろ? あ、ちなみに俺の親ちゃんと生きてるから」
8人の少年たちは身なりが良く、それぞれが良いところのお坊ちゃんたちのようだった。
しかし、孤児院出身の3人は身なりこそ質素だが、醸し出す雰囲気はお坊ちゃんたちの比ではなく、その整った顔立ちには気品すらあった。
正直、孤児院3人組が貴族子息なのだと言われた方が納得出来るかもしれない。
その中で一番体格が良いリーダー格の少年は、ラミロたちに論破され、怒り心頭のようだ。
彼は街で評判の孤児院3人組に、自分の子分になれと命令した。そうすれば自分の格も上がると思ったのだ。
ところが3人組は速攻で断った。しかも蔑みの目で。
その態度が、リーダーの少年のプライドを酷く傷つけたらしい。
「う、うるさーーーーいっ!! 黙れ黙れっ!! こっちの方が人数多いんだからなっ!! お前ら、やっちまえーーーーーっ!!」
リーダーの少年の掛け声を聞いた、他の少年たちが一斉に3人に襲いかかる。倍以上の人数差は、孤児院3人組には不利な状況だろう。……普通ならば。
「おりゃああっ!!」
手下の少年が大振りで殴りかかるのを、クルトがヒョイッと避ける。
「なあ、これって正当防衛だよな?」
「先に手を出したのはあっちだもんね!」
「僕たちから手を出してないもんね!」
双子から同意を貰ったクルトがニヤリと笑う。
暴れられる大義名分が出来て喜んでいるのだろう、彼もそろそろ我慢の限界だったのだ。
「早く俺等に謝れよっ!! てやぁっ!!」
ラミロとカミロも、それぞれ同じように殴りかかってくる少年たちを難なく躱している。
「いやだね」
「そっちこそ早く僕たちに謝ったほうが良いよ」
「何だとっ?! 孤児のくせにっ!!」
4人の少年相手にしても、双子たちは臆するどころか、むしろ挑発して楽しんでいるように見える。
「それしか言えないの?」
「もう聞き飽きたよね」
「こいつらっ!!」
いくら殴りかかっても、軽々と避けられ続けた少年たちが焦り始める。
自分たちは息が上がっているのに、孤児院3人組は全然平気そうだからだ。
「じゃあ、そろそろ反撃すっか!」
クルトが素早く少年の懐に入り込み、手のひらでみぞおちを強打した。
「ぐえっ!!」
みぞおちを打たれた少年は、あまりの痛みにのたうち回りながら嘔吐する。
更にクルトは対峙していた少年の顎やこめかみなどの急所を的確に、絶妙な力加減で打っていく。
「うわぁああん!! ママーーーーっ!!!」
「ぎゃぁあああっ!! いてぇーーっ!! いてぇよーーっ!!」
「わぁああっ!! 来るなっ!! 来るなぁあああっ!! ぎゃーーーーっ!!」
クルトから掌底を食らった少年たちの戦意はすっかり消失していた。今は患部を押さえて泣きじゃくっている。
双子たちもクルトと同じように反撃し、倍以上の人数差をものともせず、あっという間に決着をつけてしまった。
「子分たちはすっかり大人しくなったぜ? ほら、お前大将なんだろ? 早くかかってこいよ」
「……っ! ひ、ひいっ……!!」
クルトから挑発されているものの、リーダーの少年はあっという間に手下がやられていくのを目の当たりにし、3人組の強さに震え上がっている。
「大将なら責任取らないと駄目だよね」
「そうそう、お詫びに腕の一本ぐらい貰っとこうよ」
「た、助け……っ!!」
双子たちの言葉を聞いたリーダーの少年が、泣きながら土下座をする。顔は真っ青で身体はガクガクと震え、大きな身体が今は縮み上がっている。
「はぁ? 何で許されると思ってんだ? お前、俺らが謝っても許すつもりなかったんじゃねぇの? なのに自分は許されるってか? めでてぇ頭してんなぁオイ!!」
「ひぃっ!! ひぃいいいいいいっ!! すみばぜんっ!! ずびばぜんっ!! ゆるじてぐだざいっ!!」
リーダーの少年がクルトの威圧をモロに受け、泣きじゃくりながら謝罪する。顔は涙や鼻水でぐちゃぐちゃだ。
「自分が取った行動のけじめは自分でつけろってな!! 腕と足どっちが良い? 特別に選ばせてやんよ!! オラっ!! とっとと決めろやっ!!」
「ごべんなざいっ!! ごべんなしゃいっ!! もうしまぜんからっ!!」
「うるさいなぁ。じゃあ僕が決めてあげるよ! 腕!」
「えー。僕は足がいいなぁ!」
「じゃあ今日は特別に両方なっ!! オラ、歯ぁ食いしばれっ!!」
「うわぁああああああああああっ!!」
孤児院3人組をよく知る街の人々の間には”絶対あの3人には手を出すな”という暗黙の了解があった。
年齢に似合わない強さに加え、悪意あるものには容赦がない3人を止められる者はここにはいない。
唯一、彼らが逆らえない存在である神殿の司祭は、めったに市場へ来ることがないのだ。
身の程を知らない哀れな少年が、今まさに腕を折られようとしている緊迫した雰囲気の中、その雰囲気を壊すような可愛い声が響いた。
「あー! いたっ!! ちょっと皆んなー! お爺ちゃんが呼んでるよ!」
鮮やかな赤い髪の少女が、孤児院3人組に向かって声を掛けてきた。
「あ、サラ!!」
「サラだ!! 買い物していたの?」
双子にサラと呼ばれたのは、綺麗な緑色の瞳を持つ可愛い少女だった。
「うん、お爺ちゃんに頼まれたの」
「僕が荷物持つよ」
「じゃあ、僕も」
「え? 良いの? 有難う!」
先程まで漂っていた緊迫した空気はどこへやら、双子とサラはほのぼのとした会話を繰り広げていた。
「あれ? クルト何してるの?」
「チッ、うるせーな! お前には関係ねーだろっ!!」
「えー、でもその子泣いてるよ? 喧嘩でもしたの?」
サラに視線を向けられたリーダーの少年が、顔を真赤にして俯いた。
可愛い女の子に泣いているところを見られ、しかも目が合って恥ずかしいらしい。
「何顔赤くしてんだゴラァっ!!」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
「あ、こらクルトっ!! やめなよ! 怖がってるでしょ!!」
「お前は黙ってろっ!!」
リーダーの少年にクルトが怒鳴る。彼がサラに見惚れていたことに目敏く気付き、ムカついたのだ。
しかしそんなことを知らないサラが少年を庇うので、クルトのイライラはMAXになり、思わずサラに怒鳴ってしまう。
「もー。ホント口が悪いんだから。お爺ちゃんそっくり! ラミロとカミロは真似しちゃ駄目だよ」
「うん! 僕は大丈夫だよ!」
「僕も大丈夫!」
「お前らなぁ!」
サラが来たからか、いつもの調子に戻った3人組からはすっかり毒気が抜けていた。先程までの殺伐とした雰囲気が嘘のようだ。
「ほら、立てる? クルトが驚かせてごめんね」
「……っ! う、うん……。ぎゃっ!!」
サラが伸ばした手をリーダーの少年が真っ赤な顔で握ろうとした時、クルトが少年のお尻を蹴っ飛ばした。
「一人で立てんだろうがっ!! 甘えた声出すなっ!! しばくぞっ!!」
「もうクルトっ!! ……ごめんね、口は悪いけど本当は良い奴なの。これから仲良くしてくれたら嬉しいな」
「……っ!! (コクコク)」
サラに笑顔を向けられた少年は全身を真っ赤にして何度も頷いた。その顔はすっかり恋する少年の顔だ。
「あーあ。サラは天然だよね」
「ホント、たらしだよね」
双子たちが呆れたようにぼやいている。どうやらこういうことは今までに何度もあったらしい。
「サラっ!! 余計なこと言うなっ!!」
「もーっ!! クルトはいい加減にしなよ! ほら一緒に帰るよっ!! お爺ちゃんに怒られちゃう!!」
サラがクルトの手を掴んでグイグイと引っ張っていく。クルトならサラの手を振りほどくなど造作もないことだろう。
しかしクルトは抵抗せず、サラにされるがままになっていた。
「クルトは素直じゃないね」
「ホントかまってちゃんだよね」
サラに大人しく手を掴まれたままのクルトを見て、双子たちが悪態をついている。彼らは彼らでクルトを羨ましく思っているのだ。
そんな孤児院3人組とサラが去っていくのを、少年たちは呆気に囚われながら見送った。
「もしかしてあの子が『ソリヤの聖女』……?」
誰かがポツリと呟いた。
そうしてその呟きを聞いた少年たちは理解する。
──誰も手が付けられない、悪鬼の如き強さを誇る問題児3人を、いとも簡単に鎮めることができる唯一の存在。
そしてその悪鬼に守られ、愛されている彼女こそが「ソリヤの聖女」なのだと。
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